アサルトリリィ~円環の赫星~   作:ですティニー

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前回のあらすじ:見せ場は用意したけどそれはそうとこうなっちゃったら曇るよねと駆け付ける仲間たちと。
納得出来る理由付けに尺を大分持ってかれて、また話が一話に収まりませんでした(懺悔)
ともかく、まだまだ足掻き続けるのみ…
あ、ちなみにタグのひとつがまた仕事します。どこからお借りしたかは、やっぱり今回も後書きへ。


繋がる未来へ

「ヒュウ、流石だねぇ雨嘉ちゃん!」

 

 口笛を吹きながら見上げるのは、撤退途中マギの足場の上を走る私と結梨ちゃんの間、その上空を駆け抜けるマギスフィア。向こうの皆が何をしたのか普段見るそれより大分大きく見える以上、威力も相応に膨れ上がっていると考えるべきだろう。

 

「結梨ちゃん、もうちょっと張り切って……結梨ちゃん?」

 

 ならばとスピードを上げるように伝えようとして右を向いても、そこにいるべき姿はなく速度を上げすぎてたかと振り向けば、急に力が抜けたように結梨ちゃんの身体がフラっと揺れたと思うと、そのまま足を踏み外して──

 

「あ、れ……?」

 

「っ……ちぃっ、こんな時に限って!」

 

 咄嗟にアンカーを飛ばそうと右腕を突き出しても、その手首に本来はまっているブレスレット(アンカーガン)は今は夢結に預けてしまっているし、左のでやろうにも今更間に合わない。お互い利き腕の方がいいだろうって選んだのが裏目に出たか!

 

「あーもうどうにでもなれ!」

 

 そのまま結梨ちゃんが海の中へ落ちてしまうのなら、放ってなどおけない訳で。思考する時間すら無駄と追うように私も飛び込むしかない。

 

◇◇◇

 

 ガンシップ機内、海上に出て少しして、席を立ちながら鶴紗が口を開く。その相手は──

 

「御台場女学校の川村楪様、でしたよね」

 

「ん? そうだけど」

 

 到着してすぐに名乗りはしたのだから、特に変なことでもない。元より有名人だ、というのもこの際自意識過剰ということもないだろうし、そういった部分で知られているのも声を掛けられた理由なのだろう。

 

「あなたと楓、そして葵の三人にお願いがあります」

 

「わたしも?」

 

「まあ、そんなことだろうとは思いましたわ」

 

 『レジスタ』持ちな楓、一葉、叶星の三人はともかく、それ以外探索へ有効そうなスキル持ち──特に視力強化な『天の秤目』持ちな雨嘉辺りを乗せずとも大丈夫だと楓が判断したのも、鶴紗が同乗を言い出した時点でこの展開を読めていたからだし、彼女が言い出さずとも組み慣れた葵と自分が揃っているのなら、いくらでもやりようはあるはずだというのもあった。

 

「『ファンタズム』持ちと、リンカーを……?」

 

「……そういうことかしら」

 

 そんな様子を見てリーダーコンビも何かを察しているようだが、残る一人、佳世もまた別の事実に気付いてしまう。

 

「あれ、流れで戻ってきたはいいけど、わたしってもしかしてここでやれることがないのでは……?」

 

 自分のレアスキルはよりによって戦闘特化の『ルナティックトランサー』で、他に何か役立つサブスキルを持っている訳でもない。こんなの控え目に言っても足手纏いでは……などと頭を抱えたところで、操縦席から呼ぶ声が聞こえる。

 

「なら、こっち手伝ってもらってもいいですか?」

 

「あ、はい!」

 

 この際雑用でもなんだって構わない、意気込んで飛び出したくせにやれたことがリリィオタクの輪を広げただけなんて、悪友と呼べる間柄な某銭ゲバに知られたらなんと言われることやら……ともかく助手席に座ると、指差される計器を確認。

 

「ええと、レーダーですか?」

 

「そこのボタンでマギ探知に切り替わります。今はまだ戦闘直後で荒れてますけど、少しすれば落ち着くはずなんで」

 

