いえーいお兄ちゃんみってるー?のとこ、想像よりもテンション高いルビーの声に思わず笑顔になりました。
早く、早くこのアニメスタッフが作る前世バレのとこがテレビで見たいわ・・・!!観せてちょうだい!!
あとゆめぎんがパラダイスのBD予約始まったよ!
忘れずにチェックじゃ!
ちょっと文字数多くなってしまったので3話に分けました。
後編もすぐ投稿予定です。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
衣装に着替え、ステージの準備ができるのを待っていると、控室の扉が外からノックされる音が響く。
イベントのスタッフかしら?
「あれ?まだ時間じゃないよね?」
「ええ。もしかして段取りの確認かも」
「かな?私出るねー」
扉から近い席に座っていたアイがスタッフを迎え入れようと扉に近づく。
そして、なんの気なしにノブを捻ると扉が開いた。
「・・・え?」
「どうしたの?」
彼女の困惑する声。
私は不思議に思い、彼女に近づく。
扉の前にいる人物がアイの背中越しにだんだんと視界に入る。
まず目に入ったのはフードを深く被っていたことだ。
アイと重なっていたこともあって、その人物の顔が私からは上手く見えなかった。
更に上から厚手のコートを着ていて、体型はわからない。
ただ少し小柄なところから、女性かな、となんとなく思った。
ふと、私は彼女の格好に違和感を覚える。
時期的に寒いからスタッフも防寒着を着用している人はいる。
だけど運営側の人間だとわかるように、スタッフはイベントの名前が入ったTシャツを外から見えるように着るように言われていた。
なのに、この人はTシャツを着てるようには見えない。
考えられる点としては・・・。
脳裏を嫌な想像がよぎる。
流れるはずのない冷や汗が背中を伝う感覚に襲われる。
思わず彼女に手を伸ばそうとして───
「───あ」
躓いたみたいに、アイが二、三歩後ずさりして尻餅をついた。
軽く押されたようにしか見えなかった。
事実、彼女も自分の身に何が起きたのか、理解してるようには見えない。
だけど、
その身体には、
明確な異変があった、
───お腹から深く刺さった刃物の柄が見えていた。
「アイ!」
思わず叫び彼女のそばに駆け寄る。
呆然としているけど意識はある・・・!
・・・大丈夫、私もアイもゾンビだ。
銃で撃たれても死なないんだからこんな刺し傷で死ぬわけがない・・・っ
「・・・アイ?何を言っているの?」
アイを抱き寄せる私の背中から声が聞こえた。
しまった・・・!こいつがまだ近くにいるのに・・・!
庇うようにアイを刺した相手に対峙する。
彼女は私の視線を受け止めると、ゆっくりとフードを外した。
「・・・」
思った通り、相手は女性だった。
おそらく歳は三十代くらい。
・・・この顔、どこかで見たような・・・?
「っっ!あんた、自分が何をしたかわかってるの!?」
私の怒りの声に眉一つ動かさずに小首を傾げる。
人を刺しておいて全く感情を見せない彼女に、思わず震えが走る。
だけど、それよりも、眼の前でアイを刺したこいつが許せない。
怒りが恐怖を麻痺させ、私は彼女を睨み返す。
「──そいつがアイな訳ないじゃない。あんな偽物、アイの足元にも及ばない。本物はもっと───」
「───何かありましたか!?」
彼女の声を遮るように別の声が走る。
見れば、スタッフさんが何事かと大慌てでこちらに走り寄ってくるのが見えた。
「──っっ」
彼女は慌ててフードを目深に被ると、一目散に逃げ出した。
「待ちなさい!」
思わず追いかけようと立ち上がる。
「・・・待って、愛ちゃん」
だけどそれを止めるかのようにアイが私の服の袖を掴んでいた。
そうだ・・・っ、今はアイが無事か確認しないと・・・!
