「で?工藤新一の様子はどうだった?」
杯戸町の高級ホテル、その最上層の一室。その広く豪華な浴室で、怜はベルモットの背中を流しながらそう尋ねた。
シミや傷一つ無い綺麗な身体を覆っていた泡が流れ、排水溝に吸い込まれていく。シャワーの心地よい熱を感じながら、ベルモットは答える。
「今のところは好印象ね。推理力も高くて、突然のトラブルにも動じない。少々事件に遭遇しやすい体質なのは少し気になるけれど……まさか、ちょっと観察しに行っただけでバスジャックに巻き込まれるとは思ってなかったわ」
工藤新一、彼が幼児化して江戸川コナンになっていたことを知った二人は、あれから定期的に変装をした状態でコナンのことを観察しに行っていた。
怜は、彼が志保のことを護る騎士足りえるかどうか。ベルモットは、彼が待ち望んでいた銀の弾丸に足る器か確認するために。
「はは、まあ事件を引き寄せるのも名探偵の素質の1つなのかもな」
しっかりと彼女の身体を洗い流せたのを確認し、シャワーを止めて壁に掛けると怜は浴槽へ向かい身体を沈める。適温に保たれた湯が身体を包み、1日の疲れを溶かしていく。ほう、と口から溜息を漏らして身体を脱力させる。
「そうね。見ている側からすれば、能力を測りやすくて助かるわ」
その怜に続き、ベルモットも浴槽へ入る。怜の上に乗るように身体を重ねて、彼の腕を自分の腹の前で組ませる。浴槽はかなりの広さがあり、2人分のスペースは十分にあったが、彼女はこうして身体を密着させて入るのが好きだった。
2人きりの時、ベルモットは警戒心がかなり希薄になる。今も、怜がその気なら腕に力を入れるだけで簡単に殺せてしまうだろう。だが、彼はそれをする気は毛頭ないし、ベルモットのこの態度もそれを判り切っていてのものだ。
こてん、とベルモットが怜の肩に頭を預け、彼の顔を見る。
「……ね、今度の水曜、伊豆に旅行に行かない?」
「旅行?」
「ええ、組織の仕事も暫くお休みだし、クリスのほうも休業中。貴方のお気に入りのシェリーの無事も確認できたことだし、こういう機会に偶の息抜きをしておかないと体調崩しちゃうわよ?」
怜の腕に手を這わせて、甘い声でそう誘うベルモット。
詳しく話を聞いたところ、先日に百貨店で化粧品を購入した際に、オマケで福引券が付いてきたらしく、折角だからと抽選に参加してたところ、伊豆の海水浴場近くのホテルのペア宿泊券が当選したらしい。
怜はその提案に少し迷う素振りは見せたものの、最終的に頷いた。
志保のいるこの町から行楽目的で離れるのはあれだが、逆にこの町に固執しすぎて組織に怪しまれては元も子もない。
「貴方との久しぶりの仕事抜きでの旅行。今から楽しみだわ」
くるっと怜の腕の中で身体を回転させ、抱き合うような体制になる2人。
ベルモットはそのまま怜の首に腕を絡ませ、顔を近づけると、ゆっくりと彼の唇に自分の唇を合わせた。そのまま数秒味わうようにキスをして、彼女は口を離す。
「それに、最近、貴方シェリーに気を取られていることが多いもの。偶には私に独占させて頂戴」
甘いシャンプーの香りとと彼女の体臭とが混ざり合って、怜の理性を溶かしていく。身動ぎする二人の作り出した波が浴槽の外へ溢れる。
主に、ベルモットの香り付けに使われるニガヨモギの葉や枝は、時に防虫剤としても使用される。彼女は今日も、彼に変な虫が寄らぬよう自分の匂いを染み込ませるのだ。
湯気が2人を映す鏡を曇らせていく。
──嗚呼、この時間だけは永遠に続けばいいのに……なんて、我儘かしらね。
夏の肌が焼けるような日差しが降り注ぐ、伊豆の海水浴場。
行楽客で埋め尽くされたこの海を、コナンは浮き輪に小さな身体を乗せて漂っていた。
「(……いいのかねえ、俺の正体がバレたってのに、伊豆なんかでのんびりしてて)」