 なるほど、確かにギガント級とたった二人で渡り合うレベルのリリィともなれば、海面近くまで浮かんで来れば十分な反応になるはずだろう。もっとも、そこまで息が保てばという問題もあるが……それについては最悪二人が手持ちのCHARMを落とすかそのコアが破損していても、指輪さえ無事ならマギによる補助でしばらくは耐えられると、緊急時の対応のひとつとしてルド女でも教わってはいるのだから、今はそれを信じるしかない。

 

「それで、何をするつもりかは大体察しはついてるけど、一応聞いておくよ」

 

「葵のファンタズムを、わたしに『テスタメント』とリンカーの力で繋げて欲しいんです」

 

 〈リンカー〉──特定のスキルの組み合わせを一人が持つことにより、ファンタズム持ちの視た未来を他の仲間へ伝えやすくする役割を持てるリリィのことだが、そのスキル構成の一例としてテスタメントやレジスタをレアスキルに持ち、ファンタズムのサブスキルな『虹の軌跡』保有者でもある。というパターンがあるが、楪と楓がそれぞれを満たしているのは有名人同士気付いていても、それが現実的な手かは半信半疑といったところ。

 

「恐らく先程の梅様と雪華様のを見て思い付いたんでしょうけれど、あれはあくまで物理法則へ干渉する『縮地』とそのサブスキルな『インビジブルワン』だからこそで、幻想的な領域へ手を伸ばすファンタズムでも同じようにやれる保証は、どこにもありませんのよ?」

 

「それに、万一上手く行っても、その分深く未来を視るってことだから……」

 

 ファンタズムで『視る』未来とは、決して理想的な物ばかりではない……というのはサブスキルの場合もさして変わらないのだから、鶴紗以外の三人が危惧するのはその範囲を無理矢理広げることによるリスクのこと。

 例えば仲間や自身の死だったり、他にも作戦の失敗や被害の拡大など、時に求める未来への道筋以外にも多くの可能性が視えることもあるのだから、咄嗟に未来を視たはいいが避けられない絶望を知るだけに終わる……というのは危機的な状況程陥りやすい結果だ。

 

「分かってる、でも多分あの子は……結梨は『私』と同じなんだ。自分は周りの皆と違うからって、一人で全部背負い込んで……けど、自分なんてどうなってもいいってつもりで動いてたわたしと違って、そのままじゃどうなるかってことを結梨はまだ何も分かってない。あの子は()()()()な子だから」

 

 そこで言葉を切ると、一言一言噛み締めるように鶴紗は続きを吐き出す。

 

「でもそんなことはないって、本当は皆と何も変わらないんだって、これからわたしたちが伝えていかなきゃいけないの。『わたし』も、梨璃にそうして貰ったから、だから……だからその()()()()を掴むために、わたしに力を貸してください」

 

 静かに、しかし確かな熱を感じさせる語り口で話し終え、頭を下げる鶴紗に異論を唱えられる者は機内にはいない。楓は実際に彼女が梨璃に救われるまでの流れを整えた立役者の一人であったし、他のメンバーも大なり小なり複雑な事情を抱えたリリィとの交流はあるのだから。

 

 当人がリスクを承知で動くのならば、後は実行に移すだけとなるが、それでも楪はこの作戦に参加する中で唯一の先輩として、言わなければならないことがあった。

 

「あの結梨って子をどうしても助けたい、ってのはよーく伝わった。けどひとつだけ約束してもらうよ、それであんたが潰れちゃ元も子もない……限界と判断したらテスタメントは切る、二度目もなしだ。いいね?」

 

「……分かり、ました」

 

 強化リリィ特有の自身のことを省みず無茶する癖は、やる前から見抜かれている。あるいはあの夢結の後輩だから、という読みもあったのかもしれないが。

 

「大丈夫だって、わたしのファンタズムも使うってことは、多分こっちからもサポート出来ると思うし。ね、楓?」

 

「リンカーとして繋ぐのとテスタメントで重ねるのとではまた感覚が違うとは思いますが、試してみる価値はありますわ」

 

 あくまでテレパス越しに中継を務めるだけと、同種のスキルを重ねる行為の差は実際にやってみないことには分からないが、一応の前例として梅と雪華が結梨を追うために見せたものがあるのだから、あれを見る限り制御出来るかは自分たちの実力次第だろう。

 

「さてと、じゃあ始めるよ」

 

「はい……!」

 

─ファンタズム─

─テスタメント─

─ファンタズム─

 

 始まった──そう身構えているとまず目についた未来で、海の上を駆ける影が視えた。

 

──結梨も、リリィになるんだ!

