ここは神浜市。
新興都市であり、人口はおよそ300万人ほどだろうか。
この街で、様々な少女達の記録が紡がれているのだが、この記録は他の記録が混ざり合っており、本来紡がれるはずの記録ではありえることの無いものだ。
神浜市の中心から少し上の参京区の路地裏に現れたピンク色のドア。
ここからこの記録が始まる。
「よいっしょっ……と!」
「へぇ〜!ここが神浜市なんだねぇ〜……って、薄暗いところに出たけど、大丈夫なの?」
「ここは僕らがいつもいるとこと違うから、道具は目立たないように使わないとね」
「言っちゃ悪いけど、ドラえもんの姿が1番目立つんじゃない?脚も短いし」
「うるさい!」
そのドアから出てきたのは、黄色い服にメガネがトレードマークの少年と青いたぬきのような存在だ。
「ぼくはたぬきじゃない!!」
「わぁ!?どうしたのさいきなり!?」
「いやなんか……ぼくのことたぬきとか言ってる声が聞こえたような……」
「ロボットも幻聴?っていうの聞こえるんだねえ」
このたぬき……ではなく猫型ロボットの彼こそがドラえもんだ。
ある目的のために、22世紀という未来の国からはるばると現代にやってきたのだ。
猫型とはいうが彼には猫のような耳がなかったり、そもそも未来の世界の中では落ちこぼれだったりと多少抜けたところもあるが、お腹に付けている『四次元ポケット』から未来の世界の『ひみつ道具』を取り出し、今彼の隣にいる少年、野比のび太を助けたり助けなかったり、はてまたは世界を揺るがすような旅や大冒険を繰り広げている。
離れた位置でもすぐにたどり着けるひみつ道具『どこでもドア』をしまいながらドラえもんは確かに聞こえたんだけどなぁとボヤく。
「それで、今日はどこへ行くんだっけ?」
「えっとねー…多分みんなが相談所ってところで待ってるからそこへ行けばいいと思うよ」
「相談所?なんだか学校みたいだねえ」
「いつも君たちは空き地で集まったりするだろう?そこみたいなもんだよ」
「そういうもんかぁ〜…」
ドラえもんが現代に来たのは彼、野比のび太のためだ。
のび太は運動も勉強も出来ない少年で、やる気があれば頑張れるというタイプではあるのだが、そのやる気がなかなか起きず、学校のテストで0点を取ってしまい、親に叱られることも多いいわゆる"落ちこぼれ"だ。
彼の孫の孫のセワシという少年に引き取られたドラえもんは、先祖の中で1番ダメなのび太の面倒を見ることで、セワシ達の暮らしが少しでも良くなるようにすることが使命……なのだが、のび太とドラえもんは時には喧嘩したりすることもありながら、唯一無二の親友として絆を深めていった。
ドラえもんたちは、のび太の未来のお嫁さんであり、お風呂やかわいいものが大好きなしずか、乱暴なガキ大将だが友情に厚いジャイアン、ずる賢くも憎めないスネ夫といった個性豊かな友人たちと日々を過ごしている。
その延長……というわけで、ドラえもんはここ神浜で知り合った者たちにのび太を紹介しようと、彼を連れてきたのだ。
「ほら、ついたよ!」
「へぇーここが〜…」
2人が着いたのは『エミリーのお悩み相談所』という看板が置いてある場所だ。
「ここにドラえもんが友達になった人たちがいるの?」
「うん!でものび太くんたちよりちょーっとだけ年は離れてるかなー?」
そうなんだ、と相槌を打ちながらのび太は扉を開く。
「こんにちは〜……」
のび太の前に広がったのは手作り感が溢れる内装と、3人の少女だった。
ハート型の風船、上から吊り下げられた連なっている輪っか、マゼンタ色の水晶が設置されたケーキの断面のような模様の四角い机、そして背面には『エミリーのお悩み相談所』と書かれたハートと逆三角形のような装飾……そして、金髪長髪のツインテールの少女と短髪ツインテールの少女と右目が隠れてしまっている銀髪の少女。
