ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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今まではラクアを目指したり、ラクリウムを消すって目的があったけど、今のアニメはどこを目指してるのかな~


キタカミの里

 

パルデア地方から遠く離れた東方の地、キタカミの里。

 

 窓の外には青々とした田んぼが広がり、その向こうには林檎園や深い山々が見える。

 

 テラパゴスについて新たな情報を得るため、ジン達はこの里を訪れていた。目的は、この里に滞在しているブライアという人物を探す事だ。

 

「町に着いたら聞き込みだ。なるべく多くブライア先生の情報を集めよう」

「「おう!」」

 

 聞き込みというのは地味な割に成果が出ない事も多い。田舎の集落だからといって甘く見てはいけない。1人の人間を探すとなれば、想像以上に時間と手間が掛かる事を覚悟する必要がある。

 

 しかし──

 

「……これは困ったな」

「人が誰もいないぞ……」

 

 夕方になり、漸くスイリョクタウンの公民館に到着したのだが、見渡す限り周囲には人影は一つも見当たらなかった。

 

「何かお困り?」

 

 どうすればいいか途方に暮れていたジン達を見かねたのか、近くの商店から一人のお婆さんが出てきた。

 

「すみません。実は人を探してまして、ブライア先生という方なんですが、ご存じないですか?」

「この人です」

 

 ドットは自身のスマホロトムにブライアの顔写真を表示し、お婆さんに見せる。

 

「う~ん……ごめんなさいね。知らないわ」

「そうですか……すみません。もう一つ、お伺いしたいのですが、里の皆さんはどちらに?先程からほとんど人影を見かけないんですが」

「今日は里の収穫祭に行ってるのよ」

「収穫祭?」

「えぇ、ここは林檎が有名でね。その林檎の豊作を願ってのお祭りだよ」

「「「「お祭り!」」」」

 

 祭りと聞いた途端、リコ達四人のテンションが目に見えて上がった。先程まで静かに聞き込みをしていたとは思えない反応に、ジンは呆れ半分、微笑ましさ半分といった表情を浮かべる。

 

「いいな!だったら、その祭りで情報収集だ」

 

 もっとも、祭りでテンションが上がっているのはリコ達だけではない。フリードの提案に一同も賛成し、一行は収穫祭が開かれているキタカミセンターへ向かうことになった。

 

 

 

***

 

 

 

 収穫祭に参加するにあたり、ジン達は里で貸し出されていた甚平へと着替えていた。

 

 ジンは黒、ロイは緑。そしてフリード、マードック、ランドウの三人は白の甚平に袖を通している。

 

 夕方だった空はいつの間にか茜色から紺色へと変わり始め、祭り会場であるキタカミセンターには大勢の人々が集まっていた。

 

 通りの両脇には数え切れないほどの屋台が立ち並び、焼きリンゴや焼きそば、甘い菓子の香りが夜風に乗って漂ってくる。

 

 ドン、ドドン――。

 

 広場の奥からは祭り囃子に合わせた太鼓の音が響き渡り、里の人々の笑い声や子供達のはしゃぐ声がそこへ重なっていた。

 

 昼間は人影もまばらだったスイリョクタウンが嘘のような賑わいである。

 

「リコ達遅いな~~! お祭り終わっちゃうよ!」

 

 待ちきれないといった様子でロイが声を上げる。

 

「まぁ、そう焦るなって。女性の着替えや身支度には時間がかかるものだ。海へ行った時だって、俺達の方が先に準備を終えていただろ?」

「あー……確かに」

 

 ロイが納得したように頷いた、その時だった。

 

「お待たせー!」

 

 聞き慣れた声に振り返ると、着替えを終えたリコ達がこちらへ歩いて来る。リコは鮮やかな緑色の浴衣、ドットは紫色の浴衣、アンは青色の浴衣を身に纏っていた。さらにモリーは落ち着いた紺色、オリオは黒を基調とした浴衣姿で、それぞれ普段とは違った雰囲気を醸し出している。

 

「おぉ……」

 

 思わずジンが感嘆の声を漏らした。

 

「えへへ、どうかな?」

 

 くるりとその場で一回転しながら、リコが笑顔で尋ねる。

 

「似合ってるよ。緑色もリコに合ってるし、いつもより少し大人っぽく見えるな」

「本当!?」

 

 ジンの言葉にリコの表情がぱっと明るくなる。

 

「えへへ、やった♪」

「ふっふっふ~。ちなみにその浴衣、アタシが選んだんだよ!」

 

 得意げに胸を張りながらアンが口を挟む。

 

「だから似合ってて当然! アタシのセンスは完璧なんだから!」

「あっ、そうだったね」

「でしょでしょ?」

 

 褒められたのが自分のことのように嬉しいのか、アンは満面の笑みを浮かべる。

 

「それで、ジンから見てアタシはどう?」

 

 くるりと青い浴衣の裾を揺らしながら、アンはいたずらっぽく笑った。その顔には「似合ってる以外の答えは認めない」とでも書いてある。どうやら答えは既に決まっているらしい。