「っっ!・・・あの人、不審者です!今すぐ追ってください!!」
「ええ!?」
「お願いします!・・・早くしないと逃げちゃう!」
「わ、わかりました!!」
スタッフさんが慌てて走り出す。
捕まるかはわからないけど、アイが刺されたとこを見られるわけにはいかない。
全員が見えなくなったところで私はアイへと向き直った。
「大丈夫!?生きてる!?」
「・・・あははー、もう死んでるー」
弱々しいが返事はできてる。
良かった・・・。
思わず胸を撫で下ろす。
「いやー・・・まさかゾンビになっても刺されるなんて思わなかったよー」
「バカ!あんた刺されたばかりなんだからまだ寝てなさいよ!」
身体を起こそうとするアイを無理矢理押さえつける。
「大げさだなー、愛ちゃんは・・・」
特に抵抗もせずに元の姿勢に戻ったアイが呆れたように笑みを浮かべる。
よし、・・・いつものアイだ。
少なくともパニックになったりはしてないし、落ち着いてるように見える。
「・・・」
視界の端に深々とお腹に刺さった刃物の柄が見える。
「痛く・・・ないのよね?」
「もちろんだってー・・・、私達が痛みをあんまり感じないの、愛ちゃんも知ってるでしょ?」
「それは・・・そうだけど・・・」
それは私も知っている。
事実、これまでに落雷を受けたり車に轢かれても私達が痛みに苛まれることはなかった。
せいぜい何か当たった、くらいの感覚だ。
アイも特に痛がったり、苦しがったりしてるようには見えない。
・・・これまでにも死ぬほど怖い目にはあってきたけど、何度みても慣れないわね・・・。
「・・・もうすぐスタッフさんも帰ってくると思う。今のうちにお腹のそれ、抜いちゃうわよ」
「うん・・・一息でお願いねー・・・」
アイのお腹に刺さった刃物の柄に手をかける。
柄越しに彼女の身体がびくっと震えるのを感じる。
「 ・・・っっ」
私は痛みがないとはわかっていても、思わず柄を持つ手に力が入るのを自覚する。
なるべく負担を与えないように・・・!
ゆっくりと引き抜いていく。
その間、彼女は一言も発さなかった。
「・・・よしっ、やっと抜けた・・・!」
「・・・ありがとー」
私は引き抜いた刃物をそのへんに放り投げるとアイを何とか抱き起こす。
そのまま、椅子にゆっくりと座らせた。
「・・・どう?身体に変なところはない?」
「うんー・・・おかげさまでねー・・・」
彼女はそう言うが顔色は良くないように見える。
もともとゾンビだからわかりづらいが、私達もゾンビになってもう長い。
少なくとも、互いの顔を見て調子が悪いかどうかくらいはわかる。
・・・落ち着いたらだんだんと怒りが湧いてきた・・・!
「アイツ・・・一体何なのよ・・・っ」
「・・・ねえ、愛ちゃん。あのナイフ、ちょっと取ってくれない・・・?」
彼女が落ちてるナイフを指さす。
「はあ!?何でよ!」
イライラを隠せずについ、強い口調であたってしまう。
「・・・あれがあるとこのあとのステージに立てないでしょ?隠さないと・・・」
「なっ!?」
あんな事があったのに、まだステージに立とうとしてるの!?
