ある日、少女を庇ってトラックに轢かれた少年は女神の頼みで世界を救う旅に出る事に


これはその女神の話

企画物です

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短編 転生女神の休日 〜魔法を使うたびに崩れていく大陸〜

 其所は遥か上空に浮く不思議で神聖な空気漂う場所であった。

 

 大理石造りの柱に囲まれた礼拝堂の周囲には壁は存在せず、地平線の彼方まで透き通る様な青空が広がっている。

 地上を見下ろせば広がるのは目を奪われる程に美しい大森林。

 

 

 

 その様な場所に戸惑った様子で立ち尽くすのは黒髪の少年、服装は平凡だが体つきは細身ながら鍛え上げられ、自分では平凡と思いながらも端から見れば整っていると評価する者がクラスにいそうな程の顔立ち。

 

「俺は確かトラックに牽かれそうな女の子を助けてそのまま……」

 

 これまでの人生で訪れた事はおろか、テレビでさえ見た覚えの無い不思議な空間に自分が居る訳が分からずに混乱し、戸惑いながらも回想するのは事前の出来事の記憶。

 友人との待ち合わせに遅れ、慌てて向かっていた時に耳に届いた悲鳴に目を向ければ見覚えはあるが話した事は無いクラスメイトの女子が横断でもしようとしたのか道路中央で棒立ちになり、トラックが其所に突っ込もうとしている光景を目にした時、気が付けば体が勝手に動いて彼女を突き飛ばしていた。

 

 それから衝撃に備えて思わず目を閉じた、それで記憶は途切れている。

 

 

 

 

「此処って天国って奴なのか?」

 

「いいえ、貴方が行くべき場所は其所ではありません。選ばれし勇者よ」

 

 

 

 戸惑いながら呟いた時、耳にするだけで心が洗われる様な美しい声に耳を奪われ、思わず声のする方を見た少年は一瞬で目を奪われた。

 そよ風に靡く金髪に額を飾る銀のサークレット、純白のドレスは大きく胸元が開いていて男の悲しいサガから少年は一瞬視線を注いでしまう。

 

 

『私は女神アマテミス。選ばれし勇者よ。どうか私の世界をお救い下さいませ』

 

「え? 俺が勇者……?」

 

 人間離れした美しさは今の場所も合わさって目の前の女性が女神であると証明するのには十分で、少年はアマテミスの言葉を受け入れながらも戸惑い聞き返す。

 まるで小説やアニメの様だと頭の隅で考える少年だが、思考の殆どを占めるのは目の前の美しい女神の事、死んだ事や残された人達についてさえ殆ど忘れ掛けていた。

 

 その様に少年が女神に目と心を奪われる中、彼女が横に手を伸ばすと地球とは全く違うが自然溢れる星が立体映像として映し出された。

 

 

『此処が私が守る世界”ロレシアン”。希望と愛の溢れる自慢の世界でした。ですが、異世界より現れた魔王によって多くの血と涙が流れています。魔王に対抗出来るのは同じく異世界から訪れし気高き精神の持ち主だけ! どうか! どうかロレシアンをお救い下さい!』

 

 女神の涙ながらの訴えに少年はそれを受け入れ、世界より無限の魔力を引き出す力を与えられてロレシアンへと向かう事になる。

 これは平凡な少年が女神の願いによって異世界に降り立ち、多くの仲間と苦難辛苦の旅の末に魔王を打ち倒す王道ファンタジー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……あ~、しんどい。猫被って演技するって本当に疲れるわぁ。酒でも飲もうっと』

 

 ……ではなく、その勇者を異世界に送った女神の姿を描いた舞台裏の物語である。

 

 

 

 

『あのガキ、初対面の女神の胸をじろじろ見やがって腹立つわぁ~』

 

 女神さえも駄目にしそうなクッションを取り出して座り込んだ私は葉巻に火を付けて暫し堪能した後で煙を吹き出すんだけれど、女神のイメージの問題で職務中に喫煙不可能ってのはパワハラだと思うわよ、寧ろ絶対にパワハラ。

 

『まあ、相手は私を作り出した神だから訴えるとか無理なんだけれど。くたばれば良いのに、彼奴』

 

 愚痴を呟きながら指を鳴らせば私の周囲に多くのシャボン玉が現れて、その中には世界が広がっている。

 この全てが私が管理している……正確に言うなら管理を胡散臭い神から任されている実験用世界。

 

 

 そう、この私、女神アマテミスは人間を異世界に転生させるというシチュエーションの為だけに存在する転生女神なのよ。

 

 何処の誰が見ても胡散臭いし、本人もそれを誤魔化す気はないけれど、私が知っているだけで億単位の世界を管理して、犬を杖にしたり特撮や魔法少女物をごちゃごちゃにしたりと力だけは凄いし神だと一目で理解するある神は私を作り出した時にこう告げた。

 

 

『女神による転生や管理ってシチュエーションの実験がしたかったからね。女装するよりも女神を作り出す方が時間もコストも軽いし、五百程の世界を任せたよ』

 

 まあ、初対面からこんな感じだったし、私の扱いは勿論悪い。

 

 

 

『やっば。この前魔王として召喚された女の子に言語理解を付けるの忘れてた。……まあ、神様がミスするって話は好きなんだし、人間って』

 

 だから別に良いかと、事情も分からず化け物の巣窟に放り込まれて混乱する子を一瞥しただけで別の世界に意識を切り替え、ワインを瓶から直飲みしていると世界の一つが弾け飛ぶ。

 

 

『ぶっふぅううううううううっ!?』

 

 そりゃまあ、盛大にワインを吹き出したわよ、文句有る?

