Fate/deep diver ~天月の逆杯~   作:マルペレ

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すさまじくお久しぶりとなります。
では投下


Help me Eggman

 アリーナを見て回って、その日の夜は何事もなく眠りに付いた。そうして過ごした次の日の朝、相も変わらずキャスターはアンリの手を握りながらに布団にもぐりこんできている。本来ならアンリの体もサーヴァント同様睡眠の必要は無いとはいえ、そのサーヴァントが少しでも魔力を十全に保持しておくためにと睡眠を推奨してくるのだから、ここで断ってしまうと男が廃る。そんな古臭い考え方に基づいて行動した結果が―――まぁ、これだ。

 

「……キャスター。起きろ、キャスター」

「……ふみゅ、…ん~」

 

 起こしにかかった途端に、右手首をぐぐっと握りしめられる。美少女が気付けば布団の仲と言うのは美味しい状況には違いないのだが、それがサーヴァントとなれば生命の危機にも関わってくる。現に、その桁違いな見た目不相応の握力でアンリの右手は形を失いつつあった。これは離してもらったとしても一旦泥に戻してから形成し直しは確実だろう。

 

「痛え。慣れて痛か無いけど痛え。なんだこの矛盾ってか、はよう起きんしゃい。そっだらしとぉとものぐさ坊主になるべぇ」

「……イメージ崩壊ッ!?」

「お、やっと起きたか寝ぼすけ狐。ほれ、るーるるるー」

「こーん! じゃなくて、おはようございます」

「おはようさん太陽さんさんっと」

 

 瞬間、木枯らしが吹き荒れた。

 

「……うぅ、昨日のアリーナより寒い」

「悪うござんしたっつの。まぁいいか」

 

 食卓に付いて手を合わせる。いただきますと声を揃わせてたくあんに箸を伸ばした。

 

「あれ、今日は油揚げとかないんですか?」

「生憎在庫切れだとよ。俺らが少々アリーナで暴れすぎたからってSE.RA.PHから今日はちっちゃい罰がきやがった」

「ふむ、ご主人様どうしましょう?」

「何が」

「セラフの指令とか一気にどうでもよくなってきました」

「……ああ、そうかい」

 

 彼はいつもの事じゃねーかと白米を茶碗に詰め、九谷焼の皿に大皿から菜っ葉を引っ張った。キャスターが体を伸ばそうとした鼻先にドレッシングが差し出され、少々面食らいつつもそれを礼と共に受け取る。

 

「いやぁ、私たち息ぴったりですね」

「何度目だ? このやり取り」

 

 箸を大皿に伸ばしてキャスターの小皿へ。既に醤油は彼女の手元から零れおちようとしていた。

 

「大体5度目くらいじゃないですか?」

「な~る」

 

 キャスターが醤油の口を傾けた先には納豆があり、少量を注いだ瞬間戻ってきたアンリの箸が納豆に突っ込まれぐるぐるとかき回され始める。ある程度回した後にお椀に納豆を注ごうとした時には、キャスターの手によって新たな白米が湯気を立てながらよそわれていた。

 

「うまかりけるなりよ」

「そんな言葉の使い方平安の貴族でもしませんよ」

「分かってら」

 

 ちゃっちゃと陶器のわんと箸がすれ合う小さな音を立てながら、中身がアンリの腹へとかきこまれていった。キャスターも小皿に盛られた野菜をシャクシャクと噛み砕いて呑み込んで、お茶を一杯すすった。

 

「玉露がこんなに安く飲めるとは、セラフも粋なものです。混浴もあったらいいんだけどなー」

「そしたらお前の肌が他の奴に見られるぞ?」

「あ、それは勘弁して下さい。私の肌はご主人様にしか見せるつもりはありませんから」

「どっからどこまでが本気なんだか…」

「最初から最後までです。というか、私はあくまでも今のご主人様という限定で括らせておりますから」

「そりゃ嬉しいねー」

「棒読みですか。私の愛は何時になったら届くのやら……」

 

 とまあ冗談めいた掛け合いをしながら朝食を終わらせる。

 テキパキと片付けを続ける中で、キャスターがこんな事を言い出した。

 