「おっ!ドラモンじゃーんっ!」
「やほやほ〜!」
机に座っていた2人のツインテールの少女がドラえもんを見るなり挨拶をしてきた。
のび太はまさか紹介したい相手が全員女の子だとは思っておらず、驚いてしまっている。
そんな彼に対して、銀髪の少女が話しかけてきた。
「えっと……その……こんにちは……君が、のび太くん……でしょうか……?」
「えっ?ぼくのこと知ってるの?」
「は、はい……いつもドラちゃんから聞いているので……」
それを聞いてか、2人がこちらにも話しかけてきた。
「へー!君が〜!あたしは綾野梨花!よろしくねっ!」
「ほいで、あーしがここの所長?的な?木崎衣美里!よろしく〜!」
「え、えっと……五十鈴……れんです……よろしくお願いします……はい……」
短髪、長髪、銀髪の順で自己紹介を受け、多少もたつきながらものび太は自己紹介を返した。
「ぼくは野比のび太!こちらこそよろしくお願いします!」
「のび太くんったら、ちょっと緊張してるの〜?」
「当たり前だろ〜?こんな可愛い人達ばっかりなんだもの……で、さっきドラえもん変な呼ばれ方されてたけど……」
どういうことなの?と続けようとしたを、梨花が遮る。
「あぁ、えみりんはあだ名で呼ぶことが多いからねーっ!で、のび太くんのことはなんて呼ぶのー?」
「前々から決めてるよー!『ノビタニヤンってね!』」
再び変な呼び方だと感じたが、それは口に出さないのび太であった。
机を囲うように椅子を並べて5人は座り、だべり始めた。
「ドラちゃんから話は聞いてるよーっ、いっつもぼくがのび太くんを助けてあげてるんだーって!」
「しょうがないなぁのび太くんは〜とか言われてるんでしょっ!?」
梨花と衣美里はドラえもんの口調を真似している。
「それはまぁそうなんだけど〜……ドラえもん、ぼくのダメなとこばっかり言ってるんじゃないでしょうねえ!?」
「ダメなとこって、ぼくはありのままを言ってるだけだよー?」
「ありのままって……」
「で、でも……!」
口論になりそうな2人にれんが割り込む。
「優しくて、思いやりがあって、いいやつだって、言っていました……」
「そ、そう?ならいいんだけど……」
ひとまず怒りは抑えられたようだ。
「それにしても、みんなはなんでドラえもんと知り合ったの?」
「たしかれんぱすが最初にドラモンと知り合ったんじゃなかったっけ?」
「はい……あれはたしか1ヶ月前くらいでしょうか……」
「そういえばその馴れ初めみたいなのあたしも聞いたこと無かったなー」
「えっと……うまく話せるかどうか……」
「それならいいものがあるよ!」
ドラえもんは四次元ポケットの中からあるひみつ道具を出した。
「『イメージベレーぼう 映像バージョン』!!」
青色のベレー帽を2つ取り出して自分で被り、もう片方はれんへ手渡す。
「この道具は、イメージしたものがそのまま像として現れる『イメージベレーぼう』の映像バージョンなんだ、像の代わりに帽子の先端から映像が出力されるんだよ」
「へーすごい道具〜!映画作る時とかに役立ちそうじゃね?」
未来のテクノロジーを目の当たりにして衣美里も感激している。
「つまりこれで、れんちゃんとドラちゃんの映像を出せば2人が初めてあった時のことも分かるわけだ!」
「そういうこと!じゃあ先にぼくから映像を出すよ〜!」
椅子に座りながら短い腕を組んで頭の中の記憶を呼び起こす。
すると、帽子の先端からまるで漫画の吹き出しのような煙が立ち込めて、現代のプロジェクションマッピングの要領で映像が現れ始めた。
「ねえこれ、電気消した方が見やすいかなぁ?」
