Fate/deep diver ~天月の逆杯~ 作:マルペレ
Avenge & Vengeance
腕の中に温かな鼓動を感じる。
白き神秘は新たな命となりて、彼が抱くその腕を、覆うその胸を温かく染め上げていた。しかし、そこに流れるのは命を垂れ流す流血などでは決してない。その首には線すら見えず、そこにあることそのものを祝福するような柔らかな呼吸が繰り返されるのみであった。
「……あぁ」
愛しき人間という種の命。それが己の腕の中で、再び息を返している。
こうして他人に使ったのは初めてだったと言う宝具の影響か、効果が表れるのは遅れてしまっているが、ようやく世界に対して嘘をつく事が来たらしい。この時間差がアンリにとっては何よりも不安要素、かつ不確定要素だったのだが上手くいったという事で一旦は安堵の息を吐く。常温に整えられていると言う訳でもない少し寒さが残った部屋にはきだした息が白く煙り、すぐさま消えていく。
ありすも、あの殺した瞬間はこのように意識が消えて行ったのかと思うと少しばかり旨がいたんだが、逆にその程度しか感じられない自分の神経に嫌気がさす。だが、これからもずっと生きて向き合っていかなければならない己の体だ。旅の相方は確定であろう仲間も出来た。まだまだ、自分と言う自我が消滅するには早いらしい。
「……さて、と」
立ち上がり、可愛らしい寝息をたてるありすを起こさないように布団から出た。疲れ過ぎて戦闘装束そのままで寝ていたが、今はもう良いだろうとマミの家で「巴アンリ」となったころから着ているライダースジャケット一式の形に泥をこね、自分に着せる。デザインはラインが二本で赤色という以外は冬木でのギルガメッシュが着ていた物と似通っているが、別段魔術的意味は持たないユニク■の服だ。
首をぽきぽき鳴らして朝食準備に取り掛かろう。自分の肩と肘から新たに四本の自由自在に動く泥の腕を生やして調理に入ると、金物の擦れ合う音か、はたまた腕が動く度になるぐじゅぐじゅした肉の不快な音が耳に入ったのかは分からないが、キャスターの耳が反応するようにピクリと動き始めた。
彼女はそのまま起き上がり、うーんとひと伸びしてから己のマスターのいる方へと顔を向ける。起きぬけの眠そうな目をこすりながらに言った。
「…おほよう、ございます。……
「おはようさん」
ああ、いつもの光景だなと彼女は微笑む。人一人分のスペースが空いた向こう側にいるありすが寝ている姿を見て、そう言えばやっちまったんでしたっけ、などと思いながら。
「お手伝いさせていただきます」
「まずはエプロン。それから眠気のある顔を洗って来い」
「はーい」
「はははっ、子供かっての」
そうは言いつつも、調理を休めることなく体はリズミカルに動き続けている。軽めの食事を作るためにセラフから食材を取り出すと、いつもの要領で昼飯用の油揚げも引っ張りだそうとした。すると、しばらくはお預けだった筈のセラフの規制が解除されていたのか、無かったか、と思い出した時には既に引き出し済み。
一回戦勝ち抜くと軽めの罰則は消え去るみたいだなと納得すると、肩甲骨付近から新たな腕を二本作りだし、それを昼食用に当てて動かし始めた。計八本の泥の腕が一人の人間から生えている様子は何とも不気味な物だったが、これを見慣れているキャスターは気にせずにさっと空けられた鍋の係に勤しみ始める。
「今日はそんなに作らない方で?」
「朝はしっかりともいうがありすは首切られた後だからな。くっついても飲み込んだ時に違和感が邪魔するかもしれねぇから、どうにも」
「それもそうですね。じゃあリゾット…」
「ある意味重いっつの、そりゃ」
軽口を叩きながらもテキパキと作業を行う二人。これほど生やしている腕が邪魔になりそうなものだが、腕は触手のようにキャスターを避けるために自由に動く。元々泥が人型を取っているだけのアンリに視界と言う概念は無いに等しく、しいて言うならば、体の全てを
そんな調子で戦いのときの連携能力を高め合ってきたから、コンビネーションは美しいまでに完成されていく。これもれっきとした修行の一環でもあるのだ。効果があると気付いたのは二回戦の終わりだったが。
