会いたいからこそ思うこと
表裏一体、気持ちはいつもそこにある。
あるからこそ、難しい。
家族と過ごす時間を嫌だと思ったことはないし、今後もそんな事を考えたりはしないだろう。私はそこまで問題を抱えたコドモではないつもりだし、鹿野家は平穏無事な家柄だ。
だけどでも、ふとした拍子に私は思う。猪股家に
『帰ったらお時間頂けませんか? 話したいことがあります』
大喜くんがどんな意図でそんな文面を送ったのか、私に分かるわけがない。ただ気が付いた時には、『いいよ』と打っていた。……流石に無愛想かなーって思って慌ててスタンプを足したけど、あれで良かったんだろうか。
改まって話したいこと、か。そう言えば県大会の予選前にも、そんな話をした記憶がある。少ししてから聞いてみたけど大喜くんは「そんな事言いましたっけ」と誤魔化していたし、あの日は……ちょっとしたアクシデントもあったから、何となく話題にしづらいまま忘れてしまっていた。
もしかしたら、もしかすると。
「……蝶野さんの事、なのかな」
大喜くんと蝶野さんの関係が今どうなっているのか、それを知る由は無い。ただ私は知っている、蝶野さんの想いを。
文化祭前のあの時、直接彼女は私に告げた。大喜に告白しました、と。……それがどういう意味なのかまでは、分からないけれど。
それにインターハイでの敗戦を報告しに夏休みの学校へ行った際にも、盗み聞き同然ではあるけどそれを聞いてしまったっけ。
蝶野さんが大喜くんに向ける気持ち、それはきっと恋心とでも言うべきものだ。
二人はお似合いで、先輩としても同居人としても応援するべき立場にある。なのに、なのに私は素直にそう出来ないでいる。大喜くんの気持ちが蝶野さんに向いていて欲しくない、とさえ
猪股家に残る理由は、あれから変わり続けている。もうバスケの為ではない、だって私は――。
「あー……もう……っ」
客間の襖にもたれ掛かったまま、苛立った息を吐いて自己嫌悪に沈む私。
そんな事を考えてはいけないのに、抑えきれなくなりつつある。大喜くんに頼りたい、触れていたい。自分の中で、そんな想いが燃えている事自体に戸惑ってしまう。
今日は一月二日、ここを出るのは五日の夜。六日の昼間には大喜くんに会って、……話をするんだろうな。
大喜くんは義理堅い子だし蝶野さんと付き合う事になったとか、既に付き合っているとかそんな報告かもしれない。いやもしかしたら、クリスマスに抱きついてしまった事への抗議かも。あれから殆ど話せていないし、それも有り得るな。あんな事をしでかした私は最悪もう、あの家にいられなくなるのかもしれない。
悪い予感が浮かんでは消え、消えてはまた甦る。背筋に冷たいものが走り、恐怖にかられて目の前が暗くなっていく。
それなのに、それでも。どんな結末になるとしても、そんなのは構わない。
ただ大喜くんに、会いたい。恐怖よりもそれが先に立つ。なんでもない話がしたい、側にいてほしい。
一年前は、話したことさえ無かった。体育館で見掛ける後輩、それだけ。でもそこから、私たちは変わっていった。
同じ家に住んで、でも知らないことばかり。そしてその殆どはきっと、知ることが無いままなんだろう。そんなものだ、その程度だ。
歪で不確かで、ふわふわした関係のまま私たちは歩んできた。これからどうなるかなんて私の頭で分かるわけがない、と言うかあれもこれも何もかも分からないままだ。
分かるのは、一つだけ。
「大喜くんに、会いたいな」
理由も理屈も関係無く、この思いが沸き上がるという事。
ああ、どうして時間が過ぎるのはこうも遅いのだろうか。
家族に不満はないし、予想外にお年玉も集まったけど、それでも私は早く
そうしたらきっと、この気持ちに名前が付く。
そうしたらきっと、この気持ちの正体が分かる。
そうしたらきっと、何かが始まって何かが終わるんだ。
ああ、ああ――楽しみだな。