 

 聞こえた結梨の独白。しかしその後は雪華が追い掛けて来ずヒュージに単身挑もうとしていること以外はほぼ先程の光景と同じ……未来を視たにしてはおかしい、焼き直しのようなビジョンにこれは違うかと鶴紗は意識を外す。

 

(いや、そもそもなんでさっき倒されたはずのヒュージが未来に……?)

 

 そんなズレに違和感を抱くのは数瞬、次に視えたのは……

 

──わたし、できたよ

 

──何も、よくないでしょうが!!

 

 結梨のCHARMを壊す程のイレギュラーな一撃が邪魔されず、そのままギガント級を両断したはいいがヒュージの爆発に満足したように巻き込まれようとしたところを、ライザーも無事な全CHARMによる全力防御状態な雪華に庇われた様子。

 

(また、微妙に違う……? 次)

 

◆◆◆

 

『──────』

 

(み……す……?)

 

 何かに呼ばれたような感覚がして、気を失っていた。と気付いて目を開けば防御結界越し故に染みはしないとはいえぼんやりとした見え方から海の中、というのは間違いないだろう。

 飛び込んだ後海中で結梨ちゃんを直接捕まえるのは間に合わないと、流される前に私と彼女の周囲にフィールドを展開──したのまでは覚えているけど……ダメだ、気絶してる間の記憶なんてあるものか。

 

(状況確認……呼吸の補助はやれてる、ならまだマギは十分あると思っていい……)

 

 ともかく位置としては私の方が結梨ちゃんより海面に近かったはずだし、こうして生きているのなら二人してヒュージの爆発でお陀仏という最悪の事態だけは、なんとか避けられたと思っていいのだろうが……あの子を見失っていては、結局何も変わらない。

 

(ソードビット……感じ取れるのは二基。ならひとつは上で待機させて、目印代わりに)

 

 ヘッドセットのモニターも壊れたのか反応がなくとも、ビットを操作している時の少し思考を引っ張られる感覚は残っている──ならば使えるはずだと自分より上を漂っていたひとつへそのまま浮かぶよう命じて、近くに感じるもうひとつには海中を探索させようとすると、シールド裏のコアにルーンが明滅しているのに気付く。

 

(これ、結梨ちゃんの……呼んでる、こっち?)

 

 浮かんでいるのは私の物ではなく、結梨ちゃんのバインドルーン。先程のよく分からない状態がまだ続いているのか、ビットがひとりでに向きを変えるので、咄嗟にアンカーをリンクさせて物理的に引っ張られるようにする。

 

◆◆◆

 

「………………」

 

 その頃、海岸で瞳を閉じ顔の前で両手を重ね祈るようにしているリリィが一人──ノインヴェルトの時に起きた現象を夢結たちから聞いた依奈に梨璃が命じられたのは、探索には参加せずこの瞑想にも似た行為に集中するようにということ。

 

(多分、依奈様にはわたしのこの力(レアスキル)のことも分かったのかな?)

 

 流石は天下のアールヴヘイムの〈プランセス〉。なんて感心もほどほどに、自身の身体から力の広がるような不思議な感覚が続いていることから、恐らく自分のレアスキルはきちんと役割を果たしてくれているのだろうなぁと感じて、梨璃は未だ居所の知れない二人へ想いを馳せる。

 

(結梨ちゃん、雪華様……約束は、守ってもらうから)

 

 だから、今はただ与えられた役割を果たすのみ。祈りは、誓いに届くだろうと信じて。

 

◆◆◆

 

──キュイ──────ッ!!

 

──え……?

 

 今度の未来には「なんだこれ」とビジョンの中の結梨と同様、鶴紗も固まる。

 西洋の竜、ドラゴン──のようなヒュージだろうか、雪華に庇われた未来と同じようなシチュエーションで、彼女に変わって飛来したそれが結梨を飲み込み……いや、これは口内に彼女を保護、したのだろうか?

