『って言うことがあったんですよね~』
「そうか、大変だったな」
『ほんとですよ!炎上はするわ悪いうわさが流れるわ、コメント欄とか荒れまくってキレそうでした!』
多分、報告する相手が違うだろうと思いながら、ケンはあかねの報告をチャーハンを炒めながら聞いていた。
あかねが地上でひと悶着あったのは端末のニュースで確認した。
相当大立ち回りをしたらしく、かつて同居人のやらかしによって渡した素材の殆どを溶かしたのであろう。
ケンからすると、刹那に生きるあかねの勝手なのだから責めるようなことはしない。
人生何事も自己責任なのだ
本格中華屋顔負けな勢いで火力を上げながら、ぽいぽいと卵を放り込み地上での出来事を少々考えていた。
テロ行為自体は太古の昔から存在する。
ケンもダンジョンが現れる前の事を思い出していた。
研究者として密かに地位を上げていた頃、あまり意識していないところから妨害を受けたことがあった。
はっきり言って、彼にとって大したことではなかったが行為がどんどんエスカレートしていき、しまいにはEMPをぶちまけられるという凶行に出られたこともあった。
あの時は人工衛星関係で競合も多かったから必死だったんだと、損失も思い出し苦笑いする。
『もう!聞いてますか!愚痴をぶちまけていい相手はケンさんくらいなんですからね!』
「内部情報をぶちまけるのはコンプライアンス違反じゃないのか?」
『情報は一部にしか漏らしてないからすぐ特定できまーす』
「そういう問題なのかねぇ」
今時の現代社会は分からん、人の心すら危うくなってきたのにと思うケンであった。
『まあ、それは過ぎた事なのでいったん置いて』
「置いておくのか」
シャーン、シャーンと空気を混ぜ込みながら米が宙を舞い、程よい黄金色になっていく。
『なんでチャーハン作りながら通話してるんですか?』
「飯時だからな」
『あと、誰が端末を持ってるんですか?』
「同居人だ」
『じゃあ、そこでチャーハンを狙ってるおっぱいは何ですか?」
「同居人1号だ」
そう、料理をしている最中に通話がかかってきたため自分で通話ボタンをとることが出来なかったのだ。
鳴り続ける端末をダンジョンボスが興味を持ち、しかし勝手に触ってしまうと何をされるか分からないため料理中のケンに聞きに行ったのだ。
そこでケンに使い方を指導され通話に至る。
なお、チャーハンを横から盗もうとするキメラは犬か猫のように見えるのであった。
ダンジョンボスは画面に映っていないが、素手でチャーハンをちまちま盗み取るキメラはどう見ようと美人であることには間違いない。
しかも、あかねには持ちえない最強のプロポーションも保持している。
『誰よその女!』
「最近ドラマでも見たか?」
『現実逃避がてら見てたやつの台詞、言ってみたかったんですよね』
「彼氏いないのにか」
『リア充に分かるかこの気持ち!!!』
ダンダンと机を叩き抗議するが、その程度で動じるような化け物達ではない。
「そろーっと」
「それ以上はやめろ、他の分がなくなる」
『容赦なくハンマーで…………』
盗み食いを繰り返すキメラは常に置いてあるハンマーで顔面をかち割られた。
擬音で表すなら『バギィ!メゴォッ!』と何故か一回叩かれてるだけなのに二連打されたような音が鳴り響いた。
端末を持つドラゴンクイーンが「ひっ」と小さな声をあげて震えた。
暴力の化身だったはずのドラゴンクイーンが暴力に怯えるという滑稽な話ではあるが、その震えた際に端末を落としてしまう。
元々がダンジョンで配信するものだけあって地面に落ちただけでは傷一つつかないので問題はない。
「あわ、あわわわわ、ごめんなさいごめんなさい!弁償するから臓器だけは!臓器だけは勘弁してええええええ!」
「壊れてないから大丈夫だろ」
