自分を上条当麻の彼女だと思い込んでる精神異常者と、記憶喪失故にそれを回避できない不幸な少年 作:名も無き二次創作家
異常者→御坂美琴→食蜂操祈の順で視点が変わり申す。
ご注意ください。
8月21日、夏休み後半。
私は学校に補習しに行った当麻を正門まで送って、その後街の散策をしていた。
この街に長く住んでいる私としてはなんてことの無い街並みだが、人間には『記憶』というものがある。
誰かと過ごした記憶。
なにかをした記憶。
そういう物があると、景色単体では得られない感情がその人の心を揺さぶるのだと私は思う。
街並みを見て溢れてくる、当麻との記憶。
3年前に出会ったあの場所。
当麻が恥ずかしいと言うから、彼の同級生達から隠れて行った秘密のデート。
あそこのクレープを一緒に食べた。
あそこの銀行で一緒にお金を下ろした。
あそこのベンチで一緒に…………──────
「あれ」
思い出に浸っていたら、もう夕方だ。
そろそろ帰らないと
えっと、ここから私の家は…………家…………。
私の
同棲カップルの特権。その名も『現在地から近い方がその時の自分の家』理論。
「食材沢山買ったし、料理作って待ってよーっと」
遅い!!!!
え、遅すぎる。
これは、当麻を迎えにいかなけらばならないな。
彼女として!
「──ちょっとばっか響くぞ!」
ああ、いた。
ぼろぼろ当麻……と、女の子。
うん知ってた。
いつものやつだ。
アルビノっぽいひょろガリくんを殴り飛ばしたと同時に力尽きて倒れそうになる当麻に肩を貸して支える。
というか倒れてるアイツ、学園都市に7人しかいない超能力者の第一位『
よくみれば女の子の方も名門常盤台中学の、しかも
またでっかいトラブルですか。
「なんでこんなことになってるのか知らないけど、取り敢えずお疲れ様」
経緯は知らないけど、また人助けしたことはわかる。
だったらねぎらいの言葉が最初だよね。
お叱りの言葉は目が覚めてからだ。
「ちょ、ちょっと! あんたどこから、てかそいつとどういう関係!?」
「彼女ですが、なにか」
寧ろあなたこそ私の彼氏とどういう関係???
◇◇
「はあ……」
なにも手につかない彼女が、学園敷地内のテーブルに頬杖をつきながら思い出すのは一連の事件。
過去、迂闊に提供した自分のDNAマップを悪用され、殺されるために作られた
自分のせいだ。
自分の迂闊さのせいであの子たちは殺されるためだけに生み出されてしまった。
人格を持ち、感情を持ち──そして痛みに対する、死に対する恐怖をちゃんと持っている、普通の人間と変わらないはずなのに諦めて受け入れてしまっていたあの子達。
学園都市にとってはただの実験動物として扱われ、その命を物のように消費されていた。
そんな地獄に彼女は抗った。
抗って、そして現実に叩きのめされた。
学園都市の闇は深い。
明らかな違法行為でも、価値を認められたその研究は理事会すらも黙認していた。
学園都市に7人しかいない
権力者に政治で対抗できるはずも無い。
警備員に通報しても握りつぶされる。
それならと実力行使で暴れたものの、最終的な壁は圧倒的実力差のある一方通行《アクセラレータ》。
学園都市に7人しかいない超能力者。
その揺るぎない頂天。
怪物。
そんな絶望的な状況で、もう駄目だと思って、ならば
──どかない
わかったんだ。実験を止める方法がわかったんだ
それなら、俺が戦えば良いんだろ
学園都市最強の
絶対に、絶対に連れて帰ってくるから
そいつらに、手を出すな!