「…あ、れ……?」
こと、ことん。木製の机に陶器製の皿が並べられていく音で、ようやくありすの覚醒が促された。普段の生活には不便そうなゴシックロリータ衣装を乱れさせることなく起き上がると、自体を理解できていないように辺りをきょろきょろ見回している。おそらく、彼女の感覚としては首に走る一瞬の熱さ以降は憶えていないのだろうか、一時的な記憶の混乱が生じている模様。
「起きましたね、ちゃんと三人分ありますのでこちらにいらっしゃいな」
「よぅ、赤の王様の夢から覚めたか? 鏡の国からの帰還おめでとさん」
出来上がった料理を囲むように、ありすにとっては見慣れない木製の円形テーブルに向かい合って座る二人の男女。彼らを見て、フラッシュバックのようにありすの脳裏には昨日の出来事が蘇ってきた。
そうだ、
―――ありがとう、
唐突な自問自答が彼女を襲うもそれらを跳ね除け己と認め、ようやくこの場所にいる理由を思い出した。そして、目の前の新たな赤の王様たちのことも。
「…これからよろしくね、お兄ちゃん!」
「おうよ」
「私の事もお忘れなく」
「うん、怖いお姉ちゃん!」
「……何ですかそれ」
アンリの爆笑が響き渡り、ありすの歓迎は形らしい形もなく流されていった。
だからこそ、堅苦しい事は好まないと言うのは、
彼らの和風御殿には擦れる音、そして僅かな水音がが響き渡る。
どこまでも和の心に満たされ、疑似的に作られた川の流れる音が清涼さを引き立たせる一室。そこには和服を着こんだ女性と、小さな異国の衣装を着た子供、蛮族の長であるような格好をした男が揃っている。
少女、ありすは懸命に手を動かしながら、どうしようかと手を動かし、分からない事を聞く。そんな当たり前の事を行うためにその場にいる二人の年上の人間へと視線を向けた。
「え…と、これでいいの?」
「もう、ご主人様? この子にちゃんとあった長さにしないとだめじゃないですか」
「おっとと、すまんな……これでどうだ?」
彼は改めて長さを調節した一本の棒を少女に握らせた。ありすが何度かその手で握って確かめ、しっくりくる大きさだと二人に告げると、アンリは満足そうに笑いかける。次に、まずはゆっくりとやってみてくださいそれから…。そんなキャスターの言葉に従って、小さな手を上下に動かす。
「ん……えい」
「あまり力まずに。まずは優しく…ね?」
「それじゃしっかり出来ないだろ?」
「いいんですよ。何事もまずは試してからです。持ち方は…こう、こうしてっと」
キャスターが棒の持ち方を丁寧に教え、ありすは慌てながらも、それに素直に従うばかり。アンリはというと、キャスターと違ってこうした事を人に教える事も出来ない為、その様子を微笑ましげに見るばかりである。
棒の先に液体がひたされると、女性はにっこりと笑った。
「それじゃ、もう一度やってみましょう。ゆっくりとどうぞ」
「はーい」
無邪気にその手を引くように動かし―――
「あ……り………す」
筆を握り、人生で初めての書道を習ったのだった。
「初めてにしては上々でしょうかね」
「おぉ、オレが小学生の時よりよっぽど巧いもんだ。よくやったな」
「うん!」
よしよし、とアンリがありすの頭を撫でる。それを羨ましげに見ていたのはキャスター。頬を膨らませて、無言の抗議を申し立てていた。
「むぅ」
「年の差考えろって。んじゃ、これは記念に飾っておくか。ちょうど渇いたところだしな」
「あ、それなら此方の掛け軸の代わりにしましょう。そろそろ『天上天下、唯我独尊』も飽きてきましたし」
「仏陀が聞いたら何を言われるか……立川在住の奴ならまだしも、だがなぁ」
そうぼやきつつも、彼は自分の体の一部でもある部屋の掛け軸を消し、ありすの名前が書かれた紙を飾りに行く。おかしい所がないか一通り角度を確認すると、満足そうに頷いてありすが墨汁に浸した筆を持つ席へと戻ってきた。
「書道っておもしろいね!」
「人によっては自分の世界を作れますからねぇ。どんな事がらも、森羅万象の意味はあるものですよ」
「なんでいきなり哲学っぽく走ったんだよ」