「・・・いい加減にしなさいよ!あんた、さっき刺されたのよ!?ショックも大きかっただろうし、まともなパフォーマンスができるなんて・・・っっ」
「できるよ」
空気が変わった気がした。
アイの星の瞳がこちらの心を見透かすように見つめてくる。
私は、この瞳を知っている。
「なっ・・・!」
「ステージの上で嘘をつくのがアイドルでしょ?・・・こんな傷、へっちゃらだよ」
有無を言わさない一言。
今の彼女はきっと、私が何を言ったとしてもステージに立つだろう。
私は心のなかで逡巡する。
このあとのステージに今のアイが立つリスク。
私がフォローして何とかなるか、出来るかをシミュレートする。
もう死んだはずの脳細胞をフルに動かして考える。
「・・・衣装の穴は何とか誤魔化せる・・・はず。他のフォローも・・・あーもう、わかった。だけど約束、絶対無理はするんじゃないわよ」
「うん、まーかせて」
今のアイは刺されたばかりなのに落ち着いているように見える。
生来の精神性か、彼女の経験故か・・・。
彼女の死因はストーカーに刺されたこと。
今回のことが私の時みたいにトラウマを刺激するんじゃないかと心配だったけど・・・。
この様子を見るに杞憂だったみたいだ。
同時に、再び自分の中で私とアイの差を自覚する。
ああ、この子はやはり、私の憧れた、天才的で完璧なアイドルなのだ。
──敵わないなあ。
そんなこと、思いたくなんかないのに。
・・・
犯人を追っていたスタッフが戻ってきた。
先ほどとは違いもう一人、別のスタッフを連れている。
確か・・・打ち合わせのときにいた今回のイベントの責任者の人だ。
様子を見るに・・・どうやら犯人は逃げ仰せたらしい。
「この度は本当に申し訳ございませんでした・・・。怪我はなかとですか?ばってん医者の手配も・・・」
「大丈夫でーす!見ての通り、ピンピンしてます!」
「そ、そやとか・・・。けんど万一のこともありますけん、検査だけでも・・・」
「軽く押されただけみたいです。私って運が良いですよねー☆」
「は、はあ・・・」
アイに押され、困惑しながらも責任者の人が引き下がる。
・・・まあ実際、病院なんかに行ったらゾンビバレするから絶対行けないけど。
「それよりもこのあとのステージなんですけど・・・」
「ええ!?」
「いやいや・・・流石に中止にせんば・・・」
責任者の人とスタッフさんが揃って首を振る。
当然だ。なにせ一歩間違えれば大事になってたのかもしれない・・・ていうか実際ゾンビじゃなかったら本当に大事だった。
イベントの運営側としては流石に続けられないと判断したのか、明らかに困っていた。
「襲われた私も見ての通り無事だし、待たせてるファンの皆にも悪いし・・・それにここで中止にしたら皆さんも困っちゃいますよね?」
「・・・」
アイの言葉にスタッフがおろおろする中、責任者の方が考える素振りを見せる。
だけど、すぐに首を振ると重い口を開いた。
「・・・いや、いくらゲストが良くても、防犯上続けるわけには・・・」
「──私からもお願いします!」
遮るように言葉を被せる。
本当は心配だけど、当の本人が続けようとしてるのだ。
ここで食い下がらなきゃ・・・この人達は意見を変えてくれない!
「うーん、だけどねえ・・・」
「・・・犯人の狙いはわかりませんが、一つだけはっきりしてることがあります」
私に全員の視線が集まる。
「それはこのイベントの中止も目的の一つってことです。このまま中止にしたらそれこそ犯人の思うツボになります!」
「・・・」
「・・・私達は佐賀を盛り上げるためにアイドル活動をやってます。正直、今回の犯人のやり方が許せないんです・・・!こんな卑怯な手でたくさんの人が楽しみにしてくれていたこのイベントを台無しにしようだなんて・・・!だからお願いします!私達をステージに出させてください!!」
頭を下げる。
隣を見ればアイも一緒に下げていた。
言いたいことは言った。
もうこれで駄目なら・・・っ
「・・・わかりました。フランシュシュさんの熱意を買いましょう」
