時系列はTV1期最終回の東京大会後くらいだと思います。
本家SSでまだ綴られてない部分の時間軸なので、解釈違い等もあると思いますが、よろしくお願いします。
https://syosetu.org/novel/264358/
肌を突き刺すような風が吹いている。
人通りが多い場所から離れた道を歩いていると、すれ違う人はこの時間だとそこまで多くない。
高校生が1人で外に出るのを躊躇うような時間に、何故彼は外にいるのか。
平たく言ってしまえばおつかいだ。
夕食を終えたあと、彼の母親がお茶のストックがないことに気づいて買いに行こうとしたが、洗い物があるだろうから自分が行くと言い出し、そのまま近所のスーパーまで買いに行ったというわけだ。
その足で今は夜風に当たりながら散歩……と思ったのだが、思いのほか寒かったので早く帰ろうと思っていたところだ。
「はぁ……」
ふいにため息が出た。
2リットルのお茶2本が重かったとか、そんな単純な理由ではない。
彼は今、ある種の虚脱感に覆われている。
目標に向けて今自分に出来ることを精一杯やっても報われないことはあるというのは分かってはいるが、まだチャンスはあるとしても今はやるべき事に対しての意欲が湧いてこない。
自分以外の仲間は次の目標に向けて頑張ろうとしているのに。
頭の中を霧が覆っているような彼の足はとある公園を通り過ぎようとしていた。
時間が時間じゃなければ、ここで小休止しようと思っていたが、思わず足を止めてしまった。
電灯に照らされていたベンチに腰掛けている人物。
それが恐らく自分がよく知っている大切な人に見えたからだ。
こんな時間に女の子が人気のない公園にいるなんて、何かあったのか。
そう思えた彼はベンチへと歩き出した。
俯いていた彼女も、近寄ってくる足音を聞いてこちらに気づいたのだろう。
そして先に口を開いたのは彼女だった。
「…………音羽……くん?」
「やっぱり、恋ちゃんだったんだね」
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数時間前まで学校で一緒だったので、会うのはそれ以来……ではあるのだが、こんな所で会うとは。
こんな夜遅くの時間に。
高校生が補導されるような時間ではないだけまだマシだが。
お互い、ここでこの時間に会うなんて奇遇だねと交わしたあと、音羽は切り出した。
「それで……恋ちゃんはどうしてここに?」
「そうですね……少し、夜風に当たりたくて」
「さっきまで風結構強かったのに……大丈夫だったの?寒くない?」
「はい、ちゃんと厚着をしてきたので、大丈夫です。そういう音羽くんは?」
「あぁ…ちょっとしたおつかいをね」
「そうだったんですね、早く帰らなくて大丈夫なんですか?」
「こんな所にいる恋ちゃんを、一人になんて出来ないよ」
もしかしたら余計なおせっかいかもしれない。
それでも彼は、隣に座っている彼女がここにいる理由を知りたかった。
夜風に当たりたかったというのならベランダでも大丈夫なはず。
それなのにわざわざ公園に来てるということは何かあると思ったからだ。
そのうえ、自分が歩み寄る前まで彼女は俯いていたのだから。
「あの……さ、もしかして、何か悩んでることがあったりするのかな?無いならないで、いいんだけど…」
胸中にあることをそのまま口に出すと、少しの沈黙の後に恋が口を開く。
「そう、ですね……考えていても仕方がないことなのですが、こうして夜空に包まれながら気分転換をしようとしたのですが、そう上手くはいきませんでした…」
「そっか……僕でよかったら、話してもらうことは出来ないかな?僕の力じゃ解決出来ないかもしれないけど、話すことで少しでも楽になるかもしれないから…」
幾度となく、恋は音羽の優しさに救われてきた。
互いの心が離れてしまった時間は長かったけれど、その時間を埋めるほどに今は傍にいてくれる。
そんな彼に、今考え込んでいることを投げかけてもいいのだろうか。
きっと音羽なら、一緒に背負ってくれるとは思うが、こればかりは解決出来ることではない。
「あ、ごめんね、話しづらいことだったら……大丈夫なんだけど」
かといって、大丈夫だと虚勢を張るのも余計に心配をかけてしまうかもしれない。
