二十歳の紅音
「お誕生日おめでとう紅音」
「楽郎さん、ありがとうございます!」
今日は3月25日──紅音の誕生日だ。
「紅音もついに二十歳か、時間が経つのはあっという間だな」
「はい!これで私も大人の仲間入りですよ!なんだか少しだけ楽郎さんに追いつけた気がします」
「あはは、インターハイ優勝の紅音ならそのうち俺なんてあっという間に追い越してくんじゃないか?」
「まだまだです!大学にはもっと速い人たちが沢山いますから!」
紅音を軽くからかってみると、紅音は拳をギュッと握りまだまだ上があると豪語してみせた。
流石紅音だな……。
『どうしましょう! サンラクさん! どうやら、私はサンラクさんの事が好きみたいです!!』
俺と紅音が出会ったあの日から5年……か。
「……5年か」
「はい?」
「いや、時が経つのはあっという間だなって」
「楽郎さんとお会いした時の私はまだ中学生でしたもんね」
「そうそう……瑠美が紅音を連れてきてなぁ……」
瑠美……お前は本当に頑張ったよ……。
「楽郎さんは4年生になるんですね」
「ああ……」
「忙しくなっちゃいますね」
「……」
紅音の忙しくなるという言葉に静寂が訪れた。
「……紅音」
俺は迷わず紅音をギュッと抱きしめた。
「ら、楽郎さん?」
「紅音が呼んでくれれば、俺は何処にでも行くからな」
紅音を抱きしめたまま優しく囁いてやると、紅音がギュッと俺の服の裾を握った。
「……本当に来てくれますか?」
「もちろんさ。いざとなったらカッツォのやつになすりつけてでも駆けつけるよ」
「……えへへ、それはオイカッツォさんが可哀想ですよ」
優しく笑う紅音を見ていると、思わず浄化されそうになる。
「「……」」
お互いの目が合い、沈黙が広がる。
顔に赤みを帯びても目を逸らさず、示し合わせたようにキスをした。
ほんの一瞬、静かな熱を帯びていた。
何度同じことをしても、初めてした時のような緊張感が胸に走る。
「「……」」
顔を離すともう一度視線が合う。紅音も俺も顔が赤くなり、ドクンドクンと鼓動がやけにうるさく、長い付き合いなのに、最初の頃から変わっていない。
どう話題を切り出したものか……あっ、そうだ。
「そういえば紅音、今日で二十歳だろ?」
「はい?」
「酒、飲もうぜ」
◆◇
「はいよ」
「ありがとうございます!」
冷蔵庫から2本の缶を取り出して紅音に手渡し、俺は追加である1本を準備した。
「楽郎さんの持ってるのってもしかして……」
「ああ、リボルブランタンだよ」
何故エナドリか。それはライオットブラッドに魂を売った暴徒達が編み出した禁忌 レジストをやるためだ!
「このカボチャ頭の人、テレビで見た事があります!」
「あ、ああ……そうだな、俺もだよ」
紅音にはまだ顔隠しの正体を伝えていない。紅音は顔を隠せば俺だという事に気づかないからな。まあ、いつかは正体を明かす事になるだろう。
「ま、こんなカボチャの事は忘れて、乾杯しようぜ」
「はい!」
プシュッと炭酸の音が部屋に響き渡る。俺はレモンサワーで紅音はほろ酔いだ。
「紅音、二十歳の誕生日おめでとう。乾杯」
「乾杯です!」
コツンと缶を鳴らし、酒を一口。
鉛筆やカッツォ達との付き合いで酒を飲む事は今までにもあったが、今日は紅音と二人っきりだからか、いつもよりレモンの酸味が強い気がする。
「ふぅ、美味しいですね!」
「ほろ酔いはジュースみたいなもんだからな。まあ、ゆっくり飲もうぜ」
初めての飲酒で潰すわけにもいかないからな。酒で潰して良いのはあの外道共だけだ。今度はカッツォ潰してレモンでも絞ってやろう。
そんな事を考えながらクツクツとほくそ笑んでいると、コン!と空き缶が叩きつけられた音が聞こえた。
「えへへ……楽郎さん……」
「紅音!?」
紅音の顔が赤くなり、目がトロンとしていた。マズいぞ、もう酔ってる……!いや待て、とりあえず水だ。水を飲ませて落ち着かせれば……
「らくろーさん……」
「っ……‼︎」
水を取りに行こうと席を立った瞬間、酔っ払いとなり顔を真っ赤にした紅音が後ろからギュッと抱きしめられた。
「……いかないで」
「紅音……」
紅音の懇願するような言葉によって動きが止まった瞬間、獲物を逃さないと言わんばかりの圧をかけられ、そのまま床に縫い止められた。
「んへへ……らく、ろーさん……」
「はいはい、楽郎さんはここにいるぞ」
紅音の肩を抱きながら、その言葉に優しく返事をする。
……ダメだ、紅音のやつ完全に酔っぱらってらぁ。何言っても可愛く笑ってドキッとさせてくる。まさか紅音が絡み上戸だとは思わなかったが……。
──まあ、こういうのも悪くはないか。
紅音の酔いが覚めればきっと今の出来事を忘れてしまうけれど、今はこの幸せな瞬間を噛み締めていよう。
実は作者のリハビリも兼ねて当作品を紡がせていただきました。
休止中のシリーズをどうにか再開させる目処を立てなければ…。