「よかですか!?」
「ええ、責任は私が取ります。すぐに他のスタッフにも連絡をお願いします」
「・・・わかりました」
スタッフが走り去っていく。
私達は再び責任者の人に頭を下げた。
「・・・ありがとうございます」
「・・・私もこのままやられっぱなしは嫌だっただけですよ。いいステージを期待してます」
「はいっ」
責任者の人もそう言ってこの場を去っていく。
残ったのは私達だけになった。
「・・・さっきの愛ちゃん、巽みたいだったよ?」
「やめてよ・・・ちょっと自分でも同じ事考えて後悔してるんだから・・・」
「褒めてるんだってー。・・・うん、やっぱり愛ちゃんは頼りになる」
アイはそう言うと手を私の方へと差し伸べた。
「このあとのステージもフォローよろしく☆」
「・・・全く、調子いいんだから」
差し出された手に自分の手を重ねる。
いつの間にか、彼女を前にしたときの緊張はなくなっていた。
・・・・・・
・・・
ステージが終わり、楽屋に戻る。
・・・結局、フォローなんて全然いらなかった。
ステージは大成功。
いつものように彼女は輝くばかりの笑顔とパフォーマンスで周りを魅了し、私達は惜しまれながらの退場となった。
「ふー、疲れたー!」
「お疲れ様」
「愛ちゃんもお疲れー、いやーまたフランシュシュの伝説を作っちゃったかなー?」
「もうっ、すぐ調子に乗る・・・」
だけど今日のステージ、そばにいた私からみてもアイは脂が乗っていた。
ダンスのキレも良かったし、得意のファンサもハネていたように見える。
どんなときでも完璧なパフォーマンスを見せるアイドル。
・・・なるほど、一部のファンが神聖視するわけだ。
こういうところ、同じアイドルとして見習わないとね。
「でも良かった。あんなことがあったから本当にステージに立てるか心配だったけど・・・流石ね、いつもよりもダンスのクオリティも歌の冴えもバッチリだった」
「当然!だからいったでしょー?へっちゃらだって・・・」
アイが言葉の途中で急に、糸が切れたようにぺたんと地べたに座り込んだ。
突然のことに思わずぎょっとする。
「と、どうしたの?疲れでも・・・」
「あ、あははー・・・なんか気が抜けちゃったみたい!もう、変だよねー?」
慌てて立ち上がろうとするも、上手く力が入らないのかその場でもがくだけだ。
「お、おっかしいなー?」
見れば彼女の手足は震えていた。
まるで・・・何かに怯えているかのように。
「・・・あれ?」
その瞳から大粒の涙がぽたぽたと流れ落ちる。
「おかしいな・・・なんで急に、涙なんて・・・」
自分でも理解していないのか、不思議そうに涙を手で拭う。
それでも涙は止まらずに、流れ続けていた。
「あれえ・・・?」
あたしは・・・馬鹿だ。
どうしてアイなら平気だと思ってしまったのだろう。
自分の死因がどれだけ心に疵を残すのか、身を持って知っていたのに。
いくら天才的なアイドルだろうと。
いかに完璧なアイドルだとしても。
彼女だって人間だ。
嬉しいと思うことだってあるし、悲しいと思うときもある。
・・・もちろん、怖いと思うことだって。
自分の死の原因、死の瞬間。
心臓の音が小さくなり、意識が保てなくなる記憶。
命の消えていく感覚。
「わたし」がこの世界からいなくなる。
その終わりがどれだけ辛く、苦しいものなのか、誰よりも理解しているのは、他ならぬ
「──アイ!!」
気がつけば私は彼女のそばに駆け寄っていた。
「・・・愛ちゃん?」
「・・・んっ!」
両手を広げる。
アイは不思議そうに首を傾げるだけで、こちらの意図に気づいたように見えない。
「・・・」
「・・・どうしたの?」
ああ、もうっ、じれったい!
「な、泣くなら私の胸を貸してあげるって言ってんの!」
「へっ?」
本気で困惑している彼女に対して、恥ずかしさやら自分への怒りやらで顔が真っ赤になるのを感じる。
「な、泣きたいときや辛いときの顔ってあまり見られたくないでしょ?けど、誰かそばにはいて欲しいって思う・・・こともある、だろう、から・・・」
はっ!?