「いや、まぁ普通は考えないじゃないですか。死体が
「まぁ、オレの宝具はその森羅万象とやら…正しくは世界の修正力に嘘を吐く宝具だしなぁ。それぐらいあたりま、っつうコトさね」
「納得いきません~(やりようによっては私の宝具より使い勝手いいじゃないですか)」
そんなキャスターの様子にアンリがからからと笑っていれば、今度はありすが頬を膨らませてアンリを見つめていた。
「お姉ちゃんばっかりお話してずるーい。ありすもお話したいの!」
「その前に筆を振りまわさすなよ? 墨が飛び散ったら面倒だ」
「あ……うん。ごめんなさい」
「よろしい」
うーりうりと言いつつ彼女の頭を掻き撫でる。そのついでにありすの首元を見てみたが、完全に継ぎ目さえ残っていない状況な事を見ると、どうやら宝具は「負けたが、そもそもアンリに首を切られる事もされていない」という最善の可能性を手繰り寄せてくれたらしい。
では、ここでアンリ・M・巴の三つ目の宝具「
この宝具はそも、死者蘇生を行う宝具ではなく、アンリが先ほど言った様に世界の修正力に対して嘘をつくと言った単純なものだ。概念にも近しい修正力に干渉すること自体が有り得ない故に宝具ランクはAと高いが、これは実質的に使い方次第ではEXランクをもごまかす事が出来る。
たとえば今回のありすのように、宝具を発動させてから前述した「ありすは死んでいないが聖杯戦争に負けた」という内容では、あくまでありすがその戦中に生きているだけで、エレベーターに乗る際には消滅する筈と言う欠点がある。だが、宝具の効果が出るのはエレベーターから降りた後、という時間さえも指定できるのがこの宝具の優れた点だ。
対象物は宝具所持者が触れている、もしくは自分自身というレンジの短さがあるものの、死者蘇生と言う現象を修正力に任せるなどと規格外の他人任せの宝具。もしメイガスと呼ばれる魔術師に見つかってしまえば、ホルマリン漬けにしたいと激しいアピールと共に迫られることは間違いないだろう。
それ以外にも、今回は初めての他人に対する蘇生を使用と言う事で多少嘘をつくために時間がかかってしまったようだが、修正力が頑張ってくれたようでなによりである。これからも、一旦は嘘でも真実と認めてしまった修正力がありすを狙う事はないだろう。
「……早速置いて言っちまうが、ちょっと出かけてくる」
「おひとりで大丈夫でしょうか?」
「決戦を控えてるマスターやら、俺らみたいな勝者ばかりで対戦相手以外は気にも留めないだろうさ。襲われる確率も低いだろうから心配はいらん」
「そうですか…いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃーい!」
「元気あるねぇ。ま、すぐ戻ってくる」
横開きの戸を開けて、校舎側に移動する。後ろで壁一枚ほどしか挟んでいない筈のマイルームからの声が掻き切れ、アンリは静けさと緊張感に溢れた廊下へ単身乗り出した。
ほとんどマスターの人間はおらず、生気が感じられないが生き生きしているNPCをちらほらと見かけるだけで、まったく誰も見当たらない―――そう思った、その時だった。
指定転移。戦争初日の言峰神父に渡された端末の移動機能を使って2階に突如二つの影が現れた。アンリにとって見覚えのある彼女らは、掲示板を覗き込んで直ぐに互いを見つめあう。この時期に掲示板を見ていると言う事は、改めに相手に挨拶するために凛が消しかけたか、はたまた……
ギャラリーの思惑など知らぬまま。空虚なガラス玉のような視線と、燃えたぎるルビーの様な視線がぶつかり合ったかと思えば、次の瞬間には二人とも髪をなびかせて踵を別つ。コッコッ、と言った足音が鳴り響いて、ウチの一方は此方に気付いたのか近づいてきていた。
「…これは、巴さん」
「よう、遠坂のお嬢が対戦相手か」
彼女はあいも変わらず、何を考えているのかが分からない表情をしているラニ=Ⅷという少女のままであった。そんなアンリの心境も分かっているように挨拶を返すと、彼女は言葉をつづり始めた。