ぷかぷかと人混みの中を波に乗って移動しながら、コナンは海を楽しむ家族やカップルなんかの様子を眺めていた。そんなコナンの元へ近づく影が一つ。
「……また、正体が彼にバレたことを気にしているのかしら?」
子供特有の高い声、しかし、それに似合わぬ落ち着きを孕んだ口調。コナンが視線を下げると、そこには青い水着姿の灰原哀が浮き輪を小突きながらこちらを見ていた。
「ああ、お前の『アドニスは私に不利になるようなことはしない』の一点張りだけじゃあ、とても安心は出来ねーよ」
浮き輪から降りて、彼女の顔を睨むようにして言うコナン。
「そんなこと言われても、そう言うしかないんだもの。彼が既に組織に話していたとしたら、私たち、とっくにこの世にはいないわよ」
重りがなくなり、波に流されそうになっていた浮き輪の紐を掴んで回収しながら、灰原はそう答える。
「彼があなたの正体を組織に話していたとするならば、貴方が小五郎さんの同行者ということも当然伝わっている筈。彼は有名人だし、ネットで少し調べれば探偵事務所の住所なんて簡単にわかること。つまり、未だに彼らから直接的な接触が無い時点で彼が話していないのは明白」
「まあ、そりゃあそうだけど……」
正直、コナンはアドニスについて、灰原から年齢と外見、それに彼女の幼馴染ということくらいしか聞かされていない。いくら普段から組織の人間に怯え切っている彼女が好意的に思っている人物とはいえ、はいそうですか自分も信じますとは言えなかった。
とはいえ、いくらコナンが抗議しても、灰原は彼にばれただけなら大丈夫の一点張り。
結局、今日まで特に何をするでもなくいつも通りに生活してしまっていた。
「さあ、わかったら早くあの子たちを探しにいきなさい?貴方、鬼ごっこの鬼なんでしょ」
「……じゃあ、オメーもさっさと鬼から隠れろよな」
回収した浮き輪に再びコナンの身体を通して、灰原は彼を人混みの方へ放流する。コナンはそんな灰原に文句を返すが、灰原は知らぬ顔。コナンとは逆、浜辺の方へ進む。
「私はパス。ちょっと用事があるから」
そう言い残すと、波に乗って灰原はコナンの視界からあっという間に消えてしまった。コナンは、相変わらず協調性のない彼女の行動に溜息を吐き、仕方なく隠れ疲れているであろう少年探偵団の捜索のために足を動かした。
海から上がった灰原は、白い砂浜を1人歩いていた。
周囲の人々、特にその人たちが設置しているビーチパラソルを注視しながら浜辺を進む。地味なものからカラフルなものまで、海水浴客が持ち込んだ多種多様なパラソルがあるが、灰原が探していているものは見つからない。そのまま波打ち際を沿うようにして数えるもの馬鹿らしいような多量のパラソルに視線を流していくと、海岸から少し離れた位置にポツンと置かれたそれが目に入った。
この晴天には似合わない漆黒の傘地に、ワインボトルを模したワンポイントの模様が施された高級感溢れるパラソル。
彼女はそれを見つけると、周囲の視線を気にしながらも、一直線にそこへ向かった。
そのパラソルの下には2台のビーチチェアが置かれており、片方には女が座っている。灰原はその女性の元までやってきてその顔を確認すると、不機嫌そうに彼女を睨む。
「……なんで貴女もいるのかしら?」
精一杯の低い声でそう言うと、女はかけていたサングラスを取り、微笑をたたえながら灰原を見た。
「ここには彼との旅行できているんだもの、当然でしょう?」
女性──ベルモットは、サングラスを額に乗せて、さも当然のようにそう言った。
灰原は、そんな彼女に舌打ちすると、空いているほうの椅子に腰掛けて海辺の方へと目を向ける。
「怜は?」
「怜なら、さっき海の家に私の為に飲み物を買いに行ってくれたわ。直ぐに帰ってくるはずよ」
そう、彼女が此処へ来た目的は目の前の女狐ではない。灰原は、目的の彼─怜の所在を尋ねると、彼女は得意げにそう返してきた。相変わらず癇に障る。灰原は2度目の舌打ちをすると、彼が向かったという海の家へと視線をずらす。
