アニポケとの繋がりが少し。
季節は秋の終わり。森のポケモンたちが、冬籠りのための準備に追われて、忙しなく動き回っている最中のことだった。
森の上を、二匹のドクケイルが飛んでいた。ふらふら。よたよた。今にも墜落しそうなくらい、危なっかしく。たまたま空を見上げたナゾノクサは、二匹を見つけ目で追っていた。
ドクケイルは二匹、もつれあうように飛んでいる。いや、助け合っているのかもしれない。背の高い木を避けようとして一匹がバランスを崩せば、もう一匹が支えてやり。急な突風に一匹がひっくり返れば、もう一匹は労るように周囲を舞った。
けれど、何度も何度も北風に翻弄されて、二匹はとうとう力尽きたらしい。少しずつ高度を下げ、そして間もなく木々の間へと消えていった。
二匹が墜落したと思われる場所に駆けつけてみると、果たして彼らはそこにいた。ナゾノクサが近づくと威嚇するように羽を広げるが、それを維持する体力もないらしく、すぐにまた地面に落としてしまう。
二匹はどうやらつがいらしい。珍しい色違いのオスと、触角にリボンを着けたメス。羽を広げるのはオスの方だ。メスを守っているのだろう。種族が違うのでよく分からないが、たぶんこのオスは『イケメン』というやつに違いないと、ナゾノクサはそう思った。
――ちなみに『イケメン』というのは、強くて、優しくて、群れを守る甲斐性を持った、『できるオス』のことだ。イケメンの「おやぶん」がそう教えてくれたから、間違いない。
二匹とも疲れはて、気が立っているのだろう。そう思ったナゾノクサは、甘い香りを放ちながら、さらに近づいていった。香りのおかげで少しは落ち着いたのか、二匹はそれ以上威嚇することはなく、黙ってナゾノクサを見つめていた。
「だいじょうぶ?」
そう声をかけると、オスが恐る恐るといった感じにうなずいた。
「これ、たべる?」
ナゾノクサは隠し持っていたオレンの実を彼の前に差し出す。
本当は、冬の準備のために集めていた食料だ。勝手に誰かにあげたら「おやぶん」に怒られるかも知れないけど、ナゾノクサは怖くなかった。あいにく『ゆうかん』で『こうきしんがつよい』彼にとって、「おやぶん」はただのイケメンである。怒られる……というか、ちょっかいを出してもらえるのは、むしろ嬉しい。それに。
「くいもんは、わけあわなきゃなんねぇ、なの」
「おやぶん」は常々そう言っている。だから、お腹を空かせていそうなこの二匹に少しのおすそわけをすることを、きっと「おやぶん」は許してくれるだろう。
ドクケイルたちは顔を見合わせると、オスの方が足を伸ばして木の実を受け取った。
「……ありがとう」
こぼれるようなお礼の言葉に、ナゾノクサも笑顔をこぼした。
気がつくと、甘い香りに誘われたのか、何匹かのポケモンがナゾノクサたちを取り囲んでいた。もちろんみんな森の仲間、ナゾノクサにとっては家族のようなポケモンたちである。
「どうしたんだ、そいつら?」
声をかけたのは若いアーボックだ。彼は「おやぶん」と同じ種族であることをいつも自慢している、「なまいき」な「にいちゃん」だった。最近進化してからは張り切って「おやぶん」の右腕――彼らに腕はないけど――を自称していて、今日も「おやぶん」に代わって、森のパトロールでもしていたのだろう。
「ボロボロじゃねぇか。どっから来たんだ?」
「わかんない。おちてきたの」
ナゾノクサはそう答えると、ちょいちょいと「にいちゃん」を手招き……ならぬ葉招きした。「おやぶん」の右腕だろうと、遠慮しないのがこのナゾノクサである。
「あのね、「おやぶん」のところまではこんでほしいの」
「こいつらをか?」
「にいちゃん」は値踏みするようにドクケイルたちを眺めた。眺められた二匹は、これから何が起こるのかと警戒するように、体を固くしている。
「さむいから、やすむの」
「まあなぁ……」
「にいちゃん」は空を見上げた。ナゾノクサもつられて上を見る。雲の流れは早くて、きっと強い風が吹いているのだろう。空の端の方には、ねずみ色の靄のような雲が湧き始めている。日が暮れたら、いよいよ雪が降るかもしれない。
こんな天気の中、疲れはてたポケモンを放置していくなんて、どんな人でなし……いや、ポケモンなしだろうか。「おやぶん」の右腕の「にいちゃん」は、そんなに冷たいやつだったんだろうか。じー。
「わかったよ、しゃーない」
ナゾノクサの無言の訴えを察してくれたのか、「にいちゃん」はとうとう折れてくれた。『なまいき』で『まけんきがつよい』「にいちゃん」だけど、何だかんだ優しいのである。
「お前ら、俺の背中に乗れるか?」
「ワタシたちを、どうするんですか」
