もう3話にもなりますが、彼女の口調を敬語にするか畏まった魔王口調にするかでずっと悩み続けています
リンクと名乗ったこのいかにもポンコツツンデレそうなハイリア人は、あたりまえのように俺たちの旅に同行してきた。
旅の目的を聞き出したところ、美食を求めてのことらしい。
俺が朝飯に作ったクリームスープに舌鼓を打ちなからそんなことを言っていた。
このゴーゴークリームスープも、リンクがゴーゴーニンジンとフレッシュミルクを快く俺たちに提供してくれたから作れたものだ。
ところが待って欲しい。ゆうべ、リンクは食材が無いからという理由で俺たちに食事を求めてきた。
もちろんこの矛盾にはガノンドロフも気づいており、俺の代わりにそれを鋭く指摘してくれた。
これに対しリンクは自分が料理を試みると、なぜか必ず失敗してしまうと弁明した。
昨晩も数回料理に挑戦してみたが、食材を無駄にする一方なので断念したらしい。
結果、食材があるにも関わらず口にするものがなく彷徨っていたと言うのだ。
証拠として、リンクは俺たちに見るも無残な姿になった料理を俺たちに提出した。
もはや料理とも呼べなくなったグロテスクなそれを見て、俺たちはリンクが嘘をついていないと納得させられた。
それでも疑うのであれば、この料理を口にしてみたらいいとリンクは言ったが、それは丁重にお断りした。
だってマジでやばい見た目してたもん。食材の怨嗟の声が聴こえるようだったね。
しかしこのヒカリそっくりなリンク、さっきからずっと旅の目的を果たしましたみたいな目で俺の事をみている気がしてならない。
そしてそれは、俺の作ったクリームスープを口にしたことでとうとう確定した雰囲気があるんだよな。
料理はこの世界で産まれてから始めたが、前世の知識はそれなりに残ってる。
作り方は知らんけど食ったことがある料理と、ゲーム内で必要な素材を集めて鍋にぶちこんで作ったっていう記憶。
こんな半端で付け焼き刃の知識なんか何の役に立つのかなんて思っていたんだが、これが意外と馬鹿にならないらしい。
それを我が妹ガノンドロフ(ホムラ)となんか旅にくっついてきたリンク(ヒカリ)の反応によって気づかされた。
この世界はブレスオブザワイルドの時点でも、科学文明はそれほど発展していなかった。
そして俺が今生きている時間は、そこから数万年単位に遡った、神話で語られるようなハイラル建国時代だ。
つまり、食文化がそこまで発展してねえ。
そこまでって言い方じゃああまりに過少か。
俺はまさに何万年も先の未来知識に加え、異世界仕込みの料理知識まで保有していることになる。
そりゃあガノンドロフが俺の料理以外を口にしなくなるわけだよな。
リンクも俺が作った飯だけ食って生活したいみたいな視線を送ってくるわけだわ。
いや、実は視線ではとどまっていない。
さっきからしきりにリンクが「これからはあなたの料理とそれ以外の料理でカテゴリーを分けるべき」とか「あなたの料理が毎日食べられたらこんな幸せってないと思うのだけれど」とか「どんな形であれ傍にいればこのごはんを毎日三食食べれるってことよね……」とか「逃がさない……ここで絶対に捕まえないと……」とかなんとかぶつぶつ呟いている。
ギリギリ俺に聞こえるか聞こえないかの絶妙な声量で言っているのがタチが悪い。
ちなみに隣のガノンドロフはスープに口をつけて、食器で表情を隠したまま盗み見るようにリンクを睨んでいる。
もともと彼女は寡黙な性格だが、こういうときは頭の中で思考を巡らせている場合が多い。
明らかに彼女はリンクという存在にピキっている。排除ないし、この旅に同行されないよう振り落とす方法を考えていそうなものだが。
流石に殺害のような短絡的な手段には及ばないと思うが、どうだろう。
