耀哉の葬式は全隊員が見守る中、執り行われた。
歴代そして現代の貢献した隊士達へとあまねがお礼の言葉、そして夫である耀哉への弔いの言葉を添えると共に、耀哉の入った棺桶は火を灯され、天へと昇って行ったのだ。
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その後、耀哉が無事に火葬され、新たに当主となった輝利哉によって、最後の柱合会議が行われた。
何年、何百年も続いた鬼舞辻無惨との因縁。その戦いに終止符を打った者達へ、散って行った者達へ、歴代の産屋敷当主達に代わり、感謝の言葉を述べると共に宣言した。
____鬼殺隊は解散する と。
鬼のいない今、鬼殺隊の存在する意味などない。鬼に対する憎しみという呪縛から解き放たれた皆はもう刀を握る必要などないのだ。
そして輝利哉のその言葉に疑問の声を上げる者は誰もいない。
そんな中であった。
ス〜
障子が開き、天一郎がヒョコッと顔を出した。
「あれ?天一郎さん!どうされましたか?」
「なにって決まってるじゃないですか」
そう言い天一郎は扉を思い切り開き全開する。
そこには、多くの鍋や薪などの用意をした隊員達の姿があった。
「輝利哉さん。それに皆さんも。食事しにしましょう。お館様から、皆と一緒にご飯を食べて欲しいと言われましたので」
「…!!」
その言葉に輝利哉達は自身らの父親である耀哉を思い出したのか、涙を流しながら頷いた。
「うん…!」
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それから数日の宴の後。隊士達は元の日常へと帰り続けていった。故郷へと帰るもの。旅に出るもの。など、寝食や戦闘を共にした仲間達が次々と去っていく。
そんな中、天一郎は蝶屋敷を訪れた竈門兄妹と回廊を歩いていた。
「いやぁ良かった良かった。禰豆子さんが戻れて。それにしても、鬼の時と変わらず、元気いっぱいですね〜」
「えへへ!ありがとうございます!」
天一郎の褒め言葉に人間に戻った禰豆子が満面の笑みを浮かべながらこたえる。その笑顔と愛らしい仕草に天一郎も微笑んでしまい、善逸が一目惚れするのも分かってしまう。
「二人とも、この後どうするんですか?」
天一郎は2人に今後について尋ねると、炭治郎は答えた。
「取り敢えず、家に帰ろうかと。まだちゃんと弔ってあげれてないので」
「お母さん…皆…待ってるとおもうからね」
炭治郎の言葉に禰豆子も頷く。二人の両親や兄弟は無惨に殺されており、埋葬のみで花など備えてあげられていなかったのだ。聞けば近くには顔馴染みのおじさんもいるらしい。
2人が帰ってしまう事も寂しいが、家族に会うためならば仕方はないと思いながらも、天一郎は息をつく。
「そうですか。いやぁ〜寂しいですね」
「そうですね…」
しばしの別れに天一郎が細々とした声で頷くと、炭治郎も同じ気持ちだったのか、少しばかりか悲しそうな表情を浮かべる。
「あ、そうだ」
すると、今度は炭治郎が尋ねる。
「そういえば、しのぶさんの体調は大丈夫なんですか?」
「あ〜それは別に」
それについて天一郎は問題ないと答える。実はしのぶは以前より童磨を討つために定期的に藤の花の毒を摂取しており、体内の半分以上が毒に侵されている状態だったのだ。
だが、天一郎が童磨をボコボコにして、陽の光に晒し焼き殺した事で毒殺する必要がなくなるとともに天一郎から説教された事で、少しずつ解毒に励んでいたのだ。
「今は療養してますよ。少しずつ体内の毒が薄れてきているらしく、珠世さんの力も借りてるので、あと半年もすれば、完全に解毒されると」
「よかった!……あ!」
すると
目の前の曲がり角から実弥と玄弥が現れた。
「玄弥!実弥さんも!」
「炭治郎!!」
「よぅ。お前らも来てたのか」
炭治郎が声を上げると、それに玄弥も答え、実弥も軽く手を挙げて会釈する。そんな光景を天一郎は微笑みながら見つめると実弥に尋ねた。
「これはこれは風柱様に弟さん。ご兄弟揃って、これからお帰りですか?」
「あぁ…暫くは旅に出て色々見て回ろうと思ってな。その前に___」
