ハリー・ポッター ヴォルデモート部分殺害RTA 二重スパイチャート   作:永熊 詩人奈

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最終話です。


終幕

暗闇の中でこそ星は見える

――マーティン・ルーサー・キング・ジュニア――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1977年9月1日

 

「新たな年度が始まる。

宴の前に一つ知らせなければならんことがある。既に知っている者もおるじゃろうが、君たち全員がそれを知るべきだと考えた」

 

 闇の帝王の終わりはその経緯とともに、魔法界すべてにすぐに伝わった。

 決着はあっけないものだった。

 闇の帝王がホグワーツ校長アルバス・ダンブルドア、防衛術教授ハワード・ゴーントの両名を襲撃、戦闘になるも両者は善戦、最後にはゴーント教授が自身の命と引き換えに帝王を撃破。

 

 防衛術の教授を知っている者はその報せに心を痛めつつも祝福の杯を交わした。

 また彼を知らない者はその功績がダンブルドアの力によるものであることを信じて疑わなかったが、いずれにせよめでたいことに変わりはなかった。

 

 梟が夜明けとともに四方八方へと飛び交う光景がいたるところで見られた。

 多くの魔法使いはローブのままマグルの街へと出歩いた。

 夜になれば大量の流星が空を駆ける。

 

 まるでお祭りのように多くの人がパーティーを開き、そして騒いでいる。

 およそ七年間もの間、祝い事はほとんどなかったのだ。そうなることも仕方ないのだろう。

 

 魔法界にも活気が戻り始めてきた。

 

 ダイアゴン横丁の商店も開かれ、魔法の道具や書物が陳列されるようになった。

 仕事が忙しいと嬉しそうにぼやく声がどこからか聞こえる。

 

 ホグワーツの生徒たちにも笑顔が溢れている。

 もともとホグワーツは一番安全だと言われていたが、やはりホグワーツにいない家族のことなどはどうすることもできなかったのだ。

 その心配が消えたとなれば安心したことだろう。

 ようやく気持ちよく新入生を迎えられる。

 

 魔法省は人員整理でかなり大変なことになっているらしい。

 多くの部署で昇進と投獄が相次いだとか。

 

 彼らは既に闇の帝王の勢力の残党に対する対応も進めている。

 徹底的な調査を行い、既に捕らえた者との司法取引を通じて幹部のみならず支援者や関与者を特定しているという話だ。彼らは厳正な裁判のもとで罪を償うことになるだろう。

 ただし闇の帝王に心酔していた者たちの動向には依然として警戒が必要だが。

 

 どこもかしこも忙しそうだがその顔には笑顔が浮かんでいた。

 

 戦争で死んだ人は数知れず、彼らが何を思って死んだのかそれすらも今になっては分からない。

 心に深い傷を負ったもの、体に治らない怪我をしたものだっている。

 傷ついたもの全てがすぐに良くなるわけではない。

 それでも戦争は終わった。

 欧州魔法界全土を巻き込んだ戦争は終結したのだ。

 

 これが彼が命を懸けて守ったものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新学期の式典を終えたダンブルドアは大広間につながる玄関ホールから外を眺めていた。

 もう新入生はベッドの中で寝ている時間だろうか。

 外はすっかり暗く、ぬるい風が城の石壁をなぞる。

 彼の眉間には皺が寄っていた。

 

 しばらくすると足音が複数近づいてくる。

 そこにいる人の数が四人になったとき、ようやくダンブルドアは口を開いた。

 

「ミネルバ、セブルス、そしてシリウス。よく来てくれた。少し時間いいかの?」

 

 そう言うと、彼は城の中を歩き始めた。

 彼の背後では二人の学生が目も合わせずに話し始める。

 

「なぜお前がここにいる、ブラック」

「知るかよ、ダンブルドアにでも聞いてみればいいじゃねえか」

 

 その様子に女教授はため息をつき、頭に手をやった。

 

「貴方たち、こんな時ぐらいおやめなさい」

 

 そう言うと一人は片方を睨めつけるが、もう一方は気にした様子すら見せず口笛を吹く余裕すら持っていた。

 

 しばらく無言の時間が続き、廊下を歩き続ける。

 