思い出して、思い至る。
ああ、私ってあいつのこと、好きになちゃってたんだな……、と。
「でもあいつ、彼女持ちだったんだ……」
そのことに強いショックを受けた。
プライドが高く、初心。
そんな少女が恋心を自覚するには、本来もっと時間が必要だったのかもしれない。
だが、上条当麻の彼女を名乗る女が現れてから、否が応にも自覚せざるを得なかった。
「水、飲むかしら」
「ありがと」
ボーッとしていたところにふとペットボトルの差し入れをもらった。
素直に嬉しかった。
丁度喉が渇いていたところなのだ。
水分は、昨夜枯れるほど流した後だから。
蓋を開け、口を付けて──
「私の飲みかけでよければ、だけどぉ☆」
吹き出した。
◇◇
常盤台の敷地から出て、第七学区の道をずんずんと突き進むやたらと発育のいい中学生がいた。
ありえない。
ありえるはずが無い。
だって、あのときはそんな──、女の影なんて一切なかったはず。
と、心の中で強くそう思うと同時、ならばどうして? どこからその女は湧いてきた? という疑問が少女の中で浮き上がる。
その女が上条当麻のストーカーである可能性。
上条当麻本人が彼女として受け入れているらしいので却下される。
その女が上条当麻を何らかの能力で洗脳している可能性。
彼には能力が効かないので却下される。
少女にはわからない。
しかし、ありえないということはありえない。
実際に起きている現象なのだから。
よって、彼女の納得できない部分はそこでは無い。
上条当麻という男が、女と不幸を引き寄せる人間であることは
よって、そこは問題では無いのだ。
問題は「3年前から付き合っている」らしいことである。
上条当麻と食蜂操祈。
二人が知り合ったのは約1年前のこと。
あの頃の上条当麻に、女の気配はなかった。
正確に言うと、あの頃から「上条当麻を好きな女」はいたけれど、「上条当麻と付き合っている女」はいなかった。
矛盾だ。
彼女の記憶が正しければ、上条当麻に3年来の彼女がいるという御坂美琴の証言が嘘になる。
逆に。そう、『逆に』だ。
御坂美琴の証言が正しければ、
「もし本当に私の予想通りなら……。私の大切な思い出に手を出したこと、後悔させてあげるわ」
記憶の改竄。
その可能性があると彼女は踏んだのだ。
そして、見つけた。
「当麻はなににする? 私はこれー!」
「『決闘牧場特産 カツサンドドリンク』ぅ!? それ美味いのか……?」
「うーん、普通!」
「えぇ……」
「そんな当麻にお勧めなのは……この『ウィンナーソーセージ珈琲』か、こっちの『ヤシの実サイダー』かなあ」
「じゃあヤシの実サイダーで」
一般味覚人の強い味方、ヤシの実サイダー。
彼は今日もまた、一人の一般人を救っていた。
だがそんなことは少女にとってどうでも良い。
重要なのは上条当麻とじゃれている黒髪ロングの女なのだ。
清楚な雰囲気とは裏腹に、その身体はとても発育がいい。
太っているとか体格が良いとかでは無い。
寧ろ華奢で背も低い。
だが、デカイ。
ロリ巨乳、という表現が当てはまるだろう、犯罪的な魅力が詰まった男好きしそうな女だ。
同学年でありながら幼い体格。
女性らしい体付き。
しかも実際に上条当麻と付き合っており、御坂美琴曰く同棲してご飯を作ってあげているらしい。
なんで、どうしてと、少女の胸が締め付けられる。
彼女の記憶の中では、確かに彼は大人っぽい女性が好みだったはずなのだ。
発育は差が無いものの、身長は明らかに食蜂が勝っている。
どちらが大人っぽいかは火を見るより明らか。
「運命力って、残酷よねぇ……」
奇跡を願って、祈って、でもそれだけでは満足せず、徳を積んで、彼の理想の女性像に近づこうと努力した。
その結果がこれである。
物陰で膝を抱え、堪えるように振るえていた少女は、しかし潤んだ瞳を天に向けた。
思い出したのだ。
俯いている場合じゃ無いと。
そもそもあの何処の馬の骨ともわからない女には、自分の記憶を改竄した容疑があると。
だから覗いた。
記憶の読心
学園都市に7人しかいない超能力者が一人、食蜂操祈。
能力名は
学園都市最強の精神系能力者。
その力が女を捉えた。
瞬間。
「……なるほどね」
理解した。
記憶は過去から現在に連続して作られる。
最近のことを「思い出して」そこから昔のことを「思い出す」のは普通だ。
