なァるほど、魔法か。
まア当たらずも遠からずってとこだな。
あンがとな。じゃあ、続き話すぜ。
変化が起こってしまったのはある一人の部員の想いからだッた。
ふと、いつものようにレースを研究していたときにソイツは思ッたンだよ。
「リアルのレースをトレース出来るほどの情報量を得ているのなら、自分をその中の一人として走らせるんじゃなく、一位の視点と身体の動きにダイブすることも可能なんじゃないか」
そして直感の赴くままに、知識として吸収したモノを、最新鋭のVRマシンとドッキングさせようとした。特段の躊躇いもなく。
あア、そうだ。
追体験ってカタチにして、見るだけだった今までを変質させようと画策したンだよ。あの魔法染みた最新鋭技術のウマレーターモドキとな。
見学部として得たデータをマシンにインプットし、実際のレースに出来る限りニアピンさせたモノをあらかじめ作り出しておいて。
そして、アクセス。
終われば更にアクセス。
もっともっとアクセスを繰り返して。
空想の戦場に自分と対戦相手を無限回走らせる。
己の限界に直面するまで、プライドのすべてを失くすまで。限界の果てに至るまで。
……この辺は嘘も方便ッて感じではあるンだがな。
オレが語ってんのもあくまで伝聞なンだ。
本当に自己崩壊するまでやったかどうかまでは知らねェよ。
とにかく、見たことのない世界に溶け込めるまで、何度でも何度でもインプットとアウトプットをループさせれば……いずれは勝利に辿り着けるンじゃねェか。ソイツはそう考えたワケだな。
ここまでは割とありがちな発想だ。あんなVRマシンが結構前から学園にあったンなら、切実さよりも好奇心でその発想に至るのはおかしくもねェ。実際そういうことを考えて実行に移す直前まで動いた部員は少なくない人数いたらしいぜ。
ただソイツとこれまでのヤツは一つ違ッてた。
VRマシンを借りる際にはよ、当然だが事前申請が必要なワケだ。どういう目的で、何を理由に借りるのか。コイツは肉体へのフィードバック要素すら包括してる、SFチックなんてロマネスクな聞こえよりもよほど危険な物品だ。
変な利用方法だとバーチャルとリアルの乖離で苦しむことになる。それに長時間他人の動きをトレースするのはソイツを更に助長しちまうことに繋がるから、当時の理事長からも完全にタブー扱いされてたらしい。下手したら選手生命の断絶にも繋がるからッてな。
細かい条件を長々と語る気はねェが、生半な理由じゃ申請だって通らねェのは確かだった。
つーかよ、そこまで知ったら流石に怖くもなンだろ、普通。
戦場の外で死ぬかも知れねえとまで言われりゃよ。
でもそこで踏みとどまれなかったのが、ソイツだ。
「認知科学とリハビリテーションの結びつきについてVRの視点から読み解きたいため」
ッてよ。堅苦しいんだか、よく分かんねェんだか。
通るかどうかも怪しい文言で使用申請を出した、部名は出さずにな。
こンな怪しい申請じゃ流石に無理だと思うだろ?
それがさ、こともなげに通っちまッたンだよ。不思議なことにな。
そんでソイツは喜びまくったあと、様々なレースに顔を出し自分の理想を集めた。このへんはルーティンワーク化してたから全然苦じゃねェ。
苦どころかむしろ喜悦だぜ。留まることを知らない知的欲求は、貸与の日付までに膨れるだけ膨れ上がった。
そして、当日。
ソイツは逸る気持ちを抑えつつ部室に機器を運び入れ、諸々の準備を手早く済ませた。フィードバック機能の目盛りを最大にすることを忘れずにな。
部室に持ってくとバレないかって疑問、そりゃ湧くよな。コレはな、むしろ当然の帰結だッたンだよ。衆人環視とまでは言わねェが、誰かが直ぐに止められるよう、常に人がいる場所での使用を厳しく指導されてたからな。
周りからの目がどうしても必要になるのなら、大人の介入が起きにくい部室で取り組んだって何もおかしくはねェからな。戦友で埋め尽くされた部室なら比較的融通が利くってのはコイツの行動が理解できなくても、理屈としては何となくわかンだろ?
つッてもだ。人には当然人間性がある。
周りはソイツをスルーするような鬼じゃねェ。
至極一般的な、気のいいヤツらだッた。
だからソイツはそりゃまア散々止められたさ。
でさソイツ、口々に言っていたらしいンだよ。
「もし失敗しても二週間治療に専念すれば問題なく完治するから大丈夫!」
とか意味わからねェ事をよ。
ンなワケねェじゃねェか。ゲームじゃあるまいに。
そンでソイツは周りの静止を振り切って、VRマシンに身体を預けた。
……それからたった数分後。
「証明は……完了したわ……」
肉体へのフィードバックはVRマシンから離れた時に訪れる。
滝のような汗を流して、息も絶え絶えの状態で。
言い終わると同時、ソイツは力なく床へと突っ伏した。
周りは大パニックさ、端から見りゃ突然独り言ちて、その瞬間勢いよくぶっ倒れてンだからな。とにかく救急車を呼んで、到着するまで保健室に寝かせておくことにしたわけだ。
こういうとき、下手に動かさない方が良いッていうが……ソイツがうわ言を呟いてンだ。どうか保健室に運んでくれッてな。
まアそもそもがクソ狭い部室だ。幸いなことに保健室は部室の目と鼻の先だッたからな。ソイツの希望通り……厳密には違ェが、ソイツは保健室に運ばれたワケだ。
運ぶ途中、誰もが気づいたぜ。
肉が中途半端に焼けたような、刺激の強い嫌な臭いがソイツの脚から漂っていたコトにな。
ソイツを救急車に乗せてから、部員と数名の教師はVRマシンの設定状況等を確認した。
確認して、全員絶句したぜ。
VRマシンの体感時間ッて言やアいいのか?