「そう言えば、名無しの森と言いジャバウォックと言い…鏡の国のアリスという童話で間違いないんですよね?」

「ん、まあ確かにそうだが…どうした?」

「いえ……私の知る限りですと、あの話は見てるこっちが狂いそうな掛け言葉に遊び言葉。登場人物の存在そのものが不安定で一見さんは特に理解が難しいと思うんですけど、そこんとこどうやってあのサーヴァントは形にしているのでしょうか?」

「ああ、あの黒い方…サーヴァントが“赤の王”の役割を果たしてるんだろ。そしてありすは不思議の国を夢見て、赤の王(アリス)はありすの夢の中に入って自分の夢を見せる。……何言ってるか分からんと思うが、これが真実だろ」

「え、と…?」

「胡蝶の夢、それが互いで互いを保管してんだろうよ」

「ああ、成程。同じ者同士で相手を信仰し、世界がそれを形にしているわけですか」

「一文でまとまっちまったぞチクショー。オレって相当文章力低いなぁ」

 

 己の非才を嘆きながら最後の皿を洗い終えると、増やした自分の腕を全て仕舞って玄関に向かう。

 

「おや、どちらへ?」

「チョイと図書室へ。鏡の国を読みなおしてくる」

「行ってらっしゃいませ。あ、掃除しておきますね」

 

 キャスターの見送りを受けて外に出て、真っ直ぐ図書室に向かう。ありすに本を読んだ日の時を思い出しながら童話系の本棚に手を伸ばすと、今度は原文で書かれた鏡の国アリスを手にとった。

 普通の中高生なら見ただけで辟易しそうな英文に目を通していると、探していた一節が記されている場所を見つける。そこには、こう記されていた。

 

 【※英文訳文共にWikipedia より抜粋】

 And as in uffish thought he stood,

 The Jabberwock, with eyes of flame,

 Came whiffling through the tulgey wood,

 And burbled as it came!

 

 One, two! One, two! And through and through

 The vorpal blade went snicker-snack!

 He left it dead, and with its head

 He went galumphing back.

 

 ……情報引用……出典、鏡の国のアリス……変換開始。

 ……

 …

 『荒ぶる思いで歩みを止めれば

 燃え滾る炎を瞳に宿したジャバウォック

 鼻息荒々しくタルジの森を駆け下り

 眼前に嵐の如く現れる。

 

 一撃、二撃! 一撃、二撃!

 ヴォーパルの剣で切り裂いて

 悪たる獣が死するとき

 その首をもって、意気揚々と帰路につかん

 

 

 分から目を離して思う。自分は勇者と言うより、敵の弱点を突く研究者みたいな戦い方をしている物だと。そして、やはり弱さがひときわ目立つ自分は本当にサーヴァントなのかと自問自答が始まった。

 椅子で悩む黒い男が腰かけてひっそりと静まる図書館の中、結論が出たらしく、やはり悪神の青年だけが面倒臭げに頭を掻いた。

 

「いよいよ持って、こりゃ“試す”価値が出て来たな。死んじまったらそこまでだが」

 

 流石にそれらを読み切るには数日かかるだろう。加えて、残り数日と言う中で英文全てを読み切ることにかける時間もない(寝る間を惜しまずならともかく)。パタンと閉じて元の棚に本を戻した。さぁ戻って細かな作戦を立てようと思ったその時、自分以外にはNPCしかいなかった図書館に二人分の幼い声が響いてきた。それは、聞き覚えのある声色。

 

「白いウサギ、ここにはいないね」

「そのウサギ、三月ウサギ(マーチ・ヘアー)の見間違い?」

三月ウサギ(マーチ・ヘアー)って、きっとあなたのことよ」

「ひどい」

 

 ちっとも悲しくなさそうに、無感情に黒は悲しんだ。

 ちなみに、三月ウサギは狂ったウサギとして描かれているが、その由来は三月ごろの発情期で性欲旺盛な様子から名付けられたらしい。よく言われているウサギはほとんどずっと発情しているという事に関して、あまり関係は無いかもしれないが。

 とにかくそんな気狂いウサギと同格にされて気を荒立てない人物はいないだろう。年中発情しているような変態ならば話は別だが、彼女はごく普通の感性を持ったあどけない少女なのだ。

 

