「『森の子』は人と共にあることをえらんだか」
ここはジョウト地方エンジュシティにある最も高い場所、スズの塔の天守閣。
只人は立ち入ることすら赦されないそこに、今は二つの人影があった。
「如何なさいますか、
そう問いかけたのは妙齢の芸者。
豊かな黒髪を簪で纏め、色彩豊かな着物で身を飾った妖艶な美女である。
多くの舞妓たちの師でもある彼女は、この場に顔を出すことを許された数少ない者のうちの一人。
くわえて、
その顔に浮かぶのは、敬意、親愛、憧憬……
――そして、
熟達した風格を持つ彼女が、緊張を隠しきれない様子で目の前の存在に問うた。
「見極めなければなるまい。『森の子』を託すに値する者かどうかを」
答えるのは、浮世離れした絶世の美女。
身に着けている燃えるような真紅の着物は、見る角度によっては袖口が虹色に光り輝いて見える。
絹糸のような黄金色の髪が背を流れ、恐ろしいまでに整った顔立ちは、燃えるような真っ赤な瞳と合わせて彼女の苛烈な意志を感じさせる。
着物の上からでも分かるほど、胸元と臀部を豊満に押し上げた『おひいさま』と呼ばれた彼女。
その鋭き瞳が見据えるのは、ここより
南に所する
「彼の者を客人として招くがよい。
「貴方様の仰せのままに」
恭しく礼をすると、芸者はそこから立ち去った。
この場に人が居なくなったところで、真紅の貴人が呟く。
「さて、愉しみよのう。
くつくつと笑い声を上げると、エンジュの広い町並みを見渡せる大きな展望台の上に立つ。
「どれ、気分も良いし空の散歩でもするとしよう」
そう言った彼女の人影が膨らんでいき、みるみるうちに人を逸脱した姿へと変化していく。
やがて、バサリ、バサリと、大きな羽ばたき音を立てて人ではない何かが飛び立つと、主を失った天守閣は静寂に包まれる。
ひらりひらりと舞い落ちる『にじいろのはね』をその場に残して。
─────
永き時を生きる
虹色の翼を携えた派手な見た目の
自分たちを純粋に慕うポケモンの子たち。
そして、ソレの持つ力を崇め、敬い、ソレの庇護下で生きることを選んだ人間たち。
彼らは友愛と敬意を込めて、友には『スズの塔』、ソレには『カネの塔』なる立派な建築物を贈ってくれた。
しかし、平和な時代は長くは続かなかった。
次第に人間たちはソレの持つ力を恐れ、妬み、利用するために、ポケモンの子らを使って争いを始めた。
人間同士の醜い戦争は、友とソレの力が及ぶ余地が無かった。
奇襲、裏切り、騙し合い………何度も何度も局所的に小競り合いが起きて、ポケモンも人間も数多の命を落とした。
最後には信じていた人間たちの手によって『カネの塔』が焼かれ、ソレの心に残ったのは、深い後悔と哀しみ、同じ過ちを繰り返さないための決意だ。
友に言った。
『我らは人間と共に合ってはならない。互いの領分を弁えて、必要以上に関わらないべきだ。さもなくばこの悲劇は再び起こるだろう』
友は言った。
『ならば妾自ずから人の頂きに立ち、人の民どもを導いてやろうぞ。ポケモンと人間が共に暮らす世界を妾が創り上げてくれよう!カカカッ!』
『……ちょっと何言ってるかわからない』
──こうして、友と袂を分かったのである。
結局、
それ以来、一度も友と顔を合わせてはいない。
もう何度もみた夢。
………だから、今日みた夢は初めてのものだった。
軽快な音楽に合わせて、クルリ、クルリと愉快げに踊る人の姿をした桃髪の少女。
どこか懐かしくも小気味よい音楽を、横笛で見事に演奏する緑髪の少女。
透き通るような歌声を披露し、幸せそうに笑う金髪の少女。
人の遊び事をこんなにも間近で、人と同じ目線で観ることなど過去の記憶にも存在しなかった。
横を見れば、友の面影が色濃く残る真紅の人の女が、歪んだ口元を虹の扇で隠しながら笑い声を漏らしている。
──そして、黒髪の人の男。
優しげな目で少女たちを見守る彼と目が合うと、凍てついたはずのソレの心は熱を帯びたように温かくなり………
(………違う!!これは夢だ!!これは望んではいけない!望むことは許されない!)
──不意に、目覚める。
目が覚めれば、そこはいつもの場所。
激しい海流と渦潮に阻まれた、人間の寄り付かない小さな島の何も無い部屋。
ソレの持つ強大な力に怯えてか、野生のポケモンですら決して寄り付かない。
今みた夢は、幻想か、それとも『
自分の心に、望みに、気が付かないフリをして、今みた夢を忘却するために深い青色に染まる海へ飛び込む。
深く、暗く、冷たい海へと沈む、沈む、沈む──
誰の目も声も届かない、深海へと──
やがて揺れが収まった水面に、ゆらゆらと揺蕩う『ぎんいろのはね』をその場に残して。
しばらく充電期間 zzz……
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