トレセン学園であった怖い話   作:塩化プラス

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【第五話?】サイレンススズカ・無音に浮かぶカゲの幽霊[第四話隠し]
【第五話?】サイレンススズカ/A1~NEXT


「へ? 走ってみたい、ですか?」

 

ええ。もしも平行世界なんてものがあって、そこに別の私がいるのだとしたら。

戦ってみたい、走ってみたい、自分の方が早いのだと証明したいと思うし、もしも何か悩みがあるのならとりあえず走って、いろんな気分を吹き飛ばしてあげたいのだけれど……変かしらね?

 

「いえっ、そんなことはないと思いますよ!」

 

ふふ、ありがとう。あ、フクキタル。最初の返答なんだけど、特に……だなんて。いくらなんでも無神経過ぎたから。

まず先に謝っておきたいの。ごめんなさい。

フクキタルのことだから怒っている感じはしないけれど、むっとはしたと思うから……

 

「いえいえ、お気になさらずっ!」

 

でも、仮にその幽霊がこの場に来てくれたとして。

校舎の中に全力で走れるような場所なんてどこにもないし。

ふふ、どうしようかしらね。

 

「一つ聞いても良いですか?」

 

ええ。何かしら?

 

「スズカさんにとって走ることは最上なんですよね」

 

そうね。

ずっと走り続けていたいし、走り抜けた先に見える景色もいつか知りたい。

私にとって走ることは何よりも一番だわ。

もちろん家族とか友達とか。大事にすべきものは別にしてね。

だからこそ私、その花の幽霊って呼ばれるウマ娘と走ってみたいの。

 

「……どうしてです?」

 

そうよね。どうして突然って思うわよね。でもね一応理由があるの。

同じモノかどうかは私には分からないけれど、フクキタルがさっき話してくれた幽霊の噂に似たものに以前遭った気がするからなの。

 

私が出会ったのは、昼と夜の隙間。

おおよその物事が終わって、あとは閑散とする一方な夕方の末期。

たった一人しかいない練習レース場で会った、いわばゴーストのようなものだったわ。

……ゴーストって仰々しい名前なのは、なんとなくよ。

 

トレーナーさんに許可を貰って、トレーニング外で走ってたんだけど、その時に遭ったんだと思う。その日はあんまり天気も良くなくて、みんな早くにトレーニングを切り上げてたのね。気づけば練習レース場には私しかいなくて、ここからは貸し切りねって気分も上がってたの。

 

とりあえず水分補給をしてもう一度走ろう。手近な場所に置いてたペットボトルで身体に活力を与えつつ、何の気なしにぼうっと前方を見ていたとき、随分と驚いたのを覚えているわ。

どんよりした曇り空とは対照的に。まるで花弁を散らすかのように、眩しい光を全身から迸らせて走っていたウマ娘をこの目で見たから。

 

速度的には返しウマのそれだった。これから走るって感じの気概に満ちていたわ。そういうのって遠くから見ていても結構分かるものでしょう?

 

だからなおさら困惑したわ。レース場の利用方法って結構厳格に決まっているじゃない。昼から夜まで練習のために走るって形なら申請とかも通りやすいけれど、寮の門限や保安上の観点から夜からの練習申請って通りづらいのよ。

夕方からの練習は少なくないけど、夜になりかけの時間帯から始めるなんてかなりのイレギュラーだもの。不思議な子も居るものねえと思いながら走りを見つめていたわ。

 

数分もしないうちに彼女はウォーミングアップを終えたようで、走るのをやめてスタートラインあたりにポジションを取っていたわ。

そろそろ走るのかしら、なら私は外周を使って練習しよう。そう思って軽く伸びをしてから歩き出したとき、視線を強く感じたの。

彼女の方へ向き直っても、手招きとかはされなかった。

ただじっとこちらを見つめていたわ。

 

ねえ、私はどうしたと思う?

 

「そりゃあ……スズカさんのことですから、走ったのでは?」

 

まあ、そうね。

併走したいのかなと思ったし。

特に何も言わず私もスタートラインに並んだわ。

一周半、先にどちらがつくかで勝負ね。

それだけを先に伝えると、彼女はこくんと頷いたように見えたわ。

 

スタートラインの近くに、疑似的な号砲用のアラーム付き時計があるでしょ?

アレを設定してから、走る態勢を整えた。

やがて切られるレースの火蓋。

 

私はいつものように逃げの戦法を使って、内ラチを攻めた走りをしていた。

ゴーストも同じような脚質なのか、私に近い距離で走っていたわ。

 

みんなそうだと思うけど、走っている最中に周りを見るでしょう?