「かもしんないねぇ〜」
のび太に言われ、梨花は席を立ち電気を落とした。
それと同時に、記憶の上映会が始まった。
━━━━━━━━━━━━━━━
「お兄ちゃん、これで全部〜?」
「うん!ありがとねドラミ!」
「まだポケットの中に残ったりしてない?」
「大丈夫!……だと思う!」
大きなリボンがトレンドマークの黄色いネコ型ロボットの彼女の名はドラミ。
ドラえもんの妹であり、性能は彼よりも高い。
紆余曲折あり、今は22世紀でセワシと共に暮らしているが、ドラえもんが点検作業で一旦22世紀に帰る時等の代打としてのび太がいる時間に来ることもある。
「ほんとはポケットごと持ってってもらうのが手っ取り早いんだけどまだこの中に工具とかあるからね」
「おかげでこっちのポケットはパンパンよ!もう、約束のメロンパン、忘れないでね?」
「分かってるよぅ!それじゃ、あとはよろしく〜」
ドラえもんは時たま、ポケットの中にあるひみつ道具を点検しているのだが、整備不良もあったりするので妹のドラミにひみつ道具を渡して未来でセワシと共にゆっくりと点検してもらうした。
ドラミには少し嫌な顔をされたが、お兄ちゃんが見るよりはわたしが見た方が正確だというのと、引き換えに好物のメロンパンを50個もらうという条件で呑んでくれた。
ストレートにドラえもんがひみつ道具の工場に行くのも手段ではあったが、タイミング悪く予約が埋まっていたそうな。
そんなわけでのび太の部屋の机の中に繋がっているタイムマシンで帰ったドラミを見送ったドラえもん。
ここからこの記録は始まるわけだ。
それからともなくして、のび太が帰ってきた。
「ただいま〜!」
「おかえりのび太くん、早速だけど、貸してたタケコプター一旦返してもらっていい?」
「ん?いいけど……どうしたの?」
「ちょっと点検をしなくちゃね」
「わかった、今日はこれからしずかちゃんの家で宿題やる予定だから使わないよ」
「えらい!……でも、丸写しじゃだめだよー?」
「わかってるって!ぼくも色々考えてるんだから!」
そう言いながらのび太は机の引き出しにしまってあったタケコプターを数個ドラえもんに返す。
タケコプターとは、黄色い竹とんぼのような道具で、体の一部に付ければ空を飛ぶことも出来るドラえもんたちの必須ひみつ道具といえる。
「それじゃあいってきまーす!」
「行ってらっしゃーい!」
点検をしながらのび太を見送ったドラえもん。
点検自体は10分もかからなかった。
ポケットの中には工具とそれ以外の部品しか残っていないが、どうにかなった。
さて、これから何をしようかと思ったそんな時、1階から声が聞こえた。
「ドラちゃーん!ちょっと来てー!」
のび太のママ、玉子の声だ。
はーいと返事をしながら下に降りて居間に着くと、ママが1枚のチラシを渡しながらこういった。
「ちょっとおつかいに行ってきてもらえな〜い?今回の場合、ドラちゃんの方が適任だと思ったのよ〜」
「ぼくが適任?」
チラシを受け取ると、それはとある和菓子屋のチラシだった。
「こ、これは……!」
「近々、お花の先生のお弟子さんがお見えになるのよ、その方もドラちゃんみたいにどら焼きが好きと聞いたから、ドラちゃんに頼んだ方がいいと思ったのよ」
「なるほど……で、この和菓子屋さんに?」
「そこじゃなきゃダメってわけじゃないし、いつも通り甘井屋のでもいいけど、たまには別のところもいいかなと思ってたらそこのチラシが入ってて」
「へぇ〜……って、ぼくも知らないところだ」
「お金は多めに渡すから、何個かドラちゃん用にも買ってきてもいいわよ?」
「ほんと!?ありがとう〜!!」
大喜びでがま口財布を預かり、点検が終わったタケコプターを装着し、そのチラシに載ってる店へと向かったドラえもん。