 女神だろうと喫煙も飲酒もするし、管理している世界が弾け飛んだら驚くってもんじゃないの。

 

 えっ? うぇ!? 何、何が起きたのよ、ってな感じで私は驚きながらも世界の破片に指先を当てて何があったのかを調べる。

 結果、仕事のミスが発覚。

 

 

『やっべぇえええええええええっ!? チート衰えさせるの忘れてたぁあああああっ!?』

 

 さっき崩壊したのは第二百三番世界で、神のミスって設定で人間を一人送り込んだんだったけれど、実験の本番はその人間が世界を救ってから数百年後、その子孫が観察対象……だったんだけれど。

 

 渡したチートは魔法関係と肉体強化、簡単に説明するなら『異世界で無敵』とか『最強無双』とか『チート賢者』とかタイトルに付けられるパターンの強さだったんだけれど、その人間が年取ってボケちゃった。

 

 加減とか出来ないボケ老人がパニックを起こして魔法を連発、影響で大災害まで引き起こした結果、見事に世界は崩壊、生命全滅ってな訳よ。

 

 本来は年取ったらチートだって衰える予定だったけど、設定ミスしたわぁ~。

 

 

『って、このままじゃ不味いわよね? 被害が大きくなり過ぎるもの』

 

 

 管理する世界で誰が死のうが何人死のうが私には興味もないし関係も無いんだけれど、あの糞上司に知られれば休日返上で働く事になる。

 

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 

 こんな趣味じゃないドレスとかアクセじゃなく、お気に入りのジャージを着てベッドに寝転がりながらお菓子を食べてお酒を飲む、そんな私に理想の休日がこんなミスで台無しになるなんて間違っているわ!

 

 

『時間を戻す?』

 

 ちょっと世界丸ごとは無理ね。

 

『似たのを作って誤魔化す?』

 

 これも無理。時間が足りない。

 

『正直に話して許しを乞う?』

 

 はっ! 無理に決まってるじゃない。

 

 

『お酒片手に漫画を読みながら設定しなきゃこんな事には。まあ、適当に知らぬ存ぜぬで誤魔化して休日まで時間稼ぎを……うげっ!?』

 

 空に輝く金色の文字、『一から世界を作り直し。終わるまで休日延期』

 

 あっ、終わった……。

 

 

 私の休みは遥か彼方に遠ざかり、その場で崩れ落ちる。

 

 

 今夜はやけ酒ね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『終わった、本当に今度こそ全部終わった』

 

 あの後、適当に仕事をして来たツケが回って来たとばかりに見付かる問題問題、また問題。

 

 貧弱スキルが使い方次第で凄く有能になるってパターンじゃ同類のスキル持ちが真似をしたり教えられたりで戦力バランスがおかしくなるし、パーティーから追放される筈だった有能な奴は事前の後釜に対する審査で有能だって認められるし、その辺が起きなくなる為の洗脳を忘れていたばっかりに驚異の九百連勤追加!

 

 神だから死なないけれど、精神は死にましたぁって感じで漸く訪れた休日を別荘で寛ぐ。

 

 

 

 

『あ~、極楽極楽。まあ、此処って天国だけれど』

 

 私がジャージ姿で寛ぐのは例のスケベ小僧を送り込んだロレシアンの空に浮かぶ浮遊大陸、世界に存在する魔力で構成された此処は私の許しが無いと誰も入れない。

 つまり食っちゃ寝し放題!

 

 

 ただ、ちょっと気になる事もあるのよね。

 

 

 

『今日は随分と派手にやってるわよね』

 

 この世界の魔力で構成されている以上、魔力の消費過剰でこの大陸は崩れてしまう。

 今日だって少しだけ端の方がパラパラと崩れていっているけれど……まあ、其所まで心配する必要がある訳でも無いし。

 

 

 

 

 

『次の魔力供給日までに毎日大規模な魔法を使い続けなければ平気でしょ。じゃあ、三年くらい少し寝ましょうっと……』

 

 それにしても例の餓鬼は笑えるわよね。

 力を与えて送り出すなら警官や軍人を選ぶっての、せめて少年兵でしょ、一般人に期待するかっての。

 

 

 ゲラゲラと嘲笑いつつ私は眠りに落ちて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魚すら自分の手で殺した事が無いのに、モンスターだろうと剣で殺すとか無理だよなあ、普通。相手の姿が見えず断末魔の叫びも聞こえない広範囲高威力の魔法を連発するのって最高。生き物を傷付けてるって自覚が無くて済むからね」

 

 

 まあ、一般人の反応ならこうなる訳で、別荘が完全崩壊寸前に気が付いて休日に働く事になるのは少し後の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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