少女と花嫁   作:吉月和玖

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今回も読んでいただきありがとうございます。

前話からかなり間が空いてしまいましたが、その分しっかりと積み上げた回になっています。 

今回は「笑顔の中の決意」というタイトルの通り、穏やかな時間の中で、それぞれの想いが静かに動き出す回です。
特に四葉にとっては、ここから先に繋がる大切な一歩となる場面になっています。

一方で、いつも通りの掛け合いや姉妹たちの空気感も大切にしながら書いていますので、ゆったりと楽しんでいただけたら嬉しいです。

少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら幸いです。
それでは、本編をどうぞ。


172.笑顔の中の決意

「うーーーん…終わったーー」

「今日はありがとう。時間作ってくれて」

 

下田さんとの面談を終え、五月と二人で帰路につく。

夜の空気は少しひんやりとしていて、肩の力が自然と抜けていく。

思わず右腕を高く掲げて、大きく伸びをした。

 

その一方で──

五月は、僕の左腕にそっと腕を絡めている。

 

「良いさ。五月の為ならどうってことないって」

「ふふふ♡だから、好き♡」

 

人通りの少ない夜道。

誰もいないことをいいことに、五月はさらに体を寄せてきた。

柔らかい感触と、ほんのり甘い香りが伝わってくる。

 

「さて、夕食はどっかで食べてく?」

「うーん…」

 

顎に右指を当て、少し考える仕草。

そして──

 

「和彦さんが問題ないなら、私は和彦さんの料理が食べたいかな.明日から修学旅行でお預けでもあるし」

 

はにかむようにこちらを見上げてくる。

その顔を見てしまえば、答えなんて最初から決まっていた。

 

「じゃ、スーパー寄るか。五月の好きな肉料理作るよ。ハンバーグとか、肉じゃがとか」

「ありがとう♪楽しみだなぁ♪」

 

嬉しそうに声を弾ませる五月。

そして、少しだけ声を潜めて──

 

「その……夜のデザートも欲しかったり…して…♡」

「……」

 

ほんと、この子は。

思わず笑ってしまいながら、周囲を軽く確認する。

人はいない。

 

「そっちも問題ないよ。今日は二人で愛し合おうね」

「んッ…ちゅっ…♡」

 

軽く唇が触れる。

 

「えへへ…大好き♡」

 

そのまま、さらに腕を絡めてくる五月。

夜は、まだこれからだ。

 


 

~中野家・マンション~

 

「久しぶりに二乃の料理食べるけど、また腕あげたんじゃない?」

「ふふん♪まあね。何と言っても料理が得意な人多いから、和彦の周りって」

 

その頃。

中野家では、夕食の時間を迎えていた。

結愛が今井家に泊まることになったため、

ことりは一花たちに誘われ、今夜は中野家に泊まることになっている。

 

「うん♪三玖のコロッケも美味しいよ」

「ありがとう…思い出の料理だから…たくさん練習したの…」

 

テーブルに並ぶ料理。

そのどれもが、確かな“積み重ね”を感じさせる味だった。

 

「にしてもさぁ~…今頃あの二人、イチャイチャしてんのよねぇ~」

「はぁぁ…私もカズヒコさんともっとイチャイチャしたい…」

「だよねぇ♪」

「いやいや、二乃と三玖とことりの三人とも週に一回以上はセンセとイチャイチャしてるじゃん。もう、せっかくの五月ちゃんの新婚生活をじゃましちゃってぇぇ」

「あははは…」

 

軽口が飛び交う、いつもの空気。

 

「何よ一花。あんただって、和彦と二人っきりになるやキスしてんでしょ?あの日からあんたもかわったわよねぇ」

「うっ…」

「ねえぇぇ~♪時には“練習”だって言ってお兄ちゃんのも借りてるらしいし♪」

「くっ…!」

 

一花が言葉に詰まる。

 

「まあまあ。一花はそれでもちゃんと先生の言う通りに行動をして、私たち並には深く関係を持ってる訳じゃないんだしさ」

「よつばあぁぁ~……」

 

四葉のフォローに、涙目で縋る一花。

──そんな中。

 

「……そういえば」

 

三玖が、ふと思い出したように口を開いた。

 

