▼水星で人死にに慣れているだろうスレッタが蒼い顔をしたところを見ると、ペトラの死は確定っぽいな……と思ってラウペトに萌えていた私の現実逃避として出来上がりました あれ良くて下半身潰れてそうだなって……
pixivより転載
シャディクがシャディク隊の面子を含めて、学園にいない。利守はその事実に、あぁ、義兄に信用はされていなかったんだなと思う。あるいは、シャディク自身に何かあった時のスペアだと思われているのか。利守は、後者の案は限りなく薄いなと思いながら廊下を歩いていた。次の授業がはじまるから、教室の移動をしなければ。……グラスレー寮に隠されている義父、それから何かしらの問題があったらしい3人。彼らのことを思うと、頭が痛い。なんとなく気分を変えたくて、利守はいつもは通らない廊下を通った。
それが、彼女の運命を変えた。
――轟音。そして激しい振動。
「――っ!?」
「キャー!!」
「なんだ!?」
「またテロか!?」
利守がなんとか踏み止まったところで、窓から外を見る。――モビルスーツが数機。宙を駆って各所を銃撃しているのが見えた。利守の中でランブルリングの悪夢が蘇る。しかしあのときは戦術区域をほとんど出なかった。あれはシャディクが手引きしたからだ、と利守は考える。そしてシャディクは、利守のことを信用することはなかったが、彼の心身を損なうような行いはしなかった。
つまりは、見捨てられた。あるいはこれはシャディクの想定外だ。
利守はそう判断した瞬間、駆け出した。逃げねば、避難所へ。あのシェルターならモビルスーツの最大出力のビームも弾く。走り出した間にも激しい振動がして、建物が崩れる音がする。窓が割れる音がする。利守は悪夢を見ているようだと思った。
(烏森でも、アカデミーに拾われるまでの間も、ゼネリ家に入ってからも、こんなことはなかった)
利守は自分が無力な子どもだとわかっていた。思い知らされていた。元の時代にいた頃から、何もできない人間だと。ただ待つことしかできない、些末な存在だと――
「――!」
「――?」
走りながら、ふと利守は気付く。あれはスレッタと――確か、ジェターク寮のペトラ。前者とは義兄が散々歯噛みしていた相手なのでよく憶えていた。後者は記憶の端に留まっていたぐらいだ。利守の認識では、グエルの取り巻きのひとりだった気がするという程度だった。話したこともない。それでも気になったのは、彼の結界師としての空間認識能力ゆえだった。
――崩落する。
「危ない!」
利守が叫ぶと共に行ったのは、実に数年ぶりのこと。
――結界を張ることだった。
それからどれほど経ったか。
自分の体の上にまでは結界を張る余裕がなかった利守だったが、奇跡的に降って来た瓦礫で額を切った程度で済んだ。利守は視界に血が流れ込みそうになるのを制服の袖で拭いながら辺りを見る。
瓦礫だらけの中、スレッタの声がする。困惑した声だった。
「ペトラさん、ペトラさん!? 何この……アクリル?」
それで己の目論見が成功したことを思った利守は、「大丈夫!?」と駆け寄った。
成功は半分ほどだった。利守の結界は、重たい瓦礫には耐えがたかったようだ。ペトラがところどころ破損した結界の中、利守と同様瓦礫で切った様子で頭から血を流している。スレッタの目があったが、利守はこのまま目の前で結界を解けば、それこそペトラは瓦礫に埋もれてしまうだろうと判断した。
その上で、「スレッタ、手伝って」と声をかける。
「あ、はい、ええと、トシモリさん?」
「ペトラを引っ張り出すよ。そっちの手を持って」
「はい!」
スレッタと一緒にペトラの体を引っ張り出す。彼女は呻き声を上げている。恐らく脳震盪は起こしているだろう。それでも引っ張り出したときの彼女の体は一見するとさほど傷はなかった。利守はそれに安堵して、結界を解き――スレッタにペトラを託してから言った。ごく真面目な顔で。
「スレッタ。今見たことは内緒にしてもらえると助かる」
「えっ?」
「ペトラは偶々運がよく助かったってことにしといて。それじゃ」
「えっあの、えっ!? トシモリさん!?」
利守は自分でも無理があると思いながらも、その場を立ち去るしかなかった。
自分にできることが見つかった。人を、助けることができた。それはあまり健康的なものではなかったが、少なくとも今の利守にとっては確かな希望だった。
――この日の事件で、利守は学園敷地内のあちこちで駆けずり回っている姿が目撃されることになる。
End.