博麗霊夢は全てを知らない   作:宇宮 祐樹

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大変長らくお待たせしました。
それでは、最終話をどうぞ


博麗霊夢は全てを知らない

「ふざけないでよッ!!」

 

 紫から突然突きつけられた事実に、霊夢は信じられず、声を上げた。

 

「私が神!? そんなはず有る訳無いじゃない! 私は人間なの! それがこの世界の条理なのよ!」

 

「けれど、これが事実なのです」

 

 目から涙を流して反論する霊夢に、紫は冷たい声で言った。

 

「貴女は神に造られた神。八百万の神でもなく、唯一神に崇められる神でもなく、ただ『霊夢と言う人間が人間の器に収まらない』と『博麗神社に祭神が居ない』と言う理由だけで作られたものなのです」

 

 自分が、利用されるだけの存在。その事を紫から告げられ、霊夢は再び戦慄する。そんな、まさか。いまだに霊夢の口からそんな言葉が漏れるが、今更そんな事を云ったって変わらない。それは霊夢自身も知っている残酷なことだった。

 

 しかし、自分が神? だとすると、自分は何故生きているのだろうか。そもそも、神なのならば、今まで行っていた食事や睡眠などの生理的週間は要らなかったのではないか? 混乱する霊夢の脳内に疑問が浮かび上がり、それを紫にぶつける。

 

「なら、信仰がないと神は生きられないんでしょ。何で私は『信仰されていない』のに生きているの!?」

 

 神ならば、信仰されている限り生き続ける。しかし、霊夢は進行されたという覚えは無い。その矛盾に、霊夢はかすかな希望を持って、紫にどなりつける。しかし、紫は何の不思議も感じずに、淡々と答えた。

 

「あなたは、信仰されているのです。」

 

「そんな、どうやって……」

 

「『博麗霊夢と言う存在がこの世にいる』と幻想郷中が思うだけで、あなたの存在が神として確立しているのです」

 

 存在の認識。それは限りなく『信仰』と言う行いに近いもの。霊夢は幻想郷の人間と分け隔てなく接した結果、『博麗霊夢は幻想郷に居る』と言う認識を『幻想郷』自体に持たせてしまった。その事を紫が告げ、霊夢は戦慄する。

 

 しかし、待てよと霊夢の脳内で思考が声をかけた。幻想郷自体が自分を信仰しているというのなら、自分は幻想郷に信仰されている神と言う事になる。つまり―― 

 

「……私は、幻想郷の神と言う事……?」

 

 霊夢の脳内で、まるでパズルの最後の1ピースが嵌ったような衝撃を受けた。自分は、博麗の祭神であり、幻想郷の神であることに、驚きを表した。これまで『自分が人間だった』という認識が、ぼろぼろと崩れ落ちていくような感触に、霊夢は恐怖した。

 

「『議題8:『神』とは何をもって存在しているのか?』……霊夢、これは貴女に分かりますか?」

 

 紫が問う。霊夢は虚ろな目で紫の方を見た後に、すぅ、と口を開いた。

 

「知らないわ。もう、そんな事どうでも良いじゃない」

 

 ここに来て、霊夢の精神は崩壊寸前でいた。自分が人の子だという認識を捻じ曲げられ、自分が人だということも捻じ曲げられたのだ。自分の存在を否定されれば、誰でも狂う。紫はそれを知っていたが、何故か紫は口に笑みを浮かべて返した。

 

「そうでしょう、そうでしょう。この問題なんて、誰にも分からないものなのです。いわば、答えの無い問題。フェルミのパラドックス、リーマン予想、ロンゴ・ロンゴと同じものですよ、『神の存在意義』と言うのは」

 

 横暴だ、と霊夢が思う前に、紫は扇子で口元を隠しながら笑った。その姿を見る事にももう霊夢は疲れ、その場に力なくへたり込む。何か譫言を言っている様だったが、紫はそれを気にしてい無い様だった。辺りを、暫くの静寂が包む。