恋はゆっくりと口を開き、心の中に溜まっている泥を吐き出すように話し始めた。
少し長くなる、と前置きをしてから。
「大会の時、あれほど学校の皆さんに協力してもらったのに、あのような結果になってしまった……もしかしたら、私のせい、で……と考えてしまって」
「そんなっ、みんな精一杯頑張って、最高のパフォーマンスを出来たと思うけど」
音羽の言葉を遮るように、恋はつい、強い口調で言ってしまう。
「違うんです……!そういうことではなく……かつての私は……普通科の皆さんを蔑ろにして、自分の横暴を貫き通そうとしていました……だから、もしかしたらまだ、私のことを快く思っていない方も、学校の中にいるかもしれません……」
東京大会の本番では、学校の皆が協力してくれてこれまでのステージとは違ったパフォーマンスを出来たつもりでいた。
表面上では学校の皆が自分たちスクールアイドル部に協力してくれた、頑張れと応援してくれた、と好意的な感情を抱いていると受け取ってはいるが、自分たちが見ている所以外ではそうは思っていない人もいるのではないかと。
彼女はそう言いたいのかと、音羽は思った。
「あの時の私はまわりが見えていなかった……とはいえ、反感を買うような態度を取っていました……それをしていなかったら、今回のステージで協力してくださった方も……」
恋は言い終わる前に口ごもってしまった。
協力してくれる人が多かったから東京大会での成績が変わるかと言われたら微妙なところだ。
そうそう甘いものでは無い。
「たしかに、あの頃は普通科と音楽科の溝は深かったし、その溝が埋まったかって聞かれると、ね……」
生徒一人一人にインタビューしたわけでもないし、これからわざわざするかと言われたらそれこそ余計なおせっかいにはなるが、今でも恋がしてきたことにいいイメージを持ってない生徒がいてもおかしくはない。
なんと声をかければいいのか。
恋ちゃんはこういう考えを持っていたんだから理解してあげてといちいち言いに行くというわけにもいかない。
一度マイナスイメージを持たれた存在のイメージを変えることは容易いことではない。
「はい……そう考えてしまって、どうにもならなくて……気がついたら、ここに……」
「そっか……」
隣にいて、息遣いも感じられるのに。
何故か遠く感じてしまう。
また、あの時と同じように離れてしまうのではないか。
そんな不安が音羽の脳内を過ぎる。
でも、もう二度とあのような顔を見たくないし、させたくない。
彼女を支えるために『なんだってする』。
そう約束したのだから。
意を決して、音羽は口を開いた。
「……僕もね、あんな結果になってしまったのは、僕にもっとやれることがあったんじゃないかなって、後悔してたんだ。というか、今もしてる……それに恋ちゃんの言うことも、ないとは言いきれないと思う……」
ちゃんと顔を見て、向き合って、音羽は続ける。
「でも、してしまったことを、過去に遡って変えることは出来ないよね……だから、あの頃傷つけてしまった、嫌な思いをさせてしまった人達に、頑張れって僕達が言って貰えるように、誠実に頑張るしかないんじゃないって、僕は思うんだ」
月並みな言葉だが、今思っている本心を口に出すことが出来た。
それが出来るかはわからないが、過去は変えられなくても未来なら変えることは出来る。
それは自分たち次第だ。
「そう、ですね……」
俯いている恋とは対照的に、音羽は星空を見上げている。
自分たちの心とは違い、今夜はとても綺麗な星が幾つも輝いている。
あれは……
「ねえ恋ちゃん、あれ……なんだか分かる?」
音羽が指さした方向に恋の目がいく。
「冬の……大三角ですか?」
「うん、そう。あの右上の星なんだけど……」
「ベテルギウスですよね?」
「流石だね、恋ちゃんっ」
「ベテルギウスが、どうかしたのですか?」
腕を降ろして、音羽が続ける。
「昔聞いた話だから、今の学説ではどうなってるか分からないんだけど……ベテルギウスってたしか地球から600光年くらい離れてたと思うんだけど、もしかしたら今はもうないって言われてて、今僕達が見てるベテルギウスの光は、その600年前の光を見ているのかもしれないって……ね。そんなに天体のことは詳しくないし、なんで知ってるかは自分でも覚えてないんだけど、そんな話を聞いたことがあるんだ」
