ハーレムを目指せと言う神の啓示が聴こえてくる様だぜ‼︎ 作:とむとむ
白銀サンはちょっと不憫になることを代償に常識を手にしました
「恋愛相談?」
「はい!恋愛において百戦錬磨との呼び声が高い会長なら、何か良いアドバイスが頂けるのではないかと思って…!」
名も知らない男子生徒が生徒会室を訪ねてきた。恋愛相談をしたいらしい。正直に言えば俺に人に話せるような経験はないが。
「なぜ俺なんだ? そこにいる花菱の方がそういうことには詳しいと思うがな」
恋愛初心者であろう彼と二人きりなら、申し訳ないが当たり障りのない返答をして煙に巻くつもりだった。でも花菱の前で適当なことを言えばすぐにバレる。ならいっそのこと花菱になすりつけてやればいい。
「えーっと、花菱さんのように大胆なことはできないと言いますか、僕にはハードルが高いので」
だが田沼は俺の方が相談する相手としては適任だと考えているらしい。確かに側から見れば花菱は顔面という最強の武器でもって女子のハートを殴りつけているように見えても不思議ではない。簡単に真似できることではない。
「仕方ない。生徒の悩みを解決するのも生徒会の者としての務めだ。どうにかしてやる」
諦めて聞くしかないか。とりあえずボロを出さないように気をつけなければ。
「それで、相談というのは?」
「クラスメイトに柏木さんという子がいるんですが……彼女に、告白しようと思うんです!」
「…はぁ」
「でも、断られたらと思うと……。もう少し、関係を築いてからの方がいいんじゃないかと…。色々考えてしまって…」
無駄に身構えていたがなんだか拍子抜けだ。男子高校生ならばありふれた悩み。これなら自分でもそれなりのアドバイスができると安堵した。まずは恋愛相談において基本とも言える二人の関係値を聞く。
「ちなみに、その子と接点はあるのか?」
「バレンタインにチョコを貰いました!」
「ほーん…。どんなチョコだったんだ?」
「…チョコボール3粒です」
恋愛経験などない俺でも分かる。間違いなく脈ナシだ。ここまで振り切って脈ナシなら難しいアドバイスをする必要もないし、ボロも出ないだろう。
「これって義理ですかね?」
義理と言えるかすら怪しい。もしその時彼女が持っていたのがじゃがりこなら彼のバレンタインはじゃがりこ3本になっていただろう。その程度の想いしかなかったはずだ。
「ま、まぁ……ギリチョコと言えなくもないだろうが……」
嘘は言っていない。その場のノリで渡されたものでもチョコはチョコ。ギリギリチョコと判定しても良いだろう。
しかし残念ながら告白しても成功するとは思えない。もっと関係を深めるまでとどまるべき……
「間違いなく惚れてるね」
「ハァ⁉︎」
花菱、何言ってんだお前。チョコボールだぞ? 何をどう考えれば…って、なんかニヤニヤしてる⁉︎
何か企んでる。絶対に碌なことにならん! 名も知らぬ男子生徒が悪魔の玩具になる前に阻止しなければ!
「いやいや! 申し訳ないが脈ナシだろ⁉︎」
「そうですよ、こんな状況で告白しても成功するはずがないんです……」
良いぞ、彼には酷なことを言ったが花菱の口車に乗せられるよりは百倍マシだ。このまま諦めてくれ…っ!
花菱、なぜその不敵な笑みを崩さない…⁉︎
「待て待て、なーんも分かってないじゃん。女の子は素直じゃないんだよ。逆の行動をとっちゃうの。つまり一見義理に見えるチョコも?」
「逆に本命……‼︎」
「正っ解‼︎」
逆に本命ってなんだよ。なんでお前もそんな「はっ!気づかなかった!」みたいなリアクションを取れるんだよ。屁理屈でももう少しまともな筋が通ると思うぞ。
このまま花菱のペースに持っていかれると、間違いなくこの男子は告白して振られる。そしたらこの男子は花菱を、ひいては生徒会を憎く思うだろう。「お前らのせいで失敗したやんけ」みたいなことになりかねん!
「待て待て早まるな! いくらチョコを貰ったって言っても、その柏木?ってやつが、そんな気で渡したとは限らないだろ」
「あーあー、コレだからモテる男は困っちゃうよね」
「ど、どういうことですか?」
どの口が、と思ったのは俺だけではないハズだが、だからこそ花菱の言葉の続きが気になってしまった。
そして俺は最後のチャンスを逃した。
「田沼、そもそも白銀に相談するってのが間違いなんだよ」
(田沼っていうんだ)
俺は今男子生徒の名前を知った。
「質実剛健、聡明叡智の生徒会長サマともなれば女の子の方から勝手に寄ってくる。だから白銀の恋愛術は相手からアプローチされるのが前提なんだよ」
「な、なるほど……?」
イマイチ理解できていない田沼を尻目に、花菱は田沼の横に座り肩に腕を回した。ちなみに俺も理解できていない。俺そんなアプローチされた記憶ないが?
