───まだ、雨は止まない。ずっとずっと、降り続けている。
きっと、この雨は止まない。最期の瞬間まで。
でも───わたしは、それでいいと知ってるし……わたしもまた、その事を肯定してくれた。
だから、わたしは。このまま眠りにつく。
起きる必要もないし、起きたくもない。
もしも起きるなら、それはまたぶり返す時。そんなの、あってはならないから。
………まぁ、それでもたまに起きそうになるけど。
そういう時は、わたしがコミュ症を発揮した時だ。我が事ながら情けない。結果的に、変なとこがお姉ちゃんに似通う形になってしまった。
───まぁ、いいんだけどね。
また、眠る。
……最近はね。
この部屋を叩く雨の音も、心地好く聴こえるようになったよ、おねえちゃん。
───それと、わたし。
お墓の前。後藤ふたりは、目を閉じて両手を合わせた。
────最近、あった事の報告。
虹夏さんとリョウさんは、車の免許を取る為に頑張ってた。
……リョウさんは、なんというか……。技能実習がだいぶダメらしいと聞く。
なんというか……筆記試験も心配だったが、実技までとなるといろいろと心配だ……。
しかも、前にレーベルの件で浮かれ狂った結果、ローン返済の為に悪戦苦闘していらっしゃる。
この前は、キャッピキャピの笑顔で接客していて怖かった。仕方ないので、カレーを奢ってあげた。
「えっ今日はカレーライス食っていいのか!!」
と、大喜びしてくれた。
なんというか……また雑草生活で大変そうだし、このままだとファンにたかって刺されたりとか、変なとこから借りて海に沈められたりしそうだったので仕方ない。
「おかわりもいいですよ」
と言うと、遠慮せずおかわりして、うめ うめ うめ と喜んでいた。
…………まぁ、その後は練習があったので、だいぶキツそうにしていたけれど……それはわたしのせいじゃない。
そういえば、虹夏さんの話によると教習所にはヨヨコおねえちゃんも来ているらしい。
ちょっと、自分も行きたいな。なんて思ってしまった。きっと楽しいと思う。
免許の方は……リョウさんには期待出来ないので、虹夏さんばかりが運転する事になりそうだ。
「来年は、わたしも免許取りますね」
大変そうなので、そう言っておいた。運転してみたいし。楽しそうだし。
「流石ふたりちゃん!」
と喜んでくれたのでわたしも嬉しい。来年も、楽しみが出来た。
それにしても、虹夏さんは受験も大忙しである。結構、いい大学目指してるみたい。
バイトして、練習して、結束バンドのリーダー兼マネージャーみたいな事して、更に運転免許取りに教習所通って大学の受験勉強……虹夏さんは、本当に大変だと思う。
なんというか、足を向けて眠れないくらいだ。やはり虹夏様とお呼びするべきなのでは……?
それと…………。
少し考えて、夏休みに喜多ちゃんと二人で江の島に遊びに行った事を思い出す。
虹夏さんは都合が悪く、リョウさんはなんか、よく分からないが断固拒否していた。まぁ、なんやかんやこっちも忙しいから仕方なかったのかもしれない。
………なんというか。物凄く疲れたというのが感想である。
夏休みの喜多ちゃんは予想の遥か上を行くエネルギッシュさであり、かなり長い階段を登らされるはめになったのだ。
途中、エスカレーターがあった為にそれを使いたかったのだが……自力で上がって見る景色ほど素敵なものはないと力説されたので、仕方なく登る。暑さがヤバい。ピンクジャージじゃなくて本当に良かったと心の底から思った。
そこまで頑張って見た展望台の景色は………まぁ、うん。綺麗だったよ。
昔の自分ならはしゃげただろうかと思うが、疲れた~とぶーたれただけかもしれない。
「……ふたりちゃん、なにをそんなに警戒してるの?」
途中、聞かれる。どうやら挙動不審になっていたらしい。
「いや、トンビを……」
姉のバンドメンバー達は、なにやらトンビに対して並々ならぬ殺意を抱いていた。
あのベーシストに関しては、デビルだのサタンだの言う始末。
詳しく聞いてみると、どうやら姉もかつてこの地を訪れ……そしてトンビに襲われたらしい。
普通に怖かったので警戒していたが、特に襲撃される事はなかった。
ちなみにあの変態ベーシストは、逆襲の為に火炎瓶を作成しようとしていたが、当たらないだろと止められたそうな。
そして未だに恨んでいるらしく、狩猟免許を取ろうとしているらしい。
トンビを撃っていいのかどうかは知らない。まぁ、ダメでもやりそうな気はするけど。
お縄になったら大人しくなるだろうか。
それから、音楽の神様を祭っている神社にお参りして………そこで終わりかと思いきや、そこから鎌倉観光までする事になった。
体力の少ないふたりは満身創痍であり……正直、もうなにがどうだったか覚えていない。
母によると、アスタキサンチン、とか、カンタキサンチンだの呟きながら帰って来たらしい。我ながらだいぶ重症だったようである。
今度はみんなで来たいと言っていたが……リョウさんは嫌がるだろうなと思った。虹夏さんはどうかな?
「…………ふぅ」
一息ついて目を開けて……線香の煙を追って空を見る。
純白とは言えない、少しばかりある褪せたような雲と、少し霞んだような青い空。
少しばかり見上げて。少しだけ眉根を寄せつつ口元は歪ませ……ちょっと泣きそうな顔で僅かに笑みを造り、瞬きをひとつ。
「それじゃあ、また来るね。お姉ちゃん………」
手をヒラヒラさせて微笑んで、ふたりは背を向けた。
今の自分を縛る過去の鎖は、あえてそのままに。
もうどうしょうもない想いを引き摺りながら───それでも、後藤ふたりは明日へ行く。
───そういえば。
ふと、足を止めて思い出す。今日はバイトに新人が二人やってくるらしい。
年下らしいので、年齢的にも先輩になるようだ。
───どんな子達かな?
新しい出会いに胸を踊らせながら、少女は呟くのだった。
ああ、今日は─────
「………楽しみだなぁ」
─────────────thank you.