ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない   作:空豆熊

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今度は、憧れの人と共に(2)

セイバーのカミングアウトから、一時間後。

聖杯戦争について士郎がより詳しい説明を聞けるよう、教会へと場所を移す事となった。

士郎と凛が教会の中で話を聞いている間、セイバーはアーチャーと共に外で警戒を続けている。

 

(うーん……この人、エミヤさんとはちょっと違うよね)

アーチャーと二人きりになった所で、セイバーはそんな事を考えていた。

凛のサーヴァントであるアーチャーは、少年の知る英霊とどこか雰囲気が違う。

赤い外套のアーチャーといえば、やはり憧憬の英雄。

現在自身のマスターである衛宮士郎が辿る一つの可能性であり、自身がずっと指標のようにして来た存在。

 

故に、ここで彼本人と出会うことは在り得なかった。

彼との再会は既に果たされた。

世界は、その物語に一つ区切りを付けた筈なのだ。

そこに少年の故郷の神々が蛇足を望むとは思えない。

事実、目の前にいるアーチャーからは、衛宮士郎としての魂は感じられなかった。

姿形は同じでも、決定的に何かが違っている。

 

しかし、他人の空似とも言い切るには違和感がある。

おかしな話だが、まるで物真似でもしているかのような、奇妙な感覚。

ただ似ているだけであれば、それは決して何かの偽物ではない。

その者がそうであることの背景に、確固たる歴史があるからだ。

目の前のアーチャーからは、それが全く感じられない。

何らかの目的があって、その人物を真似ているかのような、奇妙な違和感。

 

「私の事が気になるかな、セイバーのサーヴァント」

「えッ!? いや、その……すみません、ジロジロと不躾に見てしまって……」

心でも読んだかのように言い当てるアーチャーに、セイバーは慌てた様子で頭を下げた。

本来の年齢で召喚されていれば、もう少し腹芸も出来ただろうが、今は容姿相応の経験しか記憶として持ち合わせていない。

故に、こうもあっさりと心を見透かされてしまうのだ。

 

「気にすることはない。君が思っている通り、私のこの姿は借り物だ。

彼に並々ならぬ感情を持つ君からすれば不快かもしれないが、まあ勘弁してくれ」

「あっ、いえ。僕もよくあの人の真似とかしますし、特には……って、何で僕の事知ってるんですか?」

 

あっさりと偽物である事を認めながら、アーチャーは悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。

その姿の人物なら絶対しないであろう言動の違和感に苦笑しつつ、セイバーは新たな疑問を返した。

彼のことだけでなく、異界の英雄である自身まで知られているとは、一体どういう事なのか。

何故、自身が彼に憧れている事まで知っているのか。

 

「そこまではまだ明かせない。ネタバレは、物語の楽しみを奪ってしまうだろう?」

「はぁ……そうですか。物語って、まるで神様みたい……」

「まあ、そのようなものだと認識してくれて構わない。

一つだけ言えるのは、君が思っている以上に我々は縁で繋がっているという事だ。

そして、君も私の事を知っている。

会ったことはないが、ね」

「え……?」

 

アーチャーの言葉に、セイバーは思わず首を傾げる。

彼の正体が自分の知る人物であることに意外性はない。

この世界で有名な英雄なら、聖杯から与えられた知識や生前見た夢などで知っている。

だが、強き縁を持ち得る存在となればその数も限られてくる。

一度や二度宝具を投影した程度なら、そう大きな縁は生まれない。

そして、自身が知るこちらの世界の存在で、このような芸当が可能な存在となれば───

 

「まさか、貴方は……!」

「っと、気付くのが早すぎだ。今その答えは忘れなさい」

セイバーが真実に辿り着く前に、アーチャーは人差し指を彼の口に当て、その言葉を遮った。

軽く(まじな)いを混ぜ、一旦答えを意識から飛ばさせる。

 

「……そうですね。僕が何に気付いたかはもう分かりませんけど、今は必要ない事だと解りました」

「ああ、それでいい。どちらにせよ、敵でないことは分かるだろう?