 

「もちろん似合ってるよ。青色もアンによく合ってるし、元気なアンらしさが出てると思う」

「えっ……」

 

 予想通りの答えだったはずなのに、不意に真正面から褒められたせいだろうか。アンは一瞬だけ目を丸くすると、少し照れたような笑みを浮かべた。

 

「えへへ……まぁ、そうだよね!」

 

 そう言いながらジンの傍へ歩み寄る。しかし次の瞬間、アンはどこからともなく一枚の紙を取り出し、ジンへ差し出した。

 

「はい!」

「ん?」

 

 受け取ったジンが紙へ目を落とす。

 

 そこに書かれていたのは――全員分の浴衣のレンタル代だった。

 

「……何だこれ?」

 

 思わずジンがアンへ視線を向ける。

 

「何って請求書だよ?」

 

 アンは当然のように答えた。

 

「甚平と違って浴衣のレンタルって結構高いんだからね。しかも5人分だし」

「いや、そういう問題じゃないだろ……」

 

 金額を確認したジンの眉がぴくりと動く。想像していたよりも少し高い。

 

「アタシ達が着てる浴衣、結構いいやつなんだから。それくらいはするよ」

 

 胸を張るアン。一方のジンは、なぜ自分が請求されているのか理解できずにいた。

 

「いや、だから何で俺に請求するんだ?」

「だって――」

 

 アンは悪戯っぽい笑みを浮かべると、浴衣の袖をひらりと揺らした。

 

「目の保養になったでしょ?」

「……は?」

「リコもドットもモリーもオリオも、みーんな浴衣姿なんだよ? こんなの滅多に見られないんだから、むしろ安いくらいじゃない?」

 

 自信満々に言い切るアン。そのあまりにも堂々とした理屈に、ジンは呆気に取られた。

 

「じゃ、支払いよろしく~♪」

 

 アンは請求書をひらひらと指差しながら笑う。

 

「いや、払うなんて一言も――」

「今回は譲ってあげるからさ」

 

 ジンの言葉を遮り、アンはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「リコとお祭り、楽しんできなよ~♪」

「は?」

「そうだ!モリー!一緒にお祭り回ろうよ~!色々、聞きたい事もあるし♪」

 

 思わず聞き返すジン。しかしアンはそれ以上何も言わず、意味深な笑みを浮かべたままモリーの方へと駆けて行ってしまった。

 

「はぁ?なんで私?」

「だって、聞きたいのはね――」

 

 アンは少し背を伸ばし、モリーの耳元で囁いた。その瞬間、モリーは顔を真っ赤に染め上げると、慌ててアンの口を両手で塞ぐ。

 

「お、お願いだから、ここではやめて!」

「にひひ。じゃあ、歩きながら話そうか?」

「わ、分かりました……」

「お、おい!モリー!アン!」

 

 呼び止めても2人が振り返る様子はない。モリーに至っては、一秒でも早くここから離れようと小走りで去ってしまった。残されたジンは手元の請求書と去って行くアンの背中を見比べ、小さくため息を吐いた。

 

「まったく……」

 

 無茶苦茶な理屈だ。それなのに不思議と腹は立たない。結局のところ、アンなりに祭りを楽しんでいるだけなのだろう。ジンは苦笑を浮かべながら請求書を折り畳む。

 

「……仕方ないか」

 

 実際、リコ達の浴衣姿は新鮮だった。

 

 鮮やかな緑の浴衣を着たリコ。落ち着いた雰囲気のドット。大人びた印象のモリーとオリオ。そして、いつも以上に元気いっぱいなアン。普段から美人や可愛い子が多いメンバーだとは思っていたが、浴衣を着るだけでここまで印象が変わるとは思わなかった。

 

 目の保養になったと言われれば、否定しきれないのも事実である。

 

「えっと……ごめんね?」

 

 いつの間にか隣に来ていたリコが、申し訳なさそうに請求書を見ながら呟いた。

 

「……気にするな。このくらいなら安いもんだ」

「本当に?」

「ああ」

 

 ジンは苦笑しながら肩を竦める。

 

「確かに高かったけど、その分みんな似合ってたしな」

「っ!」

 

 不意打ちのような言葉だったのか、リコは少しだけ頬を赤くした。

 

「そ、そういうこと平気で言うよね、ジンって……」

「?」

 

 何故リコが照れているのか分からず、ジンは首を傾げる。

 

「おーい、二人とも!」

 

 そこへフリードが手を振りながら近付いて来た。

 

「折角のお祭りなんだ。情報収集ばかりじゃなくて、ちゃんと楽しもうぜ!」

「楽しむって言っても、ブライア先生を探さないといけないんじゃ……」

 

 リコがそう言うと、フリードは笑みを浮かべた。

 

「だからこそだよ。こんなに人が集まってるんだ。屋台を回ったり、お祭りを見て回ったりしながら聞き込みをした方が効率もいいだろ?」

「確かにな……」

 

 ジンも納得したように頷く。収穫祭には里の住民だけでなく、近隣から訪れた人々も大勢集まっている。ただ闇雲に探し回るより、祭りを楽しみながら情報を集めた方が良さそうだった。