警戒した様子のドクケイルに、ナゾノクサは笑顔で応え、自ら「にいちゃん」の背中に乗ってみせた。
「おいっ、おまっ」
「だいじょうぶ。こわくないの」
降りろ降りろと「にいちゃん」は身をよじるが、ナゾノクサは器用にバランスをとって、絶対に降りようとしない。わたわたと二匹で暴れていると、周りで見ていた他のポケモンたちも参加してきて、ポケモン団子ができあがった。何だかんだ優しい「にいちゃん」は、何だかんだで小さいポケモンに慕われているのである。
「……ふふっ」
微かな笑い声を聞いたナゾノクサは、ポケモン団子から抜け出して、ドクケイルの傍に駆け寄った。
「わらったの。げんきでたの?」
「ええ、ありがとう」
そう言ったのは、メスのドクケイルだ。
「笑ってごめんなさいね。何だか、ご主人のことを思い出しちゃって」
「ごしゅじん?」
「ええ。ご主人の周りは、こんなふうにいつも賑やかだったの……」
ドクケイルはどこか遠くを見つめている。そんな彼女に、オスがそっと身を寄せた。
「会いたい?」
「ううん、大丈夫よ。それよりナゾノクサさん、ワタシたちはどこに連れていかれるの?」
ドクケイルたちはずいぶんと仲が良いように見えた。言葉からすると、もとはニンゲンと一緒に暮らしていたのだろう。そういえば、メスが着けているリボンもニンゲンの道具である。
「「おやぶん」のとこなの。「おやぶん」やさしいから、やすませてくれるの」
「おやぶん、ってのは、この森のボスなのかな?」
オスの問いに、ナゾノクサは首……はないのでからだ全体を傾けた。ボスというのは確か、群れのリーダーのことだ。だったら、「おやぶん」はボスってことになるのかもしれない、けど。
「「おやぶん」は、ぼすっていうとおこるの。「おやぶん」はぼすじゃないの」
なぜなのかはよく分からないのだが、「おやぶん」はボスと呼ばれるのが嫌いらしい。たまに「にいちゃん」がそう呼んでしまって、締め上げられるのを見る。ナゾノクサは「おやぶん」に構ってもらうのは好きだが、痛いのは嫌なので、うっかり呼ばないように気を付けていた。
「そうだぞ。お前らも、痛い目見たくなかったら、気を付けるんだぞ」
たぶん一番痛い目を見ている「にいちゃん」が、身体中に小さいポケモンをぶら下げてしれっとそう言うので、ナゾノクサはくすくすと笑った。
ドクケイルたちを連れて、「おやぶん」の寝床に向かう。「おやぶん」の寝床は、大きな樹の根本にある洞窟だ。
洞窟は、奥は広いが入り口が狭くなっているので、大きなポケモンやニンゲンは入れない。だから、森の小さなポケモンたちは、何かあったらここに逃げ込むようにと言われて育つのだった。もちろん、ナゾノクサも例外ではない――まあ、何もなくとも遊びに来るのだが。
ドクケイルたちも窮屈そうだったが、なんとか洞窟の中に入ることができた。何匹ものポケモンたちが、冬籠もりの準備で忙しく動き回っている。その様子に二匹は目を丸く……したかどうかは分からないが、とにかく驚いたようだった。
「たくさんいるんだね」
「まあな! ボスがイケメンだからな!」
「にいちゃん」が自慢げにそう言ったとたん、奥から『どくばり』が飛んできて、「にいちゃん」にぴしぴし突き刺さった。背中に乗っているドクケイルや他のポケモンたちには、全くかすりもしていない。ドクケイルたちがまた驚いた顔をしたのは、急な折檻にびっくりしたのか、見事なコントロールに感心したのか。
「す、すんません親分」
「ったく。懲りねぇ奴だな、お前は」
のっそりと姿を現したのが、ナゾノクサの大好きな「おやぶん」である。種族はアーボックだが、種族の隔てなく森中のポケモンの面倒を見てくれる、まさにイケメン。だからこそ、森の仲間は「おやぶん」のために、この洞窟に集まってくるのだった。
「客か?」
「おちてきたのー、やすませるのー」
「おやぶん」が、首をかしげてドクケイルたちを見る。緊張したように身体を強ばらせる二匹と反対に、ナゾノクサはぴょんぴょんと跳び跳ねた。
「だいぶん草臥れてんな。まあ、ゆっくり身体を休めてくれや」
「なにも、聞かないんですか?」
ドクケイルのオスがそう言うのに、「おやぶん」はにやりと笑って返す。
「森を荒らしに来たんなら追い返すが」
「い、いえ、違います、けど……」
「じゃあ、細かいことは気にすんな。休め」
やっぱり、「おやぶん」はイケメンなのである。この男前な優しさが、ナゾノクサが「おやぶん」を大好きな所以だった。
ドクケイルたちが感謝したように頭を下げるのを満足そうに見ていた「おやぶん」は、「にいちゃん」とナゾノクサに寝床と食べ物の準備を命じてから、またのっそりと洞窟の奥に消えていった。