いやー、ミッション28はシリーズ1盛り上がりましたね。あの曲が良いよね。本作でもどっかで流したい。
今回は、ランブルリング後のお話です。ちょっと視点が何度も変わりますので、ご注意ください。
それでは、どうぞ。
グラスレー寮 寮長室
「これが、厄祭戦を初めた力と、終わらせた力か…」
シャディクは寮長室で、今回の騒動を端末越しにずっと見ていた。
そしてその結果に、思わず身震いしてしまう。
天使と悪魔。相反する仇敵。300年前、お互いを滅ぼすまで殺し合いをしていた化物達。その力の一端を、初めて見た。今回仕様した天使である、モビルアーマーハシュマル・リメインズは、言ってしまえば不格好な模造品。300年前のオリジナルと比べると、その性能は何段階も下がっている。しかしそれでも、あの場にいた人間を皆殺しにする事は簡単に出来ただろう。
だがそれは、バルバトスによって防がれた。
流石、人類を救ってみせたモビルスーツとでも言うのか。バルバトスと三日月のおかげで、目立った被害は無し。それどころか、復元した天使を討ち取る真似までしている。
「本当に、手元に無いのが残念だよ…」
今更言っても仕方が無い事ではあるが、もし自分の手元にガンダムフレームがあれば、もっと上手く事を運べて、計画も達成出来ただろう。それだけ、ガンダムフレームの力は凄まじい。本当に、羨ましい。
でも、所詮はたらればの話し。今はそんな事より、もっと気になる事がある。
「しかし、あの動き…やっぱり何かあるね」
それは、バルバトスだ。いくら復元した模劣化品とはいえ、あれはモビルアーマー。無傷で誰も死ぬこと無く破壊するなんて、ありえない。実際バルバトスは、最初ハシュマルに追い詰められている場面が割とある。モビルアーマー以外に、魔女2人も相手しないといけないので、当たり前と言えば当たり前なのだが。
だがそれは、バルバトスの目が突然赤く光った事により、形勢が逆転している。
それまでの劣勢が嘘だったかのように、バルバトスによる一方的な戦闘になったのだ。明らかに動きが違う。薄々気がついてはいたが、やはりバルバトスには何かがある。でないと、説明がつかない。
「ま、今はそれも後回しでいいかな。それより優先する事があるし」
出来れば直ぐにバルバトスを捕獲して色々と調べたい欲はあるが、今は後回しだ。バルバトスを調べるのは、自分が総裁になった時までおあずけとしておこう。
今回の計画。正直思っていた程被害は出ていないが、サリウスは誘拐できたし、学園そのものに被害を与える事もできて、ハシュマルの主砲の実戦データも取れた。一応、目的は達成できている。ならば下手に欲張らず、このまま計画を進めるとしよう。
「じゃ、先ずはテロで父親を誘拐された息子を演じるとしようか」
そしてシャディクは端末をしまい、これからの為に行動を起こす。全ては、この世界を少しでも良い物にする為に。
「もしもし!フロント管理社ですか!?私、言わないといけない事が…あっ!」
「ダメでしょ?シャディクの邪魔しちゃ」
地球
(なんとかなったわね)
眼下に広がる海を眺めながら、プロスペラは地球での移動用に使っている高速ヘリに乗って、一路宇宙へ帰ろうとしていた。方方探して周り、やっと見つけたかつての仲間。
そして、とても優秀な警備員候補。
彼女らはこちらの要求を飲み、例の計画の乗ってくれる事になった。見返りに、彼の新しい心臓を作るという事で。正直なところ、向こうが乗ってくるかどうかは半々だったが、なんとかなった。これなら、例のモビルスーツも十分その力を発揮できるだろう。
因みに、その為には1度手術をして貰う必要があるのだが、それすらも彼女らは承諾している。全ては、また3人で穏やかで幸せな生活を送る為に。
(全部終われば、また普通に過ごしてもらいましょう)
プロスペラとて、約束を破ろうとは思っていない。こちらの仕事をしっかりとしてもらい、全てが終わったら、約束通り彼には新しい心臓を作り、また3人でどこかで静かに過ごしてもらうとしよう。でもその前に、しっかりと仕事はしてもらう。
(でも、出来ればもう1人欲しいのよねぇ…)
しかし、優秀な警備員はできればあと1人欲しい。一応人が乗らなくても操縦する事は出来るが、やはりあれの性能をちゃんと発揮するには、優秀な人間のパイロットが必要。
どこかその辺に落ちていれば拾うのだが、捨て猫じゃあるまいにその辺に落ちている訳が無い。こうなれば、あとはデリングに頼んで探してもらうしか無いかもしれない。
「あら?」
そんな事を思っていると、プロスペラの端末が鳴る。
