吾郎先生の居る病院はどうやら訳アリ妊婦にとって都合が良いようです。

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タイトルにピンときたあなたに捧げます。


推しと歌姫とリボンエンチャの子

九州地方宮崎県のある地方都市に佇む小さな総合病院。

 

都心と比べれば人口も娯楽も少なく、こうして夜になると都市そのものが静まり返り、頭上には広大な星空が広がる。

 

つまらないが不便もない、人目を避けなくてはならない理由がある人間にとっては都合が良い立地だ。

 

そんな病院の屋上で、産婦人科医であるこの僕、雨宮吾郎は、星空の元で患者を相手に一つの誓いを立てた。

 

「星野アイ。僕が産ませる。安全に、元気な子を」

 

その言葉を聞いて、相手―僕が誰よりも焦がれるアイドルであり、16歳の少女であり、これから母に成ろうとしている星野アイは微笑んだ。

 

アイドルは夢を売る商売だ。本音を隠して笑顔を振りまき、キレイな部分だけを見せて人々を喜ばせる。

 

だがいくらなんでも父親すら誰にも明かさず、隠れて出産してアイドルを続けようとする彼女は多くの人にとって不誠実だろう。もしもバレてしまったら、破滅するのは彼女一人では無いのだ。

 

けれど、けれども。星空にも匹敵するその瞳を見てしまったら、家族に憧れ求めるその心の一端に触れてしまったら。

 

なによりもずっと画面越しに応援してきたアイドルに微笑まれてしまったんだ。僕に彼女の味方になる以外の選択肢なんて有りはしない。

 

 

出産までの残り20週、彼女と産まれてくる双子の為に全力を尽くすことを誓った。

 

 

 

 

その翌日。アイの出産に向けたスケジュールを看護士と協力して急ぎ組み立てて居たところ、また初診の患者が訪れた。

 

他の担当医に任せたいところだが、あちらも数日中に出産を予定している患者を診ていて手が離せない。

 

アイを優先したいと言うファンの我欲を医者としての理性でねじ伏せ、診察室を訪れた患者と付き添いに向かい合う。

 

付き添いは厳つい顔の赤髪の壮年男性。患者の方は帽子を深く被ったままの若い女性。

 

あれ、デジャウ?

 

「えっと、初診の方ですよね、お名前は……」

 

カルテから目線を上げると付き添いの男性と目が合う。

 

顔に残る古傷、未だに分厚い胸板、厚みの無い左腕の袖。

 

カルテを取り落としそうになるのをギリギリで堪える。

 

彼こそは野球を知っている人間なら国籍を問わず誰でも知っている偉大な人物。

 

「シャ、シャンクス選手!?伝説のメジャーリーガの!」

 

「元、が抜けてますよ先生」

 

歳を取って厳つくなった顔に浮かぶイタズラっぽい笑みに、もう10年以上前に引退した彼を伝説にしたニュースが連想される。

 

彼は路上でサインをねだっていたファンの少年と共に暴走車両に巻き込まれる交通事故に合い、とっさに少年を庇った事で左腕を失った。

 

当時の年収は40億を超えており、スター選手の突然の事故と競技能力の喪失に国内でも大いに話題になったのだが、それ以上に彼の名が知れ渡ったのが事件後の彼の対応だ。

 

緊急搬送された彼は病院で緊急手術の末に命を留め、やがて意識を取り戻すと、少年との面会を求めた。病室を訪れた泣きじゃくる少年を、彼は残った右腕で優しく抱き寄せた。

 

「安いもんだ腕の1本くらい。無事でよかった。」

 

そのあまりに漢気溢れる姿に野球ファンだけでなく世界中が感嘆した。数年後にはハリウッド映画化された。ビデオ屋でレンタルしてさりなちゃんと一緒に見て号泣した。

 

そんな伝説の男が、今目の前にいる!

 

「す、すいません気が動転してしまって、診察!診察に戻りますね!」

 

沸き立つ興奮を顔をピシャリと打つ事でなんとか抑え、カルテと患者に意識を移す。

 

特長的な左右で紅白に分かれた髪色、年齢は21歳、職業は自由業、名前は……

 

マジかよ。マジなの?

