BanG Dream!
夢は、決して途切れない。

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夢の続き

 休日の昼過ぎ、黒のセダンに揺られる一人の男があった。五十代半ばも過ぎ、混じる白髪も増えてきた男は、名を坂上(さかうえ)という。レコード会社の社長である坂上は、秘書の運転する車で目的地へと向かっていた。いつもなら、秘書と軽い談笑などしているはずだ。しかし、坂上は、車に乗ってからまだ一言も発していない。視界を通り過ぎていく東京の高層ビル群をぼうっと眺めているばかりだった。坂上と長い付き合いのある秘書は、坂上がなぜこうなっているかをよくわかっていた。そして坂上も、秘書が思っている通り、()()()()に思いを馳せていた。

 

(お前が死んで、もう何年経つ? なぁ、宇都宮(うつのみや)

 

 男は心の中で、今日命日を迎えたかつての仲間に語り掛ける。今から三十年以上も昔、「RAZES」という伝説のバンドがあった。宇都宮はそこのギター担当で、坂上はボーカル担当だった。それに、ベースとドラムの男を加えた四人で「RAZES」は活動していた。彼らは、英国でメジャーレーベルからシングルレコードを出す契約を勝ち取るほど、偉大なバンドであった。しかし、ドラムの男が不慮の事故で亡くなり、そのシングルレコードは世に出ることはなく、「RAZES」は解散してしまった。メンバーはバラバラになり、ベースの神田(かんだ)とは連絡が取れなくなった。その一方、坂上と宇都宮は「RAZES」が解散してからも連絡を取り合っていた。坂上にとって、宇都宮は苦楽を共にした盟友であり、親友であった。坂上は宇都宮が死んだと聞いたとき、ショックのあまり一週間ほど寝込んでしまったほどだ。

 

(夢の続きか……)

 

 坂上は、生前の宇都宮との言葉を思い出す。

 

「俺たちの夢の続きを、これからの若い奴らが撃ち抜いてくれたらな……」

 

 もうこの世に『BanG Dream!』が輝くことはない。しかし、「RAZES」の『BanG Dream!』に込められていたような、宇宙で一番熱い思いを持った奴らが現れてくれたら……。これが坂上と宇都宮の共通の思いだった。だから、レコード会社の社長になった坂上は、今も精力的に若手ミュージシャンの発掘を行っている。

 

「坂上さん、そろそろ着きますよ」

 

 秘書が坂上を呼ぶ。坂上は「あぁ」だけ応えた。坂上は切り替える。これからは、仕事の時間だ。

 

 

 


 

 

 

「坂上様、こちらです」

 

 ライブハウスの職員に案内されて、坂上と秘書はライブの準備が行われている最中のフロアに降りてくる。ライブに出演予定のバンド達と、ライブハウスの職員達がパタパタと動き回っている。このライブハウスは、坂上の会社がサポートしているところだ。坂上達は、時々ここを訪れては有望株のバンドを探している。

 

「今回出るバンドの詳細がこちらです」

 

 坂上は、ライブハウスの職員に渡された資料を見る。今回は、ガールズバンドを集めたライブになっている。坂上は資料にちらりと目を通して、ステージに目を向けた。坂上たちが入ってきたときに調整をしていたバンドが裏に下がり、別のバンドがステージに上がって調整をしているところだった。ボーカルの子があたふたしている。これはまだ場慣れしていない子か。そう坂上がそう思いながら、その子の手元に注目する。深紅のランダムスター。かつての盟友が使っていたものと同じもの。思わず坂上は、職員に尋ねていた。

 

「あの子達は……?」

 

「今回が、ここでの初ライブらしいですね。ギタボの子、ランダムスター使ってるなんて、珍しいですよね」

 

「……」

 

「坂上さん……?」

 

 坂上は口を開けてステージ上をぼうっと見ている。このとき、坂上には直感が走っていた。

 

(宇都宮、見つけたかもしれない……!)

 

 坂上は気持ちが高鳴り、思わず心の中で友に語り掛けていた。

 

 

 


 

 

 

 予定通り、ライブが始まった。坂上は、ステージに上がった一組目のバンドを凝視する。しかし、意識はさっきのランダムスターを持った女子高生のバンドに向いていた。なぜ、あの子のことが気になるのか。坂上は、よくわかっていなかった。盟友である宇都宮と同じランダムスターを握っていたから。そう言われるとそんな気もする。しかし、そうでは無い気もする。胸の内に生まれたざわめきは収まらない。全ては、あの子達のライブを聴くしかない。坂上の心は、浮き足立っていた。

 

 一組目、そして二組目。ライブは滞りなく進んでいった。三組目は、いよいよランダムスターを持った女子高生のバンドの番だ。ランダムスターを握った子と、他のバンドメンバーがステージに出てくる。ライブ前の調整のときはあたふたしていたが、今はすっかり落ち着いている。彼女はマイクの前に立ち、ふうっと息を吐いた。ライトに照らされた彼女と深紅のギターは、すっかり様になっている。坂上は、視線を落として先程ライブハウスの担当者に渡された資料のページを捲った。

 

「聴いてください……! 『Yes! BanG_Dream!』」

 

 ボーカルの子の声が聴こえた瞬間、坂上は顔を跳ね上げていた。

 

(まさか……!)

 

 聞き覚えのある曲名が宣言されると同時に始まる演奏。心を掴みに来る、特徴的なこのメロディー。この曲を坂上が聴き違うはずがなかった。

 

(俺たちの曲だ……)

 

 そう、もう三十年以上も前、仲間達とメジャーデビューのために作り上げた血と涙の結晶。「RAZES」の集大成。坂上は、手元の資料を見た。

 

key(キーボード).市ヶ谷有咲(いちがやありさ)……。市ヶ谷……。そうか……!)

 

 かつての盟友は、夢を遺したのだ。溺愛していた自分の娘に。どういう経緯があったかは窺い知れないが、彼の娘が繋いでくれたんだ。あのランダムスターと一緒に。坂上は目頭が熱くなるのを感じた。彼女たちの『Yes! BanG_Dream!』はそろそろ佳境を迎える。坂上はステージ上の彼女らと、空の上の盟友に向けて呟いた。

 

「BanG Dream……!」

 

 と。

 

 

 

 


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