ここから、2つの世界が混ざり合う。
━━━━━━━━━━━━━━━
「へぇ、そういうわけだったんだ…」
映像が途切れ、れんが一言呟く。
「だから…他の道具は持ってなかったんだね」
「そうなんだよ、ちょうどドラミに預けたあとだったからね」
「ってかドラモン妹いたんだね!かわいい!」
「それにちゃんと映像として見れるのほんとすごい!」
銘々の感想を受け取りつつも、ドラえもんはある事が気になっていた。
「そういえばあのあとちゃんと宿題はやったの?」
「もちろんだよ!あのあとのテストは珍しい35点も取れたんだから!」
「さ、35点……ま、まぁ〜のび太くんにしては〜……」
「のび太くん……今度、勉強、付き合いましょうか……?」
「えっ、いいの!?」
「れんちゃん、人に教えるの上手いかられんちゃんに教わればもっと頑張れるよ!」
「ほんと!?ありがとう〜!!」
時間さえあればのび太は自力で65点くらいは取れる実力はあるのだが、それはまた別の話。
「えっと……ここから、ドラちゃんの記憶と、私の記憶を混ぜなきゃいけないん、ですよね……」
「それにはね……こうするの!」
ドラえもんは、自分から見て左に座ってるれんに対して頭を傾ける。
「帽子を被ったもの同士が、被ってる状態で帽子を触れさせるとより純度の高い映像が出力されるんだよ」
「つまりさっきの映像だと、ノビタニヤンのママがここにいたらドラモンと頭預け合えばそれぞれの視点が混ざった映像になる的な?」
「そうだね!それじゃあ早速!」
「は、はい……!」
れんもまた頭をドラえもんの方に預け、2つの帽子の先端から映像が出力される。
「あははっ、れんちゃんもドラちゃんもかわいーっ!」
「ちょっと1枚撮るねーっ!」
「もう!見世物じゃないんだよーっ!」
茶々を入れられつつ、映像が再開された。
━━━━━━━━━━━━━━━
「とは言ったものの……神浜市って結構遠いなぁ〜……なんでうちにチラシ入ってたんだろう〜……ぼくが甘井屋の常連だったから〜……?」
ドラえもん達がいる月見台から神浜市はそれなりに距離が離れている。
のび太達が通う小学校の上空を、裏山の上空を通過し、まだまだ飛んでいく。
どこでもドアがあればすぐに着くが、飛んでいくとなるとそうとは限らない。
不幸中の幸いなのは、先程タケコプターを整備したのでバッテリーの心配はないということか。
時折高度を上げたりして、不審に思われないように空を飛びながら、ドラえもんはなんとか神浜駅に着いた。
「はぁー……長かったー……」
タケコプターをポケットにしまい、チラシを頼りに歩き始める。
すっかりもう夕方になっており、別の日に来た方がよかったかもしれないと彼は思ったが、どら焼きへの欲求には抗えなかった。
地図さえあればすぐに見つかると思ったが、あてが外れた。
この神浜市自体、地形が複雑なのは仕方ないとして、チラシに書かれた地図がとても大雑把だったのだ。
ここでもないあそこでもないとさまよっていると、自分に対する視線が痛く、一旦帰ろうとしたが、せっかくここまで来たのだから……という意思が勝ってしまった。
「うーん……かくなる上は〜……!」
辺りを見回し、自分の言うことに耳を貸してくれそうな人を探した。
「あの〜すいません、ちょっといいですか〜?」
「はいっ……!?な、なに……?」
ドラえもんが声をかけた右目が隠れてしまっている銀髪の少女は驚きの声を上げてしまった。
「ごめんなさいいきなり話しかけて〜、ここに行きたいんですけど、少しわからなくて〜…」
「は、はぁ……」
少女はチラシを受け取り、じーっと見つめる。