ホムラによく似た外見だけどこいつの中身ガノンドロフなんだよな。ありえないとは断じれないのが恐ろしい。
それにこいつは確定的な状況でしか犯行には及ばない。目撃者が他にいないとか、事故に見せかけて証拠に乏しい現場を作るとか。
そういう狡猾さをも持ち合わせているのが、ガノンドロフという人物だ。
けれどまあ、杞憂で済むだろう。
だって相手はあのリンクなのだから。謀略に掛かったとしても主人公パワーでなんとかしてくれるに違いない。
俺の方からアクションを起こす必要はないと思う。
というかガノンドロフが本気出して行動したのであれば、俺がしゃしゃり出ても変にもつれるだけなんだよな。
よって静観をすることにします。
……なんて決意を固めていたら、ふとガノンドロフが言葉を発した。
「リンクさん。あなたも旅人であれば、腕に覚えはありますよね? 実は私、武芸を極めるための旅のさなかでして……」
「あら、そうだったの。じゃあ模擬戦でもする? 私強いし」
しれっとガノンドロフが旅の理由を偽った。お前は急に俺の旅に勝手についてきただけだろ。
まあ彼女なりの思惑があるだろうし、指摘はしない。
対してリンクだが、彼女はすっきりとした態度でガノンドロフに模擬戦の提案をした。
己の実力に相当の自信があるのだろう。でなければ、修行中であると打ち明けた相手にこんな提案はできない。
そもそも彼女が気位高い性格というのもあるだろう。それに自分が負けるとは露ほど思っていなさそうな口ぶりだった。
「まぁ……それはそれは」
そしてそれは、おそらくガノンドロフの自尊心を著しく刺激しただろう。
けれど同時に、チャンスだとも思ったに違いない。リンクの言葉を首肯する声色がねっとりしてるし。
この機会に力関係をわからせるなり、偶然を演じて傷を負わせるなりするんじゃないかな。
やりすぎるようなら、俺が止めなくちゃならないだろう。
我が妹は、少なくとも"まだ"魔王ではないのだから。
俺の目が届くうちは、道を誤らないように見守っていてやろう。
「では、ぜひ私と立ち会っていただきたい。……無論、真剣で」
そう言いながら、ガノンドロフは腰に携えていた細身の刀をゆっくりと抜いた。
刀身に影を塗りたくったような不気味な刃は、鋭利に研がれている。
人の肌程度、たやすくなで斬りにしてしまうだろう。
「本格派なのね。あなたが納得してるなら、それでいいわよ」
「……。ええ。胸を借りさせていただきます。後悔だけは、なさらないように」
けれどリンクは、抜き身の殺人包丁を前に一切の動揺を見せなかった。
そして彼女が抜き放ったのは、俗に旅人の剣と呼ばれる一般的な片手剣。
まだ魔物のいない時代のため、野性の動物から身を護る程度の切れ味で留められたものだ。
これも人間に向かって加減なく振るえば、十分な殺傷能力を誇る立派な凶器だ。
ガノンドロフも、この鉛色に光る刃には一切の怯えを見せなかった。
「では。いざ、尋常に」
──参ります。
そう口にした直後、ガノンドロフがリンクへと斬りかかる。
……そして、常人には到底目で追えぬ超絶技巧の戦闘が始まった。
斬り結び、避け、打ち払い、飛び退き、斬りかかる。
それらが目にもとまらぬ速さで繰り返される。
二人のたなびく髪だけが残像となって、傍から見ると赤い焔と黄金の閃光とが無作為にぶつかりあっているようであった。
花火のように連鎖する衝突は、数十分に渡って絶え間なく炸裂し続ける。
やがてその衝突が止んだとき、二人はそろって膝をついていた。
ただし二人とも体には傷一つついていない。二人の実力は非常に高い次元で拮抗していたようだ。
「……。業腹ですが、認めざるを得ないようですね」
最初に言葉を発したのは、ガノンドロフだった。