 

──死なせるもんか

 

 どうやら、周辺に響くように聞こえた声がその答えのようで、ともかくその発信源な竜は味方のようだ。鶴紗としても多分こいつになら任せて大丈夫だと、不思議とこの声の主に妙な信頼感があったが、今視るべき未来ではないと次へ。

 

──あー困ります困ってしまいますねぇ!

 

──店員?

 

 今度もまた雪華のポジションにいるのは、見知らぬ……いや、知ってる人だこれ。

 などとビジョンの中で乱入者に抱えられた結梨のポカーンとした反応につられながら確認すれば、購買部の店員、名札に「藤見」と書いてある赤ふちメガネの彼女が飛んだとしか形容出来ない勢いで駆け付けると、結梨がギガント級の爆発に巻き込まれないようお姫様だっこで助け、やはりとんでもない速さで離脱していた。

 

──常連客さんの娘さん(既成事実)なんていう将来の優良顧客をこんなところで失うわけにはいかないじゃないですかー困ってしまいますねぇ

 

 結梨の無事を確かめながらの口振りはなんともシャキッとしない感じではあるが、本当にそんな惚けた理由で海上まで駆け付けるなんてことは出来ないはずだから、恐らくは照れ隠しか何かなのだろう。

 

(確かに、百合ヶ丘で働いてるからにはリリィのOG辺りなんだろうけど、それでこんなにやれるの……?)

 

 先程のドラゴンの件といい色々ツッコみたいことはあるが、何度も倒されたはずなあのギガント級が出てくるおかしな光景に鶴紗が現実で首を傾げていると、残りの面々も同じようにしていて、楓は思わずといった様子で口を開く。

 

「わたくしたち、未来を視ているはず、ですわよね?」

 

「だと、思うんだけど……」

 

 それにしては過去の『もしも』の光景しか視えてこない、あるいは……という考えに至ったのは一人ではないようで──

 

「もしくはあのヒュージが出てくるの、もっと言えば今回の騒動自体、起きるのが遅かった未来もあった、とか……?」

 

「……多分、そういうことなんだと思います」

 

 楪の零したその答えに、言葉には出来ない部分で確信を持って鶴紗は頷く。とはいえその場合であろうと結梨は一人で突っ込み、他の誰かが彼女を追うという形に変わりはないようだが……それは、今知りたい未来ではない。

 

「そうなると、今度はもっと広げた方がいいのかなぁ」

 

「ですわね、鶴紗さんもそれでよろしくて?」

 

「うん」

 

 主導は自分になるのだから、と一応の確認にも鶴紗は迷わず頷くが。そんな中ツッコミをせずにはいられないのが一人。

 

「……ところで、百合ヶ丘ってあんな風にやれる人がわんさかいるの? いやさっきのドラゴンもよく分かんないけど」

 

「あ、わたしが敢えてスルーしたとこ聞くんですね?」

 

「あの店員さんだけが特別……とするにはわたくしたちが生まれる前の〈南極戦役〉帰りながら未だに現役時代同然の容姿らしい理事長の噂もありますから、恐らく少数ながらいなくはない、と思われますわ」

 

 既に老齢に差し掛かっている理事長代行の姉でありながらそのような噂のある、私立百合ヶ丘女学院の理事長『高松(たかまつ)祇恵良(しえら)』。

 彼女の存在を考えれば、そういった規格外の〈イレギュラー〉が他に集められていてもさして不思議ではない、というのが楪の疑問への答えになる。

 

「お、おう……」

 

「それとドラゴンの方は、存外可愛らしい声でしたし人間に変身出来るとかそういうタイプと思われますわ。ボーイッシュな格好とかフードを好んでそうですわね」

 

「なんで声だけでそこまで分かるの!?」

 

 なんか変な電波まで受信してしまっているが、脱線はここまでだと鶴紗がファンタズムを再開させれば、少なくとも悪くない未来は視れたと楓も意識を切り替える。

 

(よく分からない光景が続いたってことは、つまり、それだけ可能性が分岐しているってこと……なら、その中にひとつくらい、“今の先で二人が揃って助かる未来”だってあってもいい!!)

