「だから少しだけ、植えつけてあげるね。」
「ねえ、だから、『糸の絡まない踊り』、見せてみて?」
‐‐‐少女の声が聞こえる。
※小説家になろうとと重複投稿
前の作品とタイトルは同じです。
‐‐‐「糸が絡まない人形、それは忠実なヒト形。」
「さあ、褒め称えよう。絡まぬ糸を。」
「さあ、褒め称えよう。」
少女の声が、聞こえる。
「絡まぬ糸だけに忠実だったヒト形を。」
気づいたらそこにいた。何とか近くが少し見えるような暗い場所、特に空なんてどす黒い。おかしいな・・・。いつ夜になったんだ?
俺は自分の家で朝飯を食べていたはず。・・・ここはどこなんだ?ここで俺は手に
ある新聞に気付いた。
2012年、5月28日 今日の新聞だ。
記事に目を通す暇なんてない、まず周りを見渡してみた。前方に一つの光が見えた。あれは?人工のものか?
状況が理解できない俺は光に引かれるように走る。しかしどこを見ても暗い。前方の向かって左手に家らしきものがあり、その前に一つだけぽつんと電灯が立っていた。どうやらあれが光源のようだ。思わず速く走る。
その光によって隣家が数軒照らされ、やっとここが住宅街の道であると把握する俺。
ならば一寸先も闇の、右手側にも家があるのか・・・。しかし右手側を見ても飲み込まれるようなどす黒い闇が目の前にあるだけだ。
光源には人間が立っていた。どうやら別の星に来たわけではないな。
少し安心し、俺は話しかけた。
「ここはどこだ?」
その人間、同い年ぐらいの女の子は俺をじろじろ見、
「飛ぶみたい」
とだけ言った。
その瞬間、急に目の前が暗くなった。
突然、俺は意識を失った。
目を開けると、俺は布団の中にいた。
周りを見回す俺。どうやら人家の中のようだ。
「どうなってんだ・・・」しばらく呆然としていると、さっきの女の子が入ってきた。
「大丈夫ですか?風邪でも引いてたんですか? 移動如きで気を失うなんて」女の子は優しい目で俺を気遣った。
俺はその気遣いで安堵した。が、同時に困惑した。移動とはなんだ? 瞬間移動?いや、そんなことはどうでもいい。まず、ここはどこだ?何が起きたんだ?
「ここはどこだ?」俺は訊いた。
それを遮るように、玄関をたたく音が聞こえる。
「はい、いま行きます!」女の子が答えた。
今度は答える前に邪魔が入ったか。
女の子は玄関前で話をしているようだ。俺は部屋で待っているのもアホらしいので、そうっと扉を開け、部屋を出た。
そうしたら、会話が聴こえた。
「奴らが来たみたいですね」
・・・「はい、はい」
「最近は多いですね」
・・・「はい」
なんだ? 奴ら?
何なんだ、と思案にふけっていると、声が途絶えた。訪問者は帰ったようだ。
俺は故意ではないにしろ盗み聞きしてしまったので、バツが悪い気持ちで部屋に帰った。
しかし妙に引っかかる。何人かの会話のようだったが、間の取り方が不自然だ。まるで一人で喋ってるーーーいやいや、声は明らかに老若男女入り混じった声だった。ただの勘違いだな。
そんなことより女の子が戻ってこない。暇だ。時間は?
「なんだ、まだ正午か」
新聞が置いてある。俺が持っていたやつだ。記事を見てみる。
あれ?この記事・・・そう言えばテレビでも言っていたな。
・・・テレビ?
そういえばこの家テレビがないぞ。さっき玄関の近くに行く時に居間をチラッと見たがテレビが無かった。もちろんこの部屋にも無い。いや待て、テレビどころじゃない。
今気づいた、この家、電化製品たるものが何一つないぞ。
俺は部屋を出た。そうしたら、ちょうど女の子が廊下にいた。
「いま行こうと思ってたんですよ。どうしました?」
暖かい微笑みを浮かべながら女の子は言った。
「テレビ、どこにある?」とっさに俺は訊いた。
「何ですかそれ?」女の子は答えた。
「俺は2012年に居たはず・・・」とっさに呟く俺。
「いやだなあ、タイムスリップなんてナンセンスですよ?」笑いながら返す女の子。
予想が外れた。まさか真逆とはね。
沈黙が続く。
「私にも訊かせてください。なんで盗み聞きしたんですか?」
「まさか、ばれていたのか?」俺は訊いた。
「勿論です。『扉の開閉の音で』わかります」女の子は平然と言った。
あんな小さな物音でわかるのか?かなりの距離だったはず。
「私、耳いいでしょう?」
「聞きたいことが山ほどある。まず、移動ってなんだ?」
「瞬間移動です。町自体の。空から奴らが来るので、それから逃げるため」
「奴らって?」
「詳細は分かりませんが、人を襲う化物達です。私たちの存在が気に食わないのか、私たちの仲間を殺しています」
「そうか・・・。そいつらの目的も分からないってことだね?」
「はい。目的は分かりません」少しの間のあと、女の子が答える。
ちょっとまて・・・ 空から何か降ってくる? タイムスリップ?まて。そう、ここで俺はもっと重要なことに気が付いた。
「まて、ここはどこ―――」
「また来たみたいです!」女の子は俺の問いを遮るように言った。
「もう一回瞬間移動かよ・・・」何か重要なことを聞こうとしていた気がするが、そんな暇ではないようだ。
「そんな、動かない!」女の子が叫ぶ。