 

 紫はようやく霊夢の事を気遣ったのか、霊夢の目の前に立って手を差し伸べた。しかし、虚ろな目の霊夢にとってそんなものは関係なく、寧ろ真実を突き付けてきた紫に対しては当然の対応だった。紫もその反応を予想していたのか、一つ溜息を吐いて扇子を閉じる。

 

「『議題2:博麗霊夢の親友とは何か?』」

 

 親友、という言葉に霊夢の耳が反応する。

 

「確かに、貴女にとって親友と言うのは……霧雨魔理沙、程度でしょう」

 

 霊夢もそれを知っていた。霊夢にとって、魔理沙は親友以外の何物でもなかったのだ。霊夢の脳内に、あの男勝りな笑顔が浮かんでくる。すると、霊夢はまた考え始めた。もし、私が神と知ったら魔理沙は如何するだろうか。別に、どうってことないだろと言い返しそうなものだが、霊夢はそれ以外の返答をされることが怖かった。たまらず、霊夢の目から涙がこぼれる。

 

「しかし、貴女は魔理沙以外にも交友関係を作っているのですよ? 湖の吸血鬼も然り、山の巫女も然り。貴女が思っている以上に、貴女の交友関係は深く、そして深い」

 

 紫が言った言葉に、霊夢は少しの驚きを覚えた。まさか、自分がそんなに広くの人と関わっていたなんて。霊夢は自分自身交友関係は屏東に取っていたつもりなのだが、これはどういう事だろうか。霊夢にも、見当がつかなかった。

 

 しかし、それは考えて見れば当然だったのだ。霊夢は、人や妖怪、果てには神までもを下す能力を持ち、それ全てに平等に接してきた。すれば、全ての幻想郷の生命から交友的な印象を持たれるのは当然の事だった。吸血鬼も、山の巫女も、そして魔法使いも。皆が皆、霊夢を友達だと思っているのだった。

 

「ですから、この答えは……そうですね、『幻想郷』 とでも答えましょうか」

 

 霊夢の友人は、幻想郷。今や幻想郷の神となった霊夢にとって、それは当然の事だった。霊夢は幻想郷に住み、幻想郷の調律者であり、幻想郷の唯一神でもあった。霊夢自身は自覚が無かったが、はたから見れば霊夢は幻想郷の支配者、と言っても差し支えが無かったのだった。

 

「どうでしょうか、この解釈」

 

「…………」

 

 紫が霊夢に聞くも、霊夢は既に答えを失った状態、いわば精神が崩壊していた。虚ろな目で譫言を呟き、意識はどこかへ飛んで行ってしまっている。そんな霊夢を見て、紫は無責任にも「この程度で壊れてしまうなんて」とため息交じりに呟き、霊夢の頭にぽんと手を乗せた。霊夢の目が、ぎょろりと紫の手を見る。

 

「貴女に事の結末を教えた理由は、この幻想郷の為なのです」

 

 憐れむような表情で、紫は口を開く。

 

「何時かこのことを知らなければ、貴女は永遠を生き、周りから憚られることになる。ですから、私はこのことを言うタイミングを計っていたのです。今なら、貴女が事の事実を受け入れられると信じていましたが」

 

「…………」

 

「見当違いだったようですね」

 

 はぁ、と溜息を吐いたまま、紫は霊夢に乗せた腕で境界を弄くり始める。霊夢に教えた事の記憶を、消しているのだった。そうすれば、霊夢は元に戻り、何時もの生活に戻る。紫ほどの大妖怪ならば、これ居位の事は簡単なことだった。

 

「また、数年後に、話しましょう。今回は話さなかった、『博麗』の真実を」

 

 

 

 ~ ~ ~

 

 

 『博麗の巫女』と言うのは、神が造ったモノである。

 

 つまり、その『博麗』も―――

 

 

 ~ ~ ~

 

「おっす、霊夢」

 