 ようやくダンブルドアはある部屋の前で立ち止まった。彼が杖を振ると扉が開く。

 

「おぬしらはこれを知っておく権利がある。故に今日ここへ呼び出した。」

 

 ダンブルドアが先に入ったのを見ると、残りの三人は顔を見合わせて頷き彼と同じように入室した。

 

「アルバス、これは一体…?」

 

 そこにはベッドに横たわる壮年の男の姿があった。

 彼にはおおよそ外傷と呼べるものはなく、ただ眠っているようにしか見えない。

 声をかければそのまま起きそうなほどに彼の容態は穏やかだった。

 

「彼は……死んだのではないですか?その…『例のあの人』との決闘で」

「そうじゃよ、ミネルバ。彼は死んだことになっておる」

 

 ダンブルドアは深くため息をついた。

 

「厳密には今も生きてはおらんのじゃが………」

「俺たちはこれを見て何をすればいいんだ?ダンブルドア」

「いいや、おぬしらに何かを求めているわけではないのじゃ…………ただ、おぬしらが知っておいた方が彼にとってはいいことじゃろう」

 

 彼らは男の眠った様子をしばらく見つめていた

 

「何が………あったんですか、先生の体に…」

 

 そう言う青年の声は少し震えていた。

 

「わしにも詳しいことまでは分からんのじゃ。無理をし過ぎたという事までしかの」

 

 大きすぎる力に彼の体は耐えられなかったのか。

そういえば彼の最期の魔法は明らかに普通のものと異なっていた。あり得ないほどに膨大な魔力。その力を得るための仕掛けが、今もなお彼を生かしているのだろうか。

 身体だけは生き続け、まるで魂だけがぽっかりどこかへ行ってしまったかのように彼が反応を見せることもない。

 

 彼を見るたびに昔の記憶が幾度となく思い出される。

 

『このお菓子はどこで?僕は結構好きです!』

『今日はミネルバも誘って飲みましょうよ』

『先生、僕はいつまでも子供じゃないんですよ』

 

 あの戦いが始まる前は何と言っていたか。

 

『僕にしかできないこと。やっと見つけたんです』

『それが僕の人生なんだって。そう思えるくらいに大事なことができたんだ』

 

 彼の瞳には強い意志が宿っていた。

 誇らしげに胸を張っていた。

 彼はこの結果をどう思っているのだろうか。

 

 結局自分は彼のために何かしてあげることができたのか。何が正解だったのだろうか。自分はいったいどこで間違えたのか。

 

 多くの疑問が次々に湧き出てくる。

 

「ではなぜ死んだという事になっているのですか」

「わしがそう伝えたからじゃ」

 

 そんなことは知っているという非難めいた視線が突き刺さる。

 

「彼は決して死んだわけではない。じゃがこれから回復する見込みもないのだよ。ゆえに彼を死んだという事にするより他はなかった。彼の体を守り続けるにはこちらの方が何かと都合がいいわけじゃ。……軽蔑するかの」

 

 彼らは複雑そうな表情をみせている。

 

「彼は、偉大な人でしたわ」

「――――そうじゃな」

 

「……彼の最期を教えてください」

「ああ。それについても話しておかなければ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新学期の業務も粗方片付き、ようやく休息に時間を取れるぐらいには落ち着いてきた。

 

 時計を見ると、お茶を飲むにはいい時間だ。

 戸棚から茶葉を取り出し、銀製のポットに入れる。

 湯を入れた容器を魔法で沸かしながらカップも同時に用意する。

 

 沸きたてのお湯を勢いよく入れ、すぐに蓋をして少しの間蒸らす。

 時間を見計らいカップにお茶を注ごうとしたその時、何気なく用意した二つの容器を見て体が固まった。

 

 しばらく立ち尽くした後、彼は何を思ったのか使う予定のないそのカップにもお茶を淹れた。

 椅子に座り一息つく。

 カップを手に取り口元へ運ぶと、芳しい香りが湯気とともに鼻先に触れる。

 口に含めば、その味がいつもと何ら変わらないことを教えていた。

 ただただ静かな時間だけが流れ続ける。

 