それがな、ちょうど三時間分に指定されていてな。
たった数分の間に、三時間だ。しかも様々なレースの局面に限定してあッた。
他者の動きを三時間の長きにわたって。自分が走るンじゃなく、他人の走りを自分の身体でやれる限り模倣する……。
……それを三時間ぶっ続けだ。
どんなに身体が頑丈なヤツだって壊れちまう。
だから当然肉体には、重い障害が残った……と思うだろ?
許容量を遥かに超えたパワーで動かされていたワケだからな、何かしらの揺り戻しは普通あるじゃねェか。奇跡なんて存在しねェ、このリアルにおいては。
だがよ。流石に二週間とは言わねェが。ソイツはひと月ほどで退院したらしい。普通に五体満足でな。まア流石に、今でも定期的な通院は欠かせねェらしいが。経過観察ってヤツだ。あり得ねェ話だけどな。
で、こッからはその後の話になるぜ。
流石にこの一件があった以上、ソイツには重い……あア、一応重い範疇に入るだろう処分が下った。つッてもレースを辞めろとかじゃなく、VRマシン等の使用禁止とチーム等での練習経過について、毎日詳細な報告書を作り提出することを求められたカタチだな。
あア、当然レース見学部は除籍処分食らッたぜ。
その後、未勝利戦とオープン戦のは一つか二つは勝って、それ以上の浮き沈みは特になく卒業していったンだと。
コイツにとっては最高のアガリだよな。巻き込まれた部員や教師、チームのトレーナーとかにはまったく災難だがよ。
にしてもよ、気にならねェか?
何がって、お前なア。どこをどう取ったって明らかに異常じゃねェか。
オレが一番気になンのはVRマシンのどうこうじゃねェぜ。
この話の張本人が言ってた保健室ってのは、果たして魔法の暗喩なのか、それとも何かオレたちには知り得ないような理由があンのかってトコだ。
生命的に強いオレたちとはいえ、全身ローストされるような事態になりゃまず助からねェ。死を望むワケじゃねェが、本来ならきっとコイツはまず助からずに死んでいたろうさ。
なのにコイツは特に問題なく五体満足で生きてる。そりゃイイコトだわな、掛け値なしに。オレが悲観的過ぎンのかも知れねェとも思う。
しかし、どこにも一本筋が通ってねェだろ。
VRマシンの強みについて、オレたちは身をもって知ってるハズだ。
無理すりゃ現実とさして変わらない程度に肉体を破壊しうるモノ。
理屈がつかねェからこそ理由が欲しくなるンだよ。
理論と数値じゃ説明しきれねェ、まさしくオカルトってヤツが。
オレたちが生きてるこの世界の、オレたちには知覚できない端々で、密かに息してンのかも知れねェのかも、とな。あンまし認めたくはねェがよ。
実際に確かめたくてもよ、情報が少ねェからさ。オレは踏み込まないことにしたンだ。
噂についてはサブトレとして戻ってきた当時の部員から直接聞いたンだぜ?
ただな、訓戒染みた感じで細かいところまで伝わってるくせに、当時の部員や顧問の名前だとか、そもそもVRマシンを拝借した当人の名前すら誰も知らねェんだとさ。
パルカイでネットの情報を浚ってもみたが、特に何もヒットしなかッた。
部外者にはこれ以上は語れねェってことなのか、それとも実際にはただの寓話に過ぎないのか。じゃなきゃそれこそ……ファンタジーくせェ例えをするなら、世界からの修正力ってモンが働いたのか……とかな。
……ま、分からねェのはモヤモヤすッけど、深く考えても仕方ねェのかもと割り切って。今日ここで語るまでオレはそれなりに忘れて過ごしてたッてことさ。
実証出来ないものについて拘っても時間を無為に浪費するだけだしな。
ッてか、考えてもみろよ。
この推論を検証するために結構なケガするとかよ、あまりにロジカルじゃねェだろ。
まア話の締めとしてオレが言えるとしたら。
無理はしても、無茶はすンな。
そンな程度だな。
寝覚めが悪くなるようなコト言いたかねェが、もし保健室にその手の理由でお世話になることがあッたらよ。どうだったかぐらいは教えてくれ。悪ィ趣味だが、そのミステリーを解明することには興味があるからな。
これでオレの話は終わりだ。
次は誰が話すンだ?