俯きながらにらみ付けるその視線には、強い敵意が込められている。
けれど同時に、先ほどまであった嘲り見下すような意志は消えていた。
「こっちのセリフよ。はっきり言って、軽くあしらうつもりだったんだけど……」
対するリンクにも余裕綽々だった頃の名残はない。
自身の実力に裏打ちされた傲岸不遜ともいえる態度は、既に鳴りを潜めている。
「私と同じくらい強い人がいるとはね。誇張抜きでこの世で私が最強だと思っていたんだけど」
嘆息しながら剣の柄を手元で弄ぶリンク。余裕のある態度にも見えるが、その表情は僅かに覇気を失っていた。
「しかもそれでまだ修行中の身だって言うんでしょう? 自信なくしちゃうわ。勝てない人でもいるわけ?」
鞘に剣を納めながらも、恐る恐るといった風にリンクが尋ねる。
けれどガノンドロフは何やら罰が悪そうに口をつぐんでいた。
武者修行が旅の目的と言ったのが方便だったからにしては、オーバーリアクションな気がする。
とか思っていたら、ちらりと我が妹が俺に視線をやった。
当然リンクも釣られて俺を見るわけで。
「……マジ? 勝てない相手って貴女のお兄さん? この人あんたより強いの?」
「……」
おい妹よ沈黙するなよ。肯定したみたいになるだろ。
「いやいや今だけな、今だけ。才能では妹のがすごいから」
「いやいやいや、現時点で妹超えてるってだけでとんでもないでしょ。 ていうかじゃあ、ほぼ確定で私より強いんだ……?」
「いやいやいやいや待て、結論を急ぐなって。あくまで机上の空論だからね? 実際やってみたらまた結果は違うかもしれないし」
「いいえ、事実です。生まれてこのかた、私が兄者を下したことはありません。私と互角程度でしかない貴女では、兄者相手に万が一にも勝ちの目はないと思いますよ」
いやおい。基本的に自分より上の存在を毛嫌いするガノンドロフが、わざわざヒカリ……あ間違えたリンクに立場を弁えさせるために俺を使うなんてどういう風の吹き回しだよ。
ガノンドロフがそんな、虎の威を借りる狐のような言動をするなんてらしくないぞ。
リンクが勝てると思ってるのが気に喰わないのか、俺が実力を謙遜することが許せなかったとかかな。
「はぁ……。世界って広いのね」
けれどリンクはガノンドロフの言葉に対し、一切腹を立てたような様子は見せなかった。
むしろ、知らず知らずのうちに育まれていた自分の無知や驕りを恥じ、噛み締めるように内省していた。
なんて人間ができすぎているんだ。これが歴代の勇者と同じ名を持つ者。
普通に尊敬できる人間性だ。
あとは同性で見た目がヒカリでなければ親睦を深めることを躊躇わずに済んだのにな。
そしてリンクは決意を新たに、俺の方に向き直って言った。
「ねえ、お願いがあるんだけどいいかしら。自惚れるような言葉だけど、私、これまで自分より強い相手に挑む機会に恵まれなかったの。せっかくの機会だし、貴方さえよければ私と手合わせを──」
「困りますね。兄者と斬り結ぶのであれば、せめて私を負かしてからでなくては。それが道理というものでしょう?」
「……あら、そう。もちろん承服するわよ。それはそれで、これ以上ないくらいの修練になりそうだしね」
むしろ、更なる上を目指す目的ができてよかった。
リンクはそう告げると、再び剣を構えた。
「それに私が勝ったら……。頂けるってことでいいんでしょう?」
俺との対戦権をな。
ガノンドロフもそれに応え、刀を抜く。
「譲るつもりはありません。元より、私が手にすべきものです」
俺との対戦権はな。
「負けたら潔く認めなさい。ご家族からの"公認"。ここでもぎ取らせてもらうから」
「強きが奪い、弱きが奪われる。だから私は力を追い求めた。故に私は私に感謝します。こんな時のために、私はただの一度も鍛錬を怠らなかった」