 ふと窓の外に目をやると、まだ新学期も始まってすぐだというのに外で箒に乗って遊ぶ生徒が見える。

 彼らの黄色い声はどの時代でも変わらない。

 しばらくの間、なんとなしに外を見続けていたため、茶は既に冷め、香りも消えかかっている。

 それを気にすることなく一息で飲み干す。

 もう一つのカップは温度以外は入れたときと何ら変わりなかった。

 

 それを横目に椅子から立ち上がり、校長室の戸棚を開けた。

 中にはルーンの刻まれた水盆が仕舞われている。

 憂いの篩(ペンシーブ)

 その魔法具の目的は記憶の保全と再生にある。

 

 こめかみに杖を当て、曇った銀色の液体を取り出し試験管に入れる。――――何回も何回も。数えるのが嫌になるほどにその操作を繰り返した。

 なんでもないただの日常。彼と卓を囲い、多くのことを話した。その記憶を取り出すことにきっと意味はないのだろう。ただそれはとても懐かしく、すぐそばにある過去だというのに、手を伸ばしても届かない。彼と向かい合い、そして紅茶を楽しむような時間は、二度とこない。

 

 他者を悼むことは決して悪いことではない。しかしそれは、その行為から何かを得ることができる場合に限られる。

 ただ記憶に縋ることがどれほど愚かなことであるかを彼は知っている。過去に想いを馳せることの無意味さも。それがただの代償行為でしかないことも。

 にも関わらず彼はそれをした。そうでなければ己の罪を忘れてしまう。それだけは避けなければならない。きっとただの自己満足でしかないとしても――――それでも彼はそうすることしかできなかった。

 

 ――――偉大。その言葉にいったいどれだけの価値があると言うのか。またしても自分だけが残り、群衆は虚像のダンブルドアを讃える。誰が彼にその道を歩かせた?

 ――――私だ。結局のところ自分は何も変わってはいなかったのだ。

 過去を後悔したが故、教え子に同じ道を歩ませたくなかった。だから彼には自分が得ることのできなかったものを得てほしいと、そう願ったのだ。結果として私の言葉はしっかりと彼に届いていたらしい――――間違った方向で。私の言葉がきっかけとなり、彼は私が望んでいたものとは全く異なる道を選んだ。私の言葉が彼の人生を変えてしまった。私が何もしなければ彼は幸せでいられたのだろうか。

 そんなことを思ってしまったのが悪かったのか。最後の最後で私は動くことができなかった。彼が命を賭して魔法を放ったときに、動くことが怖くなってしまった。また何かを壊してしまう気がした。そうこうしているうちに彼は目的(親友殺し)を達し、そのまま眠るようにその場で倒れ伏した。その場で私が動けば何かが変わったのだろうか。

 ――――私が動いたことで彼を不幸にした。

 ――――私が動かなかったことで彼を不幸にした。

 だが、それらを後悔することは許されない。そうしてしまえば彼の覚悟を他ならぬ私が全くの無駄だったと否定するようなものだとも知っているから。ただ今は己の罪をひたすら懺悔する。

 

 彼の肉体は死んではいないと彼らには言った。ただ老人はそれをどうにかする術を持ち合わせていない。死者を呼び戻す魔法。魂を呼び戻す魔法。そんなものがあるわけもなく――――手詰まりだった。それは死んでいるのと何が違うのだろうか。

 死者は生き返らない。これは覆る事のない原則だ。それに生あるものであれば、必ず別離は訪れる。たとえ家族――兄妹そして親子――であってもそれは変わらない。

 今回のだってきっとそういう事なのだろう。

 自分ももういい歳だ。今までに多くの別れを経験してきている。

 思想の違いから二度と会うことはなくなった者。老衰でなくなってしまった者。行方知れずの者。先の戦争で別れを言う間もなく消えていった者。

 数え切れぬほどの別れのうちのただの一つ。

 己の心にそう区切りをつけ、最後の記憶を入れ終えた。

 

 

 二人での墓参りはついぞ行かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから幾年か経ったある日の夜。

 外は冷たい雨がしとしとと降り続けており、一向に止む気配を見せない。

 老人は馴染みのパブへ行こうとしていた。

 

 その店は表通りから少し外れた人気のない横道を進んだ先にある。

 外に出るのも嫌になるような空模様のせいか、あるいはもう遅い時間だからか。

 家屋から漏れ出る明かりは小さいものしかなく、活気はまるで感じられない。

 