「ゴドイ?」
画面には、自分の優秀な助手であるゴドイの名前。まだ定期連絡の時間じゃない。恐らく、何か緊急の報告があるのだろう。
「もしもし?何かあったの?」
プロスペラは直ぐに、ゴドイに何かあったか尋ねる。
『バルバトスが、学園で行われていたランブルリングで、リミッターを解除しました』
「……え?」
『そして現在、彼は意識不明の重体です』
そしてゴドイの言葉を聞いたプロスペラは、一瞬だけ動きを止めてしまう。
「何でそんな事に…いえ、わかった。直ぐに戻るわ」
『病室の手配は、こちらでしておきます』
「お願いね、ゴドイ」
しかし、直ぐに頭を切り替えて行動を起こす。色々と聞きた事はあるが、先ずは三日月の容態の確認からだ。
「何をしてるの三日月くん…少し急いで頂戴」
「わかりました」
プロスペラは、またリミッターを勝手に解除したであろう三日月に対し、ため息をつきながらも、少し落ち着かない様子でヘリを飛ばすよう部下に命令する。
その顔は、心なしか焦っているようにも見えた。
アスティカシア学園 地球寮前
『そこをどけ!アリアンロッド寮!!』
「断る!!」
地球寮の直ぐ前では、イオクとフロント管理社が言い争いをしていた。イオク、ジュリエッタ、エラン、ハッシュの4人は、自分のモビルスーツのコックピットハッチを開けた状態で、まるで地球寮を守るかのように、自分のモビルスーツで通せんぼをしており、フロント管理社はそんな4人の前で、デミギャリソンの武器を構えながら命令をしている。
『何度も言わせるな!今回のテロの首謀者は地球寮の生徒だろう!我々には、地球寮全員を取り調べする義務がある!!だからそこをどけ!!』
先ほど起こった、未曾有のテロ事件。それを起こしたのは、ソフィとノレアなのはとっくに調べがついている。そしてそんな2人の所属は、地球寮。
おまけにフロント管理社には、地球寮のニカがテロの幇助をしているという匿名のタレコミもあった。故にフロント管理社の彼らは、またテロを起こさない為にも、地球寮を徹底的に調べる必要があるのだ。普通に考えたら、フロント管理社を通せんぼする理由なんて無い。むしろ、協力するべき事態である。
「ならば、こちらも何度でも言わせてもらおう!今はダメだとな!!」
しかし、イオクは一歩も引かない。ボロボロになったレギンレイズのコックピットハッチに乗ったまま、地球寮の前でフロント管理社相手に言い放つ。
「我が友である三日月は今、意識を失っているのだ!!そして地球寮の面々は、そんな三日月を助けようと必死に動いている!!そんな状況下で、取り調べなどさせるものか!!そういうのは彼らが落ち着いてからにしろ!!」
先ほどのモビルアーマーとの戦いで、三日月は意識を失った。そして現在、地球寮の中で地球寮の生徒によって介抱されている状態である。そんな状態にもかかわらず、フロント管理社は取り調べを強行しようと言うのだ。もしかすると、その間に証拠を消されるかもしれないから。
でもそんなの、イオクは許さない。なんせ、命を救って貰っているのだ。ならば、友の為にもこの場は絶対に通さない。たとえ、この場で撃ち合いになったとしても。
『貴様ら…!我々は、こちらの権限でお前らを逮捕する事も出来るのだぞ!?アリアンロッドの御曹司とて、テロリストを擁護するのなら容赦せんぞ!!』
だが彼らも、職務を全うしなければならない。なんせ今、学園始まって以来の大事件が起こっているのだ。ランブルリングが行われた第9試験区画では、現在フロント管理社が立入禁止にしており、更に学園の荷物の出入りも完全に停止。
おまけに学園に来ている来賓も、取り調べの為に拘束している。全ては、こんな事件を起こしたテロリストを捕まえる為に。その為には、先ず尤も怪しい地球寮の取り調べは必須。これ以上、テロを起こされた犠牲者が出る前に、取り調べをしなければならないのだ。
「へぇ…そっちがその気なら、こちらは正当防衛で抵抗しますが?そのデミギャリソンで、この新型機であるレギンレイスジュリアに勝てますかね?」
「俺も、全力で抵抗します」
「こっちは僕のガンダム含めた4機。デミギャリソン程度で、勝てるかな?」
フロント管理社の言っている事も一理あるし、理解できる。しかしそれでも、今取り調べなんて真似は許さない。それはイオクだけじゃなく、ジュリエッタとハッシュも同じ。
尤も、エランだけは『ここで地球寮に恩売っとこ』と打算で動いているが。
「そうだそうだ!今直ぐは必要無いだろ!!」
