「ふ……ふふふ」
青い空から、眼下に広がるゲイムギョウ界を見渡す女神が一人。
「はははははははッ!」
その者は、開放感を示すかのように、高らかに笑い声をあげる。
「遂に成功したぞ……肉体を【俺】から奪わずとも、オレは実体を持ち、こうして超次元ゲイムギョウ界に存在できる‼︎」
そして、まるで黒い瓦礫が集まってできたような無機的な翼を広げた。
「我ながら不恰好な羽だな。まぁオレらしくて良いだろう。ふふふ」
取り戻した力で生成した翼は、まるでその者の精神を反映したかのような形容をしていた。
黒い瓦礫──暗黒の心と滅亡の志。
「……暗黒星くろめ、奴らはオレをそう呼んでいたな」
取り戻した肉体、その指先をわざとらしく動かしながら呟く。
「忌々しい名だ。それは今でも変わらない。けれど奴らがオレをそう呼ぶのならば、その名の通りこの世界を暗黒の渦に堕としてやる」
『暗黒星くろめ』。猛争事変の災厄が、身体を取り戻し、次元の穴をこじ開け、今再びゲイムギョウ界に顕現した。
*
憎悪に身を堕とし、復讐を誓った。
けれど、初めから憎悪を力にできたわけじゃない。
『う、ぐ、ぅ……!』
世界への恨みを持つオレという器に寄ってきた負のエネルギーを、受け入れない選択肢は無かった。
理由は、復讐のためだけではなかった。そんなものに縋らなければ、魂すら永遠の眠りについていたかもしれなかったからだ。
世界の為に身を犠牲したくせに、心すらも失うことは耐え難かった。
『ぁ……ぁああああああ……っ!』
その力に身を堕とすのは痛みを伴った。当然といえば当然だ。女神の力の源と、相反するエネルギーで生きようというのだから。
『ぅうああああああッ‼︎ ぅぎゃあああああッ‼︎」
体組織一つ一つが全てひっくり返されて再構築されているかのような激痛だった。
口から溢れる悲鳴を抑えられなかった。
『ぁ……あぁ……!』
痛みと共に、思い出が薄れていった。
愛していた世界に、靄がかかっていくようだった。
まるで心の変容を示すかのように、容姿すらも暗く黒く変わっていた。
気が付けば、痛みも苦しみも感じなくなって、愛していたはずの世界も壊してやりたくてしょうがなくなった。
『……ぅ……ふーっ』
此処にあるのは、確かな憎悪だけだった。
*
最初に異変を察知したのは、天王星うずめだった。
自身の心の奥底に置いていた筈のそれが、前触れもなくいきなり消えたからだ。
「……ぅ……ぐぅ……!」
心の奥底に封印に近い形で閉じ込めていたものであったが、だからこそ身体の一部ともいえたそれがいきなり姿を消したことにより、うずめは悪寒と強烈な吐き気に襲われる。
「うずめ……どうしたのっ⁉︎」
隣を歩いていたネプテューヌ(大人)が、そんなうずめの様子を心配して駆け寄る。
「ねぷっち……やばいぜ……【オレ】が……っ!」
「俺……? その言い方……まさか!」
ネプテューヌも、何らかの形で暗黒星くろめが解き放たれたという事態をすぐに察した。
「でもどうして……?」
「あぁ、俺にもそれが分からない。俺は今ここにいるだろ? だから、身体が奪われたわけでもないのに……」
「クロちゃんがなんかしたのかな?」
「確かに、クロワールならこんなことしでかしてもおかしくないけど……」
二人は容疑者の反応を見ようと、ねぷのーとを開く。
『zzz〜……』
クロワールは、ねぷのーとの中で寝ていた。度々退屈が頂点に達するとこのように居眠りするらしい。クロワールはねぷのーとに力を吸われているのだが、本人曰く慣れたということで、今では中でくつろいでいるほど。
「……え?」
ネプテューヌは声を上げて驚く。
そう、『退屈』。世界の危機に目を輝かせるクロワールが、暗黒星くろめの復活という一大事を前に、特に何も反応を示さず眠っているのだ。
「この様子だと、クロちゃんは無関係っぽいけど……」