 

(それでいいと思うよ。信じる心が力になる、多分マギってそういう物だから……なーんて、雪華先輩なら言うと思うし)

 

 鶴紗の思考に割り込む声、それがいるとしたら今テスタメント越しに『繋がっている』葵だけだろうから、つられて現実で彼女の方を向けば視線が合い、黙って頷くとテレパスで想いを束ねる。

 

(余計な未来は『視』なくていいよ。全員無事で笑っていられる未来だけを望んで、その手に手繰り寄せて!)

 

(わたしの……わたしたちの望む未来は……)

 

 ただひたすらに、ひたむきに、『死』が少しでも過るビジョンや『今』と関係ないビジョンは即座に見切りを付けて、鶴紗の意識は暗く冷たい海の中のように感じる可能性の中を潜り続ける──そんな感覚がしばらく続くと、眩い光が目の前を過ったと思えば水底にたどり着いたようで、その向こう側からも光の差している、不思議な状態になる。

 

(これは……?)

 

(行って! 多分これで間違ってないから!)

 

 その間も救出対象のどちらかが欠けた、あるいは途中で鶴紗や陸に残った面々─主に二水やミリアム辺り─が力尽きるなど無数の失敗の未来やまた見知らぬ誰かの割り込むそれらを通り過ぎ、視えてくるのは──

 

◆◆◆

 

 ゆらり、ゆらりと、どこを漂っているのかも分からなくなってしばらくして、閉ざされたはずな結梨の視界に、ひとつの光が降ってくるのを感じる。

 

(なんだろう、これ? おおきくて、あったかい……)

 

 その光がそのままスッと結梨の体に入ってくると、視界こそ閉ざされたままだが少しだけ体の感覚が戻り、片腕だけは動かせるようになった。

 

(梨璃……?)

 

 ほんのりと、彼女に抱き締めてもらっていた時のラムネみたいな甘く優しい匂いがして、それに釣られて上か下かも分からない方へ、結梨がその腕を伸ばすと──

 

『どんな命でも、生きられるのなら生きたいでしょ?』

 

 誰かにその手を掴まれ、そんな言葉を投げ掛けられた。

 

◆◆◆

 

『むーっ、雪華誤魔化してる。それアニメの台詞だったでしょ』

 

 あ、流石にバレた。朝に好きなシーンだけまとめたやつ見せたのが仇となったか。

 ともかく深く潜りだしてすぐに、私を追い抜いて何かの光が先導するように上の方から降ってきたと追い掛けてみれば、その先に結梨ちゃんが私が貸したブリューナクを抱えたままいたのだからよしとしよう。

 

『気にしないの、大人しく助けられなさい。先輩としての命令よ』

 

『梅が言ってた。雪華がわざとらしく口調崩す時は、照れ隠しか都合の悪い時だって』

 

 ええいああ言えばこう言う。だーれがこんな子に育てた……私たちだよ。

 しかしこの感覚はなんなのか、水中だというのに頭に声が直接響く……4月の時、私と夢結と、そして梨璃ちゃんと夢結の間にも起きたらしいあの現象? とはいえいつまでも続くか分からん物にも頼れんと、私たち二人を覆うようにブレイザーからフィールドを展開、球状に空間を確保する。

 

「……本音を言うなら、これ以上目の前で仲間に死なれると他ならぬ私が困るから。そういうただのワガママ」

 

「ワガママ?」

 

 中等部の頃、班長の子に目の前で死なれた時の感覚は今でも覚えている……自分の腕の中で人が冷たいモノに変わるそれは二度と経験したくはないし、“あの子”や先輩たちみたいに知らないところでいつの間にか殺されてたなんてのも、もう勘弁だ。

 

「そ、困るというか……うん、自分が死ぬよりヤダ。は言い過ぎか、結局自分の命と他人の命を天秤にかけたら、自分を取っちゃうしかない臆病者が私だし」

 

 それでもギリギリまでは頑張るし、ギリギリまでは踏ん張りたい。それでもどうにもならなかったら、多分その時のために仲間がいるのだろう。

 

「臆病……じゃあわたしは、どうなんだろう?」

 

「んー……死ぬの、今でも嫌?」

 

