Fate/deep diver ~天月の逆杯~ 作:マルペレ
いやー、EXTRAって長いですね。
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生存を望むことは、決して臆病とは言わない。
命を育む存在となった限り、それはいつの世に措いても正しいことだ。
だからこそ、己の為に他の命を搾取する。
だが野蛮。しかし道徳に反する。
そんな上辺だけの否定など、生きている限りは不可能である。
それは、死に瀕していても同じ事。
死んだ身であっても同じ事。
私たちは、生きていたのだから。
そうして繁栄を続け、滅びを繰り返し、間違いを改め、同じ過ちに陥る。
死に瀕した者が生還しても、死を乗り越えた者が存在せど、生を勝ちとった者が誇ろうと、生を慈しむ物が豪語しようと、過ちを犯し続けるのである。
私たちは変わらない。
それは未来永劫。それは輪廻転生。
それは極楽浄土。それは親子末代。
それは起源遡行。それは全歴史上。
それは―――――――
時は昼。精神と肉体への疲労も相まって、青年……「アンリ・M・巴」はこの時間まで行動が不可能だった。それも、仕方あるまいといえよう。彼は先の決戦。この抑止ばかりが働く世界に嘘をつくという偉業を成し遂げたのであるから。もっとも、その代償は深く辛いものだった。
発動した宝具は彼の魔力を貪るように持っていき、彼を構成している泥の核、「魔法少女と魔女の魂」もが消費されてしまったのだから。そして、魔力を消費した魂が「成仏」することで、彼の中で彼自身を憎む魔力生成が少なくなった。神の御から成「仏」など、可笑しい物ではあるが。
そんな彼の中には、サーヴァントとなってから「魂喰い」によって喰らった人間の魂が幾つも含まれており、その中に居る限りは、延々とアンリ・M・巴という存在を憎み続ける事が出来る。だが、その死の際にて彼に恩義を感じる者が多く、その効果はほぼ功を成していない。それでも、彼を憎んでいた魂がぐんと減り、彼自身の魔力が大幅に減少している。
話は変わるが、彼はほとんど常時展開する宝具を使い続けているようなもの。一切魔力を使わない補給宝具と、永遠に発動し続ける消費宝具。この二つの均衡が崩れている今、彼は―――
「くそが……カレーパンが足りねぇ…! 売り切れとかマジ勘弁」
購買部のパンを貪り食っていた。
むしゃりと焼きそばパンが彼の在るかも分からない胃の中に消えていく。そうして食ったパンの味は、これまで食べて来たどれよりも美味しいのだから驚きだ。
「しっかし、流石は地球の全てを記録してきた月。万人向けで最上の物を常に出してくるもんだ。で、これを喰って魔力が回復する仕組みが……」
パンを一つちぎって泥に浸すと、パンの形をしていたデータはたちまちに魔術を扱うものなら見覚えのある力となってその場に流れて行った。俗に、エーテルと呼ばれる魔力物質である。
「確かに魔力も回復するってもんだ。エーテル結晶のデータに味を付け、触感をオーバーライトしてるんだからなぁ。
そんな事を呟きながら階段を上がっていくと、ドチャッと物体が液体に接触した時の様な音が彼の耳に届いた。何事だと急ぎあがって言った先の光景は、壇上を埋め尽くす死体と血液が乱雑に捨て置かれているものだった。
俗にゲーム用語で言い表すなら、
一体犯人はどこにいる?