「だよな……とりあえず、【オレ】を止めなきゃ。心次元から逃げたって行っても、アイツはクロワールみたいに自由に次元を飛べるわけじゃない筈だ……なら、行けるとこなんてこの超次元しかない」
言いながら、ふと空を見上げるうずめ。
「……っ!」
そこには、黒き翼をはためかせながら、降下してくる暗黒星くろめがいた。
「……ほぅ?」
うずめは、くろめが降りて来ることが分かっていたわけではない。
くろめも、降りた先にうずめがいると分かっていたわけではない。
しかし、二人の"天王星うずめ"はそうやって惹かれ合う運命なのだ。
「久しぶりだね、【俺】」
「……言いたいことはいくらでもあるが、まずはどうやって身体を取り戻した?」
「取り戻す……か、発想を変えたんだよ」
「発想?」
「女神と人体は見た目は同じだが構成は異なる。シェアリングフィールドの比じゃない程の超高濃度のシェアエネルギーが体組織を形成し、人の形になっているものが女神だ」
守護女神や関係者なら知っている──勿論うずめも知っている──情報をつらつらと語りだすくろめ。
(なんだ……なんでいきなりこんな当たり前のことを語り出した……? 発想を変える……待てよ……? なら、あいつはまさか……っ!)
(へぇ〜女神ってそういう感じなんだ。タメになるなぁ〜)
くろめの言動から推理するうずめと打って変わって、くろめの話を感心しながら聞いているネプテューヌ。
「ならば、ネガティブエネルギーを集めて限界まで凝縮し、体組織を形成させ人の形にすれば……源は違えど女神と同じプロセスで身体を取り戻せる」
「ネガティブエネルギーを集めて……なるほど、のわっちとぶらっちとべるっちが、ここ数年治安がやけに良いって言ってたのはお前の仕業だったのか!」
(そこで小さいわたしの名前が出ないって……普段からどれだけお仕事サボってるのさ……)
「そうだよ。オレが世界から負の感情を吸い取ってネガティブエネルギーに変換していたのさ」
「お前にそんなことできないはずだ! それができれば、猛争事変の時に身体を取り戻す必要なんてなかっただろ! だから、ゴールドサァドの身体を奪おうとしたり、ゲーム機に眠っていた俺たちの身体の封印を解こうとしてたんじゃねえか!」
「そう、できなかった。あの時は。だが……!」
くろめは、自らのネガティブエネルギーを解放し、暗黒のオーラに包まれる。
「忘れたか……! 【俺】が信仰を得て力を増していく度に、オレの力もまた増していくということを!」
「……!」
「お前は人間に思い出され過ぎたのだ! 自力で身体を取り戻せる今、お前から身体を奪うことになど興味はない、だがッ! お前を討ち倒すことで! 猛争事変の再来をこの世界に知らしめてやろうッ‼︎」
力を解放し、気分が高揚したからか、まるでダークオレンジになっていた時のような荒々しい喋り方をするくろめ。
「……ねぷっち。俺と【オレ】の問題にねぷっちを巻き込むべきじゃないのはわかってる。だけど、俺と一緒に……」
うずめが言い終わる前に、ネプテューヌは笑顔で頷き、双剣を構える。
「……ありがとう、ねぷっち」
「礼なんていいよ。それに、わたしもくろめに向き合いたいって思ってたから」
「ふっ、甘く見られたものだなァ! 仮にも世界の危機だぞ! お前たち二人で止められると思っているのかッ!」
「止めてやるよ。過去作のラスボス相手じゃ、四女神のねぷっちたちでは役不足だってことを教えてやる! お前の相手なんて俺で充分だ!」
「ほざけ!」
「変身ッ‼︎」
うずめはオレンジハートに女神化し、迫り来るくろめの拳に、同じように拳を突き出し迎撃する。
「さぁ! 勝負だよ、くろめ!」
*
憎悪を源に生きるオレは、友情、愛情、絆、そういった感情を持たず、得ることもなかった。
けれど、孤独でいたかったわけじゃない。