音羽が何を言いたいのかがあまり掴めていない恋はぽかんとしている。
「だから、さ……600年前に光っていたものが今僕達に届いているように、昔していたことって、何年経っても残り続けるんだよね、良くも悪くも……」
その言葉はお互いにとっても重いものだ。
離れてしまった時間が長く、お互いがお互いを思っていたのにすれ違っていた。
その苦しみも悲しみも痛みも、決して忘れることは出来ないだろう。
「これまでしてきたことが今も残るんだったら、これからしていくことも残り続けるんだし、また同じこと言うようで申し訳ないけど……」
「……いつになく、ロマンチックなことを言うんですね」
そう言われて、たしかに柄にもないことを言ってしまったと音羽は少し恥ずかしくなる。
「変……だよね」
「はい、変です……でも、言いたいことは、伝わりましたよ……これからの私たちの輝きで、これまでの輝きを覆い尽くせるように、頑張るしかない……と」
2人が見上げている星空は、様々な光が混ざり合い、まるで星達がお互いを輝かせているオーケストラのようだ。
音羽としては、恋にちゃんとした言葉をかけられたか不安な気持ちが生まれている。
その気持ちは思いもよらない形で当てられてしまった。
「でも、音羽くんも……その、私が悪いのですが、強がらなくてもいいんですよ?」
「えっ?」
「わかりますよ、音羽くんのことなら……私が不安になっているから、自分の不安や気持ちを押し込めて、慰めようとしてくれてる……って」
自分が感じていた虚脱感や、自分がもっとやれたんじゃないかという気持ちを抑えていなかったと言われたら嘘にはなる。
自分の気持ちよりも、大切な存在のことの方を優先してしまう。
音羽にはそういった危うさもある。
「私が不安に感じた時に、音羽くんが慰めてくれのであれば……音羽くんが不安になった時に、私は……横に、傍にいますよ」
「恋ちゃん……」
恋だけではない。
今の音羽には、かのんも、可可も、千砂都も、すみれも、美麗も、かけがえのない存在がいてくれている。
それぞれの輝きが繋がりあって、また新たな光を放つ。
辛い時だって、嬉しい時だって。
お互いの親の世代から紡がれてきた縁が結ばれて、過去と未来が繋がっているのだから。
「なんだか……僕の方が慰められちゃったね」
「こういう時はお互い様ですよ、私の方こそ……ありがとうございます」
「うん、僕も……ありがとう、恋ちゃん」
明かりに照らされた彼女は、眩しく見えた。
「そろそろ家に帰らないと……」
「うんっ、結構話し込んじゃったから……そうだ、家まで送ってくよ」
「もう、子どもじゃないんですよ?……でも、せっかくだから、お言葉に甘えさせてもらいますよ?」
「うん、任せて!」
音羽が立ちながら手を差し伸べると、それをとって恋が立ち上がる。
その手は、温もりに溢れていた。
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「先のことはまだわかりませんが、もし新入部員が入ってきたら、これまで以上にパフォーマンスに磨きをかけなければいけませんね」
「あ……そっか、なんか僕、これから先も6人でやっていくって勝手に思ってたよ」
「ふふっ、気持ちはわかりますよ?それほどに結び付きが強いんですから」
「でもさ、今の僕達が放つことが出来てる輝きに、新たな光が加わったら、また僕達も結び付きが強くなれる……そんな気がする」
「ええ……スクールアイドルとして、だけではなく1人の人間として……大きく成長できるかもしれませんね」
「なんかちょっと大袈裟じゃない?」
「さっきまで星の事を言ってた音羽くんだって」
「まあ……ね」
お互い、手を握る力がほんの少しだけ強くなる。
繋いだ手から感じる温もり。
それは今を生きれているという証拠だ。
自分たちが今を生きれているのは昔から繋がった結び付きがあるから。
口には出さなかったが、互いにそういったものを感じているのだろう。
彼らもまた、今空に瞬いている星達のように結びあうのだろう。