「というか、貴女、彼のことはアドニスって呼んでなかったかしら」
「ええ。でも、彼を唯一、怜って呼んでいた貴女がいなくなってしまったんだもの。なら、最も近くにいる私がそう呼んであげないと可哀想でしょう?」
灰原、3度目の舌打ち。カラッと晴れ渡っているはずのこのビーチで、ここだけ気温が低くなっているように思えた。それに、ただでさえ浜の端っこに陣取られていて人の少ないこの場所に、更に人が寄り付かなくなったように感じる。
「言っておくけど、貴女は、あの色欲に塗れた契約で彼のことを手にしているだけ。勘違いしていると、後で後悔するわよ」
「あら、その色欲に塗れた契約のお陰で、貴女はお友達と仲良く海水浴に来られているのよ?」
互いに嫌い合っている2人だが、良いことか悪いことか会話は止まらない。
「とっくに賞味期限は切れてる貴女だけど、消費期限のほうはまだ大丈夫なのかしら?彼に捨てられる前に自分からゴミ箱へ入ったほうが身のためよ」
「あら、彼に食べられたこともないからってそんなに強がらなくてもいいのよ?彼の唇の感触くらいなら教えてあげるから」
もう少しでも言葉を交わそうものなら、地面に着いている灰原の足がベルモットの顔面に向けて砂を蹴り上げるだろう。そんな一触即発の空気に包まれていたパラソルの下へ入ってきた1つの影。
「お、志保。もう来てたのか」
それは、ラムネの瓶を抱えて海の家から戻った怜だった。
場の冷え切った空気をものともせず、彼は笑顔のまま手に持っていたラムネを2人にそれぞれ渡して、灰原の横、椅子の空いていたスペースに腰を下ろす。そして、自分用の瓶のビー玉を落として、中身を呷る。
そうして、夏の砂浜に良く似合う爽やかな顔で「うまい」と一言呟いた。
そんな彼の様子に気が抜けたのか、ベルモットと灰原も舌戦を中断して怜から手渡されたラムネを開封して口を付ける。まあ、今日はここまでにしておいてあげましょう。互いにそう思いつつ、彼女らは彼の買ってきてくれたそれを堪能することにした。
「それにしても、良くシェリーと連絡がついたわね。あのホテルで会った時にでも連絡先を交換したのかしら?」
瓶を傾けながら、少し頭の冷えたベルモットがそう怜に尋ねた。
怜は、早くも飲み終えたラムネの瓶をゴミ袋代わりのビニール袋に入れながらその質問に答える。
「いや、俺が会った時、志保は工藤新一に背負われている状態だったからな。直接伝えてたらあいつにも聞かれちまうから、別の方法で俺のメアドだけ教えたよ。気付いてくれるかは半信半疑だったけどな」
「別の方法……?」
そもそも、灰原が今日この海水浴場に怜が来ていることと、その場所の目印を知っていたのは、事前に怜がメールで彼女に伝えていたからだ。勿論、宮野志保のアドレスを使えば組織にばれるため、宛先は灰原哀のメールアドレス、送信元はそれ用に新規に取得した怜のアドレスだが。
勿論、そのメールアドレスが作成されたのは、志保が灰原となり行方をくらませた後で、それから2人が接触したのは以前の杯戸シティビルの事件の際の一瞬だけ。ならばどのようにして彼女に自分のアドレスを伝えたのか。それを説明したのは、灰原だった。
「気付くわよ。組織にいたころから、貴方、いつも手紙やら書類やらに炙り出しを仕込んでたもの。工藤君に渡していた紙にも妙な余白があったしね」
「古風だけど、便利だろ?最近だと余り使われない手法だからばれにくいし、メールなんかと違ってそのまま燃やしちまえば記録にも一切残らない。内緒話にはもってこいだ」
至極単純だが、今の情報化社会においては意外と皆の目をすり抜ける良い方法だ。普段から遊び半分真面目半分でそのようなギミックを仕込んだ手紙のやり取りを日常的に行っていて、紙媒体なら直ぐにそれを疑うことのできる怜と志保だからこそ有効な連絡手段ではあるが。