 

「よーし! じゃあ祭りを楽しみながら情報収集だ!」

 

 フリードを先頭に、一行は賑やかな祭りの人混みの中へと歩き出した。

 

 

 

***

 

 

 

 祭りを楽しみながらの情報収集が始まると、一行は自然といくつかのグループへと分かれていった。

 

 ロイはドットを連れて屋台巡りへ。アンはモリー、オリオを引っ張りながら食べ歩きを始め、フリード達も聞き込みを兼ねて別行動を取っている。

 

 そして気が付けば――。

 

 ジンの隣にはリコがいた。

 

 二人は祭りの賑わう通りを並んで歩く。

 

 夜空には無数の提灯の灯りが浮かび、通りの両脇には色とりどりの屋台が並んでいた。祭り囃子と太鼓の音、人々の笑い声が混ざり合い、辺りは活気に満ちている。

 

 その中を歩くリコは、緑色の浴衣姿も相まってどこか普段より楽しそうだった。屋台を見つける度に目を輝かせては足を止め、興味津々に覗き込んでいる。

 

 もっとも、ジンも人のことは言えない。

 

 キタカミの里の祭りは初めてだ。珍しい屋台や見慣れない景色に自然と目が向いてしまう。とはいえ、今は観光が目的ではない。ブライアの情報を集めるという本来の目的も忘れてはいなかった。

 

 ジンは近くの屋台へ視線を向ける。

 

「どうする? 聞き込みをしながら回るか?」

 

 するとリコは少し考えた後、にこりと笑った。

 

「うん! せっかくだし、お祭りも楽しみながら探そう!」

「了解だ。では、何から攻めようか……」

 

 ジンは足を止め、周囲を見回した。

 

 屋台には焼きリンゴやたこ焼き、綿あめなど様々な食べ物が並んでいる。輪投げやヨーヨー釣りといった遊戯系の屋台もあり、どこも賑わっていた。

 

「あっ!」

 

 その時、リコが声を上げた。

 

「どうした?」

「あれ!」

 

 リコが指差した先にあったのは射的の屋台だった。景品として並べられた品々の中に、一つだけ見覚えのあるものがある。それは緑色の花を模した髪留めだった。花びらの形や色合いは、どう見てもニャオハをイメージしたデザインになっている。

 

「可愛い……」

 

 リコは思わず呟いた。普段はあまり物欲を表に出さない彼女だが、その視線は完全に髪留めへ釘付けになっている。

 

「欲しいのか?」

「えっ!?い、いや、その……」

 

 図星だったのか、リコは慌てて視線を逸らした。しかし、その反応だけで答えは十分だった。

 

「ふっ──なるほどな」

 

 そう言うと、ジンは射的の屋台へと歩み寄る。

 

「えっ?」

「任せろ。取ってやる……すいません。お願いします」

「あいよ!」

 

 店主から射的銃を受け取ったジンは、景品棚に並ぶニャオハの髪留めへ狙いを定めた。その姿を見たリコは思わず目を瞬かせる。

 

「ジンって射的やったことあるの?」

「いや?初めてだ」

「えっ?」

 

 しかし、銃を構えるジンの姿はどう見ても初心者には見えなかった。片目を閉じ、銃床を肩へしっかりと当てる。無駄な力みはなく、照準と景品を一直線に合わせている。その構えは妙に様になっていた。

 

「……ねぇ」

「ん?」

「それ、本当に初めて?」

「あぁ、射的はな。でも、本物の銃を撃った事はあるぞ」

「へ~……えっ?」

 

 リコの目が丸くなる。予想外の返答だったのだろう。思わずジンの顔を二度見した。

 

「ほ、本物って……あの本物?」

「あの本物だ」

 

 あっさりと頷くジン。射的屋の店主も二人の会話が耳に入ったのか、一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたが、何も言わずに成り行きを見守っていた。

 

「ジン、ジン!」

 

 リコが慌てた様子で袖を引っ張る。

 

「何だ?」

「何だじゃないよ! 本物の銃ってどういうこと!?」

「昔ちょっとな」

「絶対その説明で済む話じゃないよね!?」

 

 リコのツッコミに、ジンは少しだけ昔を思い出すように目を細めた。

 

「一人旅をしていた頃の話だ。当時、とあるポケモン保護区に世話になったことがあってな」

 

 ジンは射的銃を構えたまま続ける。

 

「そこの管理官に色々世話になったんだ。護身や警備の知識も教えてもらった。その中に射撃訓練もあったってだけだ」

「へぇ……」

 

 リコは感心したように頷く。

 

「筋が良いって褒められたよ」

「さらっと凄いこと言うね……」

 

 だが、話はそれだけでは終わらなかった。

 

「その後、保護区に密猟団が現れた」

「えっ?」

 

 それまで半信半疑だったリコの表情が一変する。ポケモン保護区と密猟団。まるで冒険小説のような単語が次々と飛び出し、話の規模が想像以上に大きくなっていた。射的屋の店主も思わず手を止め、二人の会話へ耳を傾けていた。