『超次元という世界に行って、あるゲーム機を手に入れて欲しいんだ』
『ゲーム機? お姉さん、もしかして暇なの?』
そんな時、人など来るはずもない心次元に流れ着いた彼女に出会った。
明るくて、人懐っこい、所謂善人。だからこそ、目的を誤魔化すことで、オレの計画に利用しようとした。
『それじゃあ、ちょっくら行ってくるから待っててね。ワープ!』
しかし、彼女は馬鹿ではなかったようで、オレの目的が世界の滅亡であることをすぐに察し、協力するフリをしながら妨害してきた。
それに、度々さりげなくオレに復讐を捨てるように持ちかけてきたから鬱陶しかった。
けれど、彼女が側にいる時間は嫌いじゃなかった。独りではなかったから。
『……さてネプテューヌ。君は大事なことを忘れていないかい?』
『大事なこと……? わかった、おやつの時間でしょ!』
『ゲート、閉じていないだろう?』
だから、薄々察してはいたけれど、彼女の裏切りが決定的になる瞬間ギリギリまで、彼女を手元に置いていた。
オレには"嫌いじゃない"以上の感情を他者に持つことはできない。そういう存在だから。
けれど、例えば『側にいて欲しい』と言うことができれば、何か変わっていただろうか。
『マジェコンヌ、ねぷっちを始末しろ』
『ちょ、ちょっとちょっと、どうしたのさ、うずめっち。目がマジだよ、ほら、笑顔笑顔ー♪』
『──やれ』
……いや、何も変わらないだろう。
だってオレは悪人で、君は善人だから。
なぁ、ネプテューヌ。
*
くろめが繰り出すのは、単純な質量による威力を目的とした攻撃と、ネガティブエネルギーを多く込めることによりシェアへの威力を高めることを目的とした攻撃、そして両方を併せ持つ攻撃。
一つ目は、オレンジハートが迎え撃つ。己のシェアエネルギーを拳やメガホンの音波に乗せ、ネプテューヌを守り反撃を任せる。
二つ目は、ネプテューヌが捌く。女神であるオレンジハートに効く攻撃であるため、人間であるネプテューヌが前で迎撃し、オレンジハートを守り反撃を任せる。
三つ目は、どうしようもないから臨機応変に。数々の修羅場を潜り抜けてきた経験を持つ二人が、状況に応じて反撃か回避を行う。
「……ちっ」
単純な力量では勝っている筈のくろめであったが、二人の連携に手を焼いていた。
「戦い方を変えるか」
暗黒の翼を伸ばし、風を衝撃波として飛ばした後、空を飛ぶ。
「ねぷっち!」
「分かってるって!」
オレンジハートも背中のウイングで空を飛び、ネプテューヌもジェネレーターユニットを展開装着、光の翼を生やし、空を飛ぶ。
「それっ!」
ネプテューヌは、ジェネレーターユニットから供給されるエネルギーを拳銃からビーム弾にして撃ち出した。
くろめは羽を前面に回し、ビーム弾を防ぐ。
すると、無防備になった背中に、オレンジハートが回り込む。
「とりゃあっ!」
気合の掛け声と共に繰り出される正義の鉄拳。
しかし、くろめはもう片方の羽で、オレンジハートの拳を弾いた。その間前面から迫るネプテューヌの剣は、空いている腕で迎撃。
「人間の扱う剣如きが……オレに傷をつけられると思うな!」
くろめは、ネプテューヌの剣身を掴みへし折る。
「……っ」
ネプテューヌは驚きはしたが動揺まではせず、即座に折られた剣を蹴り出して距離を取り、ユニットに収納されていた予備の剣を取り出す。
「ごめんうずめ! 前変わって!」
「おっけー!」
蹴り出された剣にくろめの視界が阻まれた一瞬の隙に、ネプテューヌは後方に回り、オレンジハートが前面に回り込む。
ユニットの力があっても正面からくろめとやり合うのは分が悪いネプテューヌと、どれだけ羽を拳で砕いても即再生してきてキリがないオレンジハートでスイッチした。
*
お前がどれだけ足掻こうが、その運命はオレの手中にある。
適度な困難を与えて、適度な成長を促す。まるで育成ゲームでもしているかのようなものだ。