 

 

「う、歌姫ウタ?」

 

「あっ、バレちゃった」

 

帽子を脱いでニカリと人懐っこい笑みを浮かべるのは、某動画投稿サイトで単独PVが再生回数1億突破、活動開始からわずか2年で世界の歌姫と称えられるまでに至った怪物的ミュージシャン。

 

この辺のスーパーや運動会でも曲が流れているまさに時の人。

 

世界の歌姫こと、ウタだった。

 

そしてお腹が大きかった。

 

(そう言えばつい最近どっかの記事に出てたなぁ、彼女は元は孤児だけど、里親のお陰で音楽の英才教育を受けたシンデレラだって……)

 

最推しの星野アイが突然妊娠した状態で目の前に現れたと思ったら、翌日に世界で一番有名な父娘が来た。

 

こんな事って人生であるのか?僕は単なる地方都市の産婦人科医Bだぞ?

 

その後、頭が真っ白になりそうな中で検査をこなし、ウタが男児を妊娠中であることを伝える。

 

現状特に問題なし。妊娠約20週。

 

「えへへ、男の子だって。父親に似てヤンチャになりそうだね」

 

「アイツと似た孫か。まぁ、悪くないが、大事な事なんだからもっと早く言え」

 

「久しぶりに日本に帰ってきてたサプライズだよ♪」

 

「腰を抜かしたぞウタ。俺も孫が出来る年なんだ、手加減してくれ」

 

朗らかに会話する二人に釣られて頬が緩む。

 

どうやら付き添いに来れなかった子供の父親とも関係は良好のようだ。家族も妊娠を歓迎ムード。

 

アイに比べれば母体のリスクも少ない。

 

一時はどうなる事かと思ったが何とかなりそうだな。

 

「あ、つかぬ事をお聞きしますが、なぜ当医院で受診されたのですか?」

 

「申し訳ない、娘の出自に関わる問題でして。詳しく先生にお伝えするとご迷惑になります」

 

駄目だったわ、厄ネタだったわ、全然安心できなかったわ。

 

「……先生、脅してしまったようで申し訳ないが、どうか娘と孫をお願い出来ないでしょうか」

 

「お願いします!」

 

「アッハイ」

 

地方都市の産婦人科医Bが最推しの頼みを聞いて、世界のスーパースターの二人の頼みを断れるわけがない。

 

何とか笑顔で二人を見送ると、椅子に体重を預けて天井を仰いだ。

 

その後は疲れた体で二人分の訳アリ妊婦のスケジュールを組み、気が付いた時にはとっくに夜。

 

間違いなくここ数年で一番働いてるな。嵐が来た後に地震が起きたような一日だった。

 

気持ちを整理するために屋上に上がり、夜風にあたりながら昨晩と変わらず美しい星空を見上げる。

 

(いや、考えてみればこれでアイは業界トップのウタと接点が出来ることになるな。お互い打ち明けられない秘密を共有したら、復帰後にコラボ企画とか実現するかもしれん!ファイトだ吾郎!応援してくれ天国のさりなちゃん!アイの未来が僕の双肩に掛かっている!)

 

精神的疲労をファン魂で誤魔化し、二人の訳アリ妊婦を無事に出産させることを僕は星空を見上げながら再び誓うのだった。

 

 

 

 

更に翌日。診察室にて。

 

「………」

 

「Doctor, please, could you assist me in conceiving a baby?」

 

「お医者様。どうか力を貸してください。この方がその腕に赤子を抱けますように」

 

ゴシック調の衣装を着た身長2m以上ありそうな付き添いと、これまたお腹が大きな車椅子の女性が来た。

 

なにがどうなっている!?




星野アイ
・今一番の脳を焼いている人。

ウタ
・去年一番脳を焼いた人。

車いすの謎の女
・昔に色々あって脳を焼かれた人。血で汚れたリボンを握りしめている。
 本当は歩けるし、なんなら臨月でも絶好調時の蘭姉ちゃん並みに動けるけど
 同類に見つかると面倒なので自重中。

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