また、紙媒体はデータとして端末に保存せずに半永久的に保管しておけるのも良い点だ。現に、シェリーが消えた後で組織に調べられた彼女のパソコンや携帯電話の情報の中に、密かに彼女らがやり取りしていた内容は含まれておらず、今も変わらず怜の手元で保管されている。
それに、怜は単純に味気ないフォントよりも、志保の手書きの温かみのある文字のほうが好きだった。そのような理由もあって扱っていた手法が上手く活かせた形だ。
「へえ……通りで。組織が押収した貴女たちのメールのやり取りを覗いたことがあったけど、距離感の割に妙に素っ気無いと思ってたのよ。
まさか裏でそんな方法で文通してたなんてね。組織の目、そんなに煩わしいかしら?」
ベルモットが足を組み直し、並んで座る2人の姿を見る。
シェリーは組織の重要なメンバーとして、アドニスはそのシェリーに近しい不安因子として、両者とも組織から注視されていた身だ。何かしらの方法で内密に連絡は取り合っているだろうとベルモットは予想はしていたが、若く電子機器にも疎くない2人が手紙という古典的な方法を用いていたとは。
「まあ、正直なところメンバー全員を信頼しているわけじゃあないし、手紙ならすれ違う時や書類なんかに紛れさせて渡したりも出来る。それに、組織の中じゃ俺はまだ新参者、目立ちすぎるのも良くないからな」
怜は、彼女たちから飲み終えた瓶を受け取ると、それも袋に片付けて端へ退かした。
「それで?ここに呼び出した理由は何かしら?まさかハリウッド女優との優雅な旅行を自慢するためじゃないでしょうね」
少し、いや、だいぶ棘のある声で灰原が怜に問う。
その言葉に怜は、彼女の頭を優しく撫でて、笑みを返す。
「いや、単純に直接無事を確かめたかったのが一つ。後は、まあ、注意喚起かな」
「……注意喚起?」
灰原は初めは彼の手を受け入れていたが、ベルモットの意地の悪い笑みを視界の端で捉えて気恥ずかしくなり、彼の手を払った。
「ああ、俺は勿論だが、ベルモットも契約上、お前には手を出さないし、組織に情報を流すことはない。だけど、他のメンバーはそうはいかないし、その際には妨害ができるのも俺だけ、それも基本的には組織の監視の中で可能な範囲での妨害に留まっちまう」
その内容に、灰原は改めてこちらを見るベルモットに視線を向ける。灰原自身分かっていることだが、この女が自分に手を出してこないのは、怜と彼女の間で交わされている契約があってのことだ。故に、彼女本人はそれに従って灰原に直接手出しをしないだけであって、他のメンバーが灰原に迫った際には、それを咎めるようなことは一切しない。彼女は、怜の味方ではあるが、灰原の味方ではないのだ。
怜曰く、代償を差し出すことで、彼女の支援を得られるような条項もその契約には盛り込まれているようだが、腹の中で何を考えているか分からない女だ。それは最後の手段と考えておいたほうが良いだろう。
「だから、疑い深い志保には気乗りしないことかもしれないが、信頼できる仲間を一人でも多く作って、いざとなれば頼れ。その身体じゃあ一人で出来ることにも限界がある」
灰原を見つめ、そう言う怜。
幼児化した身体では行動に限界がある。それは灰原も同意見だが、仲間を多く作るということに関しては素直には頷きかねる。その分、自分の問題に他人を巻き込むことになるのだから。だからこそ、彼女はその言葉を肯定も否定もせずに躱した。
「……それは、貴方にとってのそこの女のようなってことかしら?」
「そ……う、ん?そうか?まあ、最後に頼るって点ではそうなのか?」
仲が良い、信頼しているということに違いはないが、単純に頼れる仲間かと問われれば、怜とベルモットの関係性は些か複雑だ。
「まあ、兎に角、一人で背負い込みすぎるなってことだ」