「つーかさ!もしもあの2人が地球寮の仲間だったら、仲間に向けてあんな凶悪なビーム砲を向ける訳ないだろ!!」
「あれガチで殺しにきてたぞ!!演技じゃない!!」
他にも、ランブルリングに参加していた大勢の生徒が地球寮を擁護している。あのモビルアーマーが暴れたいた時、三日月に命を救われたのを見たいたのと、三日月が文字通り必死で戦っている姿を見たからだ。
あんな姿を見てしまえば、いくらアーシアン差別があるにしても、こうして地球寮を擁護だってする。彼らとて、そこまで落ちてはいない。
『っ黙れ!!お前らも逮捕されたいか!?』
「うるせー!そもそもあんたら、普段禄に仕事してないくせに偉そうなんだよ!」
「いっつも適当に仕事しているくせに、こういう事が起こった後だけ仕事してんじゃねーよ!!」
ランブルリングに参加していた生徒の言う通り、フロント管理社は基本事後行動である。事が起こった後でしか、行動をしない。
勿論、普段から学園の警備なりなんなりしているが、それでも動くのは今日みたいな日ばかり。そのくせ、普段は自分達が学園を守っているだのなんだの言って、割と偉そうにしている。
正直、あまり気に入らない。だから今ここで、地球寮を擁護すると同時に、溜まっていた鬱憤を思う存分言う事にしたのだ。
「こういう事件を未然に防ぐのがフロント管理社の仕事だろうが!ちゃんとしろこのハゲー!!」
『なっ!?俺はまだハゲて無い!ちょっと薄いだけだ!!』
「世間一般では、そういうのはもうハゲてるんだよ!!」
余談だが、今叫んでいるフロント管理社のパイロット。彼は最近娘に『頭が薄くてキモい』と言われかなり落ち込んだという事があるのだが、本編には全く関係無いので割愛する。
『貴様ら…!そこまで言うのならもう容赦せん!!望み通り逮捕してやる!!全機!交戦準備!!』
『了解です!隊長!!』
そして色々言われ、とうとうフロント管理社もキレて、実力行使に出ようとする。こちらはデミギャリソンが4機だけだが、まだまだ応援はくる。
それに、学生のモビルスーツは全機決闘仕様で、こちらは出力を抑えているとはいえ実践仕様。相手が最新鋭機や噂のガンダムだとしても、勝機はいくらでもあるだろう。
そしていよいよ、フロント管理社のデミギャリソンが実力行使に出ようとした。同時に、イオク達も反撃するべく身構える。
「そこまでだ」
だがそうなる前に、その場に声が響いて誰もが動きを止めた。
「良い大人が、権力で子供をそうやって威嚇するものでは無い。そしてイオク坊っちゃんも、そうかっかしないように。先ずは双方、落ち着きたまえ」
「ら、ラスタルCEO!?」
声の主は、アリアンロッド社現CEOのラスタル・エリオンであった。
『し、しかしラスタルCEO!我々にはテロを調べる責務が!!』
「主犯の2人は、既に逃亡しているのだろう?それに、例のガンダムフレームのパイロットは現在意識不明らしいではないか。取り調べをするなら、イオク坊っちゃんの言う通り彼の意識が回復してからでも遅くは無い。なんせ、そんな状態なら証拠を消すなんて事も出来ないだろうからな」
『ですが!』
「この件は、デリング総裁も既に了承済みである。ここでまだ抵抗するということは、デリング総裁に逆らうという事になるが、いいのかな?」
『っ!い、いえ!わかりました…!この場で、待機します…!』
「結構」
ラスタルの一声で、あっという間にフロント管理社は黙った。流石に、総裁であるデリングの名前を出されてしまえば、何も出来ないからである。
「それとイオク坊っちゃん。友を守ろうとする姿勢は立派ですが、せめてモビルスーツから降りてするべきです。コックピットハッチを開けている状態とはいえ、モビルスーツに乗ったままでは、下手すると死人が出る程の騒動になりますからね」
「っ!申し訳ありません!ラスタルCEO!!」
そしてイオクも、自分の行動のせいであわや大惨事になる事に気が付き、直ぐにモビルスーツから降りる。それに続く形で、他の3人もモビルスーツから降りた。
「それでイオク坊っちゃん。例の彼の様子はどうなのですか?」
「意識を失っているという事しかわかりません…今は、信じて待つしか無いかと」
モビルスーツから降りてきたイオクから、話しを聞くラスタル。先程の激戦は、ラスタルもしっかりと見ていた。あんな化物相手に、見事な大立ち回り。
だがその結果、意識不明の状態になっている。一体三日月の身に、何があったというのか。
