所詮、私たちは好奇心には勝てない学生でしかなく。
やめるべきだと諫めるなどできないまま、あっさりとボタンは押されてしまった。
押すとかちり、固い感触と小気味の良い音が鳴って。
棚が、どうしてか。大きな音を立てて横にスライドし始めた。
「な、何……?!」
驚く間にも音は響き続けている。
少しずつ見えてくる、奥にあるもの。
開ききったその場所に存在していたのは、SF映画にでも出てきそうな大きな円筒一つ。
その内部に詰められているのは薄青く発光する水のような液体と、水中にふわりと浮かぶ幼い少女だった。
「ンだよ、コレ……」
「フラスコの中の小人、とかいうヤツ……?」
「そ、そんなもの実在するのかな……」
「生きたフラスコってまさか……」
みんな、この異質すぎる光景に怯えている。
私は円筒内に浮かぶ少女に対して、妙な既視感を覚えていた。
この子どこかで……見たことがあるような。誰かの面影を感じるような。
気になって注視すると、円筒の片隅にラベルが貼りついていることに気付いた。
「アルファベット……大文字のUと小文字のb……?」
意味も分からないまま文字列を口にし、更なる理解を深めるためにもう一歩近づこうとしたそのとき。
「おや、君たち。どうしてここに来たんだい?」
淡い光の及ばないところ、闇夜の片隅から誰とも知れない声が響いた。
「比較的簡単な仕掛けとは言え、恐怖心に負けず好奇心のみでよく突き進んだものだねぇ」
どこから響いているのかは分からない。
部屋全体から耳に直接染みてくるような不思議な声。
その声は私たちの困惑など一切慮ることなく続ける。
「とはいえ、だ。流石にこの研究について知られるのは実によろしくない。実験の立証に支障が出かねないからね。さあ、私の声に耳を澄ませて。三つ数えたら君たちはこのことを忘れるんだよ」
謎の声に対してシャカールが食って掛かる。
「誰なンだテメェは?!」
「誰とはまた含蓄のある言葉だねぇ。誰でもいいじゃないか、どうせ忘れてしまうんだから。どうせ私の顔なんて見れやしないのだし。身体、もう動かないだろう?」
どうしてだろう、足は地面に縫い付けられたようで。顔はまるで金縛りにでもあったかのように微動だにすら出来ず。確かに、動けない。
どうして、と声に出すよりも早く。
「さあ。さん、にい、いち……」
お別れだよ。
その言葉だけが頭に響いて……
……はっとした瞬間、私たちは理科室の外にぼうっと立っていた。
「ホワイ、どうしてワタシたち外に……?」
「知らないわよ、本当になんで……?」
模型が動いたところまでは覚えている、けれど。
そのあとの記憶がどうにも曖昧模糊としている。
「模型が動いた後、何かあったような気がするのだけど……」
問いかけてもみんながみんな、不思議な顔をするばかりだ。
何かモヤモヤする、何か重要なことを忘れている。
けれど、考えても仕方ないことなのかしら。
忘れてしまっているということは、思い出さない方が幸せという裏返しかも知れないし。
「……とりあえず、戻りましょうか?」
「……あア。釈然としねェが、そうしよう……」
そう割り切って、私は多目的室の方へ向かって歩き出した。
一度だけ後ろを振り返ってみたけれど、背後には吸い込まれそうな闇だけが広がっていた。