わ、わたし、今とんでもないことを口にしてるような・・・
「べ、別にあんたがそう思わないなら出てくから落ち着くまでここで──」
「──だめ、ここにいて」
胸元に顔を押し付けられる感触。
飛び込んできたアイの頭が眼下に見える。
「・・・お願い」
消えるような小さい声。
私は無言で彼女の身体を抱きしめ返した。
・・・・・・
・・・
どれぐらいそうしていただろう。
とても長い時間だったような気もするが、実際はそうでもない気もする。
アイがゆっくりと離れる。
よかった・・・涙はもう止まったみたい。
「・・・ありがと。何とか落ち着いたかも」
「・・・そう。ならよかった」
「うん。・・・でも意外だったかな。愛ちゃんはこういう時、慰めてくれるんじゃなくて・・・こう、背中を押してくれるようなタイプの気がしてたから」
「タイプって・・・私のこと、なんだと思ってるのよ・・・」
「頼れるフランシュシュのエース!皆のレッスントレーナーでフランシュシュを支える影のリーダー!あとカワイイ!」
「そ、そう。ありがと・・・」
あの時、脳裏に浮かんだのは自分のことだった。
『──意外だったな。お前が雷苦手なんて』
雷のトラウマで震えが止まらなかった時、私は確かに彼女の優しさに救われていた。
苦しい時、辛い時に寄りかかれる誰かがいたことで安心できた。
だからせめて今は、眼の前の自分と同じ苦しみに悩んでいる彼女に寄り添ってあげたかったんだ。
・・・
「──フランシュシュさーん!」
「!?・・・はっ、はい!」
控室の扉が外からノックされる。
声からすると先程のスタッフだろう。
やはりイベントを強行したことで何か問題でも起きたのかしら・・・。
「・・・ほら離れなさい。このままだとスタッフさんに驚かれちゃうから・・・」
「・・・愛ちゃん、ちょっとまずいかも」
アイが私の胸に顔を埋めたままくぐもった声で告げた。
「どうしよう、メイク取れちゃった」
「!?」
こちらへと向けたアイの顔は、いつものゾンビィフェイスに戻っていた。
どうやら涙やら何やらが私のTシャツに滲んで、アイの顔の周りだけメイクを落としてしまったらしい。
「今日は靴用スプレーかけてなかったもんねー、まさか涙で濡れるなんて・・・困った困った☆」
「ちょっと!?もうスタッフさん入ってくるわよ!?」
「こうなったら頭だけ外して隠しておく?」
「本末転倒じゃない!だいたいそれじゃあゾンビじゃなくてデュラハンだし!」
「あははー、いえてるー!」
「あれ?いてはりますね・・・。フランシュシュさん、入りますよー?」
「くっ、こうなったら・・・!!」
私は視界の端に入ったあるものに手を伸ばした。
・・・
「いやー、お疲れ様と・・・!?」
入ってきたスタッフが私の隣にいるアイを見てぎょっとする。
そしてまじまじと眺めたあと、困惑しながら呟いた。
「あのー・・・七号さん?ですよね?どうしたとですか?」
「あ、あははー、ちょっとさっき水をこぼしちゃいましてー」
「な、なるほど・・・なして紙袋被っとるんです?」
アイは今、紙袋を頭からすっぽり被っていた。
その長い髪は紙袋からはみ出ているが、顔は完全に隠れている。
ゾンビィフェイスを見られないための苦肉の策だ。
「う、うちの事務所、すっぴん完全NGなんですよー!」
「は、はあ・・・、なら女性スタッフからメイク道具借りてきましょうか?」
「だ、大丈夫です!後は帰るだけですし、さっき、うちのプロデューサーに車回してもらうよう伝えたので!」
「そ、そやとか・・・」
な、なんとかこれでごり押すしかない・・・!
「そ、それよりもスタッフさんは何をしに?もしかしてさっきのイベント、何か問題でも・・・」
「ああ!いえ、そっちはうちの上司からもオッケー出たんで大丈夫ですばい!・・・今回は個人的に言いたいことがあるけん、ばってん・・・」
スタッフがこほんと軽く咳払いすると、ニカッと笑った。
「今回のイベント、ばりすごかと!あんなキラキラしたもん、初めて見たばい!僕、すっかり二人のファンになったとね!」
「え?」
「わー」
「佐賀のアイドルば聞いてどんな子たちかと思っとったけど、想像以上だったばい!またステージばやるときは観に行くけんね!」
「あ、ありがとうございます・・・」
「あんなことがあって大変やったろうけど、お客さんの笑顔見て、無理にでもやれて良か思いました。ありがとっです!・・・じゃあ片付けあるんでこれで!」
それだけ言うとぺこりと一礼してそそくさと出ていった。
再び控室に私とアイだけになる。
「な、なんとかバレずに済んだわね・・・」
「咄嗟に考えた作戦だったけど・・・成功してよかったよかった」
アイは紙袋を取るとスタッフが出ていった扉をじっと見る。
・・・はっ!?もしかして・・・まだトラウマがあったり・・・?
