リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
少しずつ余裕が出来てきたので、それに伴って執筆していますので、長い目で見守ってくださいまし。
とりあえずイチャイチャ方面の流れでいきます
その日、ケンは絶望していた。
何気ない学校生活のはずだった。
普段通り登校し、
なでしこと雑談し、
今日はバイトが休みだから野クルに参加しようと予定していた。
だがそれを許さんとばかりに、
寄って集って椅子に縛られ、座ったままの体勢で固定される。
「や、やめろ……」
クラスメイトの魔手が、彼に伸びる。
彼、彼女らの目はいつものそれではない。
血走り、まるで獲物を狩る猛獣のようなもの。
必死の言葉の抵抗すら聞くに及ばず。
「志摩……これもクラスの為だ。甘んじて受け入れろ」
「そうよ、一人はみんなのために。ワン・フォー・オールよ!」
なるほど、
いいセリフだ。
感動的だな。
だが無意味だ。
言葉と行動が剥離したこの状況、ケンにとっては最早地獄の一丁目に足を踏み入れようとしている。
そんな彼の視界の片隅に、大切な少女を捉える。
そうだ、良心(と食欲)の塊であるなでしこなら、このクラスメイト達を止めてくれる!
「な、なでしこ……たすけ「ごめんね、ケン君」(´Д`)」
最早この世に神はいない。
きっと彼にソウルジェムがあったら、絶望によって穢れまくっているだろうことは想像に難くない。
「さ、年貢の納め時だよ」
その日、本栖高校の一室で、何かが剥がれるとてつもない音と共に、男子生徒の痛々しい悲鳴が木霊したとかなんとか。
時を巻戻そう
「今日のロングホームルームは、再来月に迫った『本栖祭』に向けての出し物を決めたいと思います」
遡ること1時間前。壇上で委員長が議事進行を、書紀が黒板に書き出して記録を務める。
本栖祭
他の高校での『文化祭』と言えば分かりやすいだろう。各々のクラス、部活の出し物をし、来賓客を招いて学校を盛り上げる行事だ。
「何か案がある人〜」
「はい!ここは王道を往く、お化け屋敷がいいと思います!」
「演劇〜」
「出店とかどう?」
「出店……ごはん……ジュル……(グゥゥゥウ)」
「なでしこ、よだれ拭け、あと腹の中の猛獣も自重な」
様々意見が出される中、予算はもとより、準備期間を加味して本番に間に合わせなければ意味がない。でなければ、準備に時間を割いて、結果として泊まり込みとかそういった事態になりかねない。それはそれで高校生活らしさもあっていいのだが。
「出店といえば、メイド喫茶もありだよね!」
「メイド喫茶……そういうのもあるのか」
「冥土……喫茶!?そそそそんな物騒な喫茶店がありなの!?」
「いや、字が違うぞ」
目を見開き、顔を青ざめてガタガタ震えるなでしこに呆れつつも、ケンも健全な男子高校生らしく想像力を働かせる。
メイド
それはなんとも甘美な響き。
白と黒の服に身を包んだ女の子が献身的にお世話をしてくれる。
無論、そんなシチュエーションに憧れがないわけではないケン。隣で未だ冥土喫茶に囚われているなでしこに、メイド服を着てご奉仕してもらえたなら……そんな妄想を膨らませる。
だがややあってその妄想は却下される。
そう、メイド喫茶をする=メイド服を着たなでしこが客にご奉仕すること。中には男もいるだろうことは想像に難くない。そんな光景を見せられるなど、彼の精神はきっと保たないだろう。
自身の嫉妬深さと共に独占欲に少しばかり嫌気を感じながらも、メイド喫茶は自身で却下しようと決めたとき。
「それだと、女の子ばっかりがコスプレすることになるじゃない!」
「そーだそーだ!こーへーなあつかいをしょもーする!」
「こ、公平って……」
そう、女子が自分達ばかりが仕事しなければならない事に納得がいかず、クーデター(誇大)を起こしたのだ。
「コスプレ喫茶に題目を変える?」
「ん〜、それだと捻りがないんだよね〜」
ただコスプレして喫茶店を開く。
それだけでは面白みに欠けると言うことだろう。
どうせなら他がやらなさそうな、インパクトのあるモノを……
あぁでもない、
こうでもない、
各々がウンウン唸りながら案を出しては却下するなか
「はい!」