わかっているのは、突然バルバトスの目が赤く光り、そしてモビルアーマーを破壊した事。かつて、グラスレーとの決闘でも似たような事があったが、今回はあの時を遥かに上回っている。どう考えても、ガンダムフレームはただの強力なモビルスーツじゃない。隠された何かがある。
(一体、何なのだ?ガンダムフレームとは…)
骨が折れそうだが、1度調べる必要がありそうだとラスタルは思う。帰ったら、方方手を回して情報を集め直すとしよう。
地球寮 モビルスーツハンガー
「三日月!!目を開けて!!」
「返事しなさい三日月!!」
地球寮のモビルスーツハンガーでは、誰も彼もが慌ただしく動いていた。スレッタとミオリネは、意識を失っている三日月に必死で話しかけ続け、他のメンバーもそれぞれ必死になって動いている。
「ティル!まだダメ!?三日月は直ぐに病院に運ばないと危険だよ!?」
「ダメだアリヤ!意識が無い状態で阿頼耶識システムを外したら、何が起こるかわからない!今は彼が目を覚ますまで、いつでも阿頼耶識システムを外せる用意をするしかない!!」
「ヌーノ!!三日月が意識取り戻した瞬間に外すぞ!!」
「わかってる!オジェロもしっかりしとけよ!!」
「リリッケ!!救護道具は用意できてる!?」
「はいマルタン先輩!三日月先輩を直ぐに運べるよう、用意しています!!」
アリヤ、ティル、ヌーノ、オジェロは端末を動かして、いつでも三日月と阿頼耶識システムを外せるようにしており、マルタンはリリッケと共に救護道具一式を揃えて待機。
「くっそ…何もできねぇのが情けねぇ…」
「動くな昭弘。お前もかなり酷い怪我なんだぞ」
そして昭弘は、チュチュに怪我の手当をしてもらっていた。ランブルリングで、三日月の次くらいに怪我を負っているからだ。実際、彼のグレイズ改はボロボロである。こんな状態では、何もできない。決して恥じることではないのだが、やるせない。
「また、三日月に助けられちまったな…」
「言うなって昭弘…」
それに、もっと自分が強ければ、三日月もあんな風にならなかったかもしれないと思わずにいられない。もっと強ければ、三日月がリミッターを解除する事も無かっただろう。昭弘もチュチュも、こんな状況だが自分を攻めてしまう。本当に、情けない。
「どうしようどうしよう…!このまま三日月が目を覚まさなかったら、私…!」
しかし、今この場で1番自分を攻めているのは、間違いなくスレッタだろう。学園最強のホルダ-でありながら、何もできなかった。
そして、三日月にまた無茶をさせてしまった。おかげで三日月は、こんな風にまた意識を失っている。もっと自分がちゃんと強かったら、こんな事にはならなかった筈だと、スレッタは涙を流しながら自分を攻める。このままでは、いずれ罪の意識で潰れてしまいかねない。
「スレッタ!!泣き言は後にしなさい!!」
「ミオリネ…さん」
「今は先ず、三日月の身の安全が最優先!!泣いたり後悔するのは、全部終わってからよ!!」
「は、はい…!すみません…!」
しかし、そうなる前にミオリネがスレッタに喝を入れる。後悔も、反省も全部後回しでいい。今優先すべきは、三日月だ。スレッタははっとし、涙を拭く。
「ん…」
「三日月…?三日月!!」
そんな時だ。三日月の意識が、回復したのは。
「あれ?スレッタにミオリネ?何で?」
「何でじゃないわよ!!あんた、自分がなんて無茶をしたのかわかってるの!?」
「み、ミオリネさん!!今はそうじゃなくて…!!」
「っあーもう!そうだったわね!!三日月!あんた体に不調とかない!?」
「三日月!大丈夫!?体に変な箇所とか無い!?少しでも無い!?」
三日月に一瞬キレるミオリネだったが、直ぐにスレッタに言われて振り上げた拳を下ろす。
「あー、うん。今は特に無いけど」
「よし!ティル!!直ぐに阿頼耶識システムを外して!!」
「わかった!」
三日月に体の不調が無い事を知ると、ミオリネは直ぐにティルに命令を出す。
「ロック解除!阿頼耶識、外すよ!!」
そして練習した通りに、阿頼耶識システムを三日月から解除した。背中のケーブルを外した三日月は、スレッタに肩を掴まれたまま、そのまま目の前にいるスレッタの胸に倒れる。
「あれ?」
「え?み、三日月…?」
スレッタに倒れた瞬間、三日月がそう呟く。
どうしよもなく、イヤな予感がする。冷や汗が止まらない。
「ん…あれ?」
「……どうしたのよ、三日月」
三日月が、何やら腕を動かそうとしている様子を見て、スレッタと同じくらい顔を青ざめているミオリネが訪ねた。
「なんか、右腕が全然動かない」
「「っ」」
「それと、右目が殆ど見えない」
「あっ」
それを聞いた瞬間、スレッタの眼の前は真っ暗になってしまった。