 

「ポケモンを狙った連中だった。俺達で追い返したんだけど、主犯格が仲間を見捨てて逃げようとしたんだ」

「それで?」

「その時は俺のポケモン達も別の相手の対応で手一杯だったからな」

 

 ジンは少しだけ昔を思い出すように視線を遠くへ向けた。その口調はどこまでも平然としている。だからこそ、これから語られる内容との温度差が恐ろしかった。

 

「近くに落ちていた密猟団の銃を拾って、逃げる主犯の足を撃った」

「…………え?」

 

 リコの思考が一瞬停止する。数秒遅れて意味を理解すると、口をぱくぱくと動かした。隣では店主も同じような顔をしている。

 

「管理官の人からは『足なら動きを止められるし、命に関わる可能性も低い』って教わってたからな」

 

 ジンはさらりと言った。まるで昨日の夕食の話でもしているかのような気軽さである。

 

「結果的に主犯はその場で転倒して、逃走を阻止できた。後から駆け付けた保安官達に引き渡して一件落着だ」

「一件落着じゃないよ!?」

 

 リコが思わず叫ぶ。周囲の何人かが驚いて振り返った。

 

「逃げる犯人の足を撃ったの!?」

 

 驚きのあまり声を上げたものの、リコはすぐに以前の出来事を思い出した。ポケモンを傷付けた密猟団と対峙した時のことだ。

 

 普段のジンは優しくて面倒見が良い。だが、仲間やポケモン達を傷付ける相手だけは別だった。圧倒的な実力で相手を叩き潰し、逃げ場を与えない。

 

 その姿は恐ろしいというより――頼もしかった。

 

 自分達を守るために本気で怒り、本気で戦ってくれる。だからこそ、皆が彼を信頼しているのだ。逃げる密猟団の主犯を撃ってでも止めたという話も、リコには不思議と納得できた。

 

「……うん」

「ん?」

「何だか、ジンらしいかも」

「そうか?」

 

 ジンが首を傾げる。

 

「うん。悪い人からポケモンを守ろうとしたんでしょ?」

「まぁな……」

 

 ジンは苦笑しながら頭を掻いた。

 

「でも、その後に駆け付けたジュンサーさんには怒られたし、オダマキ博士にも通信機越しに怒られた。ポケモンの治療に来たジョーイさんにも怒られてな」

「えっ」

「一生分の説教を受けた気がするよ」

 

 当時を思い出したのか、ジンは遠い目をした。主犯の確保には成功した。保護区のポケモン達も無事だった。だが、それとこれとは話が別だったらしい。駆け出しトレーナーが発砲したという事実に、大人達は大騒ぎになったのだ。

 

「まぁ、当然だよね……」

 

 リコは思わず苦笑する。

 

「ジュンサーさんには『あなたは保安官じゃありません!』って怒られたし、博士には『無茶をするな!』って怒鳴られた」

「うわぁ……」

「ジョーイさんなんて涙目だったぞ」

 

 流石にそこまで言われると少し申し訳なくなったのか、ジンは肩を竦めた。

 

「だから二度とやるなって散々言われた」

「で、反省したの?」

「したぞ」

 

 即答だった。だが、その返答を聞いたリコは何故か半目になる。

 

「今の間の無さ、全然信用できないんだけど」

「失礼だな。ちゃんと反省したさ」

 

 ジンは不服そうに言い返す。

 

 もっとも、その反省の内容はリコが想像しているものとは少し違っていた。ジン自身、主犯の足を撃ったことそのものを後悔している訳ではない。もし同じ状況になれば、おそらくまた同じ選択をするだろう。

 

 彼が反省したのは別の部分だ。

 

 そもそも主犯が逃げ出す前に捕らえることが出来なかったこと。自分やポケモン達の動きが甘く、結果として逃走を許してしまったこと。

 

 そして何より――。

 

「次はもっと上手くやる」

「何を?」

「撃たなきゃ解決できない状況にしたのが失敗だった」

「え?」

 

 リコが固まる。

 

「最初から逃げ道を潰しておけば発砲する必要もなかったし、あんな大騒ぎにもならなかったからな」

 

 ジンは至って真面目な顔でそう言った。

 

「いや、そこなの!?」

「後は証拠を残し過ぎた」

「証拠?」

「ああ。銃弾の痕も残ったし、目撃者も多かった。お陰で言い逃れが出来なかった」

「言い逃れする気だったの!?」

 

 リコが思わず叫ぶ。しかしジンは首を横に振った。

 

「違う。説教の時間が長くなるのが面倒だっただけだ」

「もっと駄目だよね、それ!」

 

 リコは頭を抱えた。どうやらジンは本当に反省しているらしい。ただし、その方向性が盛大にズレているだけだった。

 

「冗談だよ……まぁ、結果的には丸く収まったんだからいいだろ」

「良くないと思うんだけどなぁ……」

 

 呆れたようにため息を吐きながらも、リコの口元には笑みが浮かんでいた。

 

