▼シャディクのあの「さようなら」ってさ……死刑ってことじゃないよね……? 終身刑とかであって欲しい
pixivより転載
総裁であるミオリネによる、「ベネリットグループの解体宣言」。気が付いたときにはベネリットの資産は皆売り払われていたし、それはグラスレーも同様だった。後ほど聞いた話では、この解体宣言の要綱はシャディクが作ったものだという。
グループが解散しようが、資産が売り払われていようが、個々の会社は残る。そういうわけで、シャディクの謀反により屋台骨がガタガタになった会社のひとつであるグラスレーを立て直すのに僕は奔走する羽目になった。本当なら学園を卒業してから……ということだったが、グループ解体宣言によりそうも言っていられなくなった。全壊と言っていいぐらいの学園を出た僕は、老いた義父の面倒を見つつも、経営戦略科で学んだ知識をフル回転して会社を立て直した。
その軌道に乗ったのが3年後だった。ようやく息を吐ける、そんな日々を義父と過ごしていた。
――シャディクの処分が決まったのも、その頃だった。
面会に行った際に、彼が最後に告げた言葉は、
「さようなら」
だった。僕は、それに何も返せなかった。
……グラスレー本社の廊下を歩く。ひとりで歩いていた彼を見咎める者はいない。そもそも人が流出した。規模を縮小したことで企業として体裁を整えたのだ。僕はぼんやりと歩く。硬い廊下の上を足音を立てて。
思えば遠くに来たものだ。10歳でアド・ステラの時代にやってきてしまい、イエルと名乗っていたシャディクに英語やその他を教わり、気が付けば宇宙規模の企業のCEOの次男。そしてすったもんだで跡継ぎに繰り上がってしまった。
――時間が今の僕と同様に進んでいるのなら、母の葬儀はとうに終わっているだろう。寧ろ同じ時期に失踪したわけだから、僕の葬儀も終わってしまっているかも知れない。次兄は僕のことを諦めていないだろうけれど。母と違って、僕は本当に唐突に消えてしまったはずだから。
戻りたいな、と思う。ふと、そんなことを思う。
『――』
不意に、何かが聞こえた。
振り向く。斜め後ろ、「それ」は渦巻いていた。
地球と同程度の重力下にあるそこに、渦巻いている光が見えた。僕はそれを見て直感する。空間支配系能力者としての異能が、それが「元の時代に帰るためのゲート」であることを告げていた。
僕は迷う。きっとこれは奇跡で、もう2度とこんなことは起きないだろう。
そう思いながらも、僕は「それ」に対して、ゆっくりと告げた。
「ごめんね」
僕は言った。
「戻れない。こちらで大切なものができてしまった」
――先行きが明るいとはとても言えない。まだ色々と厄介ごとは降りかかるだろう。
それでも、もう、これらは僕にとって手放し難いものになってしまった。
これは、シャディクの遺した大切な繋がりなのだ。
僕が断ると、光の渦はしばらく収縮を繰り返し、やがて消えてしまった。
しん、と静まり返る廊下。僕は迷いなく歩き出す。
希望は自ら絶った。あとはこの世界で生き抜くだけだ。
僕はひとり、廊下を歩き続けた。
End.