学園内 19番格納庫
「ソフィ!!」
学園の端にある、無重力空間内の少し狭い格納庫。そこでは現在、ノレアがソフィの乗るウルのコックピットハッチを開けようと必死になっていた。
「くそ!!開けよ!!早く開けって!!」
必死になってウルのコックピットハッチを開けようとしているが、全然開かない。多分どこかで、システムやフレームが歪んでいるのだろう。けれど、なんとしてでもハッチを開けないといけない。
先ほどのランブルリングで、ソフィは明らかにおかしくなっていた。
聞いたことも無い単語を口にし、まるで発狂したかのように叫びだす。かなり長い付き合いだが、あんなソフィは見たことが無い。間違い無く、何か予想出来ない何かが起こったのだろう。
「少しは落ち着け。それでもガンダムのパイロットか」
そう思いながら四苦八苦しているソフィに、話しかけてくる人物がいた。ひと仕事を終えた、サビーナとメイジーである。
「お前ら…!」
「そう睨むな。折角協力者として、中のパイロットを助けようとしているんだ」
「だったら早くしろって!!」
「わかっている。だから落ち着け。メイジー、頼む」
「はいはーい」
サビーナに言われて、メイジーは慣れた手つきで端末のケーブルをウルに差し込んで、操作をする。実は彼女、パイロット以外にもかなり多才なのだ。流石に本職のメカニック程ではないが、これくらいならなんとか出来てしまう。
「開くよー」
そしてあっという間に、ウルのコックピットハッチが開く。
「ソフィ!!ソフィ!!」
ハッチが開くと同時に、ノレアがソフィに駆け寄る。しかし、ソフィは反応をしない。
「ソフィ、動かすよ?」
ノレアはソフィをパイロットシートから優しく出して、ウルの足元にゆっくりと下ろす。それでも、ソフィは全く反応しない。
「ソフィ?ヘルメット、脱がすよ?」
嫌な予感が止まらない。ノレアは恐る恐る、ソフィのヘルメットを脱がす。
「ソフィ…?ねえ、ソフィ?お願いだから返事して?」
そして、ヘルメットを脱がしたソフィの顔は、目の焦点が合っておらず、顔中にパーメット反応が出ていた。
これはノレアにとって、見覚えしか無い症状だ。
だがその事実を認めたく無いノレアは、まるで見て見ぬふりをして、ソフィに声をかけ続ける。
「診るぞ」
そうこうしている間に、サビーナがソフィのを診察する。脈を測り、ペンライトで目を診る。しかし、やはりソフィは反応しない。生きてはいるが、全く反応しない。
「…ガンダムの、呪いだな」
サビーナも初めて見るが、間違いない。これは、ガンダムに乗ったパイロット全員に現れるデータストームによる呪いだ。
こうなってしまえば、もう誰も助からない。
「データストーム反応による、脳死状態だ。こいつは、2度と起き上がる事は無いだろう」
「あ…」
サビーナの言葉を聞いて、ソフィはようやく現実を見た。
「う、あ、ああ…」
もう2度と、ソフィは以前のようにはならない。一緒のご飯を食べる事も、散歩する事も、寝る事も、シャワーを浴びる事も出来ない。この先ずっと、死ぬまでこのままなのだ。
「あああああああああ!?」
そんな残酷な現実を前に、ノレアはソフィに抱きつきながら泣き喚く。
その姿は、先程学園を襲ったテロリストでは無く、ただの少女のものであった。
ムラサメ病院
「ダメね…完全に麻痺してるわ…右目も、殆ど失明状態ね…」
「そっか」
事件から2日後。三日月は、ムラサメ病院のシン・セーが所有する病室にいた。
あれから地球寮の皆は、直ぐに三日月を病院へと運び込もうとしていたのだが、ここで問題が生じた。三日月は、普通の体じゃない。体に、古代の技術である阿頼耶識システムの手術を施している。
もしこれが露見すれば、株式会社ガンダムには大バッシングが起こるだろう。GUNDも、販売中に追い込まれるかもしれない。ミオリネはそういったリスクも覚悟の上で病院に行こうとしていたが、そこにシン・セーのゴドイからスレッタに電話が入る。
電話の内容は、簡単にいうと三日月の入院の準備は完了しているというもの。
そんなゴドイの手筈のおかげで、なんとかその辺の事がバレずに三日月は病院へと入院する事が出来たのだ。そしてその後、プロスペラによる精密検査を受けて、現在に至る。
しかし、検査の結果は最悪だった。
右腕は完全に麻痺。腕を動かすどころか、指を動かす事さえ出来ない。触っても、全く感触が無い。そして右目も、完全では無いが殆ど失明しているような状態だ。
はっきり言って、重症である。これではもう、パイロット科の生徒として学校に通う事は出来ないだろう。