「つまり白銀は安定択を選び続ければ良いわけだ。でも柏木渚は待ってれば勝手にオチるような簡単な子なの?」
「ち、違います!」
「待て、お前柏木のこと知ってたのか?」
花菱の口から出た柏木のフルネーム。
「そこそこ大物の娘だけど。テストでも毎回総合10位以内には入ってたね。顔も可愛らしい子だよ」
最初から知っていたならこの流れも全て計算づくか?
「大胆なことはハードルが高いとか言ってたけど、最初からリスクを避けて勝てる戦いじゃないんだ。こっちが挑戦者なんだから、攻めあるのみさ。田沼、覚悟はいいか?」
「はい! 花菱さん! 僕は貴方についていきます!」
完全にその気になってしまった。もう俺にはうまくいくことを祈るしか出来ない。
「おいで、告白の作法を教えてやろう」
花菱は田沼の手を取り歩き出した。
「君はまだ未熟だ。時間をかけて言葉で相手を翻弄するだけのスキルはない」
「で、ではどうすれば?」
俺は花菱の話を黙って聞いていた。もしかしたら何か為になる話を聞けるかもとか思っている訳ではない。断じて。
「一発勝負さ。じゃあ君を彼女に見立てて実践してみようか」
そう言って花菱は田沼を壁際に立たせる。その時点でようやく俺は花菱が何をするつもりなのか分かった。それは決して掘り起こされたくない俺の黒歴史。
俺は咄嗟に花菱を静止しようとした。
「まっ、待て……‼︎」
「俺と付き合え」
それは『壁ダァン』であった。
それはあまりにも無知だった頃の俺が意気揚々と花菱に披露した技。
それは花菱に散々笑い物にされ、後に後輩から借りた少女漫画で所詮はフィクションなのだと現実を突きつけられた禁忌の技。
「こんな風に突然壁に追い詰められたら女の子は不安になる。でも、そこで追撃するように耳元で愛を囁いた途端、不安はトキメキに変わって告白の成功率は急上昇」
改めて客観的に聞いてみれば何を言っているのだと口を出したくなるものだ。きっと田沼も笑いを堪えられないだろう。
同じ初心者である田沼に笑われれば、それが直接俺に向けられたものではなかったとしても俺は簡単に死ねる。
壁から離れた花菱の影から見えた田沼は顔を真っ赤にしていた。涙すら浮かんでいるようだ。どれほど笑いを堪えて……ん?
ガクッ…ズリッ
「あれっ……体に力がっ」
田沼は背中を壁に擦りながらへたり込む。腰を抜かしていた。もう一度言う。腰を抜かしていた。
「コレが『壁ダァン』の力だよ」
「同性なのに………ドキドキが止まらないッ‼︎……天…才?」
え? は? これは田沼がバカなのか?
それとも俺のことを散々笑い物にしながら花菱自身はちゃっかり壁ダァンをマスターしていたのか?
「ありがとうございました! 師匠!」
釈然としないものを抱えながら生徒会室を去る田沼を見送る。
「いやー純粋すぎて面白いね」
「もしかしたら本当に成功させるかもな」
「チョコボール3つ渡す程度の関係値の相手にいきなり壁ドンされたら恐怖しかないだろうけどね」
「あぁ……………………………は?」
いきなり壁ドンをされれば怖い。当たり前のことだが先程までコイツが言っていたこととは真逆である。手のひら返しが滑らかすぎて一瞬流してしまった。
「な、何言って……お前が教えたことだろ?」
「あれは田沼に『告白される女の子』としての意識を与えてからやったから効いただけだよ。告白を成功させたいって願望が現れた形だね」
つまり『告白が成功するためには壁ドンの有効性が証明される必要があり、自分がオトされることがその証明になる』そんな無意識の精神的作用がもたらした結果だと。
この悪魔は、絶対に成功しない、あまつさえ嫌われかねない行為をあたかも必殺技のように教え込んだと言うのか。
田沼はどこか抜けていたが想いは本物だったハズだ。それをここまで弄ぶなど冗談でも許されることではない。
「そんな怖い顔しないでよ。今回に限ってはあれでいい」
「失敗すれば良いっていうのか? 真剣に相談してくれた相手にそれは不誠実すぎるだろ」
「違う、成功するんだよ」
「は?」
今度こそ意味がわからなかった。壁ドンは嘘だったのに告白は成功する?
「恋愛術云々じゃなくて田沼翼と柏木渚の関係性の問題で今回の告白はほぼ間違いなく成功するの。詳しく言うともう一人の女の子が関係してくるんだけどね……」
正直俺にはコイツが何を考えているのか理解が及んでいない。もちろん悪いやつではないと思ってはいる。だからとりあえず一つだけはっきりさせておこうと思った。
「お前は、今回の田沼の相談に真摯に応えたと、心の底から言えるか?」
「あぁ、俺は彼の成功を心の底から願ってるよ」
「どしたん?話聞こか?…ってね、ははっ、楽しみだ」