最終的には言葉を濁し、そう締めくくる怜。そんな彼に、灰原は「善処するわ」とだけ返して薄く笑った。
それから、怜と灰原は時折ベルモットも交えて、直近の状況について情報を交換する。内密のメールという手段は用いれるものの、露骨な互いの内情を電子上に残しておくことはリスクを生じさせる。この機会に出来る限りの情報を、脳という本人以外が覗くことのできない記憶媒体に直接記録しておく。
「……とまあ、今はこんなところか。んじゃ、俺はコレ捨ててくるわ」
情報交換を終えて、怜は空き瓶の入った袋を片手に立ち上がり、ゴミ捨ての為に再び海の家のほうへと歩いて行った。
再びパラソルの下で二人になった灰原とベルモット。緩衝材である怜が消えたことで、また少し空気が張り詰めるような感覚。
「本当に、偶然、私たちの伊豆旅行が重なっただけなのよね?」
先程よりも随分とトーンの下がった声色と共に、灰原はベルモットを見やる。
「ええ、本当に偶然。まさか、組織の人間を潜ませているとでも?そんなことはしないわ。彼に嫌われたくはないもの」
毛先を弄りながら疑いを否定するベルモット。実際、彼女は灰原(とその周辺人物)が同じ海水浴場の同じホテルに宿泊するなんてことは出発の前日に怜から知らされるまで知らなかった。彼女は本当に単純に二人での旅行を楽しむつもりだったのだ。その証拠に、彼女は組織に今日のことを一切知らせていないし、そもそも今日使用した宿泊券自体が偶然の結果入手したものだ。
寧ろ、ベルモットのほうこそ、灰原が私と彼の旅行計画を知って、保護者に連れてきてもらったのではないのかと問いたいくらいだった。
「そんなに疑っているのなら、わざわざ来なくても良かったのよ?」
他人のプライベートの邪魔をしてくれてありがとう。そんな恨み節を込めて、灰原に言い放つ。
「彼からの招待だったもの。例えそれが罠だとしても、私は応じる」
言葉に詰まることなく言い返す灰原。普段は感情よりも理論を重視する彼女には似合わない台詞だった。
「さて、そろそろ私は行くわ。監視がないとはいえ、余り同じ場所にいるのはリスクが高いし、それに、小さな探偵さんに見つかると厄介だしね」
ビーチチェアから下りて、怜の帰りを待たずその場を去ろうとする灰原。
「そうね。ああ、そうそう、今日のことだけれど……」
ベルモットはチェアに深く身体を沈めると外していたサングラスを目元に戻す。そして、離れようとする灰原の背に声を掛けた。
「一人でいた子供の私を心配して声を掛けてきた休暇中の女優とそのマネージャー。疑われたときは、そう伝えるわ」
まあ、クリス・ヴィンヤードを見ているコナンには通じない嘘ではあるけれど。と、今、必死に隠れる子供たちを探している探偵の姿を思い浮かべる。
「あら、その"女優とマネージャー"って部分、"カップル"に変更しておいて貰ってもいいかしら?」
そんなベルモットの主張に、灰原は振り向いて足元の砂を蹴り上げると、足早に海辺の海水浴客の中へ消えていった。
残念ながら、子供の脚力では彼女の元へ砂埃を届けることは出来ず、その場に虚しく残された抉れた砂地を見てベルモットは愉快そうに笑った。
暫く灰原の消えた人混みを眺めていたベルモットだったが、怜が海の家から帰ってくると、側に置いていた貴重品の類を防水性のケースに入れて、帰ってきた怜に投げ渡した。
「あれ、志保は?」
「帰ったわよ。貴方と話すよりお友達と遊ぶほうが楽しいみたい」
しれっと嘘を吐きながら、ベルモットは立ち上がって怜の腕を取った。
「それよりも、何だか泳ぎたい気分になってきたわ。付き合ってくれる?」
随分と上機嫌な彼女の姿に、志保と話が盛り上がったのだろうか、などと検討外れなことを考えながら、怜は腕を引くベルモットに連れられて青い波のほうへと足を向けた。
炙り出しがバレにくい訳ないだろうと言われれば、反論は出来ません。
次話の投稿は未定です。