因みに現在、テロがあった学園の方は割と落ち着いていたりする。テロがあったにもかかわらず、生徒はそれほど酷い事にはなっていない。ソフィとノレアが所属していた地球寮に対する嫌がらせも、全く無い。三日月が必死に頑張った結果、誰1人犠牲者になっていないおかげだろう。
もしも誰か1人でも死んでいれば、そこから学園中が地球寮を攻め立てている事は、想像に難しく無い。
「お母さん、やっぱり、無理なの?」
「…ええ、無理ね。今の医学では、三日月くんを治す事は無理」
「…そっか…そうだよね…」
僅かな希望を求めて質問したが、やはりダメ。現実は、そう甘くなど無いのだ。
「三日月くん。どうしてあなたは、またあんな真似をしたの?私やスレッタ、ミオリネさんとの約束を忘れたの?」
プロスペラが、三日月に質問をする。元々、リミッターを解除してはいけないと言っていたが、三日月はグラスレーとの決闘で、その約束を破っている。それから、スレッタとミオリネに言われて、再び強く約束をした筈なのに、彼はまたリミッターを解除した。
「忘れてはないよ。でも、そうしないと勝つことが出来なかったから」
しかし三日月がそうしたその理由は単純で、他に方法が無いからだ。あのままでは、誰かが確実に死んでいただろう。
だから三日月は、約束を破った。もし他に方法があれば、三日月はバルバトスのリミッターを解除する事は無かっただろう。
「それにさ、バルバトスが言ったんだ。あれは何があっても、殺さにといけないって」
「バルバトスが?」
「うん。もしほっといたら、沢山人が死ぬってさ」
それにあれは、バルバトスからのお願いでもあった。バルバトスから教えてもらった情報で、三日月は何があってもあの復活したモビルアーマーを破壊しないといけないと確信。それもあって、三日月は全力でモビルアーマーを倒すことにしたのだ。
その結果、自分の体がまたどこか変になったとしてもかわまない。だって何もしなければ、スレッタ達が殺されるかもしれないのだから。
「そう…バルバトスがね…」
三日月の言葉を聞いて、プロスペラは何か考える。やはりもう少し詳しく、バルバトスを調べる必要がありそうだ。
「三日月。あんたの言い分は、よくわかったわ」
そしてプロスペラに変わり、今度はミオリネが口を開く。
「確かに、あのモビルアーマーとかいう化物の相手は、それ専用に開発されたバルバトスが1番でしょう。実際、あんたのおかげで怪我人はいるけど、死人はいない。そういう意味では、あんたは間違いなく英雄でしょう。でもね…」
ミオリネは話ながら、ベッドに座っている三日月に近づく。そして三日月の目の前まで行くと、胸ぐらを掴んだのだ。
「それで!あんたが犠牲になるようじゃ意味無いのよ!!いくら死人がいなくても、あんたがそんな風になってるんじゃ勝利なんて言えないでしょう!!」
「でもさ、他に方法なんて」
「ええそうね!!確かに他の方法なんて無い!!でもだからって、何であんたは…!!そんな真似ばかり…!!」
本当なら思いっきりぶん殴ってやりたいが、流石に今の三日月にそれは出来ない。
誰もが笑って過ごせるハッピーエンド。何事にも、できればそんな結末が望ましい。確かに、あの時三日月がバルバトスのリミッターを解除しなかったら、大勢死んでいただろう。
しかし、やはり納得なんてできない。いや、してやらない。こんなのが、ハッピーエンドな訳無いのだから。
「ミオリネさん。いいですか?」
「ええ、いいわスレッタ」
「じゃあ…三日月」
「何?スレッタ」
そして、最後にスレッタが三日月に話しかける。その顔は、何かを決意したような顔になっていた。同時に、ミオリネは三日月から手を離す。
「先ずは、ありがとう。私達の為に、戦ってくれて」
最初にスレッタは、三日月にお礼を言う。それも態々、頭を下げて。
「別にいいよ」
「でもね、前も言ったけど、三日月は約束を破ったよね?私達とした約束を」
「……ごめん」
「ううん、いいよ。今から、約束を破った罰を受けてもらうから」
「うん?」
そして真剣な顔つきで三日月を見て、こう言った。
「もう2度と、バルバトスには乗らないで」
「は?」
スレッタからのまさかの言葉に、三日月はあっけに取られる。
「そもそも、そんな体じゃモビルスーツには乗れないでしょ?だから、この期にモビルスーツから降りてもらうから」
「いやスレッタ。それは無理だよ。俺、バルバトスに乗る以外何も出来ないし。それに、バルバトスだったら、今まで通り動かせるしさ」