「サーヴァン―――うおぉぉぉっ!?」
死体にまぎれて見えなかった術式を踏んでしまい、彼の身体は階段の向かい側に在る壁へと一直線に吸い寄せられた。激突してしまう、そう思って衝撃に身を備えたが、代わりに訪れたのは妙な浮遊感。
地面に乱暴に投げ出されるが、なんとか成功した着地と共にサーヴァント・アヴェンジャーとしての衣装を身に纏う。これは一種の威嚇表現、そしてこれから訪れるであろう戦闘に対する意気込みでもあった。
ぐるりと周囲を見渡すと、面白そうに喉で笑っている偉丈夫が立っていた。足元には、先ほど見た者とは比べ物にならない程の死体の山を踏みつけて。
「いや、実に魔術師とは非力なものだ。ここまで脆いとなれば、最初に戦ったあの木偶にも劣ろう。だが……お前は退屈しなさそうだ」
「……サーヴァント」
「如何にも。そちらも変わっているが、同質の者と見た」
さて、どうかな。男がそう首を傾げた瞬間、アンリとその男との間合いはゼロになっていた。目で見た情報への反応が遅れるが、脊髄の条件反射が働いて右手の刃が知らずに振るわれる。打ち合ったのは拳の筈であるというのに、なんと鳴り響いたのは硬い物と接触した時の甲高い音。
片眉を釣り上げ、第一撃を防いだ事に男はさも可笑しげに笑った。
「頼んだ」
静寂が満ちたと同時に呟かれるアンリの声。瞬間、偉丈夫の後方の空間がゆがんだかと思えばその男は横にスライドするように回避行動を取っていた。一歩遅れて鋭い旋風が男のいた場所を通り過ぎ、積み重ねられていた塵芥のマスターの死体を切り刻む。
鮮血でその血が染められると同時、その飛沫の向こう側には金色が揺れていた。
「ご主人様、また厄介事ですか」
「散々な事にな」
「また酷評を受けたものだ。しかし、時間切れだけでなく自ずからの技量で避けて見せたか。巡るかは分からぬが、死合う時を楽しみにしておこう」
飄々と男が言い括ると、異常を感知したSE.RA.PHがこの空間を消しにかかった。偉丈夫の姿も消え去っており、陽炎が揺らめいたかと思えば死体も消えた元の二階の階段前廊下に戻されていた。
助太刀に来たキャスターが霊体化すると、左から靴音が聞こえてきた。そちらを振りかえれば、額に皺を寄せた黒いコートに身を包んだ男が立っている。先ほどの男の雰囲気と似ているところから、相性で召喚された主従かもしれないとキャスターが当たりを着けた。
「その実力で、どうやって生き伸びた?」
「…みりゃ分かんだろ」
男の言葉は、完全に共犯者のソレ。殺気を撒き散らすその黒い男に対し、アンリは警戒を強めた。
「その服装…霊装か? あの“魔拳”から逃げおおせるとは……いずれにせよ、ここで狩っておくにこしたことは無い」
疑問符を上げるのではなく、アンリの死は確定事項のように男が告げる。
対し、面倒臭げに同等の殺気をぶつけると相手は片眉を吊り上げて片手に魔力をたぎらせた。ここまで大っぴらに殺人を行おうとするのは、よほどの地震かでもあり得ない。つまるところはセラフをごまかせるだけのプログラムを彼が打ち込んでいると言う事だ。
ハッカーとしては一流。殺し屋としても相当な腕だと言う事を悟り、アンリは冷や汗をかいた。サーヴァントの身体を得ていたとして、あのダンにもしてやられた覚えが在るのだ。それが軍などは無く、本当に殺しに特化した相手なら―――首を切られてお終いである。
「あら、放課後の殺人鬼がそんな隙だらけでいいのかしら?」
「……貴様は」
突如殺人鬼と呼ばれた男の後方に、指鉄砲の構えで優雅に微笑む女性が出現する。彼女の声は、どこか聞き覚えのあるような。
「遠坂凛か。テロ屋がなんのようだ」
「随分なお言葉ね。叛乱分子対策の大本、“ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ”さん?」
「…態々俺の名まで晒すか。よほどこの男に肩入れしていると見える」