短い会話を最後に、二人は再び全力での模擬戦に打ち込むのであった。
二度目の模擬戦。
数十分に渡る激闘はやはりというべきか、前回と同様の結末を迎えた。
再び互いが無傷のまま、ドローという形で決着がつかなかったのだ。
二人はそれぞれ模擬戦後に「ハァ……ハァ……獲れる……絶対獲れる……!ほんのあと一歩、わずかな差しかない……! 勝ったら三食毎日、勝ったら三食毎日……どんなことがあろうと逃がすわけには……絶対私のものにする……絶対に……!」と呟き、もう一人は「ハァ……ハァ……兄者より遅い、兄者より鈍い、兄者より温い。ならば私が勝てない道理はない。勝つのは私、奪うのも私。それは依然変わらない……!!」と呟いていた。
元気でいいね。
その日は結局、日没まで模擬戦を繰り返すことになった。
互いが互いに『次は私が勝てる』と確信していたようなのだが、何度やっても決着がつかない。
当然のように試合は翌日へと持ち越し、仕方ないので旅の合間に模擬戦の時間を設けることになった。
その後も何度繰り返そうと決着がつかないので、いつしか旅の傍らで二人が手合わせをすることは日々の習慣となった。
拮抗した実力の二人はお互いに決定打を打ち込むことができず、疲れ切って膝を折った頃。
そのタイミングで丁度俺が飯の号令をかけるというのが恒例の流れとなっていたのだ。
いや、それどころではない。
二人のぶつかり合いは稽古のみにとどまらず、些細なことでも張り合うようになっていた。
初めはどちらがより多く食材を入手できるかから始まった。
それからはうまく鹿を弓で射れるかとか、河川を先に泳いで渡れるとか……。
俺は保護者のような温かい眼差しでそれらを見守っていたが、めきめきと上達する剣の腕前にはドン引きしていた。
なんか二人より俺のが強いことになっているが、とっくのとうに俺の実力など追い越されている気がしてならない。
最後に俺がガノンドロフと打ち合ったのも旅立ち前夜が最後だしな。
こうして彼女達が努力する姿を見守ってきた以上、今さら俺なんかやりあったらすぐ負けるんじゃないかと俺は戦々恐々としている。
困ったことに、いつのまにか先に勝ち星をあげた方が俺に挑めるみたいな取り決めが二人の間で交わされており、その事実もまた俺を焦らせていた。
普通にさくっと負けるだろ。そんな気しかしない。
あまりにあっけなく負けて失望される未来が怖いよ、俺は。
そういう焦燥感に追われながら旅を続けてきたわけだが、そんな日々はあるきっかけによって変化を迎えた。
それは、いつものようにリンクとガノンドロフが本気で剣を打ち終わったあとのことだ。
「なんと、なんと卓越な腕前。これほどの使い手が、まだこのハイラルにいたとは……!」
偶然二人の模擬戦を目撃した者がいたのだ。
その者の名を、ラウル。
初代ハイラル国王にして、絶大な技術力を誇る古代ゾナウ族の末裔である。
「不躾であることを承知している。それでも頼みたい。その力……どうか、我がハイラル王家のために貸してはもらえないか?」
かくして、俺たちはハイラル王国へと招聘されることとなった。
◆
俺たちがハイラルに招待された理由。それは、ラウルが王家に仕える近衛騎士を探し求めているからであった。
ラウルはハイラルの王族を守るにたる腕利きの戦士を求めていたのだ。
もちろん王家傘下にて兵士の育成も行っているし、精鋭と呼べる優秀な人材もそろっているだろう。
だが、育成を監修したラウルから見てもあの二人の実力は桁外れだったのだろう。
可能ならばハイラル王家への忠誠を。そうでなくても、技術の継承を。
そういった打算のもとラウルは私たちをハイラルへと招待した。
ちなみにガノンドロフはブチ切れてた。