「三日月普通に勉強出来るでしょ?これからは、そっち方面で学校に通えばいいし」
「いやいや。流石に無理だって」
スレッタからの罰ならば、大人しく受けいる覚悟はあった。しかし、それは無理だ。だって三日月には、他に取り柄が無い。ニカ達みたいにモビルスーツの整備は出来ないし、リリッケ達みたいに経営もよくわからない。
そんな自分でも、モビルスーツで戦ったり、守ったりする事くらいはできる。それがダメと言われれば、本当に自分には何も無くなる。だからこそ、それは流石に受け入れられない。
「いいえ三日月。これは株式会社ガンダムの社長の私からの命令でもあるわ」
しかしそれに、ミオリネが追い打ちをかける。
「あんたはもう、2度とバルバトスには乗せない。これまでは、ずっとあんたに頼ってばかりな部分もあったけど、そもそも学園最強はスレッタだもの。仮に今後、バルバトス関係で決闘を申し込まても、あんたの変わりにスレッタが戦えばいいし」
「バルバトスはどうするの?」
「厳重に保管して、エイハブ・リアクターの研究用に使うわ。もう2度と、バルバトスも戦わせない」
「いやそれは」
「そもそもよ。勝手に実戦仕様になるようなモビルスーツを、これ以上決闘に出せる訳ないでしょ。もし決闘でいきなり実戦仕様になって決闘相手を殺したりしたら、あんたどうやって責任取る訳?」
確かに、しっかりとシステムを組んで決闘仕様にしているのに、勝手に実戦仕様になるモビルスーツなんて、制御が効いてない事になる。
そんな危ないモビルスーツ、これ以上決闘で使う訳にはいかないし、三日月をこれ以上乗せる訳にもいかない。ミオリネの言っている事に一理あるだろうが、やはり納得出来ない。
「三日月。私ね、もう守られてばかりじゃないんだよ?」
納得していない三日月に、またスレッタが話しかける。
「私、小さい頃からずっと、三日月に守られてばかりだったよね?でもね、私だって強くなったんだ。もう守られてばかりの、泣き虫じゃないんだ」
これまでずっと、スレッタの側には三日月がいた。水星の老人にイジワルされた時も、勉強を教わっていた時も、そして学校に来てからも。その間、何度も何度も三日月に助けられてきた。でも、いつまでも守られてばかりではいけない。
そもそもとっても情けなくて、悔しかったからだ。
だって自分は、学園最強のホルダー。それが他人に守られたばかりでは、いざという時誰も守れなくなる。あと言い方はかなり悪くなるが、今の三日月は自分を守れるとは思えない。
無論、バルバトスに乗ればこれまで同様に強いのだろうが、生身では多分勝てる。言ってしまえば、今の三日月は弱者になるのだ。
それに、このままでは取り返しにつかない事になりそうだと、スレッタは感じている。
三日月は、スレッタの為に自分の命を使わないといけないと言っている。そんな三日月が、これからもあんな風に戦っていけば、どこか遠くない未来、確実に死んでしまう。
それは、絶対に嫌だ。そんな事になってしまったら、スレッタは多分死ぬまで後悔し続けるだろう。
「これからは、私に三日月を守らせて」
だから、これからは自分が三日月を守る。もう、守られてばかりの子供じゃない。今度は、こっちが三日月を守る番だ。
「……でも」
「でもじゃない。守らせて」
「いやだから」
「守らせて」
「……」
「いいよね?」
「えーっと…」
「諦めなさい三日月くん。スレッタ、こうなったら結構頑固よ?」
プロスペラに助けを求めようと視線を送るが、ダメだった。
「それに正直、私もこれ以上あなたにはバルバトスに乗って欲しくないしね」
それどころか、スレッタの援護さえしてきた。正に孤立無援である。こうなってしまえば、もう仕方がない。
「……納得はしてないけど、一応わかったよ」
「そこはちゃんと納得してほしいなー…」
結果、渋々ながら三日月は了承した。出来れば了承したくないのだが、これ以上何を言ってもスレッタは曲がらないだろう。
だから、三日月自身が折れる事にしたのだ。
しかしそれでも、もしまたノレアが襲ってきたりしたら、三日月普通にバルバトスに乗り込んで戦うだろう。でも、それ以外はとりあえず乗るのをやめるとしよう。
「あんた、今自分が言った言葉忘れないでよ?」
「わかってるよ」
「よろしい。言っておくけど、もし勝手にバルバトスに乗って戦おうとしたら、怪我人だろうと殴るから」
こうして三日月は、バルバトスに乗って戦うことをスレッタに禁止された。暫くは、怪我人の学生として過ごすしかないだろう。
