「……要らない!」
「そう。なら、イマのまま。お幸せに」
スターさんは張り裂けんばかりの大声で叫んだ。
ささやきが離れていくと同時に、胸を裂くような痛みが嘘みたいに晴れた。
面食らいながらも二人は立ち上がって辺りを見回した。
「なんだったのかしら……」
「……分からない。一旦、帰ろうか。スター、脚は……」
「えと、大丈夫、そうです」
「とりあえず、時間も時間だし……僕の部屋へおいで」
スターさんは唯々諾々と従って、彼の部屋で何事もない一夜を過ごした。
……邪推しないでよね、本当に何もなかったの。
あるわけないじゃない、だってまだトレーナーと担当ウマ娘の間柄なんだから。
そして、翌日。
「昨日は言えなかったけどさ。君に渡したいものがあるんだ」
トレーナーに作ってもらった朝食をまうまうと頬張りながら、スターさんはその手紙を読んだ。そこには……流石に、言わなくても分かるでしょ?
「これが、僕の気持ちなんだ。君が……その、受け取ってくれるなら。僕から、伝えたかったんだ。好きだって言葉は」
「はい……っ!」
昨日は悲しみの涙だったけど、打って変わって今日は喜びの涙になったの。
恥ずかしい気持ちなんてかなぐり捨てて、彼に抱き着いて。胸に顔を埋めながら嬉しさに身を震わせた……
……スターさんとトレーナーは好き合って、関係をひとつ進めることが出来た。
素敵なお話は続くよ。不思議なことにね、無茶をした脚は何事もなかった。
特に壊れることもなく、普段通りのままだった。
二人は幸せな時を過ごした。スターさんが学園を卒業して少ししてから、籍を入れたらしいよ。そこまで深くおばあ様に聞いたわけじゃないけれど、今も仲睦まじく暮らしてるんじゃないかなあ。こんなに劇的なアイが完成したんだもの。まあ、それがおまじないの力なのかは分からないけどね。
にしてもあの時、欲しいって答えてたら。一体どうなっていたんだろうね。そんなパラレルワールド……もしもの物語を想像するとね、どっちの方が幸せだったのかなって思うときがあるんだ。
だってこれってさ、最初にも言ったけどある種の黒魔術だから。
おまじないが通ったとして、手に入れた幸せってそれこそ呪い、なんじゃないかなって。
まあでも。結果としておまじないに頼らなくても愛を掴み取ることが出来たから……
そもそもこんなことを考えるだけ野暮なお話なのかもね。
ん~……オカルトチックな異変があるとしたら、そうだね。スターさんの使っていたあの蹄鉄が、どこかへ消えてしまったことかな。
おまじないを叶えたから消えたのか。叶えられなかったから消えたのか。どちらなのかは分からない。ただ蹄鉄が消えたことだけがお話として残ってる。
結局のところアタシのもおばあ様からの伝聞だから、このお話自体が創作なのかもしれないけどね。
ああ、そうだ。事実は小説よりも奇なりとも言うから、みんなにひとつ、忠告ね。
もうひとつのおまじないが今でも噂されているのは、時々、恋に破れた女の子の下駄箱に、血のりで汚れた蹄鉄が入っているらしいからなんだ。
それを使えば、アイが成就するって噂の、ね。
届いても使っちゃ駄目だよ、とは言わない。
愛が与えるエネルギーなんて、アタシには慮ってあげられないから。
だから、忠告なんだ。思いつめてしまう前に、深呼吸して考えて欲しい。
使ってもしも叶ったらきっと。
これまでの何もかもが変わってしまうかも知れないから……
……ふぅ、うまく話せたかな。
ちょっと自信ないけど……これでアタシの話は終わり。
ええと、次は誰の番になるの?