真っ直ぐに挙手したのは、冥土喫茶から抜け出したなでしこだった。目をルンルンに輝かせ、まさに『大丈夫です、我に新兵器あり』と言わんばかりの自信に満ち溢れていた。
なんだろうと、クラスの誰もが彼女の答えに耳を傾けるなか、なでしこは声高に宣った。
「男女逆転御奉仕喫茶が面白いと思います!!」
男女逆転御奉仕喫茶
つまり、
男子がメイド
女子が執事
男女の役割を逆転させると言うものだ。
なるほど、それならばメイド服のなでしこが奉仕する姿を見せつけられずに済む。が、執事服ですることに変わっただけで、根本的な解決になってない気がするが。
結局、多数決で票を集めたのではあるが、大半の面白いもの見たさになでしこの案が採用されたのは言うまでもない。
と、言うことで
「とりあえず、サンプルってことで誰かメイドの格好をしてみない?」
『さんせー!』
「こんなこともあろうかと、ここにメイド服が一着ある!」
「なんであるの!?」
「被服部なめんなよ」
「さて、問題は男子の誰に着てもらうか、だね」
「どうせなら似合う奴にしようぜ」
「うむ、女顔で、そこまで背が高くなくて……」
そして満場一致で視線が集まる先。
そこには……
「……は?」
案の定、ケンだった。
「志摩君なら、顔つきも志摩さんに似てるし、背丈も高すぎないからバッチリね!」
「少年!私は君がメイド服を着ることを所望するっ……!!」
メイド服を携え、手をワキワキさせながら滲みよるクラスメイト。
その姿、まさにゾンビの如く。
さしもの運動神経が優れている彼とてクラスメイト全員には抗えず、あえなく捕縛。その後、冒頭のように拘束され、女装のために必要措置ということでガムテープによる脛毛剥がしが執行されたというわけである。
そして、
「これは……!」
「う、うん……」
「いかん、いかんよ志摩君、いや!志摩きゅん!」
「私、女装男子に目覚めそう」
「しょ、しょしょしょしょしょ少年!青年のような少年んん!!」
皆が鼻血を抑えながら取り囲む中に居たのは、
初めて履く膝上までのフリル付きスカートを恥じらいながら、中が見えぬよう手で抑え、
そこから見える処置済(意味深)であるスラリと伸びた足を隠す黒いニーソックス、
プリムが付けられているのは、これまたどこからか持ってきたかわからない深青の腰までの髪。
極めつけは軽いチークと共に、薄いピンクのリップ(なでしこの私物)などのメイクで整えられた整った顔。
想像以上の作品がそこにはあった。
「くっ……殺せ!」
その顔で睨んでくるのは、見事にメイドとして仕立てられたケンだった。睨みをきかせる顔も、メイクと元々の顔つきのおかげでただの恥じらう乙女にしか見えないからたちが悪い。
「だ が 断 る。志摩きゅんは、文化祭でこのクラスの看板娘として大いに客引きして貰うのが決定してるんだよ、ね?皆?」
『異議な〜し』
「駄目だこのクラス……早く何とかしないと……」
さっきから謎の団結力を見せるコイツラは一体何なんだ?人間というのは、一人の生贄によって、こうも強い結束を見せるものなのか?
椅子に座り込んで謎の戦慄を覚える中、ケンの顔にふわりと柔らかい何かが優しく包み込む。
「はう〜、ケン君、すっごいかぁいいよぅ」
「な、なでしこ、さん!?」
むぎゅっと顔を抱くように抱きしめられた。ケンの頬にはほんのりと柔らかなナニかが押し当てられて一気に顔が沸騰しそうになる。
「皆!ケン君お持ち帰りしていいかな!?」
「へぁっ!?」
『却下!!』
「せめて本栖祭が終わるまでは我慢してね、各務原さん。それまでは志摩きゅんはこのクラスの共有財産だから!」
「へゔ!?」
どうやらメイドのケンをたいそうお気に召したらしく、アフターに洒落込もうとしたらしい。当然のごとく棄却され、がっくりと項垂れるなでしこ。
「でも、本番の本栖祭が終わったら、恋人として煮るなり焼くなり好きにしたらいいよ?」
「うん!」
(ここに俺の人権というものはないのか……神よ)
抱きつく力を強めたなでしこに、本栖祭という本番の地獄が未だ待ち受ける絶望を認識して天を仰ぎ見るのだった。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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