「四葉って最近、空手と勉強ばっかりじゃない?」

「言われてみればそうね。たしかにこの間の練習試合のときは和彦の部屋に行ってたし、この間の週末にはわたしたちと一緒だったけど、基本わたしと三玖の誘いにも乗らないわよね」

「う…うん……先生に喜んでもらいたいし…」

 

その言葉に──

ほんのわずかな“重さ”が混じっていた。

 

「……」

 

二乃は一瞬だけそれを感じ取る。

けれど、あえて踏み込まない。

 

「ま、いいわ。ことり、あんたは?上杉のことはホントに本気なんでしょうね?」

「当たり前だよ!本当は風太郎君を押し倒して既成事実作っちゃえって考えた事だってあるんだからー!」

「ことりならやりかねない…」

「ははは…」

 

ことりの言葉に笑いが広がる。

けれど──

 

「ねえ、みんな」

 

四葉が、箸を置いた。

その動きは、静かで──

はっきりとした意志を持っていた。

 

「お願いがあるの!」

 

空気が変わる。

 

「フータローのこと?」

 

ある程度感じていた三玖の言葉に、四葉は頷く。

 

「……修学旅行の初日の最初に少しだけ、時間が欲しいんです。二十分くらいでいいので」

 

その目は、真っ直ぐだった。

迷いのない目。

 

「あら、いいんじゃない?」

 

ことりはあっさりと頷く。

 

「まあ、そこで持ってかれたら終わりだけどね♪」

「上杉が即決するとは思えないし」

「だね…」

 

軽く笑いながらの同意。

それに二乃と三玖が同じ意見でクスクスと笑っていた。

そして──

 

「……わかった」

 

一花が、静かに頷いた。

 

「急に言ってきたってことは、それだけの理由があるんでしょ?」

「うん…!」

 

四葉は小さく笑う。

でもその奥にあるものを、ことりだけは見逃さなかった。

 

(……そっか…四葉はもう──()()()()()

 

一花と向き合う四葉の横顔。

その表情は、どこか優しくて。

そして、どこか覚悟を決めた顔だった。

 

・・・・・

 

ガチャ…

 

「おや…」

 

リビングのドアが開く音。

リビングにいた全員の視線が、自然とそちらへ向く。

そこに立っていたのは──

中野マルオだった。

 

「少し遅かったようだね。夕食は終わったのかい?」

「あ、お父さんおかえり~」

 

ソファから体を起こした一花が、そのまま軽い足取りで近づく。

和彦と五月の婚姻の話し合いが行われた日を境に、マルオの行動も徐々にではあるが変わってきている。

このように、帰れる時には家に帰ってきては五つ子との時間を作るようにしている。

その事もあり、和彦が他の女性との行為に及んでいる日とマルオの帰ってくる日が重なる日には、五月はことり達の家ではなく、このマンションへと帰ってきている。

 

「ごめんね、連絡なかったから先に食べてたよ」

「いや、問題ないよ。急な患者が来てね。連絡を失念していたようだ」

 

淡々とした口調。

けれど、その声色にはどこか柔らかさが混じっている。

 

「お、お邪魔してます」

 

少しだけ緊張した様子で、ことりが立ち上がり頭を下げた。

 

「ことり君か。今日はうちに?」

「は、はい。明日から修学旅行で……結愛ちゃんも憂ちゃんの家に泊まる事になりましたので」

 

事情を簡単に説明する。

それを聞いたマルオは、小さく頷いて──

 

「そうか。君は和彦君の妹さんだね。ならば、僕にとっても家族の一員だ。遠慮はいらない。いつでも泊まりに来るといい」

「……ありがとうございます」

 

無表情のままの言葉。

けれど、ことりはその奥にある優しさを、確かに受け取っていた。

 

「ほらお父さん、席ついて」

 

キッチンから顔を出した二乃が声をかける。

 

「すぐ夕食の用意するから」

「ああ」

「リンゴ剥くから、あんたたちも座りなさい」

「は~い」

「リンゴは私が剥く…」

「まだ早いわよ!」

 

いつものやり取り。

けれど、それがどこか心地いい。

三玖は頬を膨らませながらも、すぐに役割を切り替え、夕食の温め直しへと向かっていく。

その背中を、二乃はちらりと見て──

何も言わず、笑みを浮かべながらリンゴの皮を剥き続けた。

 