誤算があったとすれば、何故か現代の女神がそこに流れ着き、オレの想定している以上の影響をお前に与えたことだろう。計画に支障が無いからと放置せず、その時に手を打っていれば違った結果になったかもしれない。今更そう思っても何もかも遅いが。
それにあの時は、お前の存在は重要ではあったが、お前自身の性格というものには、微塵も興味がなかった。
『まるで家畜を育てているようだったよ。餌を与え、肥えさせ、食らい、そして、それは血肉となる』
『……っ』
そんなお前初めて憎いと思ったのは、猛争の渦に堕とした今代の女神たちを引き戻された時だったか。
初めはお前は独りだったのに、気づけばお前の側には沢山の人がいて、オレの側には誰もいなくなっていた。
だから、オレの捨てた善意から生まれた搾りカスの分際で、オレに無いものを数多持つお前が憎くなった。
『さぁ、戻って来い。後輩ども! 俺が、絶望や悪夢に負けないくらいの、ありったけの希望と夢をくれてやる‼︎』
お前とオレの孤独の反転が、お前とオレの勝敗を決定付けたものだったのだろう。
それだけじゃない。最後までお前という存在を拒絶し続けたオレと、オレという存在を受け入れたお前、どちらが勝つかなんて明らかだった。
そして、お前は受け入れたオレを心の奥底に封印した。勝利して身体の主導権を得れば、消すことだってできたのに。
『──【オレ】という感情、俺が受け入れさせてもらったぜ。待たせたな、みんな。天王星うずめ、ここに復活だ!』
お前がネプテューヌと世界を回っていた時、オレもお前の中で世界を見ていた。
かつては全てが醜く見えた世界が、オレ自身が思っていたような悪いものではないと分かった。
でも、オレはお前のように世界を愛することはできないし、愛する世界に何かを施すこともできない。オレという存在はそんな感情を持つことができないし、そんな資格もないから。
『よし! 今日の鍛錬終わり! いくら現役を退いているとはいえ、弱くなっちゃ情けないからな!』
お前が強くなり続ければ、お前の中のオレも強くなる。
お前がシェアエネルギーの扱いを極めれば、オレもネガティブエネルギーの扱いを極められる。
そしてある時、オレはネガティブエネルギーを集め、質量を持つほどまで凝縮できるようになった。いずれ身体を取り戻すことだって不可能ではないだろう。
ならば、オレのできることは一つだ。
オレは【俺】のようになれない。
だから、オレのやれることをやるさ。
*
「はぁ……はぁ……クソッ!」
初めは余裕だったくろめも、次第に疲弊し苛立ちを隠せなくなっていた。
傷だらけになりながらも立ち向かってくるオレンジハートとネプテューヌの存在が、更に苛立ちを加速させる。
「うずめ」
「……ん!」
ネプテューヌがくろめの死角でオレンジハートにハンドサインを送る。
そして、ジェネレーターユニットを最大出力にし、くろめに突撃する。
「特攻か! 無駄なことを!」
「ネプギア、ごめんっ!」
斬りかかろうとする直前で、ネプテューヌは宙返りしながらジェネレーターユニットの装備を解除し、くろめに向けて高速で射出した。
「……っ⁉︎」
くろめに直撃したユニットは、衝撃だけでなく自爆コードを入力されていたこともあり、大爆発を起こす。
「ぐ……っ、これは……? ただの装備じゃないのかッ!」
単純な爆発の威力だけでなく、ネプギア特製のユニット──女神の加護がふんだんに込められている物体が直撃したことは、ネガティブエネルギーの集合体であるくろめにとって、大きなダメージとなる。
「うずめ! 後はお願い‼︎」
飛行能力を失ったネプテューヌは、落下しながらうずめに託す。
「うおおおおぉぉぉぉッ!」
爆発が晴れると、うずめの拳がくろめの眼前に迫る。
拳のみがオレンジハートの姿を保ち光り輝く、つまり全ての力をその一部分に込めた状態。