気にくわないように彼が言う。表情に変化は無くとも冷静な仮面の下では明らかな苛立ちを感じ取れた。こうした感情の変化が良く判ると、相手がいつ仕掛けてくるかというのがおのずと見えてくる。そんな苛立ちの感情を目の当たりにしたアンリは、しばらくはとりあえず武器を仕舞った。
「武器を仕舞った? アンタ何やってんの」
「ここまで空気がみだれちゃソイツも殺せないだろうさ。なぁ? 葛木センセー」
「巴、と言ったか」
安い挑発にも乗らず、男――ユリウスの凍てついた視線が突き刺さった。
「貴様は王の前には不要だ」
抹消宣言。それだけを言って彼の身体は壁の向こう側に消えていく。ありすとはまた一風変わった消え方は、見ているだけでも寒気が走るような魔術を使用しているのだろう。胸糞悪い空気だけを置き去りにして、ユリウスは二人をこの場に置いて行った。
やるだけやって帰りやがったと愚痴を履くアンリに、凛は定型文のように溜息と言葉を投げかける。
「ハーウェイの党首と仲が良かったり、よりによってアレに目を付けられたり……災難ね」
「そう思うならそのニヤニヤ笑いを止めろ」
「そっちがいつもの笑いを消すならしてあげるわ」
「こっちは癖だっつの。ええぃ、なんつぅ不毛な会話だよ。さっきの雰囲気ブチ壊しじゃねぇか」
いかにも常識人のように呆れた素振りをする。
「それにしても、その格好が貴方の戦闘霊装? 防御力とか無さそうねぇ」
「これでも聖骸布の一切れだ。誰のかまでは言わんがな」
「ふーん…? まぁ、ハーウェイ特有の
「ひっでぇの」
「あなたが消えた方が私にとっては好都合だもの」
手札は隠すが、望みは隠さない。何処までも彼女らしさを貫いた言葉を残して、凛もまたマイルームへと姿を消した。その直後、アンリの端末のコールサインが鳴り響いた。にコールもしないうちに端末を出現させると、「三回戦開始」という文字が。
「残り三十二人。大会は夏休みより長ぇな」
幾つもの敵フラグを立てて来ていても、どこか飄々と真正面から受ける彼の生き方は、キャスターの説教一つでは完全には無くならないらしい。
それが吉とでるか凶とでるかは、三回戦の相手によるかもしれない。
それから一日。二回戦は組み合わせでは早い方に当たったのか、昨日と言う日が空いていたことでそれなりの準備は整った。二回戦でここぞとばかりに消費したキャスターの呪符は補充され、アンリの魔力はユリウスに殺されていたマスターの魂を回収することで補給されている。死して屍拾うもの無しと言う諺もあるのだが、彼にとっては逆に死して屍拾うものであるらしい。
そして回収された魂が突然の師による敗退を嘆き、悲観にくれる。その感情がアンリの泥を増幅させてアンリの「知名度」を上げる。いやはや、「人の不幸は蜜の味」とは、彼の為に存在する諺ではないだろうか。
「さてさて…やっぱりか」
そんな彼はいつもの対戦相手の組み合わせを見て予想通りだと呟いた。
マスター:ありす
決闘場:三の月想海
共に星を見て、本を語り聞かせ、etc……と。おそらくは最も接触したマスターが「ありす」である。つまり、何かと関わったマスターが必ず対戦相手となって現れると言うセラフの有難い采配だと言う事なのだろう。
まったくもって、それは余計なことだと毒づいた。
「…ついに来ちゃったね。お兄ちゃん」
「うす、元気しとーや」
「う、うすー…?」
どこか哀愁を帯びて登場したありす。そんな彼女に何処までも軽く挨拶を返すと、同じように乗って返してくれた。実に愛い娘だと思うが、こんな彼女でも二人殺してきている事は違いない。殺人の葛藤は随分前に捨てているので彼にとってそんな事実はどうでもよかったのだが。
「お兄ちゃん、なんか軽いよ?」
「言われちまった悲しみに…なんてな。まぁお相手努めさせていただくんだ。約束通り全力で遊びに来い。派手に遊ぶぞ」
