【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
轟々と蒼い炎が周囲を喰らっていく。
『
そしてその中心に立っているのは一人の男だ。髪は白金。目は薄い群青。
闇祓いの衣を纏い、胸に『交差する剣と杖』のアーデルの紋を縫い付けたその男はこの蒼焔に呑まれていく死喰い人の残党達を無感動に眺めていた。
◆
「派手にやったものだな」
魔法省地下二階にある闇祓いのオフィスで引退したマッドアイの後釜として局長に就任したルーファス・スクリムジョールは報告書を見てそう呟く。
そうして目の前に立つ男を見やった。魔法騎士アーデルの当主、つい先日まで起こっていた魔法戦争において数多の武勲を挙げたレックス・アーデルを。
「死喰い人以外に被害は出していません」
「だとしても、だ。お前の気持ちは分かるがあれらは捕縛せよとの命だった筈だが」
「捕縛するのが難しく、止むを得ず命を奪ったと報告しておきます」
「はぁ……」
荒れているなとスクリムジョールはため息を吐く。
いや、寧ろ荒れていないほうが可笑しいのだ。彼の後輩であるポッター夫妻は子を残して死に、その親友であったシリウス・ブラックはそんな夫妻を殺したとしてアズカバン行きに。
何より彼の親友であったエドガー・ボーンズとマーリン・マッキノンは家族共々惨殺され、フランク・ロングボトムとアリス・プルウェット夫妻は廃人になった……どれもこれも死喰い人による犯行だ。
(アラスターが療養を命じていたはずなんだがな……)
復帰して早々にこれだ。目の曇りは晴れたようだが変わらず死喰い人に対する殺意が凄まじい。
何なら首は刎ねる、今回のようにプロテゴ・ディアボリカで焼き尽くすなど捕縛など二の次だ。
「まぁ良い。だが心得ておけレックス。お前が復讐の炎に身を窶せばエレインが……お前の妻と子が悲しむのだと、よくよく覚えておけ」
「……御意のままに」
一介の闇祓い局長でしかない己に古式ゆかしい魔法騎士の礼をして、レックスは退室する。その背をスクリムジョールは複雑な心境で見送った。
◆
「これはこれは。珍しい来客もあったものだ」
男はやってきた来訪者を両手を広げて歓迎する。なにせここ十数年は誰も寄り付かなかったものだから久々に人の顔を見られて気分が良くなった。
「面と向かって会うのは初めてか『お爺さま』?」
「まさにその通り。だが私は予見していたよ。君がこうしてここを訪れることをね」
双眸は青と黒の輝きを宿し、伸びた髪と髭があって尚魅力的な顔立ちをしているこの男こそ、ヴォルデモート台頭以前は史上最悪の闇の魔法使いと恐れられたゲラート・グリンデルバルド。
そしてレックスの祖父でもある。
「だがこうして実際に君がやってくるとは何とも言えんな。我が血族よ」
彼はそう言ってほう、と溜め息を漏らす。その姿はなんとも絵になる。そして彼の持つ魔力は随一だ。ダンブルドアに敗れこそしたけれど今のこの時世でももし彼が野心を捨てていなかったのなら世界はどうなって───
「おや、跳ね除けたか」
流石は魔法騎士。流石はジークフリートの孫だと男は手を叩いて賞賛する。だがレックスはそんな声にも耳を傾けず、背を伝う冷たいものを排除するのに必死だった。
───今、何を考えた?
この部屋には──ヌルメンガードには数多の魅了防止、魔力阻害の呪文やら結界やらが敷かれていたはずだ。だと言うのに目の前の男のそれはこちらの心を侵食した。
かつて果たせなかった大悪の理想を共に──と。
「……詐術師め」
「随分な言い草だ」
牢に囚われて尚、この男は油断ならない。
グリンデルバルドを鋭く見据え、レックスは改めて口を開く。
「俺がここに来た理由は承知しているか」
「無論。君は私にこう訊ねる──」
何故妻と産まれた娘を放って悪を成したのかと。
「簡単な話さ。あれは私の夢だった。かつてアルバスと共に抱いた理想。現実にすると誓った約束なのだから」
「己の娘がそのせいで酷い目に遭うと知っていればお前はその段階で止めたか?」
「あり得ない。当時の私なら遺した子よりは己の大望を優先しただろうよ」
「……その結果、妻が火刑に処されても?」
その言葉にもグリンデルバルドは当然のように頷いた。レックスはそんな男の態度に更に顔をしかめる。
「より弾圧し、服従させ、力を削いでおけばと思うよ……可哀想に。馬鹿で無知な輩に引き摺り出され、娘だけは己が死んでも悲しまないようにと態と遠ざけた……心優しき我が妻よどうか安らかに」
全く感情の乗っていない声で死した妻を憐れみ、グリンデルバルドはクツクツと笑う。
「彼女、昔はそれはもう穏やかで淑女だったのだよ───同じダームストラング出身でね。美しい白金の髪と銀の目が印象に残っていた。私がダームストラングを去る前、その時点での才能は彼女の方が上だったんだ。恐らくアルバスのやつに匹敵したんじゃないかな」