 その時だった。

 

「っと、話し過ぎたな」

 

 ジンはそう呟くと、改めて射的銃を構える。先程まで会話をしていたとは思えないほど自然な動きだった。景品棚の上に置かれたニャオハをイメージした髪留めへ照準を合わせる。

 

 そして――。

 

 パンッ。

 

 乾いた音が響く。直後、髪留めが小さく揺れ、そのまま棚の縁から転がり落ちた。

 

「あっ!」

 

 リコが思わず声を上げる。店主も目を丸くした。景品は見事に落下し、店主の足元へ転がっていく。

 

「お、おお!?」

 

 店主は感心したように目を見開き、景品を拾い上げてジンへ手渡した。

 

「よし」

「本当に取っちゃった……」

 

 ジンは満足そうに頷き、リコは呆然と景品を見つめる。店主から髪留めを受け取ったジンは、それをリコへ差し出した。

 

「ほら」

「え?」

「欲しかったんだろ?」

 

 ニャオハを模した緑色の髪留めが、提灯の灯りを受けてきらりと輝く。リコは数秒の間、目をぱちぱちと瞬かせていた。やがて大事そうに両手で受け取る。

 

「……いいの?」

「ああ。その為に撃ったんだからな」

 

 ジンは当たり前のように答えた。リコは髪留めとジンの顔を見比べる。

 

 そして――。

 

「ありがとう、ジン!」

 

 満面の笑みを浮かべた。

 

「あ~~っ!取られた~~~!」

 

 その時、不意に背後から少女の大きな声が響いた。思わずジンとリコが振り返るとそこには、緋色のインナーカラーが入った長い黒髪の少女が、悔しそうに景品棚を見つめて立っていた。少女の視線の先にあるのは、つい先程までニャオハをイメージした髪留めが置かれていた場所だ。

 

「それ私が狙ってたのに!」

 

 少女は悔しそうに唇を尖らせると、ジンとリコをじろりと見た。そして、二人の距離の近さや、リコが大事そうに髪留めを抱えている様子に気付く。

 

「ふーん……」

 

 値踏みするような視線が二人を往復した。

 

「余所者のくせに、ずいぶん仲良くお祭りを楽しんでるじゃない」

 

 どこか棘のある口調だった。リコは慌てて一歩下がる。

 

「ち、違うよ! これは――」

「言い訳はいらない!」

 

 少女はびしっとジンを指差した。

 

「その髪留め、私も欲しかったの!」

 

 そして、不敵な笑みを浮かべる。

 

「だから勝負!」

「勝負?」

「ポケモンバトルよ!」

 

 少女は腰のボールへ手を掛け、自信満々に胸を張った。

 

「私が勝ったら、その髪留めは返してもらう!」

 

 いきなりの挑戦状に、リコは困惑した表情でジンを見上げる。一方のジンは少女をじっと見つめ、小さく息を吐いた。

 

「……髪留め一つでそこまで熱くなるのか」

「なるわよ!」

 

 少女は即答する。

 

「それに、余所者がキタカミで好き勝手してるのも気に入らないし!」

 

 祭りの喧騒の中、周囲の人々も「何だ何だ?」と二人の方へ視線を向け始めていた。

 

(……面倒な事になったな)

 

 ジンは小さく息を吐き、少しだけ考え込んだ。髪留めを賭けてバトルというのは正直どうかと思う。だが、目の前の少女は地元の人間だ。もしかすると、探している人物のことを知っているかもしれない。

 

「一つ聞いていいか?」

「何よ?」

「ブライア先生って人を知ってるか?」

 

 その名前を聞いた瞬間、少女の表情が僅かに変わる。

 

「……知ってるわよ」

「本当!」

 

 リコが思わず声を上げる。ジンも小さく頷いた。

 

「なら条件を変えよう」

「条件?」

「俺が勝ったら、ブライア先生の居場所を教えてくれ」

 

 少女は一瞬だけ考えるような素振りを見せる。やがて、ニヤリと勝気な笑みを浮かべた。

 

「いいわ!その代わり、私が勝ったらその髪留めは返してもらう!」

「交渉成立だな」

 

 ジンも静かに笑みを返した。思わぬ形ではあるが、ようやくブライアへ繋がる手掛かりを掴めた。後は、この勝負に勝つだけである。

 

 話がまとまると、一行は祭りの喧騒から少し離れた広場へと移動した。周囲には十分な広さがあり、ポケモンバトルをするには申し分ない場所だ。祭りを楽しんでいた人々も「勝負が始まるらしい」と噂を聞きつけ、少しずつ集まって来る。

 

「時間も惜しい。使用ポケモンは1体でいいな?」

「望む所よ!」

 

 少女はジンの正面まで歩くと、不敵な笑みを浮かべた。

 

「そういえば、まだ名乗ってなかったわね。私はゼイユ!キタカミで一番のトレーナーになる女よ!」

 

 胸に手を当て、自信満々に言い放つと腰のモンスターボールを手に取る。

 

「余所者相手だからって手加減はしないから!行きなさい!ヤバソチャ!」

 