 なんでもない秋晴れの空、とある魔法使いが空から降りて来て、博麗の巫女に声をかけた。博麗の巫女はその声に気が付いて振り返り、「また来たの」と訝しげな目線を魔法使いに向けた後に、そのまま掃き掃除へと戻った。

 

 つれないな、と魔法使いは手に持った箒を肩に担いで、霊夢の傍に寄った。

 

「まーた掃除してるのか? こんな誰も来ないところに」

 

「私が居るじゃない」

 

 からからと笑いながら言う魔法使いに対して、博麗の巫女は疲れたような声で返す。何時もの、何ら変わりない、平和な風景であった。と、博麗の巫女は何を思ったのか唐突に掃き掃除の手を止め、魔法使いに向いた。

 

 行き成りの事に魔法使いは驚いたが、博麗の巫女の真剣な、しかし何時もの様な眼差しに驚き、少し戸惑った。しばらく静寂が続いた後に、霊夢は「あのさ、魔理沙」と口を開く。

 

「もし、もしも、の話よ? 」

 

 博麗の巫女は、気恥ずかしそうにしながらも口を開いて言い留まった。なにか言いたいことが有るようだが、うまく口に出せない様子で居た様だった。元もと短気な魔法使いはそれに苛々したのか、箒をからんと投げ捨て、博麗の巫女の両肩に手をばちんと置いた。

 

「お前が何と言おうが、気にしないから。早く行ってみろ」

 

 その言葉を魔法使いが言った瞬間、博麗の巫女ははっとした表情で魔法使いの目を見た。自分とは違う、まっすぐな、金色の瞳。それなら、博麗の巫女の迷いも吹き飛び、博麗の巫女は口を開いた。

 

「もしもの話なんだけどね」

 

「聞き飽きたぜ」

 

 そう、と博麗の巫女は軽く返事をした後、口を開く。

 

「私が、作られた存在だとしたら、魔理沙はどうする?」

 

「別に、なにも」

 

 博麗の巫女が驚いた顔をしたのと、魔法使いが首を傾げたのは同時だった。

 

「お前がなんだろうと、お前は『博麗霊夢』なんだよ。それ以上でも、それ以下でもない。だから、お前が造られた存在であろうと木の股から生まれようと、不倫で生まれた子だろうと何ら心配は――」

 

「ちょっと待て」

 

 魔理沙の不審な物言いに、霊夢はすかさず手を翳して制した。冗談だろー? と、からから笑う魔理沙に対して、霊夢はどこか疲れた顔をしながら、「訊くんじゃなかった」と愚痴を零す。何時もの、平和な光景であった。

 

「それよりもさ」

 

 と、唐突に魔理沙が口を開く。また冗談だろうか。それとも、笑い話だろうか。そんな軽い気持ちで、霊夢は「何よ?」と笑いながら聞く。

 

「いや、気の所為かもしれないんだが、どうやらこの辺りに神力みたいなものが流れててな?」

 

 魔理沙は、どちらかと言うとそういった力には詳しい方だった。それを聞いた靈夢は、「そうなの?」と不思議な顔で返す。

 

「それでまぁ、多分神社だから神様の御加護がちょっと有るんだろうな。でも、それじゃない。こういった神力っつーもんは祭神が居るからこそ流れるものであってな……」 

 

 そういったとき、からんと霊夢の握った箒が落ちた。

 

 それと同時、魔理沙が放った言葉は―――

 

「なあ霊夢。お前、何時から神になった?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 博

 

                 麗

  

                 霊

 

                 夢

 

                 は

 

                 全

 

                 て

 

                 を

 

                 知

 

                 ら

 

                 な

 

                 い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




議題2:博麗霊夢の親友とは何か?
……幻想郷
議題8:『神』とは何をもって存在しているのか?
……不明
議題九:そもそも、『博麗』とは何か?
……神が作った、『幻想郷を維持するためのシステム』



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