天一郎の質問に答えると、実弥の目が炭治郎の隣に立っている禰豆子に向けられた。
「ん?どうしましたか?」
「いや…」
そんな彼女を目にした実弥は思い当たる節があるのか、彼女に頭を下げる。
「その…悪かったな…色々と…特に最初の時は刺しちまって…」
「え?あ〜!大丈夫ですよ!もうこの通り傷は塞がってますし!それに私ずっと寝てましたし!」
実弥の謝罪に禰豆子は気にしていないかのように腕を見せ満面の笑みを浮かべながら返した。
「そうか…」
すると、実弥の黒い目が輝くと共に柔らかな笑みを浮かべ、そっと禰豆子の頭を撫でた。まるで亡くなった弟妹達を思い浮かべるかのように。
「元気でな。いくぞ玄弥」
「おぅ!じゃあな3人とも!」
その言葉とともに、実弥と玄弥は手を振りながら蝶屋敷を去っていったのであった。
「行ってしまいましたね」
「はい…ん?」
「ホワワ〜」
その姿を見送る中、ふと横を見ると何故か実弥を見つめながら顔を真っ赤に染め上げてる禰豆子、そして
「ふんぬぅううう…!!!」
近くの壁からは唸り声をあげながら、此方を睨みつける善逸の姿があった。
○◇○◇○◇
「そう言えば、噂で聞いたんですけど、伊黒さんと甘露寺さん、結婚するらしいよ!」
「え?そうなの!?」
「あ〜」
回廊を歩く中、突然と切り出した禰豆子の言葉に炭治郎が驚き、天一郎は頷く。
「ようやくですよようやく。長かった〜」
「え?どういう事ですか?」
「いや、あの2人見てたら焦ったくなってきたので、取り敢えず2人とも蝶屋敷に招いて、ラッコ鍋食べさせた後、とっ捕まえて密室に閉じ込めました。しばらくしたら、満足した甘露寺さんと痩せこけた伊黒さんが出てきて、それで結婚するようになったと」
「ラッコ鍋…って前にカナエさんとしのぶさんが間違えて食べちゃったやつですよね?」
「えぇ。あの時は夜通し酷い目に遭いましたよ」
○◇○◇○◇
それから三人が回廊を歩いていると、何やら近くの病室から賑やかな声が聞こえてきた。しかもその声は炭治郎達にとっては馴染みのある声だ。
「あれ?この声…」
聞き慣れたその声に炭治郎が部屋を見ると、そこには宇髄と彼の嫁3人の姿があった。
「宇髄さん!?」
「おぅお前ら!邪魔してるぜ!」
三人が入ると宇髄はいつもながら豪快な声で挨拶し、その声と姿に炭治郎と天一郎も驚きの声をあげる。
更に禰豆子を見つけた須磨は目を輝かせた。
「きゃあ〜!!禰豆子ちゃ〜ん!」
「わ〜い!須磨さ〜ん!」
「ちょっと須磨ぁ!病院では静かにしなさいよお!!」
「貴方もよ…」
感涙極まりながら禰豆子を抱き締める須磨に注意するまきをを雛鶴が宥めている中、炭治郎は遊郭の戦いにて切り取られた腕へと目を向ける。
「その腕…大丈夫なんですか?」
「ん?おうよ!珠世の薬のおかげでこの通りだ!まだ慣れないが、動かす事ぐらいはできるぜ!」
そう言い宇髄は妓夫太郎との戦いで失われた左腕を見せる。見ればその腕は見事に完治していた。珠世は長年、鬼の血で欠損した四肢を再生する医療も研究しており、その被験隊として宇髄は名乗り出て無事に再生したのだ。
それを見た天一郎は安堵しながら今後について尋ねた。
「いやぁ良かった良かった。んで、皆さんはこの後はどうするんですか?」
「これから色んな所、回ろうと思ってな。今までできなかった思い出作りしねぇと。あ、北海道にも行くぜ?お前が言ってた蝦夷鹿肉のライスカレーとか食ってみたくなったからよ!」
「おぉ!是非是非!」
すると
「天元様、そろそろ」
「おう」
須磨、まきをと一緒に禰豆子と遊んでいた雛鶴が時間を知らせ、それを聞いた宇髄も頷くと立ち上がった。
「じゃあそろそろ行くわ。元気でな!お前ら!たまには俺らの屋敷に遊びに来いよ!」
そう言い宇髄達は手を張りながら蝶屋敷を去っていき、炭治郎達も姿が見えなくなるまで見送ったのだった。
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それから次々と蝶屋敷には多くの柱や隊士達が別れを告げにやってきては、帰路へと立っていった。その背中を見るたびに別れによる寂しさが滲み出てきてしまうが、それでも炭治郎は笑顔で見送っていった。