「さて、と」

 

ダイニングテーブルに座ることりは軽く伸びをしながら、向かいの勉強に集中をしている四葉へ視線を向ける。

 

「ちょっと休憩する?」

「すみません!あと一問だけお願いします!」

「……いいよ。けど、あんまり根を詰めすぎないでね」

「はい!ありがとうございます1」

 

苦笑しながらも頷く。

ノートに向かう四葉の顔。

そこには、先ほどと同じ──

どこか強い意志が宿っていた。

 

「そんなに頑張って……誰に褒めてもらいたいの?」

 

少しだけ、からかうように。

 

「お兄ちゃん?それとも、フータロー君?」

「ししし…内緒です!」

 

くるっと顔を上げて、いたずらっぽく笑う四葉。

でも──

 

「でも、私は先生の弟子ですから。空手も、勉強も、ちゃんと頑張りたいんです」

 

再びノートへと視線を落とす。

その表情は、やっぱりどこか──

優しくて、強い。

 

(……やっぱり)

 

ことりは静かに目を細めた。

 

(この子、もう決めてる)

 

「ふむ。四葉君も努力しているようだね」

 

マルオが静かに口を開く。

 

「良い心がけだ」

 

水の入ったグラスを持ち上げ、ひと口。

 

「そういえば──」

 

箸を置かずに続ける。

 

「一学期末の三者面談だが、僕が参加することになっている。それまでに、各自進路はある程度決めておきなさい」

「え!?お父さん来るの!?」

 

二乃が目を見開く。

けれど、その声にはどこか嬉しさが滲んでいた。

 

「ああ。和彦君に頼まれてね。ちょうど予定も空いていたのだよ」

 

(……嘘ね)

 

二乃と同じ考えを他の姉妹が持っていたが誰も口には出さない。

けれど、その場の姉妹全員が理解していた。

この人が、わざわざ時間を“空けた”ことを。

 

「三玖君、ありがとう」

「……ううん」

 

料理を差し出す三玖に、短く礼を言う。

それだけで、三玖の表情はふわりと緩んだ。

 

「進路ねぇ…」

 

席に着いた二乃が頬杖をつく。

 

「とりあえず自分の実力にあった、現実的なとこかしら」

「私は教育大学かな」

 

ことりがさらっと答える。

 

「五月と一緒。同じとこ目指してるよ。一応、推薦をもらうつもり」

「ことりなら空手の事もあるし、推薦はもらえるんじゃない?教育大学はセンセの影響?」

「うん♪前から決めてたしね」

 

その会話を聞きながら──

四葉の手が、ほんの少しだけ強くペンを握った。

 

「……」

「四葉?」

 

三玖が小さく声をかける。

 

「え!?な、何!?」

「……ううん。なんでもない」

 

少しだけ不自然な反応。

けれど三玖は、それ以上は踏み込まない。

 

「私はちょっと考えがあって。まだ固まった訳でもないし、面談の時にカズヒコさんに相談しようかな」

「それも一つの方法だ」

 

マルオが静かに頷く。

 

「彼は担任だからね。生徒の進路を考えるのも仕事だ。……どんな判断をするのか、興味深い」

 

わずかに浮かぶ、意味深な笑み。

 

(((((……やっぱり五月の事根に持ってるよね)))))

 

誰もが同じことを思った。

その後も会話は続き──

笑い声が、ゆっくりと夜に溶けていく。

誰も席を立たない。

誰もこの時間を、終わらせようとしない。

それぞれの想いを抱えながら──

静かに、同じ時間を過ごしていた。

 




ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

今回は「日常」と「変化」の境目のような回になりました。
特に四葉の描写は、これからの展開に大きく関わってくる部分でもあるので、どう受け取っていただけたか気になっています。

そして次回はいよいよ修学旅行編。
今回の“決意”がどう動いていくのか、しっかりと描いていく予定です。

もし少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、評価やお気に入り登録で応援していただけるととても励みになります。

感想も一つ一つ大切に読ませていただいていますので、お気軽に残していただけたら嬉しいです。

それでは、次回もどうぞよろしくお願いいたします。
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