絶対的な味方とも言い切れないが……今更私達のマスターが敵対する理由ももうなくなったしね」

「あはは……確かにそうですね……」

 

アーチャーの言葉に、セイバーは苦笑で答える。

確かに、士郎と凛が敵対する理由はない。

何せ、士郎とセイバー、主従揃って聖杯を欲していないのだから。

悪用する者にさえ渡らなければ、自分が優勝する必要もない。

そして、士郎は凛を信用している。

ならば、一般人への被害だけ抑えつつ、凛が優勝するよう協力するのが一番だろう。

正直、敵味方関係なく目の前の存在から胡散臭さは拭えないが、その言葉に嘘もなさそうだ。

 

「えっと、じゃあ改めて。よろしくお願いいたします、アーチャー」

「ああ、こちらこそよろしく頼むよ、セイバー」

 

奇妙なものを感じながらも、二人は改めて挨拶を交わした。

さて、少年が生前夢に見た歴史では、この後バーサーカーと交戦することになるのだが……

 

(今の状態じゃ、あまり戦いたくないかな……?

魔力供給もない状態じゃ、十二回も倒しきれないし……)

 

マスターである士郎と魔力のパスが上手く繋がっていないため、宝具や魔剣の投影にも限界がある。

ステータスも万全でなく、白兵戦も大英雄相手にそう長くは保たないだろう。

得意の薬やら酒やらの搦手も、あの英霊相手には無力だ。

その辺りの問題も、目の前にいるアーチャーが正体を明かし、本領を発揮してくれれば解決しそうなもどだが……

セイバーはチラリとアーチャーを見る。

すると、アーチャーはその視線に気付きながらも、意味ありげに笑うだけだった。

……どうやら、まだその気はないらしい。

 

(うん、バーサーカーとの遭遇は魔道具(マジックアイテム)で回避しよう。魔力問題は……まあいつも通りアレで)

取り合えず、バーサーカーとの交戦はリバース・ヴェール(フェルズ製の透明化魔道具)と聖骸布でやりすごす事に決めた。

魔力の問題に対するいつものアレとは、勿論アレだ。

アレといったら、アレである。

アレだ、うん。

 

────

時が経ち、翌日の放課後。

晴天の空、爽やかな風。

裏で物騒な事が起きているとは思えない程の清々しさだ。

だが、こうしているうちにも、魔術師やサーヴァント達は準備を重ねている。

戦いは、俺が知るよりずっと前から始まっていたのだ。

だから、俺達も準備をしなければならない。

戦いは、もう始まっている。

……とまあ、それっぽい前振りは置いておこう。

 

「皆の者、玩具は沢山ある。遠慮せずにどんどん取るといい!」

ヒーロー衣装でそう言うセイバー。

その視線の先には、多くの子ども達が集まっている。

そう、ここは公園だ。

俺達は今、子ども達と遊ぶため公園にやって来ている。

 

セイバーの能力は、人を笑顔にすることでより強力になるらしい。

魔力不足を、子ども達と遊ぶことで解消しようという魂胆だ。

能力まで正義の味方らしさ全開とは恐れ入る。

それは良い、そこまでは別に構わないんだ。

ただ、一つ大きな問題があるとすれば……

 

「皆、寒いからこそ水分補給を忘ちゃ駄目だぞ?

えーっと、このブラウニー仮面が丹精込めて作った特性ドリンク、飲む者に活力を与える絶品だ。

無料で配布してるから、遠慮なく飲んでくれ」

 

何で俺まで仮面被ってるんだ?いや、正義の味方を目指している身として、この活動に関わること自体に異論はない。

むしろ、積極的に関わりたいくらいだ。

だけど家事の妖精(ブラウニー)仮面って何だ。別にそこまで家事に拘りないし、そこまで童心に返りたい訳でもない。

セイバーがやる分にはまだ可愛げがある。

だが、俺みたいなのがやるとなると、それは痛々しさしかないと思うんだが……

 