そんな時間が1時間ほど続いていった中であった。
「やぁ!!竈門少年!!!」
「ぶほぉ!?」
部屋で善逸達と休んでいた炭治郎の背後から突然と豪快な声が響き渡り、驚いた炭治郎や天一郎達がすぐさま振り向くとそこには杏寿郎と彼の父、そして弟の姿があった。
「煉獄さん!それに皆さんも!!」
「おやおや〜家族お揃いで」
「うむ!2人が帰ると聞いて挨拶にな!!しばらくは忙しいとは思うが、余裕ができたら俺達の屋敷にも顔を出すと良い!いつでも鍛錬に付き合うぞ!!」
「はい!」
相変わらず暑苦しくも熱血なその言葉に炭治郎は満面の笑みを浮かべながら頷いた。
すると
「相変わらず暑苦しいな…煉獄…」
「んん?おぉ!!」
気だるげな声と共に二つの影が現れ、振り向いた煉獄は驚きの声を上げた。
「伊黒殿!甘露寺!」
そこに立っていたのは伊黒と甘露寺であり、既に支度は済ませていたのか、隊服ではなく和服を着用していた。
「君達も来ていたのか!」
「はい!報告と挨拶に___あ!禰豆子ちゃ〜ん♡」
「甘露寺さ〜ん!」
甘露寺が頷くや否や、禰豆子を見つけた途端に感涙極まって抱きついた。
「ところで、報告ってなんですか?」
「それなんだけどね!」
炭治郎が尋ねると、禰豆子を撫で終えた甘露寺は伊黒の腕に抱きつき答えた。
「私たち、結婚することになりました!」
「「「「「え…今更…?」」」」」
「そう!いまさ……ええええええ!?なにその反応!?」
「いやいやいや」
皆の反応がとんでもなく予想外だったのか驚く甘露寺に天一郎は手を横に振りながら答える。
「いっつも蛇柱様、貴方への好意が露骨でしたし、それに貴方も色々と嬉しそうでしたし。寧ろ遅いくらいですよ。ねぇ?」
「「「「「うんうん」」」」」
「それに、私が納屋に閉じ込めてくっつけたの、もう広まってますよ」
「嘘ダァ〜!!」
天一郎の言葉に甘露寺自身はサプライズかと思っていたのだが、寧ろ遅すぎかつ認識されていたため、その場に膝をつくと、煉獄が肩を叩く。
「まぁ何はともあれめでたいな!!!近いうちに結婚祝いを贈ろう!」
「そうですよ!俺たちも何か凄いもの送ります!」
「それに甘露寺さんの花嫁衣装も見たいです!」
「ありがどぉおお煉獄ざぁぁ〜ん!炭治郎ぐ〜ん!!!!禰豆子ちゃんも大好ぎぃ〜!!!!」
「私も、今度、蝦夷鹿肉のカレーご馳走しますよ〜」
「天一郎ざぁ〜ん!!やった〜!!」
それから、煉獄家一同と伊黒、甘露寺の2人も去っていった。
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それから次から次へと、思い出のある人々が蝶屋敷を訪れては去っていき、午後になった頃には、病室は静かになっていた。
それを見計らった炭治郎達は荷物をまとめる。
「では、そろそろ俺達も行きますね」
「じゃあな親分!」
「えぇ。どうかお元気で」
炭治郎と伊之助に頷くと、顔面を真っ赤に染め上がらせ、眉間に皺を寄せた善逸が迫り来る。
「お前!しのぶさんとカナエさん悲しませたらぶっ飛ばすからなぁ!?」
「はいはい!分かってますって!!」
そんな中であった。
「あ、良かった。まだいたようですね」
「!?」
玄関が開き、入ってきた人物に炭治郎と禰豆子は驚く。そこに立っていたのは_____
「珠世さん!?それに愈史郎さんも!?」
_____珠世と愈史郎だった。さらに2人とも雰囲気や匂いがいつもとは違う。
「この匂い…まさか2人とも!」
「ふふ…えぇそうです。私達、人間に戻りました」
「「「「「えええええええ!?」」」」」
炭治郎の予想に珠世が笑みを浮かべながら答えると全員が驚きの声を上げた。
○◇○◇○◇○
その後、珠世によると、無惨が死んでからこれまでの間、ずっと蝶屋敷にて療養しており、その際に人間に戻す薬を服用しながら休んでいたのだ。人間に戻ったのは、耀哉が荼毘に付された後であり、今まではずっと治療のサポートを行っていたらしい。
「これで数百年ぶりに…日の下を歩けます。鬼殺隊の皆様…特に炭治郎さんや天一郎さんにはなんと感謝したら良いか…」