「嫌。だけど、それで怖がってみんなを守れないのは……多分、もっと嫌なんだと思う」

 

 そうだろうね、だからこそさっきの無茶にも、文句なく付き合ってくれた。一柳結梨というリリィはそういう優しい子だ……けど、優しい()()綺麗な()()だからこそ、その生き方は途轍もなく脆くて危うい。

 

「そっか、ならあなたは死後勇敢な子だったって、立派なリリィだったって讃えられるでしょう。だからこそ誰一人として救われないって、私には認められないけど」

 

「雪華、またなんか難しいこと言ってるフリしてる」

 

 仕方ない。どっかのバカ(美鈴)の癖が移ったか、根本的に似た者同士だったのかだろうし。

 けど、結局人はそういう風になんでもかんでも綺麗な言葉で一括りにして片してしまうから、そこで失われるモノの本当の重さに気付かない。命懸けと命を捨てることを混同して、後者ばかりを美徳と称えてしまう愚かしさは、今に始まったことじゃないから。

 

「それに夢結も言ってたでしょ、残されるのも嫌なんだって。自己犠牲なんていくら言葉で着飾っても、決して良いことだけを残すんじゃない……死んでも尚消えない程綺麗なだけの想いってのは、いっそ淀んだ怨嗟の声よりタチ悪く生者を締め付けて、決してその手を離さないから」

 

「…………?」

 

 ……少し言い方が変な方に向いてきた気がする。高三だろうが未だ厨二な病は卒業できてないです、はい。

 

「ごめん、変になってた。簡単に言うなら、悪意でやったことは放っておけばいずれ投げた本人に跳ね返る……けど、よかれと思って遺された想いは気付いてしまったが最後、一生背負い続けるしかなくなるのよ。地獄への道を舗装するのは、ほとんど後者の積み重ね……ってところ」

 

 そこで区切ると、他に聞いている相手もいないのだし頭の中で躊躇った言葉を改めて捻り出す。

 

「つまりは、戻れなくなるんだよ。身の丈以上に、色々背負いすぎるとさ」

 

「雪華は、もう戻れないの?」

 

「──多分ね。だからこれ以上は背負えない、背負わせないで……そういう個人的な理由。そこに善もなく悪もない、単なる小さなエゴイスト。それが私ってヒトの、成れの果て」

 

 所詮はそういう自分の中の理屈に従っただけ。世の道理など知ったことか、私のこの手は誰かと未来を繋ぐためにある……その伸ばす先は、私自身で決めるだけだ。

 

「うん、なんだかんだ言ったけど、一番は結梨ちゃんに生きていて欲しいから。多分それだけなんだと思う」

 

「なら最初っからそう言えばいいのに。変な雪華」

 

「その匂いとやらで分かってるでしょ? 私はそこまで簡単に素直になれないやつだって」

 

 結局行き着く答えは私が面倒くさいやつである、というだけの話。感情任せに誰かを助けることさえも、理屈に理屈を重ねて真っ直ぐに行けない臆病なヒト、それが私。

 

「これも多分一番表の……んー、感情の方向性? くらいしかわかんないから、雪華みたいに自分で自分を騙して『私はこうなんだ』って気持ちに蓋されちゃってると、言ってくれなきゃわからないよ?」

 

 ちょこんと私が指で押した鼻を押さえながらな結梨ちゃんの返しには、図星なのもあって逃げるように話を逸らすしか出来ない。

 

「なるほど? まあその方がいいんじゃないかな。一々会う人会う人の本心全部分かっちゃってたら、未来永劫ヒトなんてめんどくさい生き物、好きになれるはずないんだから」

 

「そうかなぁ? 結梨は梨璃もみんなも大好きだけど」

 

 そう言ってくれるのは嬉しいけど、その結果が特攻隊なのはいただけない……まあ、そこら辺はこれから皆でちゃんと教えて行けばいいか。

 

「なら、その皆のところへ帰ろっか。多分目を腫らして待ってるよ」

 

「……うん!」

 

 さて、上に浮かぶとなるとまたビットを飛ばしてアンカーで……ん? なんか妙に視界が傾いて──

 

「あ、ヤバ。マギ切れそう」

 

「えっ」

 

なんでこんな時に限って久しく陥ってないそれに……あっ、フィールドも解けがぼぼぼぼぼぼ……」

 

(ええい、絶対ファーストだろうけど……ごめん!)