懐かしむように語るグリンデルバルドの目をレックスはジッと見つめる。
「だけど彼女、心の底から穏やかだったからあまり争い事は好きじゃなくてね。『ひっそりと慎ましやかに暮らすのが夢なのよ』って笑ってたな。あれほどの才能なら魔法省でも指折りの地位につけたろうに……」
「だから彼女に子を産ませたのか?」
「それもある。だがまぁ……なんと言えば良いのか。私の幼い頃の初恋だったのかもしれないがね」
なんとまぁとんでもない飛躍もあったものだとレックスは頭を抱える。その昔、ダンブルドアとアレコレしておいて古馴染みの初恋の少女と肌を重ねて子を産ませるのだからクソ野郎だ。
「そしてその時に産まれた子に──ユスティアに私は祈りを残したのだ。祈りや言葉は最も神秘的な
好かれますように。幸せになりますように愛されますように……全てを変えられますように、と。
そう言って稀代の悪は笑う。その双眸がレックスを射抜き、縫い止める。
「その祈りは正しく君にも……そして君の子にも引き継がれるだろう。本当に効果を発揮しているのかは分からないがね」
「お前……」
「クククッ、君の髪は白金か。アーデルでは珍しいな……娘の血だろう? 正確には私の血とも言えるが」
グリンデルバルドはギシッと椅子を揺らして背もたれに凭れると虚空を見つめる。その双眸が淡く輝き、預言しているのだと悟った。レックスには現れず、彼の両親は持っていた異能──時を詠む力。恐らく我が子にもいずれ発現するだろう力を。
「君の子供はより険しい道を行くことになるだろう……前途は多難だがどうなるかは不明瞭だな」
グリンデルバルドが言う。我が子の……リオンの進む道筋を。
レックスは短く息を吐く。もう用はないだろう。長く居すぎては取り込まれるかもしれない。そうして立ち上がり、牢から出ようとして──
「君は己を卑下しているようだがね。君もまた充分に為す力があるのだということを忘れぬことだ」
「何を……」
「君は
◆
ふぅ、と息を吐く。漆黒の闇祓いの衣を纏った青年──ヴォルデモートを打ち倒した英雄の片割れであるリオン・アーデルは今しがた見終えた過去の残滓に軽く目眩を起こした。
「強烈な思念だことだ……それだけ己の血筋と会えたのが嬉しかったのか? グリンデルバルド」
もうここにはいない、かつての大悪にそう呟く。近々ヌルメンガードを取り壊すとのことでドイツ魔法省から呼び出されたリオンはあちこちに掛けられた魔法やらを解除して取り壊しに支障が無いようにと仕事をしていたらふと過去視が発動し、グリンデルバルドと父の対話を見ることになったのだ。
「アンタは悪だ。覆しようが無いし、俺も弁護するつもりなんて無い」
けれど、最期の最期に秘密を抱えて死んだアンタに敬意を表するくらいはしてやるさ。
ざり、と床を踏みしめる靴音が響く中でリオンは遠い空へと旅立った大悪を弔う。
やがて解体されたヌルメンガードを轟々と炎が焼いていく。
それは敵を喰らう為の蒼焔ではなく、弔いの為にアーデルが創り上げた黄金の炎。それはゆっくりとヌルメンガードに染み付いた怨念や無念を浄化していき、ついには瓦礫をも灰へと変えた。
こうしてゲラート・グリンデルバルドが創り上げた城は灰となった。そよ風に乗ってその灰が遠くへ運ばれていく。
───無事でいられますように。健やかに生きられますように。笑っていてくれますように
頭の中で声がする。だがそれは先ほどの過去視で見たグリンデルバルドのものではなく……
───どうか、愛しい人の手を取って、幸せになりますように
純粋に我が子の幸せを願う、何でもない誰かの声だった。
レックス・アーデル
この時期が一番荒れてた。第一次魔法戦争後、死喰い人達は基本的に捕縛せず殺していた。苛烈な魔法騎士と言われたが本人は気にしていないし、何ならそうやって死喰い人達も誰かの命を奪ったのだろうとバーサーカーモードに。
この時点ではまだ死喰い人に対する禁じられた呪文の使用や捕縛ではなく殺害も合法化されていた。これが解除されるのはヴォルデモート陥落から一年後のことだった。
ゲラート・グリンデルバルド
この頃はまだ野心が残ってる。なのでこの時点で会いに行ったレックスは阿呆だし馬鹿。最悪取り込まれてた。
妻にした女性やユスティアへは情も愛もあったが『そんなことより大望だ!』の精神で活動してたらダンブルドアとの決戦でボコボコにされた
リオン・アーデル
戦後、曽祖父のやらかしの後始末もしてたりした働き者(苦労人)。その過程でより詳しくグリンデルバルドの所業を知ってドン引きする。けどきっちり弔いはした。
──最期に聞こえた声が誰のものかはきっと彼だけが知っている