「はい。そのようです。先ほどの視線には敵意と熱意が入り混じっていたようですが、あちらは戦いに興奮を感じていた、と言う受け取り方でよろしかったのでしょうか?」
「……あー、うん。いいんじゃね? お前さんがそう感じたんなら」
「そうですか。それはともかく、三回戦の勝ち抜きおめでとうございます。私の対戦相手が名高い遠坂凛であることから勝率は予測できませんが、勝ち抜いた暁にはまた生きてお会いしましょう。それでは、ごきげんよう」
一礼してアンリの傍を通り過ぎると、彼女は作戦を立てるためかマイルームへと向かって行った。コードを認証したラニの体を全てのデータを構成している0と1が覆い隠し、光が収まるころには彼女の姿は完全に見えなくなる。
そして、誰もいなくなったかのように思えた廊下に、また新たな足音が響いた。
「お前も、見ていたか」
「ユリウスか。さぞハーウェイにとってはラッキーだろうな。面倒な相手が潰し合う組み合わせになっちまっててなぁ」
「好都合と言うのは否定せん。…だが、貴様ほど破天荒な真似もしない。対戦相手の死体を持ちかえるような輩には、な。如何なるハッキングを行ったかは知らないが、今まで穴倉を決め込んでいたと言う事か」
「ご自由に想像どーぞ。ただ、ネクロフィリアの趣味はないと言っておくさね」
「…喰えん相手だ」
そのままノータイムでユリウスから魔術が放たれたが、アンリの最低限度の対魔力によってそれも弾かれる。効果のほどはともかく、あのタイミングで使ったと言う事は心理的な何かに作用するタイプだったのだろうか。そう考えている間に、アンリとは対照的な冷徹さを感じる黒服の男は姿を消していた。
「……さて、下準備、下準備」
彼は近くの壁に手を当てると、その手を、めり込ませた。
後日、また朝早くに目を覚ましたアンリは、ありすを抱きながら眠り続けるキャスターを置いたまま薄暗い校舎の仲を立ち歩いていた。ふらふら、そろそろと中ての無い旅をしている人のようにあちらこちらに足を向けては、ここじゃない、此処も近い、ここだ。などと呟きながらここだと言った壁に向かって手をめり込ませる。
それから十秒ほど経った後に手を引き抜いて一汗かくと、丁度太陽が昇り始めたらしく東側の空が明るくなってきた。ちょうど今いる場所は屋上で、夜明けの太陽を窓と言う媒介物もなく見つめる事が出来る。昇りゆく、命を繋げる成長の証でもある日の光を浴びながら、ふぅ、とやり遂げたような声で呟いた。
「…あら、またいる」
「そりゃ悪うござんした」
「そう言う訳じゃないのよ。……多少は邪魔だと思うけど」
背後から聞こえて来た凛の言葉に、アンリは可笑しそうに笑うばかり。
凛はてっきり激昂されると思っていたのか、そんな彼の態度に首をかしげていた。
「変ねぇ」
「言われ慣れちまってるよ、あんな言葉。それよかお前さん、自分の対戦は大丈夫なのかよ」
「……正直、怪しい所ね。相手はアトラス院のマスターだし、他のマスターと違って一筋縄じゃいかないのは確か。他の奴らは私のこと知って全力で向かってきたけど、結局技量不足だったし」
「おぉっと、オレにそんな愚痴ってもいいのかよ」
「いつもあんたの話し聞いてあげてんだから、これでおあいこよ。……まぁ、そんなわけで必勝法考え中。…だ~~っ! どうしろってんのあんな豪傑!」
凛はいつもの優雅さを投げ捨てて余裕をログアウトさせる。そんな時だった。彼女の隣には青い騎士が現れ、人の良さそうな顔に笑みを浮かべて高笑いを上げる。アンリのキャスターも大概だが、この場面で実体化して姿をさらしたこの遠坂のサーヴァントは、かなり自由人の様だ。
そのサーヴァントは、凛を含めてひと通り場を静まらせるまで笑った末にこりゃ面白い、と一言つぶやいた。
「俺らが部屋にいるときでも強がってたのにコイツの前では本音ぶちまけるたぁ、テメェも信頼されてるじゃねーか。おかげでマスターが釣れないの何のってな」
「…サーヴァント・ランサー。何故にこの場面で出て来てんだよ…」
「……何で俺のクラスが分かった?」
「ピアスの装飾にルーン文字。その他が剣を持つ騎士にしては軽い装甲、んでもって神との交わりを表す紅い目。半神の英雄でルーンつったら…なあ?」