「白いウサギ、見つけてどうするの?」

「首をちょん切っちゃうの」

「きゃぁっ! ウサギさん、急いでにげなきゃ!」

「でもね、白いウサギはもういないけど、黒いウサギならそこにいるかもね」

「どうしてわかるの?」

「わたしたちのこと、ずぅっと見てるもの」

 

 流し眼に横目。途端、アリスと目があった。ダムの水が決壊したかのように膨大な威圧感を叩きつけられ、ただのデータでしかない周囲の本棚が軋みを上げて存在を揺らめかせる。急いだように修復されていく図書室の様相を、どこ吹く風とその殺気を受け流すアンリに向かってアリスはまたもや囁いた。

 

「物語に黒いウサギはいないのよ」

 

 明らかな嫌悪を帯びた否定的な瞳が突き刺さる。アンリもこれまで肌の色の違い、その在り方に付いて様々な人から要らない、気持ち悪いと否定されてきた経験があるが、流石にサーヴァントクラスの人格から発せられる否定感には気が滅入りそうになる。真っ向からの存在否定をぐっとこらえて、やはり挑発的に彼は言葉を返した。

 

「黒ウサギはいるんだがな」

 

 自分の声がみっともなく震えているわけではないと分かって一安心。

 やはり道化を演じたままに、彼の口は滑らかに滑りだす。

 

「それ本当?」

「いるともさ。ここにいる。“ありすの物語”に黒ウサギはこうして存在するだろう?」

「すごい! あたしの冒険なんだね!」

 

 無邪気によろこぶありすに、再びアリスは首を振る。やはりその目には小さな負の感情を示していた事を、彼は見逃さなかった。

 

「でもだめよ。あたし(ありす)はまだまだ夢の中。夢が覚めてはいけないもの」

「あ、そうよねあたし(アリス)。……ごめんねお兄ちゃん、またこんど」

「こりゃ残念。エスコートは失敗のご様子で」

 

 おどけたようにと言うが早いか、二人の姿は掻き消えた。何を探していたのかは知らないが、仮に白ウサギだとするのならば、それはどこを探したって見つかりはしないだろう。だって、とっくの昔にトランプの女王の元へ向かってしまったのだから。

 

「オレ達は高い壁の上を歩く卵を人にしたもの(ハンプティ・ダンプティ)。割れちまったら直らないんだっての……いい加減、新たな夢は必要か? 自問自答は尽きないねぇ」

 

 物悲しき哉、嗚呼哀しい哉。

 悪の囁きは少女を陥れるには魅力も足らず。ぽつりとばかりに呟くのさ。

 

 だがしかし、割れずに生き残ったハンプティの手が差し伸ばされたとしたら? 主人公の少女は、やはり鏡の国で手を伸ばした彼と出会うのでしょう。

 

 

「♪ 正体不明で消息不明。

   火をふく竜とか雲つく巨人。

   トリックアートは影絵の魔物。

   けだし、大人の話はデマカセだらけ。

   真相はドジスン教授の頭の中に……」

 

 哀れな道化は唄って笑う。

 舞台役者で道化が自分なら、彼女たちは自分を笑う観客なのだと信じて。

 ならば、割れてしまってもいいかもしれない。

 

 私は俺は、ただの泥

 こねくり回せば形は戻る

 卵の中身も入れ直し

 ピカピカの殻は洋服代わり

 孕むは新たな可能性と信じて

 

 

 

 

 その日、昼になってから彼らは他のマスター達より少し早目に部屋を出た。その足でアリーナに到着すると、氷の城と寒気が二人を出迎える。残念というべきか、彼らを出迎えで待っていたのはエネミーの歓喜だけだったが。

 

 辺りに散らばる薄らと凍えるような空気が肌を刺し、キャスターの身体をブルリと震わせる。スタスタと歩く先には、いつしかの白黒少女達との追いかけっこで通り過ごした、踊り場の様なエリアが顔をのぞかせていた。

 

「またジャケット貸すか?」

「いえいえ、ご主人様の手はもう煩わせませんとも」

「さいで」

 

