オレの名前はハマー・D・エッジ。
修行僧だ。
……いや、別に出家はしてないんだけど、それくらい真面目に修行に励んだってことね。
あと禁欲という意味でも頑張った。
周りには露出度が高く、距離感の近すぎる美少女ばかり。
しかも修行中は激しく動くから、ポロリもあるし、ラッキースケベもあるし、それどころか何も気にせず一緒に風呂に入ってくるし……
男と女(複数)、思春期の肉体、二年間。何も起きないはずがなく……
……と、思わせておいて何もなかった。
だからこそ『修行僧』という称号ですよ。
オレはオレの自制心を褒めてやりたい……っ!
……とまあ、そんな感じであっという間に過ぎた二年間だった。
真剣に修行に励んだからっていうのも、もちろんあるだろうけど、やっぱり楽しかったのが一番の理由だろうな。
オレの生きていた前の世界は、人と人との繋がりが希薄な世の中だった。
多くの仕事はAIやそれに制御されたロボットが肩代わりしてくれてたし、AIに任せられないような仕事だって、人と会うのはVR空間がほとんどだった。
それにオレなんかは、ゲームの中ですらソロで活動してたもんだから、こうやって皆でワイワイやる楽しさってのを全く知らなかったんだ。
学校だって、先進国ではほとんどがVR授業に切り替えられてたしね。
けどこうやって、皆で汗を流して、笑い合って、時にケンカして、仲直りして、一緒にバカなことやって、ご飯を食べて、同じ目標に向かって努力して……
こんな心がワクワクすることを知ってしまったら、もう一人には戻れない。
オレは二年前よりももっと、ずっと、この島が好きになった。
皆のことが好きになった。
────だからこそ今日、オレはこの島を旅立つ。
この島を守るために。
皆を守るために。
外の世界で色んなことを経験し、それをこの島に還元するために。
「ほんとに、行ってしまうの……?」
二年で少し身長の伸びたソニアが、瞳に涙を滲ませ、寂しげな声で言う。
「……」
マリーは無言で、けど下唇を噛んで、何かを耐えるような表情をしている
「ええい、少しの間だけだといっておるじゃろう! それに年に一度は帰ってくるわ!」
…………そしてそんな二人に、ハンコックが活を入れた。
……いやまあ、オレ一人じゃないんだよね。
なんというか、ハンコックも一緒に来ることになりました。
オレの行く場所には、どこであろうとついてきてくれるんだと。
ハンコックはこの二年間での成長著しく、皇帝第一候補から、皇帝(内定)へと評価が上がった。
しかしまだ14歳という若さである事から、最低でもあと4年くらいは経験を積み、そのあとでアマゾン・リリー皇帝と九蛇海賊団船長へ就任することが決まったのだ。
で、その4年間の間、島の中でこれまでと同じ修行を続けるくらいなら、少々危険でもオレと一緒に旅をして外の世界を見てきた方が、ハンコックのさらなる成長に繋がるだろう、ということになったのである。
現在は先代皇帝が島を飛び出してしまっているため、皇帝不在の期間が数年続くことになるが、この二年間で成長を遂げたのはなにもオレやハンコックだけではない。
ハンコックの妹であるソニアとマリー、それにランやリンドウといった少女たちを中心に、戦士たち全員が着実にその実力を上げていっている。
島自体が
故にオレたちは、ある程度安心してこの島を離れることが出来るのだ。
「姉さまぁー!」
「お気を付けてー!」
少しずつ遠くなっていく女ヶ島からは、その姿が見えなくなるまで、ソニアとマリーの声が届き続けていた。
……あれ、ハンコックは心配されてたけど、オレは……?
「エッジの心配をする必要はないと、あやつらは知っておる。それに、わらわの旦那様はこの二年でずいぶんと男ぶりが上がったからの、恥ずかしがっておるのじゃろう」
…………そういうことにしておこう、オレの心の平穏のためにも。
さて、経験を積むため海に乗り出したオレたちだが、なにも無計画に暴れ回ろうという訳じゃない。
幸いなことに、オレもハンコックも全くの無名だ。
海軍にも認識されてないし、とうぜん手配書も出回ってない。
なので、オレたちはまず賞金稼ぎとして働くことにした。
賞金稼ぎをやっていれば、とりあえず敵対するのは海賊などの犯罪者だけでいい。
初っぱなから海賊デビューして、海軍と海賊の両方を相手にするのは避けたいからな。
色んな場所を巡るためにも、ある程度自由な身でいたい。
で、まず狙うのは大体賞金一億ベリー前後の海賊だ。
海賊団の総合賞金額じゃなくて、個人で一億くらいの奴ね。
はっきり言って、オレとハンコックはすでにそれなりに強い。
ゲームじゃないのでステータスは見れないが、覚悟を決めて2年間修行した結果、身体能力も覇気も、ゲームをやってた頃より成長していると思う。
ハンコックは言わずもがな。
その成長速度はオレの比じゃなく、はっきり言って能力抜きで戦ったとしても、すでに戦闘能力で追いつかれつつあるほどだ。
ちなみに、能力を使ったら100%オレが負ける。
色んな所、成長しちゃったからね、ハンコックは。
そしてオレは、2年間色んなことに耐え続けたせいで、却ってそういった誘惑に弱くなった。
もう、ハンコックの能力と相性最悪よ。
ほんと、ハンコックが味方で良かった……
……話が脱線したが、最初に懸賞金一億くらいの奴を狙うのは、外の世界でのオレたちの強さがどの程度なのか確認する為だ。
懸賞金の金額=強さではないだろうけど、それでも懸賞金の額というのはある程度の目安にはなる。
で、そこからどんどん上の賞金首に狙いをつけて戦っていき、腕を磨こうというわけだ。
スタートを一億からにしたのは、安全に配慮してもっと下の金額から始めてしまうと、せっかくの覚悟が腐ると思ったからだ。
オレたちは、強くなるために島を出た。
成長するために、危険を承知で島を出たのだ。
それなのに最初っから日和ってしまったら本末転倒、というわけだな。
まず目指すのはウォーターセブンだ。
そこである程度賞金首なんかの情報を調べて、船旅の準備を整えたら、ようやくスタートライン。
オレとハンコックの冒険は、そこから始まるのだ。
すでにハンコックとの恋愛、というかイチャイチャがメインになりつつある。
あれ、最初はこんな予定じゃなかったんだが……?