「あ、ここなら……あの文房具屋さんの近く……えっと、口で説明するの、大変なので、一緒に行っても大丈夫……でしょうか……?」
「ほんとに!?ありがとうございます!」
ドラえもんが心からのお礼を伝えると、彼女は一瞬痺れたような反応をした。
「あれ?大丈夫ですか?」
「は、はい……えっと、なんとお呼びすれば……」
「ぼく、ドラえもんです!」
「ドラえもんさん……ですね、私は、五十鈴れん……といいます……はい」
互いに自己紹介を交わし、2人は歩き始めた。
「あ、あの……ドラえもんさんは、どこのキャラなのでしょうか……」
「どこの?22世紀の未来だよ?」
「は、はぁ……そういう設定なんですね」
「設定?」
「あ、ごめんなさい……ご本人の前でそういうこと言うの、よくないですよね……それにしても、すごい造りですね……まるで生きてるみたいな……」
「まぁね、ぼくみたいな高性能ロボットは蚊が刺してきたりするし」
「ロボット……?」
れんはドラえもんの体を見回す。
「そんなにジロジロと見られたら恥ずかしいよ〜!」
「あ、ごめんなさい……ほんとに、ロボットさんなんですか……?」
「そうだよ?ネコ型ロボットだよ?」
「ネコ型…?私、てっきりどら焼きのゆるキャラさんかと思ってました……」
「そんなの言われたの初めてだよ……」
独特な勘違いをされ、苦笑いを浮かべたドラえもんをよそに、れんはある気配を感じる。
「どうしたの?」
「ドラえもんさん……その和菓子屋さんは、この道を真っ直ぐ行って、2つ目の曲がり角を右に行ったところです……ごめんなさい、ちょっと急用を思い出したので、ここで……!」
「えっ!?ちょっとぉ!」
れんはチラシを返し、そのまま立ち去ってしまった。
「これは……なにかあるに違いない……!追いかけてみよう!」
今の状態で何が出来るかは分からないが、何となく心配になり、彼女を追いかけた。
ドラえもんは目を離さないようにれんを追いかけたつもりだが、路地裏に入った途端、見失ってしまった。
「あれれ、どこいったんだろう……ん?」
ちょうど目の高さ辺りだろうか。
妖しげなオーラを纏った紋章が蠢いているのが確認出来る。
「なんだろうこれ……わっ!?」
それを触れようとした途端、ドラえもんは中に吸い込まれてしまった。
「いててて……もう、なんだったんだいった……あぁぁ!?」
目の前に広がっているのは、サイケデリックな色彩のおぞましい空間。
それにこの世のものとは思えないようなおどろおどろしい巨大な存在。
生き物とは形容しがたいものだ。
口をあんぐりと開けながら震えていると、その存在に何者かが立ち向かっているようだ。
その姿は。
「……れんさん!」
先程まで着用していた制服と違い、白い着物のような服を纏っているが間違いない。
五十鈴れんはその存在と戦っている。
「あっ!危ない!」
巨大な腕に掴まれそうになった所を、間一髪、タケコプターを装備して助け出すことが出来た。
「どっ、ドラえもんさん……!?どうしてここに……」
「様子がおかしかったからごめん!ついてきちゃったよ!それで、あれはなんなの!?」
「あれ、は……『魔女』……ですっ」
「魔女?」
「人の悪意から誕生する……幻魔、といえばいいのでしょうか……それを倒すのが、私たち、魔法少女の役目、です……っ!」
「魔法少女!?」
魔法が存在する世界線には触れたことはあるが、魔法少女がそのまま存在していたとは。
それとも、ドラえもんやのび太達が思うような魔法少女とは違うのか。
今はそれよりも、目の前にいる魔女をなんとかしなければ。
「ねえ、一旦引くってのはだめなの?」
「最悪……そうなるかもしれません……そのまえにあなただけでも……」
「そういうわけにはいかないよ、なんかないかなんかないか……」