考えてみたらアイはファンに刺されて死んだ。
これまでそんな態度、おくびにもださなかったから気づかなかったけど、本当はそんな自分の死の原因そのものとも言えるファンに会うのは怖かったりするんじゃ・・・?
「・・・愛ちゃん、星の砂って知ってる?」
「え?」
全く予想だにしていなかった質問に思わず面食らう。
星の砂・・・確か・・・
「海のきれいな場所・・・沖縄とかのお土産で実際の砂浜にある砂・・・だっけ?」
「うん、大体合ってる。・・・昔ね?ファンからもらったことがあるの。これくらいの小さなビンに入っていて、光にかざすととってもキラキラして綺麗だったんだー」
懐かしむように彼女は語る。
その顔は、その声は、それが嫌な思い出ではなく嬉しかった思い出なのだとすぐにわかった。
「まだ地下アイドルだった頃にもらったもので・・・私の瞳みたいに綺麗だからって嬉しそうに握手会のときに渡してくれたの」
本当に大切だったんだろう。
彼女は慣れた手つきで、実際にその星の砂を眺めるように手をかざす。
「そう言われたのがすっごく嬉しくて・・・これまで何度か引っ越すことがあっても、捨てられずに必ず持って行ってた」
宝物のように丁寧に、もう手元になくても、思い出だけは忘れないと言わんばかりに大切に。
彼女にとって、それが本当に大事なものだったと告げていた。
「家に飾っていて、眼に入ったらその時の気持ちが思い出せて・・・うん、いつも私を支えてくれたんだ」
「・・・そう」
きっとそれはアイドル、アイの思い出。
完全無欠だった彼女がただの人間だったことの証左。
そして、彼女が自分のファンを・・・
「死んだことは今でも鮮明に思い出せるし、苦しくて辛かったことも忘れられない。だけど・・・例えどんなことがあっても、私はファンの皆に助けられたこと、支えられたことも覚えてる。だから、自分が死んだ原因であっても嫌うことはできないの」
視線が先程までいたスタッフを思い返すように扉へと向く。
「あの人も、私達のファンになってくれた。だから怖くない。・・・うん、きっと私はこれから先もステージに、ファンの前に立つことが出来るよ」
だから心配しないで、と笑いながらアイは言う。
けれどそれは、茨の道だ。
アイドルを続けることは、彼女にとって辛く苦しいものになるはずだ。
全てのファンが私達を好意的に見てくれるわけじゃないし、有名になればアンチだって増える。
中には今回みたいに過激な行動に出る人も出るかもしれない。
たとえ刺されたって死なないゾンビでも、心は普通の人間なんだから傷つく。
とりわけ、それが死因のアイは、アイドルでいるなら一生その恐怖と向き合わなければならない。
これまでも、これからも。
なら──
「──アイ、一度しか言わないから」
たぶん、今言わなきゃいけない気がする。
この子はきっと、これから先も嘘をつく。
誰かを傷つける嘘じゃなくて、誰かのために自分自身を傷つける嘘を。
他の人からすればそれは、何の変哲もない、当たり前のことに見えても、アイだけは少しずつ心がすり減っていく。
誰にも気づかれずに、自分自身すら慣れてしまってわからないくらいに。
そしていつか・・・その傷は、取り返しのつかないことになる。
そんな確信があった。
「──私達はどうせここから先、一生一緒。この世界で生者でもないくせに、元気にアイドルやってる死者なんて私達だけ。自分の死因なんてトラウマも、メイクしなきゃ人前に出られない不便さも、気を抜いたら手足や首が取れる不安も、一歩間違えれば社会から排除される恐怖も・・・全部一緒、一蓮托生なの。ゾンビの仲間はきっと、ゾンビだけ。だから・・・っっ」
言葉を切る。
呼吸なんてとっくに止まってるくせに、なんで息を吸うのかもわからないのに。
まるで生きていたときを思い出すように、私は大きく息を吸った。
「──泣きたい時は、胸だって肩だってなんだって貸してあげるっ。悩んでるなら話を聞いて背中を押してあげるっ。───だから、頼りなさいよ!迷惑をかけなさいよ!辛いなら辛いって言って、悲しいなら悲しいって言いなさいよ!・・・悔しいけど私は、アンタの嘘が見抜けない。アンタが笑顔なら嬉しくなるし、アンタが楽しそうにしてたらそれだけで元気を貰える」