だが、最近の記憶を「作成」してから昔の記憶を「作成」することはありえない。
普通では無い。
つまり彼女は普通の状態では無い。
だが食蜂はこの状態を知っている。
覗いたことがある。
そう、この症状は──
「記憶の捏造……、いえ乱造かしら。重度の薬物中毒患者に希にみられる症状ねぇ。ただの精神異常では考えられない速度で記憶が作られているわぁ。外部刺激でおかしくなって……」
そこまで呟いて、記憶を二度見する。
記憶は写真では無い。
詳細に覚えるにしても限度があるし、薬物による精神異常で作られたまがい物の記憶ともなれば骨組みだけ、いや骨組みすらちゃんと残っているか怪しいくらいぼろぼろのスカスカになるはずである。
あれだけインパクトのあった『決闘牧場特産 カツサンドドリンク』の缶ジュースも、そのデザインを詳細に描いてみろと言われて描ける人間は普通いない。
にもかかわらず、詳細。
湧き上がる速度、数、そして一つ一つの情報量。
どれをとっても普通ではない。
学園都市の闇が生み出した新手のドラッグか。
はたまた彼女自身の能力か。
食蜂操祈がただの少女であればあるいは気がつかなかっただろう、直感。
それが「これはそんな単純な物では無い」と告げている。
背筋が薄ら寒くなるのを感じていた。
そういえば、と彼女は思い出す。
自分の能力で記憶を読心する際、妙な違和感を覚えたような気がするのだ。
危険だと、はやくこの女をどうにかしなければならないと本能が叫ぶ。
心臓が早鐘を打ち、思考が狭まり、手足が震え、背筋が曲がる。
消せ、消せ、消せ!
そう叫ぶ本能に従い、能力を行使した。
僅かに残った理性が、消すのは「上条当麻に関する記憶だけ」という条件を付けて、消した。
はずだった。
「え……?」
手応えはあった。
確かに消せた。
食蜂操祈にはその確信があった。
だというのなら、あれはなんなのだろうか。
「当麻は結婚、いつしてくれるの? 高校卒業後?」
「は!? ちょっといきなりなにを言ってらっしゃるんでせう!?」
「真剣な話。真剣に考えて欲しいな」
何事も無かったかのようにイチャついて、その大きな胸を上条当麻に押しつけて迫っている。
記憶もまるで最初からそこにあったかの如く元に戻っている。
どころか増えている。
また消して、減るどころか増える。
何度消しても湧く。増える、増える、増える。
まるで質量保存の法則が如く『消しても戻っている』。
増えた分は消しても変わらず、それに加えて新しい記憶が増えていくのだ。
怖くなって、上条当麻に関係ない記憶も全部消してしまった。
だが変わらなかった。
これはどうしようもない。
アレは本当に人間なのかすらも疑わしい。
彼女自身の記憶が改竄されているわけでは無いらしいことはわかった。
であればいつものアレだろう、と自分を納得させる。
物騒な事件。不幸な少女。人助け。
そう、いつもの上条当麻だ。
きっと、重度の薬物中毒患者を助けるために彼氏のフリをしているだけなのだと。
であれば、上条当麻の記憶を読心すればいい。
普段は能力を使って一般人の記憶を無闇に覗くことは自制している。
だが今回のような場合は別だ。
覗こうとして、覗けなかった。
覗きたくなかったのだ。
もし本当に彼氏彼女の関係だったら。
その恐怖に抗えなかったのだ。
それほどの、超能力者としての自信やプライドを塗りつぶすほどの『恐れ』があったのだ。
ざらざらとしたレンガの歩道に力なく膝を付き、擦りむく。
滲む血は冷や汗のようであり、涙のようでもあった。
あるところに一人の少女がいました。
少女は自殺に追い込まれるほど苦しんでいましたが、ある日ヒーローと運命的な出会いを果たしました。少女はヒーローに身も心も救われ、当然のように恋に落ちました。ですが神様は残酷です。ヒーローは少女を護るために大きな代償を払うことになってしまったのです。少年の脳は少女を忘れ、更に少女のことを新しく記憶することが出来なくなってしまったのです。それでも少女はいつの日にか、少年が自分のことを思い出してくれるという奇跡を信じて祈り、いつかその日が来たとき彼に相応しい自分であるために、自分を磨き続けたのです。
そんな少女を
今日は
なんと
曇らせにですね
え、これ曇らせタグ必要ですかね?
……付けとこ