宮本武蔵の子孫が行くDr.STONE   作:全智一皆

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宮本武流の成れ始め・壱

 

 

■  ■

 宮本武流が、科学王国へと入ったその日。

 

「千空―――あの男は、危険だ」

 

 石神千空のラボで、コハクは彼に断言した。

 宮本武流。彼は、危険な人物であると。

 

「奴の剣…あれは、“殺す”剣だ。手加減も容赦も、あの男には存在しない。眼の前に立つ敵を一切として斬り捨てる」

「んなこたぁ分かってんだよ。俺だって困ってんだ…」

 

 過剰戦力も良いところだ。それがたった一人で言えてしまうというのだから、何と恐ろしい。

 千空は決して冷酷ではない。合理的思考に基づいてこそいるものの、彼は人間としての情熱も善意ある心優しい青年だ。

 そんな彼にとって、宮本武流はマグマ以上に扱い難いカードであり、手綱を握らなければならない存在だ。

 目にした瞬間、千空も理解した。

 

「宮本武流―――彼奴は、生まれる時代を間違えた」

 

 あれは、戦国の世を生きるべきだった人間だ。

 決して現代の様な平和な世界に―――法の下による自由が通常の世界に生まれるべき人間ではなかったのだ。

 この世界にこそ、法なんて無い自由自在のストーンワールドでこそ、宮本武流は戦場と剣という二つを得て活き活きとしていられる。

 宮本武流が宮本武流として生きていける世界で再誕した彼は、最も強く、最も危険だ。

 

「想像以上にアイツはやべー…日本刀だけで手綱を握れる程に、お優しい相手じゃねぇ」

「奴が味方として居るのは心強いが…同時に、敵に回った時は最も恐ろしい」

「そうだ。だからそうならない為の手綱が必要なんだが…」

 

「なら武器一式が欲しいのだが」

 

 突如、虚空から発せられる声に二人は揃って飛び上がり、二人して抱き着く様にざざっと仰け反る。

 其処に居たのは、件の男。

 青い和服に身を包み、腰に二本の刀を差した一房髪の男―――即ち、宮本武流である。

 

「いい、いきなり後ろに立つんじゃねぇよ! びっくりすんだろーが!」

「む、それは済まなかった。何やら俺の事で話していた様なのでな」

「み、宮本武流、貴様…剣だけでなく気配を消すのも並外れているな…」

「無論だ。武芸百般、強者こそ万に通ず。俺の先祖は剣士でこそあったが、同時に兵法家でもあったのだ。なればこそ、俺もあらゆる武を修めんと尽力せねば恥だと思ってな」

「ぶげい…? へいほう…?」

 

 聞き慣れない言葉に、首を傾げるコハク。

 そんなコハクに、何故首を傾げるのか分からないといった顔をする武流。

 武流は知らぬのだ。彼女が現代から蘇った人間ではなく、このストーンワールドを生きていた人間であった事を。

 

「あー…武芸百般ってのはあらゆる武に通じてるって意味だ」

「なるほど。では、へいほう…というのは?」

「兵法というのは、戦略や戦術などの意味だ。兵法家とは、戦略や戦術を他者に説く者の事だ」

「ふむ…千空から教えてもらってはいたが、お前の先祖は中々に化け物なのだな…」

「戦国時代辺りを生きてた人間は皆揃ってバケモンだっつーの。体力も体の作りも現代の俺等とは比べもんになんねーんだよ」

「その中でも俺の祖父は普通な方だろう。実際に見た訳ではないが、柳生但馬守宗矩は一太刀で三人を斬り伏せたと聞く」

「百人を相手にして生き残ってるお前の先祖も大概だっつーの」

「さてな。それはそれとして、俺の手綱の件だが」

「あ? あー…武器一式だっけか?」

 

 日本刀が二つも手に入っているというのに、これ以上何を欲するつもりだテメー…という言葉は置いておいて。

 

「薙刀、苦無、手裏剣、鎌。あとは…仕掛け武器も欲しいな」

「多い多い! 注文が多いわ! 今でさえやらなきゃならん仕事が沢山だっつーの!」

「ならそれが終わってからでも良い。勿論、仲間になった以上は、俺もお前達に認められる様に働くつもりだ」

 

 宮本武流にとって、この科学王国はまさしく極楽の場。天国と言っても差し支えない場所である。

 彼は武器を愛し、戦いを愛する。剣士としての研鑽をする上で、司帝国は良い場所でこそあったが、しかしそれだけでしかなかった。

 ただ研鑽を積むだけであるなら、ただ剣を振るうだけならば、誰にでも出来る。何処でも出来る。

 だが、剣を振るうのならそれ相応の剣が必要だ。

 ただの木の棒を振るったところで、其処らで拾った木の棒を少し加工しただけの木刀を振るったところで、それには何の意味もない。

 それが確かな匠の代物であるからこそ、武器は意味を持ち、価値を持つ。熱意と真心が込められない武器など、それはただの道具でしかない。

 特に、彼にとって剣とは必要不可欠なものだ。それが真剣であるか木刀であるかなど、些細な事でしかない。

 熱意と真心が込められた武器。それがあれば、それだけで充分なのだ。

 

「居場所というのは大切なものだろう。誰かに仕えるというのも、中々悪くない」

「誰かに仕えられるとか似合わねーっての。まぁ、働く意思があるってんのはありがてぇ話しだがな」

「むむ…良い奴か悪い奴か、皆目見当が付かんぞ、宮本武流…」

「ふっ、それを本人を前に言うか。中々度胸があるな、コハク」

「気ぃ付けろー、そいつ外見だけは美少女だが中身はメスライオンだかんなー」

「やなり失礼だな、君は! あと、何度も言うが私はメスライオンじゃない!」

「ふむ…言い得て妙だな。まぁ、実際の雌獅子は鬣など持っていないがな」

「君まで私をメスライオン呼ばわりか!?」

「悪口のつもりではなく、褒め言葉としてのだがな。事実、君の強さは獅子にも匹敵しよう」

 

 女性でありながら、一切の苦もなく刀を振れる膂力。

 木々や岩岩が並ぶこの世界を、軽々と行き来する事が出来る身軽さ。

 実戦を前にして、恐怖を抱かず前線へと走れる胆力。

 宮本武流から見ても、コハクという少女は強者と呼ぶに相応しい存在だ。

 戦い方、正確に言うならば剣技はいまいちだが―――それは、誰かに教われば良いだけの話しだ。

 

(彼女は二刀流…それでいて、一つの戦い方に囚われない自由な発想も持っている。もしかすれば―――二天一流を扱える剣士となるやもしれんな)

 

 いつか彼女が自分を師事するかもしれない―――そんな時が来たなら。

 二天一流、宮本武流として出来る限りの教えを授けてみよう。誰かに師事されるというのも、また人生というやつだろう。

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