動かない?瞬間移動する装置のようなものか?俺は『勝手に』そう思った。
そしてたぶんさっきの会話に出てきた、奴ら、とはさっきの『化物』だろう。
次の瞬間、急に家の電気が落ちた。
「おいおい、停電かよ・・・」俺は呆れて言った。
「電気をつけておくと、奴らにばれて殺されます。今は、この状態でじっとしていましょう」さっきとは一転冷静に答える女の子。
「それもそうだな」俺は女の子と一緒に、外と変わらず真っ暗な部屋の端にうずくまった。
「これ、持っておいてください」女の子が俺の手にナイフらしきものをおいた。とっさに握る俺。ナイフを握ると同時に、手の汗を認識する。
「わかった」若干の恐怖を覚えながらも、俺は心強い武器を握りしめ返事をした。
しばらくすると悲痛な叫び声、助けを懇願する声、そして血の臭いが俺と女の子を囲んだ。
化物、それが何なのか全くわからない。頭が理解しようとしない。
ふと、そんな風に化物を思った時、俺の心にはっきりとした恐怖が走った。
外も部屋も相変わらず真っ暗だ。暗闇と渦巻く狂声。恐怖が暴れ始める。
いつの間にか、俺はガチガチと震えていた。
次の瞬間、窓が開く音が聞こえた気がした。
そして、その音とほぼ同時といっていいタイミングで、俺は足に感触を覚えた。
その感触が痛みになった瞬間だった。
「うわぁあああああああ!」
俺は咄嗟にその何かをめった刺しにした。ナイフを伝わり手に残る感触、明らかに肉を刺し、引き抜く感触だった。
「奴らです!」とっさに女の子が叫んだ。
きれる息の中、いまだに残る不愉快な感触。
「・・・」俺は、女の子に二つの疑問を投げかけることができなかった。
次の瞬間、気がつくと明かりが戻り、女の子が目の前にいる。装置が治ったのか。今度は目の前にご飯がある。
「あ、これ食べてください。お腹すいたでしょう?」女の子は料理を指す。かなり豪華だ。
「いいのか? じゃあお言葉に甘えて」腹が減っていた俺は料理を口に運んだ。料理を口に運ぶと、少しずつ気持ちが和らいでいく。
「おいしいですか?」ニコニコしながら訊く女の子。
「ああ、おいしい。 これは・・・」
「わたしの手作りですよ」遮って女の子が言った。
こんな幸せの享受。俺の中に意識できる充足感と得体の知れない陰りが積もっていくのを、感じる。
徐々に『機械的に』なる動き。陰りの増幅は、俺に正体のわからない恐怖を与え続けていた。
そしてただそれを見つめ続けていた俺の目は、陰りに忠実に、その視界を狭めていった。
朦朧とする意識の中、俺の目に映ったもの。
女の子の微笑み、それは言い知れぬ『恐怖』を最後の俺の意識に焼き付けた。
目が覚めると、俺は横になっていた。しかし、今度は布団ではなかった。鼻を突く血の臭いの中、冷たい土の上に横たわっていた。
もちろん周りは一切見えなかったが、そこは叫び声と血の臭いであふれていた。
俺はとっさにさっきの化物が人を殺している現場だと把握するが、俺の手には肉を切り裂いた相棒はない。
ただ、強まっていく恐怖。
不思議と、その恐怖は化物に対して向けられていなかった。
だがそれは、さっきと違い、初めから俺を支配していたように思われた。
それに耐えることなど許されていなかった。俺は悲鳴を上げながら走る。
すると、明かりが見えた。思わず速く走る。
その明かりは、俺が女の子と初めて会ったあの電灯だった。
あの時、俺にとって唯一の救いだった電灯。しかし、今度は俺を地獄に叩き落とした。
明かりによって俺が初めて見た『化物』。おかしいな、俺と同じ『姿』をしている。
思考をすべて凍らせて震えだす体。今までの疑問、それどころか『自我』までも俺から一挙に欠落した気がした。
ただ、俺は片手に表情を失った目を落とした。
俺は、今ナイフがないことを初めて感謝した。さっき、ナイフを持っていた手だけが汗をたらしながらひどく震えていた。
『化物』が俺に気づく。
「『地底人』、みーつけた」どこかで見た『笑み』を浮かべながら男が向ってくる。初めて女の子以外の人の言葉を聞いた気がする。
「地底人、か」ようやく俺は言葉を発せた。
「君に尋ねたかったこと、もう聞く必要はないね」
俺にまだ残されていた『自我』によって、俺の思考という歯車は最後の一回転をした。今までのそれで最も有意義な動きで。
最後の思考。そこには恐怖心は一切なくなっていた。だが、俺の心が恐怖心を克服したのではなかった。
恐怖心は、すでに何も残されていない『人形』の俺を見限っていた‐‐‐
最後の視界が映し出したもの。
俺はその笑みに、初めて『本当の安堵』を覚えた。
「フフッ・・・。しかし、『瞬間移動』っていうのは良くなかったな。こういうの、『古典的』っていうんだっけ?でも、地底人っぽく振る舞うてのは良かったかな」
少女の声が、聞こえる。
「しかし、最期にまさか『地底世界』ってのを信じるとはね」切り刻まれた『ヒト形』を優しさを持った目で見下し、少女は言葉を続けた。
‐‐‐「糸が絡まない人形、それは忠実なヒト形。」
「さあ、褒め称えよう。絡まぬ糸を。」
「さあ、褒め称えよう。」
少女の声が、聞こえる。
「絡まぬ糸だけに忠実だったヒト形を。」