「う、うん! それじゃあ
後ろに振り向きながらトコトコと駆けて行き、その途中で鈴と似た音を鳴らして姿をかき消す。あれも
「しっかし、思い出しちまうもんだなぁ」
後頭部を掻き毟ると、やりきれないとばかりに彼は笑った。
「約束ですか。いや~ご主人様は義理堅いお方なのですねぇ」
「いや、ま――」
「これを期に私との約束も守って頂けると幸いです」
「そ―――」
「あぁ、申し訳ありません! やはりご主人様はこのわ・た・しのご主人様ですもの。このように口出しせずとも理解なさっておいでで!」
アンリの言葉を挟ませようとはしないマシンガントーク。ありすとの事ばかり考えて鼻の下を伸ばしている……ほど彼は性欲自体を持ち合わせていないのだが、キャスターの方は別だ。
説教をした次には、また敵マスターとの語り合い。そして「全力」という約束の履行。前回はこれで痛い目を見たと言うのにまったくと言っていいほど治っていないのだから、これはキャスターが起こっても仕方がないだろう。洗濯板の上に正座させらされて膝の上に意志を置かれても……この辺りは彼女の嗜好があるかもしれない。
「ご主人様は自分を愚人だと仰るときがありますが、今回ばかりはそれに同意させて頂きます! 乙女心も知らずに何が英雄ですか! “英雄色を好む”とも言いますし、朴念仁の男性が仮にもサーヴァントやってるなんて信じられません!!」
「おい、それはアイツが泣くって」
「
「……あ、コレ泣いてるわ」
ある意味個人情報を物ともしない物言いに、アンリのフォローは空しく崩れ去った。というか、話の趣旨が変わっている事に彼女は気が付いていないのが大打撃である。
普通ならここで彼女を諌める事も出来るのだが、重ねて言うように今回悪いのはアンリ自身。その原因であることも自覚しているせいで引くという選択肢は初めから存在して居なかったのだ。(アンリ主観の話ではあるが)
なんにせよ、このままでは決戦どころかトリガーを取りにさえ行けない。そんな事になって敗退するのは流石に無理なので、彼は行動を起こした。
「落ち着けって。今回はオレに非が在るのは認める。これから不用意に敵マスターと接触は持たないようにするし、ありすで最後にするからさ。だから、今回だけっ…な?」
「……今回の相手はちみっこいガキンチョですし、許してあげない事もありません。…が!」
どうでもいいがこの会話、完全に小遣いをせびる亭主と厳しい妻の姿によく似ている。
いやまあそれだけだが。
「ご主人様が聖杯戦争を勝ち抜くためにも、私と――」
『Prrrrr!!!』
彼女が何か言おうとして、最悪の――彼にとっては最高の――タイミングで端末がトリガーコード生成のお知らせのためにコール音を鳴らした。
だが、これはどう考えてもセラフの手助けだろう。朝には恨みがましい言葉を投げかけていたのが掌を返すように感謝を告げ、アンリはすかさずその隙をついた。
「オーケー、アリーナ行くぞ!」
「あ、ちょ待ってください!!」
慌ただしく部屋を出ていく姿
彼が握りしめる端末には、空気を呼んだ文章がしたり顔のように輝くのだった。
::
第一層にて取得されたし
そしてアリーナに到着すると、ありすが目の前で待ち構えていた。不思議な事に敵性エネミーはこの周りだけには存在していないようで、この「遊び」を説明するためだけに場を開けているような異様な空気さえ感じられる。
その空気の中心に入る少女は、どこまでも無邪気な笑顔を浮かべているだけだったが。
「鬼ごっこだね。お兄ちゃんが鬼!」
「鬼いちゃんってか?」
「オヤジくさーい! それじゃよーいドン!」
当然のように返されたせいでその場に崩れ落ちて膝をついたアンリだったが、とりあえずはそんな主人の無様な姿を見て落ちついたキャスターが肩にぽんと手を置いた。何事かと思って彼女を見上げると自信満々な顔がどアップで映り込んだ。
「ふっふっふ、この