足の運びや息切れの具合、腕の振りから分かる筋肉疲労の程度とか。前方を捉えておくための中心視野を周辺視野で捉えられる情報はいくらでもあるわ。

 

私はね、そこで少しだけ違和感を覚えたの。

だってその子、息が上がってる様子が一切見られなかったからね。とはいえ機械みたいにラップタイムを刻む、というわけではなかったわ。

状況を見て加速や減速をしたりと、ペース配分も丁寧だったわ。

ただ、なんというか。

完璧すぎたのよ、挙動のすべてがあまりに律されていたわ。

 

でもね、負けたくなんてないでしょう?

冷静に走り進めながら、最後の最後に出し抜けるよう、スパートを掛けたわ。

私に連動してゴーストも溜めていたのだろう脚を解放した。

そして……ほとんど同時にゴール地点を踏み切ったの。

私たちの速度は、ほとんど同じだった。

 

……あ、わずかに私の方が速かったのは間違いないわ。

息を整えるためにコースを流して、落ち着いてきたあたりで。

あなた、速いわね。

そう伝えると、ゴーストは華やぐみたいに笑ったわ。

ねえ、もう一度走りましょう?

そう口にしたときにはもう……ゴーストは私の目の前から消えていたわ。

そこで私はようやく、彼女が現のモノでないことに気付いたのよ……

 

「なるほど……それがスズカさんの体験した、不思議な話ですか……」

 

ええ。まあちょっとだけ脚色したけれどもね。最後のところとか。走るのが楽しくて、あの子ってもしかして……なんて考えたの、帰ってご飯食べてお布団に入ったときだもの。

思い出したのだってフクキタルが幽霊のことを話してくれたからよ。

まさかとは思うのだけど、なんとなく関連があるかと思ってね。べらべらと喋ってしまったわ。ごめんなさい、フクキタル。

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。途中から私のお話ではなくなっちゃいましたが……それはそれとして素敵なお話も聞けましたしねっ。とりあえず、これにて第四話と第五話完結、とでもしておきましょうか!」

 

……え?

だ、第四話?

第五話とか、え?

フクキタル、突然何を言っているの?

 

「でもまあ、ある意味ちょうどいいかも知れませんよね。スズカさんが話すことによって七人いることを満たしたわけですからね!」

 

ちょっと、勝手に話を進めていかないで。

いじわるしないで質問に答えてよフクキタル。

 

「いじわるなんてしてませんよ、スズカさん」

 

どういうこと……?

 

「スズカさん、横に首を振ってみてください。どうですか、みなさんの姿が見えます?」

 

そう問われてすぐ、周りを見渡す。

けれども辺りに広がるのは無明の闇。

ど、どういうこと?

私を含めて七人で、多目的室で集まって。

怖いお話を話して聞いてって、やってたはずなのに……

 

「怯えなくても大丈夫ですよ。ですが、あなたは意図しないまま。聞き手になって欲しいという、そんな私……いえ、この子のお願いよりズレてしまった」

「その結果、この先であなたたちは。最後に行き着くよりも先に七不思議を完成させてしまうことになるでしょう。それはあまりよろしいことではありません」

「なので、時を戻させて貰います。ああ、私はあの子が都度都度で想っている、フクキタルのお姉さんではありませんよ。そうですね、あの子が心底の半分くらいのパーセンテージで信奉してる神……かも知れませんね?」

「私も末席とはいえ神なので。これぐらいの時間遡行はお手の物ですから。なんの問題もないように世界を繋ぎ直しておきますね」

「ああ、フクキタルが話していたあの噂。確かにああいう良くない霊は居ますが、大丈夫。あんな程度のものに介入させはしませんから、安心してくださいね」

「それでは、また。この終わり以外でお会いしましょう。分としないうちに訪れる、意外性のない次の世界で。私、フクキタルと待っていますから。うふふ……」

 

矢継ぎ早で一方的な話が終わり、暗いばかりだった視界が徐々に開けてくる。

 

「おおおおおっ! ようやく私の出番が来ましたね!」

 

つい数分前に聞いたような覚えのある台詞が、私の耳にまた届く。

ああ、本当に戻ってきたんだ、私は。

戻ってきてしまって、もう息をするのさえ苦しく思える。

こんな気持ちは初めて、ではない。

何かを口にしたくても、身体は聞き手としての動きを求められているから、事前に仕組まれた行動以外にとれるものが今の私には存在しない。

 

あの神さまのいうとおり、このまま聞いてしまえば、私はみんなよりも一足先に七不思議を知ることになってしまうだろう。

しかし、それはあくまで私の記憶の片隅に、自分が話したという理由が残っているからの話だ。

戻ってきたこの時間には、私が話したという事実は存在しない。

だから、多分、大丈夫。

私はみんなと同じタイミングで、七不思議を知り、そして何かに見舞われる。

これは定められた運命。逃げることなんてできない。

私は固唾を飲んで、フクキタルの話に耳を傾ける……

 

 

 

 

 

そして恐怖は繰り返す……

 

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