 

(んむっ……)

 

◆◆◆

 

「ちょ、ちょっとビット沈んだんですけど!? そ、操縦士さん急いで急いで!」

 

「い、言われなくてもやってますってば!?」

 

 何やら操縦席の方が騒がしい──目が覚めた鶴紗の最初の感想はそれだった。ファンタズムを使いすぎた反動かいつの間にか気を失っていた間に、いったい何があったというのか。

 

「……どうしたの?」

 

「あ、起きたんだ。いや、それが雪華先輩のビットが浮かんできたと思ったらすぐに海に沈んじゃって、佳世ちゃんが大慌てで操縦士さんを急かしてる」

 

「それはさっき『視た』でしょ……とにかくその辺りを探せば二人は見付かる、はず」

 

 まだかなり頭は痛むが、少なくとも鶴紗が葵と繋がって視たビジョンは間違いなく二人の生還を示していた。それだけは確信して体を起こしながら葵へ伝え終えたら、その隣にいた楓に捕まり、また横向きに寝かされる。

 

「……わたしは平気だから」

 

「それでもですわ。今回は誰一人欠けても、その時点でわたくしたちの負けなんですのよ? ご自愛下さいな」

 

 言いたいことは分かる。こんな身勝手な大人の暴走で一人でもリリィ側に犠牲者が出れば、それは世界という巨大な悪意を前に屈したことに他ならない。だから鶴紗が強化リリィだろうがなんだろうが、一度倒れた以上もう無茶は許されないだろうというのも。

 

「分かった……見付かったら起こして、とりあえず雪華様(あの人)にはいくつか言いたいことがある」

 

「そもそもは結梨さんを助けようとこうなったのですから、多少の手心は加えて差し上げてもよろしいのでは?」

 

「それでも、命を投げ出して助けられたってわたしたちは喜ばないって分からせないと、あの二人は絶対にまた同じこと繰り返すでしょ」

 

 もう少し穏便に済ませるのかと思えば、相変わらずCHARMを物理的に投げ捨て自身もボロボロになっている。それに結梨まで付き合わせたのだから、文句のひとつやふたつは出てくるのだ。

 

◆◆◆

 

「二水ちゃん、さっきのって……?」

 

「多分、そういうことなんだと思います!」

 

 浜辺から捜索していた面子にも、二人がガンシップに回収されるまでの光景は楪のテスタメントで確かに伝えられた。直後に鶴紗が力尽きたのもあってかビジョン自体は短くとも、あの小島の近くであるのが分かれば後は早い。そのために人数を集めているのだから、梨璃と二水の確認するような会話を聞く間に他の面々はもう視界を動かしている。

 

「……いた、少し左の方!」

 

 ビットが沈んでしばらくして、いくらかズレた辺りに現れた気泡から何かが浮かび上がろうとしていると天葉が叫べば、次々と集まる視野の中、雪華のシールドに胴体を引っ掛けられて浮いてくる結梨と──

 

「んあ? ……のう二水」

 

「あー、はい。見えてます? 鶴紗さん」

 

『……うん』

 

 ──雪華、の姿が見えたのだが。ミリアム、二水、鶴紗といった今朝彼女たちと同席していた面々の間に、なんとも言えない空気が漂う。

 その理由である雪華の有り様だが、海面で脱力したように手足を投げ出し、うつ伏せに浮いて……朝に見た彼女の好きなシーンを寄せ集めた中にあった、とあるアニメの主人公のようになっていたから。

 

 

 

つづく。




デデン!
それはそうと今回も他所様のキャラというかシーンごとお借りしたので、ここに感謝とリンクをば。

ぽけーさんの小説
もし百合ヶ丘の売店に「よく困ったことに巻き込まれる店員」がいたら
https://syosetu.org/novel/259308/
より実はとんでもなく強い店員さん再び。と

サク&いずみーるさんの小説
転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!?
https://syosetu.org/novel/271141/
よりアルン君ちゃん(誤字った訳ではない)をそれぞれお借りしました。どっちも該当シーンまで見てね!
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