ポケットの中を探るも……
「何も無い!!!!」
「わ、私のことはいいから、はやくここから……」
逃げて、と続けようとしたが、魔女が大きな腕を振って攻撃してくる。
ギャーと声を上げつつも、ドラえもんとれんはなんとか回避を続けているが、このままだとジリ貧だ。
「れんさん、どうすればあれを倒せる?」
「やろうと思えば、私の大技を使えば……でも、力を溜めるまで時間がかかって……それまで、怯ませるとか、強い衝撃を与えたりして、時間を稼げたら……」
「わかった、ぼくがどうにかするから、その準備をして!」
「えっ!?なにを……」
そう言い終わると、ドラえもんは空中を飛び回り、魔女を翻弄し始めた。
「ドラえもんさん!」
魔女から見れば、ハエが動き回っているような鬱陶しい状況だ。
だがそのハエは自分のある可能性にかけている。
「(ひみつ道具は全部預けたつもりだけど……もしかしたら預け忘れものがあるかもしれない!)」
自分で言うのはおかしいが、ドラえもん自身もおっちょこちょいな所もある。
他人に指摘されて自分が持っていたひみつ道具の存在を思い出したり……ということも。
それがなければ、最後の武器である石頭を使うことも考えているが、なにしろ相手の大きさが大きさだ。
ガスタンクに穴を開けるのとは訳が違う。
一方、れんも迷っていた。
先程会ったばかりのゆるキャラ……ではなくロボットと名乗る者があんなに頑張っている。
彼が来た途端に逃げた方が良かったのかもしれないと。
でも彼は自分の言うことを信じて協力してくれている。
ならば、答えはひとつだ。
彼を信じて、自分のやるべきことをやる。
杖を握りしめ、力を込め、その時を待つ。
なんかないかなんかないか……
魔女の攻撃を避けてポケットの中を見つつ飛ぶというのは中々できる事じゃない。
幸いにも、力を溜めているれんよりも自分にヘイトが向かっているので、このまま力が溜まり終わるまで逃げ回るでもいいかもしれないが、それでは安心できない。
と、その時。
「こ、これは……!」
今まで1度しか使ったことがないひみつ道具。
それに石頭を使うよりも安全だと思われる。
ドラえもんはこのひみつ道具に賭けることにした。
だとしたら、もうひとつやることがある。
それも魔女に気づかれないように。
迫り来る腕をすり抜け、ドラえもんは魔女の本体の目の前にたどり着いた。
恐らくこれが目になっているであろうところに、都合よくポケットの中にあった紙を叩き付ける。
「そりゃー!!!!」
人間の目に1cm四方の紙がへばりついたとすると、一瞬でも視界を奪い、驚き、それを取り除こうとする。
魔女もまた、その状況になっているということだ。
すぐさまドラえもんは魔女から離れ、れんの隣に着地する。
「れんさん、力は溜まった?」
「あと、少し……!」
「わかった!これで……!!」
いまの状況の切り札を、ポケットの中から取り出した。
「『秘密書類やきすて銃』〜!!!!」
ポケットの中の四次元空間の奥底に眠っていたそれは、中々使われることがなかったので点検で回収されず、今もドラえもんの手元に残っていたのだ。
なんとも都合がいい展開だが、ドラえもんすぐさま引き金を引いた。
ジャッ
ド
オ
スパイに奪われた秘密書類を遠くから焼き捨てるひみつ道具とはいえ、明らかにやりすぎな威力なそれは、魔女を怯ませるどころかダメージを与えることに成功した。
爆音に驚いたものの、れんも大技を放つ準備が出来たようだ。
「ソウル・サルベーション……!!」
小さいながらも強さが篭った声でれんは呟く。
すると、杖の先端から青色の火の玉がひとつふたつ……五つと魔女に着弾し、最後にそれらを上回る大きさの火の玉が魔女に直撃する!!