昔見たテレビの中、笑顔でステージに立つ彼女を思い出す。
結局私はいつまでもファン気分だった。
同じグループのメンバーになって舞い上がって、同じアイドルとしてかつての自分と比べた気になって、憧れのアイドルとしてしか見てなかった。
負けたくないなんて思いながら、結局は彼女を
「今は無理でも本気のアンタに、・・・いいえ、本当のあなたが頼れる私にいつかなってみせる。・・・言いたいことはそれだけ」
そんな線引はもういらない。
私は変わらなくちゃいけない。
アイに憧れるんじゃなくて、同じグループのメンバーとして肩を並べられる存在に。
彼女の隣に立って時に競い、時に支えられるアイドルに。
「・・・本当の、わたし・・・」
アイが私の言ったことを噛みしめるように口にする。
一瞬、その口元がほころんだ気がした。
普段の彼女なら絶対に見せないような、ほんのちょっとの油断から溢れてしまったような。
そんな、・・・初めて見る顔だった。
だけどすぐにもとに戻ると、ゆっくりと私の方に顔を向け、いつものようにいたずらっぽく笑ってみせた。
「・・・なら、愛ちゃんも遠慮するのはなしだよね?」
「・・・え?」
「私のこと、推しだからーって視線を合わせてくれないときあるでしょ?結構寂しかったんだー、あれ。だから今後、視線をそらすの禁止ね?」
「・・・いや、あれはそういうんじゃ・・・」
「えー?胸でも肩でも貸してくれるって言ったじゃーん。眼線を合わせるくらいわけないでしょ?ほらほらー!早速練習しよ!」
「ちょっ・・・って、ああ!?」
アイが私の顔に手をかけるとすぽっと首から引っこ抜いた。
頭だけになった私を持ち上げると真正面から視線を合わせてくる。
「じー・・・」
「うう・・・」
「じぃーーー」
「だから、その・・・」
「じぃーーーーーーーーー」
「〜〜〜〜!!」
耐えきれなくなり、思わず眼をつむりそうになる。
ピカッ!!
急に窓が光ったかと思うと雷が落ちたような音がした。
外を見ればゴロゴロ鳴りながら黒い雲が漂っている。
「・・・これじゃ本当に巽が迎えに来ないと帰れないねー」
「そうね・・・」
「愛ちゃんは大丈夫そう?」
「平気。屋内だし、・・・あのライブ以降手足の震えもなくなった・・・からっ」
一瞬の隙をついてアイから頭を取り返すとさっと自分の身体に戻す。
「あっ!」
「ほら、遊びはおしまい。またゾンビバレしないとも限らないからアンタも大人しく紙袋被ってて」
「ちぇー、はーい」
ようやく諦めたのか、紙袋を拾って被り直す。
・・・うん、だいぶ調子も戻ってきたみたい。
確信できるわけじゃないけど、先ほどと違って取り乱してるようには見えない。
「あっ、そうだ!もうひとつ、わがまま言ってもいい?」
「・・・今更一つや二つ、どうってことないわよ。なに?」
「えへへー、ありがと☆」
アイがゆっくりと口を開く。
あそこまで豪語したんだ。
今更何を言われたってやってやる。
そう思って彼女の次の言葉を待つ。
だけど、私は、・・・予想外の内容に思わず耳を疑った。
「──今日あったこと、フランシュシュの皆には内緒にしてほしいの」
・・・・・・・・・
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・・・
自分がされて嬉しかったことを他人にする、みたいな話が好きです。
つまり、サキちゃんはやっぱかっこいいってことを言いたい。
愛ちゃんはこの小説の設定の都合上、本編と全くの別キャラみたいになってるので読んでくれているゾンビィに受け入れられるか毎回ドキドキしながら書いてます。
アイとの関係を好意的に捉えてくれるコメントもたまにあって、見るたびに1期7話のアツクナレ後の太い方のデスおじみたいに泣いてます。良か・・・。
引き続き書いていきます!
高評価、感想など頂けると大変嬉しかです!