現代に転生したけど前世で有名な曲が一つもなかったので布教します   作:ulo-uno

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裏:近藤 剛

私から見てその青年は分からなかった。

 

サマーソニアの企画担当者である私の仕事は企画を成功させること。

これは当たり前のことだ。

日本最大級の音楽の祭典サマーソニア。

 

開催当初からその企画担当として就いていた私はそれなりに多くの歌手をこの目で見てきた。

私は勘と言うものと呼べばいいのだろうか?それがかなり良い。

俗にいう鼻が利くというやつだ。

才能がある者そうでないものを見分けることができる。

 

これに関しては長年の経験と勘である程度はっきりわかるようになっている。

それに億単位で金が動く企画だって成功させてきた身だ。

その程度のことはできなくてはならなかった。

 

そんな私から見てその青年は才(・)能(・)が(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

最近にの周りの話題としてチラホラあげられるようになったある動画投稿者の話。

何でもその歌唱力はあのマリア・ディーゼルすら魅了したという。

私のような音楽業界に身を置くものからすれば気になってしまうのはしょうがない事だろう。

そう言う性だ。

 

それで動画を見たわけだ。

 

感想としては確かに歌手としての最低限の芯は持っている。

歌うこと自体も楽しんでいる。

だがこの青年の本質はそんなことではなかった。

 

才能がなかったのだ。

 

なのにも関わらずこの青年はあのマリア・ディーゼルに認められたのだ。

才能がない、しかしその洗練された技術で。

 

歌うと言う事は簡単そうで奥が深い。

力の入れ方、声の出し方、喉の負担の軽減、息継ぎの瞬間……。

上げればきりがないほどにそう言った難点は存在する。

これができない奴はプロにはなれない。

そう私は思っている。

 

難しいことだ。

しかし、簡単なことだ。

才能がある者は皆揃ってこれを乗り越える。

中にはそれが何の障害にもなってない者もごく稀にいるほどだ。

 

私の勘が正しいなら彼にそれは乗り越える事なんてできないはずだ。

しかし現実として彼は今この画面の中で歌っている。

それも明らかにそこらの才能ある若者と比べることができない技術で。

 

私の勘がささやく。

アレは歪だと。

 

私には……分からなかった。

 

暫くたったある日のことだ。

休憩中のスタッフが彼の動画を見ていることに気が付いた。

今迄とは違い投稿と言う形式ではなく配信と言った内容だった。

 

何気なくだ。

何気なく私は彼の配信を見ようと思った。

もしかすればあの時の違和感の正体がわかるかもしれない。

ある一種の希望的観測の下だったのかもしれない。

何せこの様なことは初めてだったのだから。

 

画面の向こうでは丁度彼が歌うところだった。

歌のリクエストを募集していたから何にしようか迷ったがそれよりも先にディーゼル君に取られてしまった。

まぁ、いいだろう彼の歌が聞けることには変わりないのだから。

それにしてもディーゼル君も無茶を言う。

日本人にいきなりEnglish.verを歌えとは。

正直に言ってできるとは思えなかった。

実際に彼が歌うまでは。

 

彼の歌に耳を傾ける。

別に適当に歌っている訳ではない。

ちゃんと訳されたものだ。

 

打ち合わせの可能性も考えた。

事前にそうなることを予定して歌うのだ。

しかしそれは限りなく不可能だ。

 

私の知っているマリア・ディーゼルはそんな八百長じみたことはしないだろう。

むしろ嬉々としてその魂胆を打ち砕いている筈だ。

だとすれば今回の曲のリクエストは本当に何が来ても良かったと言う事だろう。

そしてそれに応対するだけの余裕がある。

更には元の曲調が難しいと判断するとまるで元からそうであったかのように違和感なくラップを挟み編集してきた。

 

……異常だ。

 

私の勘がそうささやく。

分からない。

私には彼が分からない。

 

私の勘がささやく。

アレは才能ではないと。

アレは技術であると。

それは何十年も長きにわたり培われてきた技術であると。

一体彼は……。

 

確かめてみたい。

ふとそう思った。

あまり褒められた話ではないが方法はある。

もし彼が本物に成り得るのならばそれは障害にはならない。

しかし、もしそうでないのなら彼はそこまでの存在なのだろう。

 

私は甘い毒を持ちかけることにした。

サマーソニア出場その挑戦権をちらつかせてみたのだ。

君ならいけるだろう?と。

 

少々予想に反し渋っていたが最終的には参加すると決めたので良かったというものだ。

しかし、ディーゼル君まで参加したいと言い出してくるとは思わなかったが。

まぁ、いいだろうこの程度誤差で済ませられる。

 

それにひどい言い方だが彼女のおかげで参加できたとしてもサマーソニア出場は最終的には私の一存でできるものではない。

彼が出ないことによってマリア・ディーゼルの不参加になる可能性もあるが元々計算には入れてない。

さほどの影響も残さないだろう。

 

だがそう言った思惑は完全に打ち破られることとなる。

昔の旧友からの伝手だ。

今まで誰も会う事ができなかった件の青年に会う事が出来た。

まぁ、玄関先で迎えたのに思いっきり逃げられたのはショックだが。

 

そんなこんながあって迎えた彼の収録。

私が紹介しただけあってそこそこな設備がそのスタジオにはあった。

昔から思うがどうやらこの友人は何をしでかすか分からない。

昔も今も。

そのおかげでこの様なところに来れたわけだが。

 

そして始まる収録。

直接彼の歌声を聞くのは初めてだがやはりその感覚は分からない。

もしかしてこの年になって自分の勘がいかれ始めたのかもしれない。

 

だがそれは思い違いだった。

ディーゼル君が歌い終わった後の事だ。

彼がおもむろに歌いだした。

 

今にして思うと私の勘は最初から正しかったのだと思う。

その時の彼の歌声は間違いなく本(・)物(・)であった。

 

そして彼にはやはり才能がなかった。

 

どうしてなのかは分からない。

だが彼は何十年も音楽に生きてきたのだろう。

この明らかに高校生に入りたての青年が。

 

だが確かにそこに居るのは何十年もの間ただひたすらに一つの事に研鑽を続けた一人の歌い手だった。

 

彼は本物だ。

そして彼は歪で異常だ。

 

そして今回実際に直接会って一つ分かったことがある。

分からない事だけが分かった。

そう捉えるしかない。

 

私は彼に一つ提案をした。

私が彼のパトロンとなろう。

私が君を、この若き青年を飛び立たせよう。

 

私は気になってしまったのだ。

若き才能であふれかえるこの音楽の世界に彼の技術で何処まで行けるのか。

 

全くこれでは私も人の事は言えないではないか。

如何やら私もこの年になって何をしでかすか分からないものだ。

これはきっと私の人生最後の挑戦になるかもしれない。

それもいいだろう。

倒れた時は私も道連れだ。

面白い。

この年になってもまだ挑戦できることが。

 

きっとこれから忙しくなる。

何せ世界はこれから知ることになるのだから。

常識を覆す新たなる挑戦者の存在を。

 

あぁ、本当に……分からないものだ。




この先雑談(すっ飛ばしてもらっても構いません)
この頃の更新頻度が低下しているなか読んでくれている読者が居ることに感謝しかありません。
また心温まる感想を送ってくださる皆さま、また誤字報告をしてくれる皆さまにもここでお礼申し上げます。

所でグラセフ6のリーク情報が出たのっていつ?
と言うか来年発売?

……買わねば……。

※報告※
ひとつ前の話でこの時期に学ランは暑すぎないかとの報告を受け制服に修正しました。
確かにこの時期に学ランは暑すぎる……。
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