「くっ、ハッハッハッハッハァッ! おい嬢ちゃん!! コイツ、最ッ高じゃねぇか!」
ホントは冬木の同一人物と重ねただけだが、意外と先ほどのヒントだけで英雄何ぞ簡単に絞り出す事が出来る。そもそも英雄の姿なんて伝承でしか残っていない物なのだから、その本当の顔や隠された真実は英霊自身にしか分からないだろうが、こうして対面すれば自ずと分かるものだ。…身体的特徴の条件さえ知っていれば、の話ではあるが。
「巴、アンリ。…アンタ何もの?」
「前にも言った無かったか? ゾロアスター教の悪神、俗称アンリマユ。正式にはアンラ・マンユともいう。そんな快楽主義な神様を背負った一般人の英霊に過ぎんさね」
「こりゃ、マジで面白ぇ。英霊がマスターなんてセラフのシステムも粋な計らいじゃねーか。戦う時が楽しみだぜ」
「本物の英霊殿のお眼鏡にかなったようでなにより。魔力以外はD以下のステータスの身には嬉しいばかりでございますよっと」
「正気じゃない。手の内明かし過ぎよ…アンタって」
信じられないものと言うよりは、この場面で初めて狂ったものを見るかのような視線を向けて来た。だが、実際に彼が明かした内容では宝具も語ってはいないし、マスターの情報ではなく本当のサーヴァントの情報は一切漏らしていない。アンリもランサーの姿、そして正体さえも看破されているものの、凛にしてみればアンリ側でキャスターの姿さえ見ていないのだ。
この時、彼女は混乱し過ぎているのだろう。本当にどちらがアドバンテージを握っているかどうかの正確な判断が下せていないようにも見える。
「あぁ、ここら辺にオレら以外の目も耳もないようだから身バレについては安心しとけ」
「ヒュー。索敵も優れてやがるってか? 生前なら赤枝の騎士団に誘いてぇもんだ」
「残念、オレにはホームもあるんでな。里帰りしねぇと、妹…と思いたい神ちゃんが癇癪起こしちまう」
「神にも妹とかあんのか?」
「いや、元はただの知り合い。今はストーカーモドキ」
「……まぁなんだ。うん、……強く生きろ」
「泣かせんなよ……」
「そこぉっ! 私おいて勝手に盛り上がって盛り下がるな!」
「へいへい」
「忘れてたぜ、マスター」
気の軽い者同士と言う事もあるのか、中々に気が合う同士の様な雰囲気で打ち解ける二人。そこにツッコミを入れる凛がいてトリオの漫才でもやっているような空気が流れていたが、まず当初の目的がなんだったのかを思い出したアンリは、ニタニタと笑ってちょっとした話を持ちかけることにした。
「まぁ、そんな感じでオレらも打ちとけたわけだが―――」
「誰がよッ! というか敵と打ち解ける何てバッカじゃないの!?」
「落ちつけよマスター。…で、アンリつったか、何の用だ」
「チョイと、反逆の狼煙の挙げ方でも教えようかと思って、な」
そして彼は、再び壁の中に手をめり込ませる。
それを見た凛は、驚愕に目を見張らせるのであった。
「……だぁ~疲れた」
「お帰りー。…ねぇ、どうしたのお兄ちゃん」
「いや、ちょっとな。…キャスターはどこ行った?」
「お姉ちゃんならあっちの三角の中で書道してるよ」
「呪符の補給か。…まぁ、無理させてたからなぁ」
先日の戦いの中、ありすとのうのうとお喋りをしている自分と違って、時間を稼ぐためにもキャスターには単身でアリスと戦わせてしまう羽目になった。相手が同じキャスターのクラスだったからこそ立ちまわる事が出来たのだろうが、もし相手が三騎士と呼ばれるクラスの相手だったならお世辞にも粘れた、と言う事も出来ない程あっさりと負けていただろう。アンリがその身を省みずに場をひっかきまわし、相手のペースを崩した所にキャスターの術を喰らわせる、またはサーヴァントの力で不意を突くと言った事をしてきたからこそ勝利出来ているのだ。
相手がもし、究極的にマイペースな敵だったなら苦戦を強いられることは間違いない。相手にペースを握らせない。そんな戦闘において当たり前の事を崩されれば簡単に窮地に追いやられてしまうのが、この主従である。一発逆転の手管も、やはり不意打ちしかないのだ。