 ゼイユは勢いよくボールを宙へ放った。白い光が弾け、その中から茶碗に乗り、頭に茶筅を被った緑色のポケモンが姿を現す。

 

「ヤバッ!」

 

 茶碗を揺らしながらゼイユの前へと降り立ったヤバソチャは、ジンを見据えて戦闘態勢を取った。

 

(ヤバソチャか……実物を見るのは初めてだな)

 

 フリードの講義で資料を見たことはあるが、実際に目の前で見るのは初めてだった。キタカミの里に生息する、チャデスの進化形。パルデア地方ではまず見かけることのない、まさにこの土地ならではのポケモンである。未知の相手ではあるが、不思議と焦りはなかった。

 

(タイプは確か草・ゴーストだったな……それなら)

 

 ジンは素早く相性を頭の中で整理する。相手のタイプと現在の手持ちを照らし合わせ、一番相性の良いポケモンを選び出す。そして静かに腰のモンスターボールへ手を伸ばし、ゼイユへ向けて構えた。

 

「行け!ガオガエン!」

「ガォガァッ!」

 

 ボールから飛び出したガオガエンは、雄叫びと共に両腕を広げる。その鋭い眼光は真っ直ぐヤバソチャを捉え、戦闘態勢へと入った。

 

「炎・悪タイプ……!」

 

 ゼイユは一瞬目を見開く。ヤバソチャに対して有利なタイプを迷いなく繰り出したジンに、ゼイユは思わず不敵な笑みを浮かべる。

 

「へぇ……セオリー通りって訳ね」

「あぁ、勝負だからな。加減はなしで行かせてもらうぞ」

「望むところよ!」

 

 ゼイユは自信満々に笑い、ヤバソチャへ向かって手を振り下ろした。

 

「余所者の実力、見せてもらうわ!ヤバソチャ!『ねっとう』!」

「ヤバッ!」

 

 ヤバソチャは茶碗の中から熱湯を勢いよく噴き出し、ガオガエンへ向かって放つ。

 

「ガオガエン、避けろ!」

「ガォッ!」

 

 ガオガエンは軽やかに地面を蹴ると、迫り来る熱湯を紙一重でかわした。熱湯はそのまま後方の地面へ着弾し、白い湯気を立ち上らせる。

 

(水タイプの技。炎ポケモンへの対策って所か)

 

 ガオガエンを見た瞬間、タイプ相性で不利になることを理解し、炎技を警戒して『ねっとう』を選択した。先程までの様子から感情的に見えたが、バトルではしっかりと冷静な判断ができるらしい。

 

(直情的な性格に反して意外と冷静だな……)

 

 ジンは口元を僅かに緩める。

 

 問題は次の一手。むやみに距離を詰めれば、先程の『ねっとう』はもちろん、専用技である『シャカシャカほう』の格好の的になる。ゼイユもそれを理解しているのだろう。不用意に攻めて来るのを待ち構えるように、ヤバソチャを前に構えたまま動こうとはしなかった。

 

(遠距離は向こうの土俵か……なら)

 

「ガオガエン、一気に距離を詰めるぞ!」

「ガォッ!」

 

 ガオガエンが力強く地面を蹴り、ヤバソチャ目掛け勢いよく突き進む。

 

「来た! ヤバソチャ!『ねっとう』!」

「ヤバッ!」

 

 射程内にガオガエンが飛び込んできたのを確認したヤバソチャは茶碗から再び熱湯を勢いよく噴き出した。だが、それはジンも読んでいた。

 

「右だ!」

「ガォッ!」

 

 ガオガエンは熱湯を紙一重のタイミングで躱すと、その勢いのまま大きく回り込む。

 

「嘘!?はやっ!」

 

 炎タイプらしい直線的な突撃ではない。その見た目とは裏腹に無駄なく駆け回り、ヤバソチャの側面へ回り込もうとするガオガエンの姿にゼイユは目を見開いた。

 

「まずい!?『シャカシャカほう』!」

「ヤバッ!」

 

 ヤバソチャは茶碗の中で高速回転を始める。次の瞬間、茶碗から勢いよく茶が噴き出し、360度あらゆる方向へと降り注いだ。

 

「させるな! 『DDラリアット』!」

「ガオォッ!」

 

 ガオガエンも両腕を広げ、その場で豪快に回転を始める。飛び散る茶が何発も体を掠め、肩や腕へ次々と命中する。

 

「ガォッ……!」

 

 決してダメージがないわけではない。それでもガオガエンは怯まなかった。回転の勢いをそのまま乗せ、一気にヤバソチャとの間合いを詰める。

 

「なっ!?」

 

 ゼイユが息を呑む。『シャカシャカほう』で足止めするつもりだった。だが、ガオガエンは多少のダメージなど意に介さず、そのまま突破してきたのだ。

 

「ガオォォッ!」

 

 『DDラリアット』の回転により高められた渾身の拳がヤバソチャの胴体へと炸裂する。

 

「ヤバッ!?」

 