「貴……様ァァッ!」
撒き散らされた女神の加護によるシェアエネルギーの影響で、くろめは思うように身体を動かすことができず、ただ怨嗟のこもった叫びをあげる。
「らぁあああーッ‼︎」
うずめの拳が、くろめを貫いた。
「ぐああああぁぁぁぁっ!」
拳が炸裂した衝撃でシェアエネルギーが拡散していき、ネガティブエネルギーを打ち消していく。
「ぐ……ぉおああ……っ! おのれ……オレは……オレは……っ」
そして断末魔と共に、くろめの身体が崩壊していく。
「すぅ〜あむっ!」
うずめは口を大きく開けると、崩壊していく身体から抜けていくくろめの魂を吸い込み、思い切り飲み込んだ。
「はぁ……はぁ……勝った……勝った!」
うずめは喜びと安堵が混ざった表情で、拳を空に突き上げる。
「……あ、やべ、俺も飛べねえ」
変身が解けたことで飛行能力を失い、地面に落下しながら。
「……おっと!」
落下する先に先回りしていたネプテューヌは、地面に衝突する寸前にうずめをねぷのーとに封印し、すぐに解放することで落下のダメージを消す。
「さんきゅーねぷっち、助かった」
「どういたしまして。それより、わたしたちでなんとかなってよかったね」
「どうだろうな。ねぷっちも薄々勘づいてるだろ?」
「……まぁね」
そして、全てが終わってから現場に駆けつけて来た女神ネプテューヌたちに向かって、うずめとネプテューヌは笑顔で手を振るのだった。
*
「……で、結局はまたオレを消さずに心の奥底に封印、か。そんなことをしても、そのうちまた世界のネガティブエネルギーを集めて脱出するだけだというのにな」
天王星うずめの心の中、心次元の奥の奥の更に奥、光一つ差さぬ深淵で、浮いて寝転びながら、暗黒星くろめは独り言を吐き続ける。
「とはいえ、早まったな。身体と力を手に入れたから調子に乗ってすぐに次元の壁をこじ開けたのは失敗だった」
「……ウソだよ。本当は、あえてわたしたち二人で勝てるぐらいの力で復活したくせに」
独り言の筈のものが会話になったことに驚き、うずめは前を向く。
そこには、ねぷのーとから何かしらの力を使い灯り代わりにしながら、ネプテューヌが立っていた。
「こんなとこに何のようだい? ねぷっち」
「えへへ、来ちゃった」
「……非情になりきれない愚かな【俺】の代わりに、オレを消しに来たか?」
今のくろめは、戦闘力が微塵もない。
そもそもこの心次元という場でなければ存在すらできないほど魂が希薄になっていて、おそらくコンパぐらいの戦闘力でも片手で倒せるぐらい弱っている。
「話がしたくて。それと、私の思ってることを本当かどうか確かめたくて」
「オレが君の求めるような回答をしてあげるとでも?」
「求めてる答えを全部教えてもらえると思ってるほど、わたしは子供じゃないから」
「子供みたいな脳みそのくせによく言う」
「なにをー!」
ネプテューヌが何かを言えば、くろめは嫌味で返す。
けれど、何を言われようとネプテューヌは気分を害することはなく、ニコニコと笑っていた。
「……気に入らないな」
「何が?」
「その表情だ。飄々としているようで、何もかもを見透かしているその表情がね」
そもそも最初にハッキリと言い当てた癖に、と言おうとしたが、それはネプテューヌに対する回答になるため、言葉にはしない。
「だから、オレはあえてこう言うよ。『またな』」
暗黒星くろめは、悪意のみの存在であり、善意を持つことすらない。しない、のではなく、できないのだ。しかし、世界に蔓延る悪意を吸収し、自分の力に集めることはできる。
だから、そんなくろめが、愛そうとしても愛せない世界にできることは────
「うん。『またね』」
その真意は、うずめとネプテューヌ(とおそらくクロワール)のみが知っていて、これからも向き合い続けるのだろう。
■『暗黒の再来』終わり