 短くかけ合いを終えると、勢いよく飛び込んできた蜂型エネミーが視界に入る。

 またかと言わんばかりのキャスターが面倒臭げに腕を横に振ると、その手の動きに追従して空を駆ける鏡と空中衝突を起こし、体の一角をへこませながら弾き飛ばされる。体勢を立て直される前に、すかさずアンリが投げた泥の槍で追撃。風穴が開き、体の大部分を失い、胃の中の食べ物のようにそれはデータの海に溶かされるように消滅していった。

 

「うっし」

「これも、私たちの愛の力……はぁと」

「はいはい愛な。了解だ」

「もぉぉおお!!」

 

 あからさまに吐き捨てられて悔しそうな叫びを上げるキャスター。一応アンリも意味が分かった上でこのような返答を返しているので、恋愛感情はないのかもしれない。とはいえ、彼が最近、キャスターの寝ている姿や笑顔にどきりとしているのは内緒である。

 

 とまあ。そんな他愛もなしのやり取りをしながら、まだ入手していない参加権(トリガー)を手にするために奥に進んでいく。アリーナの通路から見える中でも、最も氷の城が近い場所に辿りつくと、周囲にエネミーが居ない事を確認してようやく息をついた。互いの口から吐き出される白い息が交わる様子が視界に入り、どうしたものかと彼女が顔を見合わせる。相手の顔で互いが笑った末に、次はどうしたもんかとアンリが話を切り出した。

 

「なあキャスター」

「はい、なんでしょう?」

 

 彼の重い口調から長い話になると悟ったか、いつの間にか弁当を広げ始めているキャスターに、アンリは声を掛けた。自分で作った弁当を口に放り込むと、その味を噛みしめてからゆっくりと口を開く。

 

「残念無念の遺憾ながら、ありすの場合は夢が覚めると人魚姫だってのは分かるな?」

「あの子は亡霊(ゴースト)。泡沫の存在でしかありませんですからね。それは私達サーヴァントよりも儚い幻、というのは理解していますよ」

「なら話は早い。んで、当然だがシンデレラになる事も出来ないってな。だからよ…そういった哀れな子供に、夢を見続けさせてやるのが、優しい大人の仕事だとは思わないか?」

「へっ? ……それって、どういう意味で――まさかっ!?」

「カンが鋭いじゃねぇか。何時もみてえに尻尾がびびっとでも来たのか?」

 

 にったりと笑って水筒の茶を呑み込むアンリに、キャスターは非難の声を荒げる。

 

「そんなこと…! 負けるつもりだなんて、何をお考えに――」

 

 まぁ、キャスターの焦りもサーヴァントとして当然だろう。直接言葉を受け止めるなら、彼のやりたい事とは即ち、ありすを生き残らせようという考えというのは理解できる。だが、まさかここまできてようやく己の生を実感し直したマスターが敗退しようと言うのは、彼女の精神に極軽度ながらもトラウマとして心にのしかかるくらいにはなっているようだ。

 だが―――真っ青な顔で語った、そんな考えも打ち砕かれるように彼は邪悪な笑みを浮かべていた。

 

「いやぁ? 一応は勝つって言ってるじゃねぇか。違うんだよ、キャスター。オレが勝って、ありすも助ける。ありすに意地悪な赤の女王(アリス)を追い出して、ありすが赤の王の夢を見続けられるようにするんだってコトだ。赤の王には、オレがなればいい。まぁその為に、一度は鏡の中(契約)から抜け出す必要があるだろうがな」

「ご主人様…?」

 

 語り始めるのは鏡の国の物語。

 その一貫したオチを付けたハナシ。それが夢物語に近い事象だとは知っていても、彼にはそれを成すだけの策があった。成功確率は前例がない為想像もつかない。だが、それでも理想論で終わらせるには勿体ないと決めていたのである。

 

 呆然と疑問符を浮かべる彼女を見て、ただただ可笑しそうに彼は語りを続ける。

 

「オレは駄犬だ。そんな犬から“骨”を取ったら、何が何でもその存在意義を取り返そうとするだろう。オレは駄犬だ。何よりも我が儘なんだ。オレは駄犬であり続ける。その事で、自分のやりたい事が出来るならな。

 オレはただのお伽噺で終わる気はハナから無い。後に残るのは悲劇なんかより(ゆめ)だけで十分だ。それが出来なきゃ、アイツに現実と言う名の新たな夢を見せるために、協力してくれるか? キャスター」