口にも態度にも出してなかったが、過去最高にこめかみにキてた。
ラウルの言動にガノンドロフがゾナウ族の嫌いなところ全部詰まっていたもんな。
傲慢で厚顔無恥。ナチュラルな無意識マウントとかガノンドロフがこの世で一番嫌いなものと言っても過言ではない。
ラウルは我々がゲルドの族長の血統であるとは知らずに接触してきたようだったからな。
それに対し王家に仕えることを打診するのは、正式な手順を踏んだとしてもピリつく内容だ。
ゲルドを飛び出したとはいえ、背負ったものまで下ろしたつもりはない。
砂漠で待ってるやつらが俺たちの浅慮な行動で割を食うのだけはいただけねえ。
結局、俺が独断で戦闘指導って名目でハイラルの兵士を叩きのめした。
叩きのめしたってのはもちろん物理的にボコボコにしたって意味じゃない。悪印象をつけちゃ意味がないからな。
繰り返すが、俺たちの浅慮で何も知らない砂漠のやつらに皺寄せが行くような事は、決してあっちゃならねえ。
今回のは精神的な意味合いのが強いと言っていいだろう。
ずばり俺がやったのは、明らかに手を抜いた状態での蹂躙だ。
誰一人怪我人を出さないまま、対峙した兵士の全てを無力化した。
水が涸れたゲルドは砂と死の風の吹きすさぶ過酷な大地だ。
そこに生きてる俺らをあんまなめんなよっていうのを、ハイラルのお花畑兵士に戦闘指導という形でやさ~しくお伝えした。
ガノンドロフはすっかり機嫌が直ったようで、腕を組んだまま後ろの方の壁に寄りかかって、僅かな笑みを口元に堪えつつ小さく頷いていた。
ただでさえ大きい胸がより一層強調されていて眼福だったことを、ここに記しておこうと思う。
同様の打診はもちろんリンクにも行われていたようだ。
彼女は一介の旅人であるし、ガノンドロフよりは御しやすいと思われたのか勧誘も熱心だった。
ラウルもリンクの目的が食にあることに聡く気づき、ハイラルで特別に料理を振る舞うことにしたようだ。
ハイラル王家によるリンク勧誘は果たしてうまくいったのだろうか。
その時間、俺は戦闘指導に当たっていたため勧誘の首尾がどうなったか確認していない。
ただ、ハイラル米やハイラルトマトなどの特産食材を両手いっぱいに抱えたリンクが、コックの制止を振り切ってにこにこと笑顔で俺のところにやってきたことだけは確かだ。
あの食材たちの調理方法は、あとでじっくり考えることとしよう。
さて。少々話が変わるのだが。
これは言及すること自体が重大なネタバレになるので、まずはそれを覚悟したうえで。
──ゼノブレイド2にはプネウマという存在がいる。
オーロラを想起させるような花緑青の髪をポニーテールに結んだとても美しい容姿の女性である。
それがいる。
俺の、目の前に。
「なんと柔軟な思想! 確かに料理鍋のゾナウギアには五徳と鍋の接続には遊びを作っていましたが、よもやそれを車輪に受けた衝撃を吸収するために使うとは……!」
「いやでもこれはゾナウギアがすごいのであって……」
彼女は俺の制作物を見るや否や大興奮で、感心と感動をしきりに繰り返していた。
そして俺の手を両手で包むように掴んだきり、離してくれる気配がない。
「まさか料理鍋を構造体の関節部のように扱えるとは、発想すらいたしませんでした! 不肖ながらこのミネル、貴方と出会ってからというもの己がどれほど凝り固まった考えしかできずにいたのかと目が覚めるばかりです……!」
「いやこれはこの操縦桿がすごいのであって……」
それに顔が近い。近すぎる。視界がプネウマさんのご尊顔で埋め尽くされています。
あふれ出す尊敬の念がすんごいキラキラした目からビシバシ伝わってくる。すごく落ち着かない。
普段はもう少し落ち着いた雰囲気の人なのかもしれないが、だからこそ興奮して取り乱したときの圧が凄まじい。