 老人は慣れたように中へと入る。

 店内は小さく、薄汚く、見窄らしいことが蝋燭の火でかろうじて見渡せる。

 獣臭が漂う店内に老人以外の客はいないようだ。

 

「少し、上を使わせてもらうよ」

 

 店主に一言断りを入れるが、返答はない。

 それを了承と受け取った老人は部屋の隅の階段から二階へと上った。

 老朽化と湿気でひどい音を鳴らす廊下を進み個室へと入る。

 

 部屋は一階と同じように汚いが、獣臭さは僅かにマシだろうか。

 寒さでかじかむ手を気にせず、暖炉に火を入れると部屋は暖かい色に包まれた。

 彼は椅子に座り時間が過ぎるのを待つことにした。

 

 時間になればある女性が来るはずである。 

 老人は彼女の面接を予定していた。

 彼女は「占い学」の教職を希望しているようだ。

 彼の持論として、もともと「占い学」とは才能によってほとんど決まってしまうものである。だからこそ彼はそれを授業として続けることに疑問を抱いていた。故に老人に彼女を採用する気など初めから塵ほどもなかった。

 

 ならばなぜわざわざ時間を作って彼女に会うことにしたのか。

 聞くところによるとその人物は卓越した能力のある非常に有名な予言者の曾々孫であるらしい。

 何も言わずに追い返すわけにはいかず、彼は礼儀として会うことを決めた。

 正直な内心は興味が半分、厄介だと思う気持ちが半分といったところか。

 

 暖炉の火がゆらゆらと揺れるように燃え続けている。

 部屋には暖炉の中で火花がはじける音と雨が窓に打ち付ける音とが薄らと響いている。

 予定よりも早く来たことを少しばかり後悔しながら彼は目を閉じて待つことにした。

 

 

 

 やがて時計の針が夜の深い時間を告げるとドアが軽く叩かれた。

 扉の先には細身の女性が立っている。

 無数の鎖とビーズが彼女の細い首にぶら下がっており、手には多くの指輪や腕輪が取り付けられている。不自然に大きい眼鏡は彼女の眼を不気味なほどに大きく見せていた。

 

 なるほど。“らしい”姿だ。

 その時点で面接をするまでもなく結果は見えていたが、彼は彼女に椅子へ座ることを促す。

 

 老人は彼女の話を聞いた。

 結果は彼を十分に失望させるものだった。

 いや、失望という言葉は正しくないのだろう。なにせ()()()()()ものだったのだから。

 良く言って凡庸、誤解を恐れずに言うなれば虚言癖の塊。

 その女性には才能の欠片すら見て取ることが出来なかった。

 

 とは言え、彼女は自分の才能に自信を持っていた。

 故に老人は礼を欠かさぬよう注意を払って採用の見合わせを伝え、先に部屋を出ようとしたとき

 

 

―――――彼女はかすれた荒々しい声で話し始めた。

 

 

 

 

 闇の帝王を打ち破る力を持つはずであった者が、七つ目の月が死ぬときに生まれるであろう

 いつしか闇の帝王は立ち上がり、時代は闇へと戻る

 眠りし英雄が目覚めんとするとき、予言は予言に還り新たな物語を紡ぐ

 死を覆す力が彼に死をもたらすだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿を出ると既に雨は止んでいた。

 芯に響くような寒さが身に染みるのは変わらず、思わず身体が震えて宿の前で立ち止まった。

 ふと天を見上げれば、澄んだ空の中で無限の星が煩いほどに輝いている。

 

 吐いた息が白い霧となって空へと昇るのを見届け、老人は再び確かな足取りで歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 




これにて完結です。
最後までお付き合いくださり本当にありがとうございました。
よろしければ感想や評価などを頂けると嬉しく思います。

今後は気が向けばもしかしたら本作を前日譚としたハリポタ本編、あるいはイベント分岐によるifルートをおまけとして書くかもしれないし書かないかもしれません。構想だけはあるので…
まあでもとりあえずは完結ということでここらで締めさせて頂きます。
繰り返しになりますが、読んでいただき本当にありがとうございました。
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