「これおいしー!ブラウニー仮面のおにいちゃん、ありがとう!」

「おやつもうめー!」

しかし、子どもたちには好評のようだ。

「大丈夫でしょ、衛宮君童顔だし」とは遠坂の弁。

仮面姿に童顔とか関係ないだろ、適当言うな。

まあ、子どもに受けているなら構わないか。

なんとなくあいつも、そのうち他人事では済まなくなる気がするし。

 

どちらにせよ、これが役に立つのなら、俺は何にでもなるさ。

人の笑顔がセイバーの力に繋がる、それは俺から見たらあまりにも眩しく、尊いものだ。

俺は正義の味方にならなくちゃいけない。ならば、どんなことでも人助けに繋がる限り、俺はやらなければ。

そう在らなければ、俺に意味はなくなってしまう。

そんな事を考えながら、俺は今朝見た夢を思い出していた。

 

気付けば俺は、小さき白髪の少年の姿になっていた。

それは、本来その道へ進む必要の無かった少年。

平和な村で育てられ、真っ当に育った、普通の少年だった。

目の前の幸せを当たり前に享受でき、普通に生きられたはずの、俺とは真逆の存在。

 

なのに彼は、一途に一つの理想を追い続けた。

痛いのは嫌、苦しいのも嫌、寂しいのはもっと嫌。

そんな普通の感性を表に浮かべながらも、その夢だけは抱き続けた。

幼さ故の純真、彼はそれを生涯抱え続ける事になる。

 

彼ほど真っ白で居続けられる存在など、きっとそうはいない。

正義の味方を張る者だろうと、英雄と呼ばれる者だろうと、歪な心模様を宿してしまうのが人間だ。

寧ろ英雄と呼ばれる存在など、どこかしら壊れているくらいでないとやっていけないだろう。

 

だが、彼はその真逆だった。

彼は、誰より真っ当な英雄だったのだ。

平凡な感性を捨てず、ささやかな幸福を甘受し、多くの仲間達と笑い合う。

そんな当たり前の日々を、彼は守り通した。

だからこそ、彼は理想を追い続けながらも、その理想に潰える事はなかった。

彼には、目指す先を共有できる仲間がいたから。

一人では地獄でも、仲間となら乗り越えられる。

彼は、その事を誰よりも知っていた。

自ら笑顔を絶やさぬよう努めた。

 

その在り方を、きっと俺には生涯真似できない。

自然な笑み。一番必要なそれを、俺は持たないから。

楽しいことはある、嬉しいこともある、だが総じてそれは誰かのためだ。

暖かな結末が欲しい、でもそこに自分の存在は要らない。

己を二の次にし、他者を思いやれる彼の強さと、そもそも己が存在しない俺の在り方。

これほどの違いがありながら、真似などできるはずがない。

一番大事なものを、己から切り捨てている。

彼の在り方を通して、それが少し、解った気がした。

 

俺はきっと、自分のために笑えない。

正義の味方で在り続けることでしか、自分という存在を保てないのだ。

その歪さを理解しつつある今でも、俺はそれを変えられない。

全てを押し込んで、誰かのために無理矢理笑う事しか、俺にはできない。

それでも、俺と戦うことをあいつが望むのなら、俺はそれに答えよう。

歪だろうと、壊れていようと、俺の歩み方は変わらない。

あいつとの共闘は、きっと束の間の夢だ。

 

あいつのようにはなれなくても、その姿に夢を抱くことはできるのだから。

俺は俺なりに正義の味方を張り続ける。

でもその前に、この一時の夢を、この光景を目に焼き付けておこう。

それがきっと、俺が進む道の糧になるのだから。

俺は今日も、歪な己を刻みながら、正義の味方の道を歩いていく。




お久しぶりです。半年も更新を止めていた上、活動報告にすら顔を出していなくて申し訳ございません!
謎に疑心暗鬼となり、本当にこれで進めて良いのか?などとダラダラ考えているうちに次の仕事がどんどんくるという流れの連続でいつの間にか時間が過ぎていました。一体何していたのか……

それでも書くと告知した番外編を書ききるまでエタりだけはしません。次はなるべく早く投稿できるように頑張ります!
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