『ねえ、不穏な単語聞こえるんだけど。ねえ』
勝手に人の金を使った際に補填として本気で取り出されそうになったことがトラウマになったらしく、ガタガタと震えながら土下座するドラゴンクイーン。
チャーハンの調理が終わったようで、中華鍋を火を消したコンロの上に置き端末を拾う。
「まあ、こいつらについては深く追及しない方がいい」
『えー、でも土下座してる後ろ姿ちょっと映ってるんですけど』
「気にするな」
『なんか身体から鱗みたいなのが見えてるし、頭に角があるような?』
「色々あるんだ」
『そういえば、ダンジョンボスって知能が高くて人型になるのが多いとか』
「勘のいいガキは組織に消される運命にあるんだよな」
『組織って何の!?洒落にならないんだけど!?』
適当なことを出まかせで言っているつもりであったが、ケンのの裏にとある人物が思い浮かぶ。
冗談が上手い白装束の教祖、その母親という立場である人のことだ。
表面上は美しくにこやかな人物だが、その中身は冗談が一切通じないエゴの塊という邪悪だとまだ若い頃の彼ですら認定する存在。
今はどこで何をしているのだろうか?息子に欲情するようなやべー奴だからあいつについて行ってるのだろうか?
まあ面白い関係ないか、ケンは雑念を払った。
『ね、ねえ?本当に消されないよね私?まだ死ぬ時じゃないと思うんだけど?』
「それだけ言えたら死なないだろ、多分」
「あ、あの、私は大丈夫でしょうか?」
「チャーハンでも食っとけ」
「いただきます!」
土下座からの保身をなんとかしようとしていたダンジョンボスは、ケンの許可(?)を得たので中華鍋ごとチャーハンを持っていく。
「がう!俺のチャーハン!」
「下っ端はそこで寝転がっておきなさい!私がいただくわ!」
「グルルル…………今日こそ、その命、もらう!」
「やってみなさい、バーカ!」
『何でボインの美人が喧嘩してるんですか』
「知能はあっても知性は低いんだ」
背後でキャットファイトを始める馬鹿二匹のことはいつも通りと言わんばかりの態度であった。
見た目だけは美しく、女であるあかねでさえ見惚れるレベルだというのにやってることが幼稚すぎる。
そもそも、そんな美女と同居してるのに我関せずなケンの方がおかしいのではないかと思い始めた。
ダンジョン深層に住んでいる時点で狂人だった。
『あれ、あの角がついてる人のお尻になんか尻尾が見えたような』
「コスプレだ」
『なら言い訳の最初に上がりますよね?』
何故変なところで勘がいいのか、面倒なことばかりに気づくあかねをどう口止めしようとしてたその時。
『まあ、でもこれだけ綺麗な人なら配信とかでウケそうだろうなぁ』
あかねから1番聞きたくなかった言葉が漏れた。
その言葉が漏れた瞬間、後ろで暴れていた二匹がピタッと止まる。
二人は強欲、欲望は深いし自己顕示欲も大いにある。
今のところはケンという最大の障害があったが故になりを潜めていたが、自己顕示欲の炎は常に燻っている。
「おい」
びくり、と止まった身体が跳ねる。
「変なこと考えるなよ」
改めて釘を刺すが、本当に守るかは別である。
『ねー、配信でお金稼げたら通販だって使えるし』
「切るぞ」
『えー、もうちょっと話した』
まだ話している途中だが強制的に通話を切った。
そして振り返って馬鹿二匹を見るが、チャーハンをめぐり喧嘩をしている。
前回の宝石の件で余計なことはしないと思いたいが、やりかねないだろうなと心の中で思いつつ、まあ面白いからいいかと好奇心もある事は隠さない。
とりあえず、チャーハンは全部食われそうなので自分の分はステーキでも作って食おうと冷蔵庫を漁るのであった。
後で肉が良かったとキレる二匹の事は考えずに。
感想をいただけると励みになります。