耳を塞ぎたくなるような轟音……もとい断末魔を上げ、魔女は消滅した。
「はー……はー……」
「ドラえもんさん!」
彼の意識は途切れてしまった。
「う、うぅーん……ん?」
「あぁ、よかった……よかった……!」
「あ、あれ?ぼく……」
ドラえもんが目を開けると、目の前には目に涙を浮かべつつも、安心したような表情のれんがいた。
どうやら先程までいた空間から路地裏に戻ってきたようだ。
「よかったぁ……っ……!!」
「わっ……れれれれれ、れんさん……!?」
突然抱きしめられ、驚きを隠せないドラえもんであった。
「私のせいで……もしっ、死なせちゃったら……なんて……っ」
「……ありがとうね、心配してくれて、でも元はと言うとぼくが首突っ込んじゃったのがいけなかったんだよ」
「い、えっ……そんな……ドラえもんさんがいなかった、ら、私は……多分……勝つことがっ、出来なかったと……」
「そっか、じゃあお互いがお互いを助けた!そういうことにしよう!」
このままではエンドレスになってしまうので、ひとまずこれで手を打とう、というわけで、れんも納得してくれた。
それにしても、先程出会ったばっかりの存在に対して、ましてや人間でもないのに、こんなにも泣いてくれるなんて、彼女は優しい人間なんだなとドラえもんは感じた。
涙が止んだれんは、本来の目的を切り出した。
「あ、そうだ……和菓子屋さん……」
「あっ!ついつい激闘で忘れちゃいそうになってた……えーっとチラシチラシ……」
再びポケットの中を漁るが、それらしきものは見当たらない。
「あれ?あれれ?あれれれれれ?」
「どうしたんですか……?」
「チラシがない!!……はっ!!もしかして!!」
激闘の最中では頭が回ってなかったから気づかなかったが、魔女に叩きつけて焼き捨てたあの紙。
あれこそがチラシだったのだろう。
「ワァ〜!!!!やってしまったぁ〜!!!!」
「そ、そんな泣かないでくださいっ……ここからなら、場所……わかるので」
「ほんと……?」
「はい、ほんとですっ……一緒に行きましょう?」
「うえぇ……よかったぁ……」
2人は目的地へと歩み始めた。
幸いにもまだ店は開いていたので、ドラえもんはおつかいのどら焼きと自分用のどら焼きを買うことが出来、れんも買っていた。
そして店主から話を聞いてみると、店主はドラえもんが常連となっている『甘井屋』の店主と共に修行した仲らしく、切磋琢磨しあった仲だったが病気で一時期業界から離れていたが、病気が完治し再び和菓子屋としての道を歩むことになり、昔のよしみで色々助けて貰ったそうだ。
そしてこの店『甘太郎』を開くことが出来て、そのチラシを『甘井屋』の店主がドラえもんが住んでいる野比家のポストにいれたそうだ。
「なんだか……不思議な話でしたね」
「そうだねぇ、2つの和菓子屋さんの縁がなかったら、こうしてぼくらも出会ってなかったわけだしね」
「はい……あ、そうだ、これ……」
差し出されたのは先程店で買っていたどら焼き。
「ささやかですけど……お礼です……はい」
「えっ!?いいのぉ!?」
さっきまでとは打って変わってストレートにお礼をもらおうとしているような気もするが、悪巧みをしようとしているとかではないので受け取っても大丈夫だろう。
「はい、もしよろしければ、また……神浜に来てくれますか……?」
「もちろんだよ!色々聞きたいこともあるけど、今日は疲れちゃったし……」
大事などら焼きをポケットにしまうも、ふらついてしまっている。
「えっと……帰れそうですか……?」
「な、なんとかねぇ…………やっぱちょっと厳しいかもー……」
先程の路地裏までひとまずたどり着いたが、このまま帰すにも心配だ。
でも電車で月見台まで行くにしてもれんの手持ちはそこまでない。
1番現実的なのは彼が住んでる家に電話して迎えに来てもらうことだが、解決法はすぐ現れた。