「いや、“オイタはメッ”みたいに言う言葉じゃねぇだろ」
「てへペロ」
「ああ、うん。今初めてじゃないけどウザイと思った」
「ヒドイっ!?」
ある意味ありすのおかげで持ち直した二人は、今更ながらにありすを追いかけ始めた。足の速さでは勝っているので何度か追いつきそうな時もあったのだが、次々にワープを繰り返すトリッキーな動きにほんろうされて中々捕まえる事が出来ない。
「あはは、逃がしませんよー」
「っ! ……」
キャスターの顔を見てありすは無言で逃げ去る。彼女のプライドの為にも伝えない方がいいので、そこだけは割愛しておく。そんな感じであっちへ行ったりこっち行ったり、そんな事を繰り返しているといつの間にかアリーナの第一層の終わりが近づいていた。
そのありすがいるエリアの直前で立ちふさがった盾を模した鳥型エネミーを彼が蹴り飛ばす。ガードが固い厄介な相手だが、キャスターが遠隔操作した鏡で下からかち上げて防御を崩すことで、無防備になった所を二本の
「だー、早いっ」
「流石と言いますか……逃げきられてしまいそうですね。それにしても、追いつめ始めているというのに、緊張感ない子ですねー」
「どっちのセリフだか」
キャスターの言う通り、ここまで来て白い影が目視できる程だ。
最初はその影さえ追えなかったというのに、追いつけている証拠にもなっている。
「「邪魔ぁぁぁぁ!!」」
再び目の前に躍り出た、ナスカの地上絵をモチーフにした様な鳥のエネミー。泥の刃を地面から突き出し、思いっきり仰け反ったところをキャスターが札を投げつける。隙だらけのど真ん中に札が張り付いた瞬間、彼女が炎天の呪を唱えて、エネミーを灰燼に変えた。
ようやく最後のエリアに辿り着くと、もう逃げ場は無いと分かっているのか炎の中を突き破って来た二人の姿をヒーローでも見るかのような輝いた目で見つめるありすが待ち受けていた。そんな惚けているありすの後ろから、ホラーもかくやの泥の腕で肩をタッチ。一応これもアンリの身体の一部なのだから、これで鬼ごっこは終了と言う訳だ。
「あーあ、捕まっちゃった」
「ご主人様、流石にそれは卑怯かと……」
「いいんだよ。あれもオレの身体だし」
「お兄ちゃん、こどもみたいだね」
「身体は大人、頭脳は子供。…って、これじゃ駄目人間だな」
ありすをして変なのと言わせたアンリは、鬼ごっこが終わってしまったが次は何をするのだと遊びの催促をした。このままなら戦う事は無いだろう。キャスターまでもが期を抜き始めた直後、それは間違いだったと気付くことになる。
何故か?
「ねぇ、お話してもいい?」
「ん? ああ」
「……ほんとは
それは、彼女の輪郭がぶれ始めていたから。
それは、少女に見合わない禍々しい魔力が流れ始めていたから。
流出した魔力は写し鏡のようにありすの姿と成って隣で構成されていく。だがその正反対を表現するような黒に包まれていた。どこまでも冷たい、人形の様なガラス玉の目を入れ込んで。
黒は、続ける。
「そしたらね、戦車とか飛行機とか、鉄のかぶとと鉄のてっぽう、黒いしかくの国がやってきて……空はまっかっか、おうちはまっくろくろになって、きがついたら、まっしろの部屋にいたの。
まいにち変わらなくて、おともだちはいなくて、ママとパパもいなくて、」
それは歪みだ。
どうしようもなく歪んだ純粋さ。
「あたし、ころんでも、けがをしても、おぎょうぎ良くがまんできるの。いたいっていうと、パパがおこるから。でも、がまんできないぐらい、いたいコトがあって。気づいたらここにいたの。でもいいんだ。だって、ここはとっても楽しいわ。いろんな人がいて、みんなみんな、あたしにやさしくしてくれ
アリスに続き、ありすの言葉もどこか浸食されていく。
理性ある光は瞳の奥に隠され、代わりに人形を思わせる無機質さが彼女を覆っていた。
「ここなら、この人ならいっぱい遊んでくれそう?