 

 夢は残り、ありすもその中で生き続ける事が出来る。たとえ泡沫であっても、たとえ空想であっても、それを現実と捉える限りは現実なのだ。ならば、現実に劣らぬ幻想を作りだしてしまえばいい。できなければ、夢の様な現実を見せやればいい。

 滑稽な夢物語で終わらせるにはまだ早い。何度でも言おう。その為の小さな最上の幻想(ノウブル・ファンタズム)は、既に彼の手に在るのだから。

 

「あっちゃぁ……ご主人様も随分電波少女に毒されたみたいですねぇ。私には何を言っているか判りませんよ」

 

 やれやれと、額に手を当てながらに彼女は首を振る。彼はその返答に嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 

「ワリィな、キャスター」

「いえいえ。いざという時、私が止める事が出来なくても構いません。だって私は理解できていないんですから、止めようもありませんしね。

 明日のジャムはあっても、明後(決戦)日のジャムがあるとは限りませんし」

「今日のジャムは、絶対にない。つまり、この話も無かったのかもしれねぇな……」

「はい。私たち、何を話していたんでしたっけ?」

 

 そう言って、わざとらしく二人は笑った。

 そんな事でセラフにごまかしがきくとも思っていない。だが、それでもキャスターは手を打ってあった。そろそろ、その場凌ぎのトリックもきつくなってきた頃かもしれないとは思いつつも。しかしそれを表に出すことはしない。今まで出会う事の無かったまったく新しい可能性を秘めたマスター。彼の行く先を見てみたいと、一人の人物として決めたのだから。

 

 

 

 アリーナから帰還してもまだ日は落ちていなかった。

 屋上から覗く夕焼けが目に眩しく焼き付いてどこまでも赤い世界を演出する。それは悲劇がもたらした血の色であると同時、生物が鼓動を刻む赤でもあると思えば、少しばかりこの世界で安心できるような気がした。

 

「そして我ハ此処ニ在リ……なんてな」

「随分と詩人ね」

「……いたのか赤色。夕日にまぎれて気付かなかったぜ」

「誰が赤色か! ってか、恥ずかしい事言ってた割に慌てたりしないのね……」

 

 つくづくキャラが掴めないと彼女が肩をすくめると、彼は笑って言った。

 

「そりゃ世間一般サマが言う恥ずかしいことなんてこの刺青で十分味わったさね…」

「ああ、うん。それ以上言わなくていいわ。銭湯とかも入れなかったんでしょうね」

「驚いた。この世界に銭湯なんて文化が残ってたのか」

「……何? その発言」

「実はこの世界の人間…てか人間ですらないって言うと信じるか?」

「あの泥宝石で生粋の魔術師(ウィザード)でさえ無さそうってのは気付いたけどね。やっぱ人間止めてるんだ、アンタ」

 

 さほど驚きもしない凛の反応に、アンリは面白くなさそうになんでぇと言って大の字に寝転がる。まったくもって無防備だと呆れる凛に、彼女のサーヴァントが油断はするなと言ってきた。

 

「…分かってるわよ。コイツが今回のダークホースってことはね」

「買い被られたもんだ。そこの英霊さんは見る目が無いってな」

「……ふぅん? ……私のサーヴァントは、“嘘をつくな神性を持ってるくせに”。何て言ってるけど」

「日本の八百万の弱小神かもしれねーだろ」

「嘘つけ。あんたの名前西洋交じりでしょうが」

「杏李」

「だまらっしゃい」

 

 ぶれないと彼が溜息をつくと、マイルームの布団を敷き終えたキャスターが戻ってきた。開口一番浮気ですか!? などとほざいていたのでアンリからのデコピンを喰らっていたが。

 霊体化したままのキャスターに制裁を加えるというのは十分な離れ業。故に、そんな様子の主従を確認した凛は、アンリ達の実力的危険度をさらに引き上げる結果になってしまっていた。

 

「おぅおぅ? また随分と敵意が向かって木やがんな。魔力あざーっす」

「……あれ、なんか憎らしくなくなった?」

 

 突如自分の中から消えてしまった「敵意」の感情に疑問を浮かべていると、アンリは端末を弄ってマイルームまでショートカット移動を行った。去り際に凛の方へばいばいと手を振ったままに移動した後、実体化したキャスターが座るいつもの場所に落ちついた。