「れん!」
聞き慣れた声で振り返るとそこには2人組がいた。
「……ひなのさん!」
「なにやってんだこんなとこで……うわ!なんだこいつは!」
「えっと……この方は、私を助けてくれたネコ型ロボットのドラえもんさんで……どうにかしておうちに返してあげたいんです」
「この辺なのか?」
「いえ、月見台らしくて……」
「そりゃまた遠いなァ……」
2人組の片割れはれんもよく知るベテラン魔法少女、都ひなのであった。
もう片方はれんから見たら名前も知らないくらいの存在ではあるが、彼女がこの状況の突破口となる。
「……それなら私の固有魔法でどうにかなると思う」
薄紫の髪をなびかせた彼女もまた魔法少女で、名前は保澄雫というらしい。
「上手くいくかは分からないけど、私の固有魔法は"空間結合"だから、ここと彼の家までを繋げれば帰せると思う」
「つまり……どこでもドアみたいな……?」
「それが何かは分からないけど、多分そうだと思う」
そういうと雫は魔法少女へと変身し、この路地裏と月見台の野比家へと空間を繋げた。
「す、すごい……こんなことが……」
「どうもありがとう、このお礼はまたいずれ……」
「……きっとまた来てくださいね、約束ですよ!」
「うん!ばいばい!」
空間結合が終了し、彼の姿は見えなくなった。
そんな光景を見てれんは呆然としていた。
「……おい?大丈夫か?」
「……あぁ、はい……なんだか……不思議だなぁって……あ、あの、お2人共……ありがとうございました……」
「アタシはなにもしてないぞ、感謝するなら雫にだろ」
「いえ、ひなのさんが見つけてくれなかったら……」
「そうか……じゃあ受け取っておくよ」
「はい……保澄さんも、改めて、お礼を言わせてくださいっ」
「ううん、大丈夫、帰れるとこがあるって言うのは、幸せだからね」
少し引っかかるような言葉を聞いたが、深く追求はしないことにした。
このあとれんは何があったのかという事情説明でまた苦労することになるのだが。
それはドラえもんも同じで、ただおつかいに行っただけなのにボロボロになったのでこちらもまた事情説明が大変だったそうだ。
その上ドラえもん自体の点検作業をすることにもなってしまい、またドラミにも迷惑がかかってしまうことになり、お詫びのメロンパンが増えてしまうことになった。
これが2人の少し不思議なかかわりの始まりであった。
━━━━━━━━━━━━━━━
「へぇー……なんか思った以上にすごいことになってたんだねー……もっとあーしはポップな感じの出会いだと思ってたよーっ」
「ねえ、ということは3人とも魔法少女なの?」
「ん?そだよー?」
「へぇーっ!すごーい!ぼくも魔法使えるんだよ!チンカラホ…」
「あぁーだめだめっ!それにぼくらが知ってるような魔法少女とは違うの!」
「なーんだ……」
道具をしまいながらドラえもんが宥める。
「それで何日後かにさっきの雫さんがいる喫茶店に行ってお礼を言いに行ったんだよ〜」
「じゃあもうドラえもんは魔法少女達によく知られてるってこと?」
「そんな感じじゃね?結構もう知り合いはいると思うよーっ」
「それにれんちゃんが甘太郎の和菓子はおいしいって言ってたからあたしたちも学校帰りに寄って買い食いしたりするようになったからねーっ」
「何気にナイスじゃないれんぱす!店主さんも喜んでたし!」
「い、いえ……そんな……」
自分は大したことしてないとでも言いたげに、れんは照れてしまっている。
「なんだかぼくもどら焼き食べたくなってきちゃったなぁ〜」
「おっ?気が合うじゃんノビタニヤン!」
「んじゃっ、早速行っちゃおっか!」
「「「さんせ〜い!」」」
「は、はいっ!」
こうしてまたひとつ、本来なら交わることの無い世界同士の存在同士が紡ぐ、新しい物語が生まれていくのであった。
おわり