ただ大人だって完璧じゃない、うまくいかないこともある。
とりあえず形は整えてあげるから、後は自分達でやりなさい。
骨くらいは拾ってあげるから。
だって公式が名前用意してくれないんですもの。
さて、どうしたものだろう。
頭を下げたままの千夏ちゃんを前にして、私は内心頭を抱えていた。高校時代は同じバスケ部チームメイトにして親友だった春架の娘で、今は我が家に居候している彼女。母親に似ずよく気の付く良い子で、思春期ど真ん中の我が子よりよっぽど好感が持てる。そんなこの子から頭を下げられるような心当たりは一つもない、その筈だったのだけれども。
年始を家族とすごし、ついさっき戻ってきた千夏ちゃん。荷物を部屋に片して私に向かい合って正座し、こう言ったのだ。――大喜くんと交際する許可をください、と。
私に伺いを立て、彼女はずっと頭を下げ続けている。本当に、どうしたら良いんだろうか。
大喜と千夏ちゃんの仲に関しては、ある程度はまあ
しかしなあ、まさかなあ。千夏ちゃんの方から来るとは、正直思っても見なかった。
「私は大喜くんが、好きです。だから、認めてほしいんです」
畳に額を擦り付けたまま愛を口にする千夏ちゃんは、真剣そのもの。ここで変に日和ったりするわけにはいかない、大人として責任ある態度を取らなければ。とは言え私は相手の親に許可取ってから付き合うとか、考えた事もない。親に会いに行くなんて、それこそ嫁ぐ直前に初めてしたな。だってお互い子供じゃないし、気恥ずかしいし。
でもそんな風に軽く思えないのが、千夏ちゃんなんだろう。真っ直ぐで真面目な、立派な子。本当に母親に似ないで良かったわ、あれに似てたら大変大変。
「大喜くんに逢えないのが、そばにいてくれないのが寂しくて仕方ありませんでした。もう我慢できそうにありません、大喜くんが帰ってくる前にお願いします」
いや、うん。大喜が部活を終えて帰ってくるまで、まだ時間はあるとは思うけど。でもまあ、……うん。
股を痛めて産んだ我が子を気に入ってくれて何よりだけど、決して千夏ちゃんの気持ちを否定なんかしたくないけど、
二人はまだ高校生だ、ハメを外して良くない結果に繋がる事態に陥るかもしれない。千夏ちゃんを預かった私が、その後押しをする事は許されない。ただ、私だって恋をしてきた身だ。こんなにも真摯に向かい合おうとする姿を見て、応援しないなんて選択は有り得るか。有るわけがない。
堂々巡りで思考は空転、どうするべきなんだろうか。
「私は大喜くんに、救われました。大喜くんがいなかったら、今の私はいないんです。これからもずっとそばにいてほしい、ずっと大喜くんのそばにいたいんです」
鈴の音みたいなその声で、私の心は揺れ動く。こうまでして想いを通したいと願った事が、私の人生にあっただろうか。
まあ、ねえ。真面目な子なんだから許したって構わないとは思うんだけど。でもなあ、……大喜と壁一枚しか隔ててない状態で寝起きさせてるんだよねえ……。ここまで突撃思考な事から考えると、真夜中に家鳴りを奏でかねないかな。どうしよう、私まだおばあちゃんにはなりたくないんだけど。
うーんまあ、そういう心配ばかりしても仕方がないんだけどさ。
考えてみれば、千夏ちゃんは退くという事を知らない子。何があろうと我を通す、静かだけど意地っ張り。バスケの夢を貫くために家族と離れるとか、生半可な覚悟じゃない。ここで拒んだ所で、大喜に負担がかかるだけか。春架の娘だし、なにするか分からない。
ならもう、ここは折れるしかないかな。
「まあ……そうね、千夏ちゃんなら大丈夫でしょう。でもね、節度をもったお付きあいにしてくれるとありがたいわ」
やんわりと刺した釘は、多分意味を為してはいない。とりあえず言うだけは言ったから、この先は千夏ちゃんと大喜が考えるべき事だ。私は深入りするほど過保護じゃない、……いやまあ無責任なだけかもしれない。
千夏ちゃんが
弾かれるように駆け出した千夏ちゃんの背中を見送り、溜め息を一つ。まったく、これからどうなるんだろうな。
とりあえずはまあ、落ち着かせないといけないな。お付き合いは許可したけど、あんまり過激な事はしてほしくないんだからね。
やれやれ、お母さんというも大変だな。