「そう考えると、頑張らせすぎちまったかね」
「そんな事ありませんよ。ご主人様のお役にたてるなら、私は本望ですから」
「…キャスター。作業は良いのか?」
「次の対戦組まで数日ありますからね。ゆっくり補充することにします」
「そうかい」
奥からぬっと出て来たキャスターとありすを連れて机を囲むと、三人はその場に座った。彼らの服装はバラバラで性別も年齢も大きく異なっているが、こうして集まってみれば不思議にも違和感が家族と言う言葉に置き換わって見えている。
キャスターがセラフにオーダーしたお茶を汲むと、前には湯気を立ち上らせるお茶がことりと置かれていた。
「それで、ご主人様は何やらかしてきたんですか?」
単刀直入にキャスターが言い放てば、図星か、と困ったようにアンリの顔が引き攣った。
「ちょっとばかし細工して来ただけだっての。……簡単に言うと、この校舎のプログラムにでかい揺さぶりかけて穴開けて来た」
「そんなもの一日もあればセラフに修復されちゃいますって。下手を打てばペナルティもあると思うんですが……」
「あぁ、その辺“嘘”ついてきたから大丈夫だ」
「……あの、ご主人様って宝具をなんだと思ってますか?」
「ドルァ衛門の道具」
「駄目だこりゃ」
そうだった。自分の主人の型破りは今に始まった事じゃない。落ちつけキャスター、びーくーるだ。などと頭を抱えて唸りだした彼女をしり目に、今度はありすが身を乗り出してアンリとお話を始めていた。
「何でお兄ちゃん、あたしを持ってきたの?」
「その言い方誤解されそうだかやめい…つか、いや、まぁ我儘っつうか」
そんな中で、彼女は今回の確信にも迫った話題を訪ねており、珍しくアンリが本気でうろたえる姿を晒すことに成功する。ありすにとっては純粋な興味から聞いた質問でもあり、自分を夢から引っ張り上げてくれた事に対する理由を聞きたかっただけなのだが、まさかその理由を忘れたと言う訳でもないだろうに、こうしてうろたえられてしまってはありすの方が心配になる。あれほどお話して助けてくれたのに、なにも考えて無かったのか、と。
その心配を人一倍感情に敏感なアンリは感じ取っていたらしく、それも難しい所だと更に頭を悩ませ始める。そろそろ頭痛が痛くなってきたぐらいに混乱し始め、その状態で彼はゆっくりと言葉を紡ぎ始めていた。
「…ありすの赤の王になったのは…かっこわるい……違うな、なんつーか、許せない…? まぁ、それに近い感情でな。人間に対してセラフは舐めてんのか…っと、人類の馬鹿らしさも知らないで観察対象として保管してるムーンセルに対する……そうそう!」
やっと考えがまとまったように手でポン、と音を鳴らす。
ありすとキャスターの視線が自分に集まった事を核にした彼は、新たな大きなおもちゃを見つけた時の子供のように、意地悪な笑顔を浮かべて言い放った。
「……ま、早い話がだ。――セラフを作った奴に反逆を起こさないか?」
この不幸な思いつきに巻き込まれてしまったマスターやサーヴァントは、後にこの選択に感謝し、同時に嘆いたと言う。
―――アイツは、「悪神」の名の通りだった、と。
やっっっっっっとここまでこれました!
長かった。原作通りに進めることのめんどくささ。そして、好きなようにやれるという開放感!まぁ、今までもかなり好き勝手にやってきたと思いますが。
えーと、これからFate/EXTRA CCC発売が待ち遠しい皆様、原作をこよなく愛する皆様に対して警告です。
ここまでのありす篇が終わったので、もうCCCとか設定とか関係なくはっちゃける予定です。
原作のこれからの展開が好きな人はお気に入りからはずしちゃって構いません。この敗戦が行きとどいていないアクセル全開(つまりは速度無)についてきてくれる方だけで編隊を組みなおしたいと思います。二次小説見に来てる方にいないでしょうが、原作が激しく崩壊することが嫌な方はさっさと追い抜いて別の小説へどうぞ。
長文失礼だとは思いますが、最終通告です。
……まぁ、システムとかセラフとかムーンセルとか、そういった大前提条件は崩さないので言うほどでもないかもしれませんが、ね。