「いやいや。御礼ならお館様に。あの人がいなければ、我々は珠世さんをただの鬼としか見れなかったですし、今回のような連携が取れなかったかもしれません。それに、私も貴方に御礼が言いたかったのです。しのぶを助けてくれて、ありがとう」
そう言い天一郎が彼女の両手を握り締めて感謝の意を伝えると、珠世は満面の笑みを浮かべながら頷く。
「お二人はどうするのですか?」
「しばらくは、蝶屋敷でお世話になるつもりです。まだ傷が癒えていない隊士の方々がいらっしゃいますからね。それが終われば、浅草へ戻ろうかと」
「そうなんですね!」
「……おい」
炭治郎が答えると、今まで黙っていた愈史郎が突然と炭治郎と禰豆子に迫り声を上げる。
「炭治郎、禰豆子、他の連中はともかく!!お前ら2人だけは特別にいつでも来て良いからな!!!」
「はい!!」
「ありがとう!愈史郎さん!」
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「それじゃあ、俺達はこれで」
「うん。色々とありがとう」
「いえ。こちらこそ」
その後、天一郎は珠世と共に炭治郎達を送り出すために外に出た。
「落ち着いたら、いつでも俺達の家にきてくださいね!歓迎しますから」
「えぇ。私も珍しい食材を持ってお邪魔しますよ」
そして、その言葉と共に炭治郎と手を交わすと、炭治郎達は歩み出した。
「ではまた!」
「お達者で〜!!」
「お気をつけて」
「元気でな!!」
手を振りながら去っていく炭治郎達を天一郎、珠世、愈史郎の3人は姿が見えなくなるまで見送るのであった。
それから皆の姿が見えなくなると、珠世はある事を尋ねる。
「そろそろお時間じゃないですか?」
「…確かにそうですね」
珠世に頷いた天一郎は隠の隊服と顔隠しを外す。
ーーーーー
ーーー
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その後、天一郎はカナエとしのぶを連れて、蝶屋敷から遠く離れたとある霊園を訪れていた。
「ここが…お墓ですか?」
「えぇ」
目の前にあったのは上坂家と書かれた墓石であり、そこには既に花が添えられていた。
「ウチの父の弟子として潜んでいた無惨に両親は殺されました。その時に私も鉢合わせてしまい、殺されかけましたけどね」
「そんなことが…」
「別に珍しい話ではありませんよ」
そう言い天一郎は香を添えると手を合わせる。
「奴は太陽を克服するための医術を求めていた。珠世さんに聞けば、全国の医者の子供になりすましたり、侵入して書物を漁っていたりしていたようですからね…私の所もいずれは入っていたのでしょう。それでも仇をうてて良かった…これで父さんと母さんも少しは報われると思いたいです…」
そう言う彼の背中はとても小さく、寂しさを感じさせる。
すると、天一郎の目元から涙が流れ始めた。
「…お父さん…お母さん…」
流れる涙は次第に増えていき、声までも震えていた。
「終わった…やっと終わったよ…!!!」
まるで目の前に両親がいるかのように、長年の仇を討ち、平和な日常へと戻った事を天一郎は声を震わせながらも報告したのであった。
そして、震えながら涙を流している天一郎をカナエとしのぶは抱き締める。
「2人とも…」
「ふふ。貴方の声、ちゃんと届いてると思いますよ」
「寧ろ大活躍だったから届いてないとおかしいと思いますよ」
「……」
その言葉に天一郎は立ち上がり、カナエとしのぶの二人の目を見る。
「カナエ…しのぶ…私は鬼だけじゃない…やむを得ず人を何人も殺した…。だけど、そんな私を二人は慰めてずっと寄り添ってくれて…本当に嬉しかった…だからこれからも、私は二人とずっと一緒にいたい…___
_____二人とも私の妻になってくれますか?」
その言葉に2人は待っていたかのように頷き天一郎の右手と左手をそれぞれ握り締める。
「えぇ。私もしのぶもずっと、貴方と一緒ですよ」
「帰りましょう!私達の家へ」
カナエとしのぶの手を笑みを浮かべながら握った天一郎は頷き、彼女達と共に帰路についたのであった。
鬼が現れてより1000年。もう彼らを脅かす存在はいない。再び平穏な日常へと戻るの事ができたのであった。