【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】   作:神埼

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【小話】刀

最近最上が贔屓にしている蒸気鍛治がいる。生駒は最上が何を頼んでいるのか知らず、気になってはいるのだが、贔屓にされている蒸気鍛治は、生駒と特別仲が良いわけでもない。

 

そわそわと気にしていると、鰍が生駒に寄ってきた。

 

「泉さん見つめてどうしたの?」

 

泉とは、最近最上に贔屓にされている蒸気鍛治のことである。

 

「いや…最近最上さんが、泉さんになんか頼んでるだろ…。鰍は知らないか?」

 

「ああ。あれかぁ。刀預けて細工を頼んでるのよ。」

 

「細工?いったいどんな?」

 

「あはは。別にカバネを殺す為の細工じゃないのよ。」

 

「えっ!そうなのか?」

 

鰍が笑って説明した。

 

「府中駅で甲鉄城が結構壊れたでしょ。あの修理の時に、泉さんたら遊び心で、厩舎車両のタラップにちょっとだけ、彫刻を入れたのよ。」

 

「えぇ…。なんのために。」

 

「言ったでしょ。遊び心って。深い意味なんてないわよ。それで、その彫刻が最上様に早々に見つかってね。」

 

「怒られそう…。」

 

「怒られてないわよ。器用だなって褒められたって言ってたもの。」

 

「ふーん。でも最近贔屓にしてるのと関係あるか?」

 

「刀に彫刻を入れてるのよ。」

 

「強度が…。いや金属被膜をつければ…。」

 

「実戦刀じゃないらしいわよ。かなりの透かし彫りしてるから、泉さんも大変みたい。元々彫刻は趣味でしかないしね。」

 

「ふーん。」

 

最上が泉に頼んだのは、数打ちとまでは言わないが、名刀でもないごく普通の刀に透かし彫りをしてほしいというものだった。泉は本職ではないが、最上の依頼を受けた。なにせ金払いが良い。個人的な頼みなので、プライベートの時間にせっせと彫刻を進めた。意匠は倶利伽羅龍で、広い範囲に透かし彫りを入れるため、中々仕上がらないのだ。最上は時折様子を確認しにくるが、急かすことはなく早さよりも彫刻の出来の方を重視しているようだった。

 

鞘も蒔絵を別の人間に頼んでいるようで、完全に美術刀の部類である。

 

暫くして、泉の彫刻が完成しすると金属被膜加工に回された。来栖や最上が使うには、強度に心配があるものの、人を斬るには充分な強度である。鞘には子柄や笄もつけられて刀が完成した。誰もが、最上の屋敷に飾るのだと思っていたのだが、これは下津井の山本に渡す贈り物である。

 

和三盆や柚子皮の砂糖漬けなどの、高価な贈り物に対するお返しがまだなのだ。お返し目当てではないからこそ、きちんと返さねばと思っていた。行商先で探していたが、これだというものがなく、どうしたものかと思っていたのだが、無いなら作ってしまえと思い至った。

 

山本はカバネと白刃戦はしないが、武士であるので刀は貰って困るものではない。元の刀は普通の刀ではあるが、各所に手を入れた。美術刀としては中々の物になった。とはいえ刀も彫刻も鞘の蒔絵も本職の作ではないので、山本が所持しても問題にならない程度の価値である。

 

珍しくはあるが、実際のところ価値はそれほどない。だが、山本はこういう変わったものが好きであるので、喜んでくれるだろうと最上は満足した。

 

後に下津井駅に立ち寄れるタイミングがあり、山本に刀を贈ると最上が引くほど喜んだ。

 

「家宝にする!」

 

「やめてください!珍しいかもしれませんけど、際物の類ですよ。」

 

実戦刀ならいざ知らず、美術刀に金属被膜加工をした時点で珍しい部類だが、しかも本職ではない者達の作った美術刀もどきである。家宝にされてはたまらない。話のネタくらいのつもりであったのだ。

 

この美術刀もどきは、透かし彫りを広範囲にしたことで、びっくりするほど軽くなっていた。金属被膜加工で人を斬れる強度こそあるが、カバネ相手は不安が残る。

 

そもそも金属被膜刀がそこそこ珍しい。普通の駅は金属被膜を手に入れる機会が極端に少ない。駿城で轢いた時の残骸が引っかかっているか、自分達で殺さなければ手に入れることはできない。殺せても回収できるかはまた別なため、金属被膜は中々に希少価値があるのだ。そのため金属被膜刀は、それなりの地位にいる者しか持つことができない。

 

まあ金属被膜刀で白刃戦をしてやろうなんて者もそういないので、地位のある者の権威誇示のために使われているのが殆どである。

 

後の世で、実戦刀でもないのに金属被膜加工がなされ、装飾も非常に多い珍品として博物館に寄贈されることになるのは、この時代の誰も予想しなかったことである。

 

 

 

刀自体は特に振るわなかった刀工の作であるが、誰が施したか不明の彫刻があしらわれている。この刀工は鑑賞価値の低い実戦的な作刀が多く、彫刻自体は全く関係のない者が後から加えたものと考えられる。刀の銘には特に何も加えられておらず、彫刻が彫られた年代も不明であるが、金属被膜加工がなされていることから、カバネの溢れた天鳥幕府の時代から、それ以降とされている。金属被膜加工のなされた刀は実戦刀ばかりで、美術刀で金属被膜加工がなされているのはこの刀のみとなっている。金属被膜の厚さから、当時金属被膜加工を得意とした顕金駅において加工されたと考えられているが、詳細は不明である。




みたいな?当時価値がなくても後から価値が爆上がりするのって珍しくないよね。山本君が個人的に貰った物だから記録もクソもない。

正体不明の彫刻師になっている泉くん。刀に彫刻とかこれっきりだし、甲鉄城も残らなかったので、マジで正体不明。そもそも彫刻師じゃないので当然。彫刻の腕はまあそれなり、後の世でも誰それの習作ではと話題になるが、違うと判明するの繰り返しをしてれば良い。

遥か未来では、甲鉄城は1両目だけ残されて、後は資源として溶かされてます。
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