 もはや定位置だなと思いつつも、彼は今回のアリーナでの戦利品(トリガー)を指の上でくるくると回していた。

 

「ま、これで実質上アリーナには行かなくてもよくなった、てなトコか」

「最近のご主人様はどんどん楽観的になって来てませんか? 私も結構疲れちゃいましたーみたいな」

「じゃあ今日はさっさと寝るか」

「あ、ちょ今の冗談ですって。…とまあそれよりも」

 

 突如札を取り出したキャスターは部屋の四隅に二枚ずつ放ち、魔力を通して部屋の形に沿った結界を作りだした。聞き取れぬほど小さな声で何事の呪文を呟くと、これで一安心ですと話を切り出す。

 

「それで、どうなさるおつもりで?」

 

 彼女の知る限り、いくら規格外の彼であってもウィザードとしてのハッキング魔術を一切使えないアンリは、ある意味で最も非力なマスターと言える。言ってしまえば、ここセラフに措いての彼の存在は、何時までも古臭い方法に頼り切った最新機材に対応できない堅物という扱いなのだ。

 勿論、アンリは彼女に隠すような電子技術も持ち合わせていないし、普通の魔術師が出来るような電子魔術を扱う事も出来ない。後に残っているものと言えば、彼が「英霊」たらしめる未だ不明瞭な宝具の存在。その効力の程の一つには「嘘をつく」という効果があるものの、他にもあると聞いてしまえばやはりそれに興味がわくと言うもの。

 

 そこまで考えて、やはり決めてはまだ隠し持っている第四の宝具なのですかと、初めてアンリの素性について彼女は質問していた。

 

「いや? むしろ最後の宝具はこれには向かねぇし、実質使いどころもほとんどない“メガホン”みたいな宝具だからなぁ」

「……え? 千里先まで声が届くとか?」

「大体あってる。ちょっとした応用はできるが、普通に使うとそれくらいにしか使えない。つか、今回の剣に関してはまったく使えない宝具だな。流石は不吉の“四”番目」

「言ってる場合じゃないと思いまーす」

 

 というかそんなものが宝具として登録される物なのかと言いたかったキャスターだが、文通友達のメディアがスキルとして「黄金の羊毛EX」を持て余している事を思い出してしまってそう言う事もあるかもしれないと納得した。それにしても、今頃彼女は元気だろうか。風の噂だと分霊の方がリア充満喫してて羨ましいと言っていたような……

 

「お楽しみだと思って待っててくれ。流石のセラフと言えど、人の心の中までも監視できないだろうしな」

 

 そこまでばれたらお手上げだと降参のポーズをする主の姿を見て、彼女はハッと我に返った。別に主との―――見せられないヨ!―――な妄想に浸っていたと言う訳でもないのにその言葉を聞き逃そうとは。と、己の失態に頭を抱えた。

 

「おい、偏頭痛でもしてんのか?」

「いえ、自分の馬鹿さ加減に呆れまして」

「何を思ってんだか。大方妄想が広がり過ぎた程度だろうに」

「……わーい、私のご主人様ったらマジ寛容」

「じゃなけりゃ他人の悪意なんて吸えんさね。あと私のは止めろ」

 

 重要な話もそこまでで終わりそうだったので、彼女は札の効力を無くして再び自分の懐に戻した。一応ド派手に撒き散らしているようにも見えるが、実はこれマイルームでアンリが出かけている時にせっせと手書きで仕上げている消耗品なのだ。使い回せるうちは手元に戻した方がいい。こうしてキャスターの主婦的再利用精神は培われてきたのである。

 その辺の努力に関してはアンリは毛の先ほども知らないが。

 

「……まぁ、いつも通りと言えばいつも通りか」

 

 記録不可能となったバグの下部屋から突如聞こえてくるようになったその音声を聞いて、セラフは先ほどどのようなやり取りがなされていたんかと、人間なら首をかしげる程に疑問を抱くのであったとか。

 




大体こんな感じ。
アリス要素持ち込みすぎた感もしますね。反省はしてないですけど。
地の文多めに書こうと思った結果がこれだよ!
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