「それにこれは一体どういうことなのです!? 気球の内部に向かって大砲を撃ち込むことで推進力を得るなど……。私は貴方の思考の経路が、一部たりとも理解できません! 私は今、とてつもなく感動しています……! ラウルはとてつもない天才を見つけましたね……!」
「いやこれは大砲にビクともしない気球のがすごいから……」
状況を説明しよう。
戦闘指導のあと、交流の一環としてゾナウギアを触らせてもらえる機会があったのだ。
自由に組み合わせを楽しんでよいとの事だったので大喜びで遊んでいたら、どこからともなく国王ラウルの姉君がすっとんできたのだ。
そしてこの有り様である。
説明終わり。
わかるよ。
君たちが何を考えているかくらいはね。
ミネルが人間の姿をしているのはおかしい。そういうことだよね。
プネウマもそうだが、ミネルもミネルで結構ネタバレに抵触するデリケートな存在なんだよな。
よって端的に説明しようと思う。
ミネルは初代ハイラル国王ラウルの実の姉だ。
故に彼女もラウルと同じ古代ゾナウ族の末裔である。
ゾナウ族はいわば羊の獣人のような容姿をしている種族で、額に第三の瞳をもつほか、灰色の肌を有し大きな耳など獣を思わせる顔立ちをした種族だ。
断じてプネウマのようにポニーテールの可愛いらしい女の子の姿をした存在ではない。
俺はさっきプネウマが突然出てきて口から心臓が出るほどビックリして、そいつがミネルと名乗るもんだから二度ビックリだい。
俺の脳みそがティアーズオブザキングダムのソフトウェアだったら急遽赤い月を召喚して強制リセット処理を走らせてるレベルで負荷が掛かったからね。
割と本気で数秒フリーズしたわ。知恵熱が出るレベル。処理落ちもやむなし。
なお彼女がゾナウ族らしからぬ外見をしていることにはなんの説明もなかった。
この真相を解き明かすには本人かラウルに聞き出すほかないと思う。
でもほぼ初対面なのに『なんでゾナウ族の見た目じゃないんですか?』とか聞き出せないだろ。
デリケートな問題かもしれないし、そんなデリカシーの欠片もない質問おれ出来ないよ。
そんな折のことだった
「兄者。もはやハイラルに用などありませんよね? 観光に来たのでもありませんし、早急に立ち去り……」
「ここにいたのね! さっき食糧庫でコックが隠してたマックスラディッシュとマックストリュフっていう秘蔵の食品見つけたの! 早速これで……」
今いる部屋に、リンクとガノンドロフが二人仲良く入ってきた。
そして二人はまず俺に顔を近づけるプネウマを視認し、あプネウマじゃねえやこの人ミネルだった。
妙に俺との距離が近いプネウマと彼女に包まれた俺の両手を見て、二人はその表情から色を消した。
そして、凍て差すような声色で二人揃ってこう言ったのだ。
「「誰? その女」」
俺は今非常にデリケートな問題に直面しているらしい。
この状況を脱却するには、デリカシーに満ちた返答が要求されていた。
なんかみんなの戦闘能力がブレワイ基準でなくて厄災黙示録基準になってました。
ゼルダ姫はラウルと王妃ソニアの遠い子孫で、彼女がここに出てくるとこの世界で将来ガノンドロフが魔王として覚醒することが確定してしまうのでお留守番していてもらいました。
でも大丈夫、まだいますからね。
独身の女性で、知恵に優れ、貴重な血筋をお持ちである高貴なお方が。
そう、ミネルさんです。
女神ハイリアは彼女に目を付けました。
この二人が結ばれたら政略的にもゲルドとハイラルの友好のしるしとなって、平和な世界になって皆が納得するハッピーエンドだよね!
これにはリンクさんもガノンドロフさんも納得してくれるよね! ね!
ほな、これから忙しくなるので、もうあんまり続きは期待できないと思っておくれ~