「そうだね
「じゃあお兄ちゃん、おててとかおあしとか、とれちゃっても平気なんだ?」
何かを期待するように見つめる二つの視線。
君が悪いとキャスターがえずく中、アンリは子供に見せるべきではない黒い微笑を携えて口を開いた。
「ああ、千切れても生えてくるさ。生憎と子供に遊ばれるのは慣れてるからなぁ?」
「やったわ
「そうだよ
それならば、とアリスが提案を持ちかけた。
「あの子と遊んでもらいましょう。そしたらどれだけすごいかよくわかるわ」
「でも
「大丈夫、
「…そうだね!」
左手を上げ、彼女たちは自分とハイタッチを交わす。
瞬間、空気は軋み始めた。いや…空気どころの話ではなかった。
目の前の空間を切り裂き、紅く無骨な巨大な腕が空間のひずみをこじ開ける。
聞こえて来たのは狂った咆哮。
怪物になりきった怪物のような存在が、アンリの前で顕現する。
「……u…Uuuu…………」
それは、圧倒的な
触れてはいけない存在だと自ら主張するように、圧力が肌を突き刺してくる。
「o…o……――OOOO■■■■■■!」
「すごいでしょ、この子
「一人目はもちろんお兄ちゃん! 一緒に遊ぼうよ!!」
今はその無邪気な瞳が痛い。背徳的な行為をしていると言う訳でなく、いろんな意味で手に負えない相手がいる事が誘いを断る要因である。そんな事を知らせる事も出来ず、アンリは先ほどの威勢はどこに行ったのか、苦笑いで後ずさり始めた。
≪キャスター此処は≫
≪言われずとも、三十六計逃げるにしかず! 尻尾巻いて逃げるのは狐の得意分野です≫
「≪心強いお言葉どーも≫―――まぁ、今日は夜も遅いし両方とも帰るとしようぜ。また明日遊ぼうな!」
どちらの
「むー、こんどはいっしょだよ!」
「この子も分けた魔力が無くなるまでここにいるから、またね!」
別れ際、聞かなければならないが聞きたくない事を聞いてしまって、「ばんなそかな…!」と言いたくなってしまう、アンリ一行なのであった。
「……あれ、勝てるか?」
「絶対無理ですね。呪術も鏡も弾き飛ばされる未来しか見えません。予知能力者じゃなくてもはっきりと見えるでしょうね」
「にしてもなんだありゃ。スキルか、宝具か……」
「え、サーヴァントとはお考えにならないんですか?」
キャスターの疑問には、思い出したのだと答えた。
「思い出した…?」
「この世界の命運的な物。というか、そのほとんどは忘れたんだがな」
「…命運?」
「平たく言うと今後の展開」
別に彼は嘘を言っているわけではない。
此処に来てこの世界の基本情報を知識と照らし合わせて捻りだし、記憶の片隅に残っている生前の記録を読み取ったに過ぎないのだから。実に穴だらけの大雑把な展開ぐらいしか思い出せていない。
「……とにかく、いつものご主人様はそれでいいとして」
「オイコラ」
「あのバーサーカーモドキを何とかする方法を考えないとなりませんね」
キャスターの言い分はごもっとも。アレを何とかしない限り、向こう側にあるトリガーを取る事は叶わないだろう。場合によっては何度も「
「……とにかく戻って情報整理にしましょう」
「賛成。じゃ、帰るか」
リターンクリスタルを握り、地面にたたきつけてアリーナから離脱した。
残されたアリーナでは、獣の唸る声と少女の物憂げな溜息が響き渡るのだった。
まだまだ 白ウサギ が出てきたあたりですからね。
ありすの大冒険は始まったばかりです!!
ここまでお疲れさまでした。
彼女を持った家の栄司と、リア充の女どもにメリークルシミマス!!