しかし、運命というのは残酷である。だって三日月が、バルバトスから降りて普通に過ごせるなんて日は、無いのだ。悲しいが彼にはこれからも、戦う運命が待ち受けている。
戦いが全部終われば、ようやく三日月は戦う必要が無くなるだろう。そんな日が来るかは、まだ誰にもわからない。
地球寮 モビルスーツハンガー
『何で!?どうしてまたあんな事をしたの!?』
そこでは、誰にも聞こえないやり方で、とある少女が怒鳴っていた。
『僕言ったよね!?もう2度とあんな事しないでって!!』
彼女が怒っている原因。それは、彼だ。彼がまた勝手にリミッターを解除して、パイロットである三日月に取り返しのつかない代償を支払わせてしまった。それが彼女は、どうしても許せない。
『確かに、あんな化物相手だったら仕方ないかもしれないよ!?あれに関しては、当事者であるあなたの方がずっと詳しいし!でも、だからって…!どうして…!!』
彼女自身、今回のテロ事件では特に役に立っていない。あのモビルアーマーという化物を目の前にして、足が竦んでしまったからだ。かつてあの化物相手にずっと戦い続けていた彼と違い、彼女がモビルアーマーを見たのはあの時が初めて。そして見た瞬間、怖気づいたのだ。
あんな化物、見た事無い。一体、どれだけ多くの人間を殺したのかわからないくらい、濃ゆい死臭がした。あれを相手に最初から戦える者は、恐らくいないだろう。そんなモビルアーマーを、最初から殺す気でいたのは彼だけだ。彼がいなかったら、間違いなく大勢が死んでいた。
でもその勝利の変わりに、三日月がまた代償を払ってしまった。
以前、グラスレーとの決闘後に彼にはお願いをしていたのに、これだ。まぁ、あの時彼は別に了承はしていないのだが、それでもやめて欲しい。
だって三日月は、スレッタの大切な幼馴染。自分と違って、これからもどんな形であれずっと一緒にいるだろう。それなのに、あんな事になっている。このままあんな事を続けていれば、三日月は死んでしまうかもしれない。
それは、ダメなのだ。いずれスレッタの側を離れる自分と違い、三日月はスレッタの側にいなければならない。なのにあんな風になってしまえば、悲しい。そんなのは、彼女が許せない。
『何でなの!?ああまでして、あれを倒さないといけなかったの!?もっと他に方法あった筈でしょ!?例えば、スレッタと協力するとか!!』
『ーーーーー』
『スレッタじゃ足手まといって、スレッタはホルダーだよ!?この学園最強なんだよ!?そりゃ確かに、今回は僕のせいで足を引っ張っちゃったけど、それでもあの子は強い!!決してあなたの足手まといになんてならないよ!!』
『ーーーーー』
『そういう問題じゃない?あれは自分しか相手出来ない?なにそれ自惚れじゃないの!?』
『ーーーーー』
『そうやって謝るくらいなら、最初からしないでよ!!』
言い争いは続く。しかし、これ以上言ってももう仕方がないと思い、彼女は最後に締めくくる。
『もしも、もしもまたあんな事したら、絶対に許さない…!これ以上、彼に代償を払わせるような真似はしないで…!!』
『ーーーーー』
『なんか、言ってよ…!』
彼女の言葉を、彼は無言で受ける。肯定とも否定とも取られる態度だが、もういい。仮にまた、三日月があんな戦いをする事になったら、その時は彼を壊す。もう2度と戦えないように、壊す。そうすれば、三日月が代償を支払う事もないだろうから。
『…………』
そして彼女に散々色々言われた彼は、内心かなり申し訳気持ちでいた。彼自身、別に三日月にこのままずっと戦って欲しいとは思っていない。出来れば、争いの無い場所で穏やかに過ごして欲しい。そして家族を作り、最後は愛する家族に見守らながら、ベッドの上で静かに生涯を終えて欲しいと思っている。
だがこのままでは、恐らくそれは叶わないだろう。
だってソフィが口にした通りなら、かつて自分達が殺し尽くした筈の天使は、未だにこの宇宙のどこかにいると言うことになる。
それを完全に殺さない限り、安息の日なんてものは、決して訪れないのだから。
どうしても、グラスレー戦後みたいな流れになってしまう…ごめんなさい。私の実力じゃ、これが限界でした。
そんな感じで、色々と少し強く?なったスレッタ。まぁ、幼馴染があんな風にボロボロになれば、こうもなるかなって。今後、空回りしないといいけど。
次回は久しぶりの出番、ボブことグエルの地球編です。以前言ったように、鉄血からのいキャラも出る予定。
どこか矛盾していたり、おかしなところがあれば言ってください。修正いたします。
それでは、また次回。じゃあね。