 強烈な衝撃と共にヤバソチャの体が宙へ弾き飛ばされ、そのまま数メートル先の地面へ激しく叩きつけられた。土煙が舞い上がり、祭りの見物人達から思わずどよめきが上がる。

 

「決まった!」

「いや、あの一撃は耐えられないだろ!」

「勝負あったな!」

「ははっ! 賭けは俺の勝ちだ!」

「まだ分かんねぇよ!ゼイユならここから巻き返すかもしれないだろ!」

 

 見物人達が口々に勝敗を予想する中、土煙の向こうから小さくポケモンの影が立ち上がった。

 

「ヤバッ……!」

 

 地面へ叩きつけられたヤバソチャは苦しそうに体を震わせる。しかし次の瞬間、『シャカシャカほう』の効果が発動した。体へ纏っていた茶が淡い光を放ち、受けた傷をゆっくりと癒やしていく。

 

「ヤバ……!」

 

 何とか立ち上がったヤバソチャを見て、ゼイユは安堵の息を吐いた。

 

「よし! まだやれる!」

 

 『シャカシャカほう』で体力は僅かながら回復している。このまま反撃に転じれば、まだ勝機はある。そう確信した――その瞬間だった。

 

「えっ!?」

 

 気付けばガオガエンは、ヤバソチャの目の前まで踏み込んでいた。

 

「な、いつの間に!?」

「『シャカシャカほう』の効果でダメージ回復だろ?残念ながら知ってるよ」

 

 ガオガエンは『DDラリアット』で吹き飛ばした直後から、一切足を止めていなかったのだ。ジンはヤバソチャが立ち上がることまで読んでいた。回復して反撃に移る暇すら与えず、一気に勝負を決めに来たのである。

 

「ヤバソチャ! 『ねっ――』」

「手遅れだ。ガオガエン、『じごくづき』」

「ガォォッ!!」

 

 必死に技を繰り出そうとするヤバソチャにガオガエンの鋭い拳が一直線に突き出される。

 

「ヤバッ!?」

 

 反応する間もなく『じごくづき』がヤバソチャへ直撃した。鈍い衝撃音が響き、ヤバソチャはそのまま後方へ吹き飛ばされる。数度地面を転がった後、その体はぴくりとも動かなくなった。

 

「ヤバソチャ!?」

「ヤバソチャ戦闘不能!ジンの勝ち!」

 

 審判のリコの宣言と共に勝負は決した。広場は一瞬静まり返り、次の瞬間、大きな歓声と拍手が祭りの夜空へ響き渡った。

 

「くぅぅぅ……ヤバソチャ、ゆっくり休んで」

 

 ゼイユは静かにモンスターボールを構え、ヤバソチャを光の中へ戻した。ボールを腰へ戻すと、小さくため息を吐く。

 

「負けちゃったかぁ……」

 

 悔しそうに唇を尖らせるものの、約束を反故にするつもりはないようだった。ジンはガオガエンをボールへ戻すと、ゼイユの前まで歩み寄る。

 

「約束だ。ブライア先生の居場所を教えてくれ」

「……ちゃんと覚えてるわよ」

 

 ゼイユは少しだけむくれた表情を浮かべながらも頷いた。

 

「お祭りが終わったら、公民館に来なさい!そこで教えてあげるわ!」

「今じゃ駄目なのか?」

「駄目!」

 

 即答だった。

 

「まだお祭りの途中なんだから!」

 

 そう言い残すと、ゼイユはくるりと踵を返し、人混みの中へと駆けて行ってしまう。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 リコが呼び止めようとするが、ゼイユは振り返ることなく片手をひらひらと振るだけだった。その姿はあっという間に祭りの人混みへと消えていく。

 

「……行っちゃったね」

 

 リコは苦笑しながらジンを見上げた。

 

「どうする?」

「仕方ない」

 

 ジンは肩を竦める。

 

「約束はしてくれたんだ。祭りが終わるまで待つとしよう」

「だね」

 

 リコも小さく頷く。幸い、ブライアの居場所は掴めた。後は祭りを楽しみながら時間を潰せばいい。そう考えた二人は、再び賑やかな祭りの通りへと歩き出した。

 

 

 

***

 

 

 

 その後、ジン達は聞き込みを続けながら、キタカミの里の収穫祭を存分に楽しんだ。

 

 屋台を巡って食べ歩きをしたり、祭りならではの遊びに興じたりと、それぞれ思い思いの時間を過ごす。気が付けば祭りは終わりを迎え、人々も少しずつ家路へと着き始めていた。

 

 約束の時間になると、別行動をしていたフリード達も公民館前へ戻ってくる。

 

 こうしてライジングボルテッカーズの一行は再び合流し、ゼイユとの約束を果たすため、公民館の前で彼女を待つのだった。

 

「全員、祭りは堪能したみたいだな」

「うん!色々あったけどすっごく楽しかったよ!」

 

 リコだけでなく、ロイ達も満足そうな表情を浮かべていた。

 

 両手いっぱいに屋台で買った品を抱えている者もいれば、祭りの思い出話に花を咲かせている者もいる。聞き込みという本来の目的はありつつも、キタカミの里ならではの収穫祭を思い思いに満喫できたようだった。

 

 そんな仲間達の様子を見て、ジンも自然と口元を緩める。

 

 しばらく公民館の前で待っていると、祭りの会場の方から軽快な足音が近付いてきた。

 

「いたわね!」

 

 聞き覚えのある声に全員が振り向く。そこには、小走りでこちらへ向かって来るゼイユの姿があった。

 

「約束通り、ブライア先生の居場所を教えてあげるわ!感謝しなさい!」

 

 勝負には負けたというのに、その態度だけは一切変わっていない。どこまでも自信満々なゼイユらしい一言に、ジン達は思わず苦笑した。

 

「ブライア先生は私の担任で今はテラス池にいるわ!」

「テラス池?」

 

 聞き慣れない地名に、ジン達は一瞬顔を見合わせる。もっとも、場所さえ分かれば後は向かうだけだ。キタカミの里の地図で確認するなり、近くの人に道を尋ねるなりすればいい。ようやくブライアの居場所を掴めたことに、ジンは小さく安堵の息をついた。

 

「そうか。情報感謝する」

「ふふん♪でも……ざ~~~んねん!」

 

 ゼイユは心底楽しそうな笑みを浮かべる。何か面白いことを思い付いた子供のように口元を緩め、わざとらしく人差し指を左右へ振った。

 

「テラス池に行くには許可がいるの!勿論、余所者には簡単に許可が出ない管理人さんからの──」

「許可するぞ」

「……へ?」

 

 ゼイユの言葉を遮るように、落ち着いた男性の声が響く。公民館の扉が開き、初老の男性が中から現れ、腕を組みながら穏やかな笑みを浮かべ、ジン達の方へゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「よろしいですか?」

「うむ。うちの娘が世話になったようだからなぁ」

「娘?」

 

 フリードが聞き返すと、管理人の背後からロイと同じくらいの年頃の少女が姿を現した。ピンク色の甚平を身に纏い、頬には小さなそばかすが浮かんでいる。少女は少し頬を赤らめながら、真っ直ぐロイを見つめた。

 

「あっ! 君は……」

「えへへ。さっきはありがとう……」

 

 どうやら祭りでロイと何かあったらしい。ジンには事情までは分からなかったが、少女の照れた様子とロイの反応を見れば、助けられたか世話になったかのどちらかだろうと察する。その様子を見た管理人は、どこか嬉しそうに目を細めていた。

 

(おやおや……)

 

 彼女のロイに向ける視線は、少々、熱を帯びている。どうやら、知らない所で2人の間で何かが起こっていた様だ。

 

「シズネ~~~~~~!」

 

 ゼイユの悲鳴にも似た叫び声が、公民館前に響き渡る。先程までの余裕はどこへやら。思わぬ人物の登場で目論見が崩れたのか、ゼイユは頭を抱えながら天を仰いだ。

 

「えっと、よく分からないんですが、行っていいんですね?」

「うむ。許可する。本来なら部外者の立ち入りは認めておらん。しかし、お前さん達は娘の恩人だ。今回に限り、特別にテラス池への立ち入りを許可する」

「ありがとうございます!」

 

 その隣では、ゼイユが悔しそうに唇を噛み締めていた。

 

「むぅぅぅ~~っ! 悔しい~~っ!!」

 

 その場で何度も足を踏み鳴らし、両拳をぶんぶん振り回す。

 

「あと一歩だったのにぃ~!」

 

 両拳をぎゅっと握り締め、その場で悔しそうに身をよじる。あと一歩で余所者を困らせられると思っていただけに、この展開はよほど納得がいかないらしい。そんなゼイユの分かりやすすぎる反応に、その場の空気は思わず和み、ジンは苦笑を浮かべるのだった。

 

(……面白い女だな)

 

 初対面でここまで感情を隠さずぶつけてくる相手は珍しい。勝気で意地っ張り、それでいて約束はきちんと守る。からかえば、きっと期待以上の反応を返してくれる――そんな予感がした。

 

 リコ達の手前、今は余計な事はしない。

 

 だが、もし二人きりだったなら、もう少し意地悪を言って反応を見ていたかもしれない。

 

「それじゃあ、改めて行くぞ! 目的地はテラス池だ!」

 

 フリードの号令に、一同は力強く頷く。夜も更けてきたこともあり、その日はスイリョクタウンで一夜を明かし、翌朝テラス池へ向かう事にした。

 

 こうしてライジングボルテッカーズは、新たな手掛かりを求め、ブライアの待つテラス池へ向けて英気を養うのだった。

 





メッセージを送って下さった方々にお知らせです。

今朝から急にパソコンで字が打てなくなりました。感想はなんとかスマホで返事を書けたのですが、長文のメッセージの時間的に無理だったのでパソコンの調子がよくなったら、返事を書きます。少々、お待ちください。

☆10
ラーイさん

高評価ありがとうございます

作品の要望などあれば気軽にメッセージを送ってください

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