Fate/deep diver ~天月の逆杯~   作:マルペレ

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幻想の先へと歩んだ少女と
幻想の果てに消えた彼女と
誰がどちらを責めることができようか?
黒は白、白は黒。たったそれだけでいいではないか。


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「お前が三鼓綾乃だな…?」

「……なに、貴方は―――!?」

≪マスター、こ奴らは同じ参加者だろう。…気を抜くな≫

 

 アーチャーの勧告を受けて、私はキッと身を引き締めた。目の前にいる、黒服サングラスの男と同じ服装のピンク髪の女。そして、その二人の間で楽しそうに笑っている同じ格好のありすちゃん。この異様な空気に包まれ、どうにも冷や汗が止まらない。

 

「ありすちゃん…あれは私を油断させる為の罠だったってこと…なの?」

「ごめんね綾乃お姉ちゃん。でも、あたしはお兄ちゃんの味方だから」

「……クカカカっ」

 

 怪しく笑った男に、私達は身構えた。

 矢を番えた弓を向け、一種の緊迫状態がこの場に生み出される。だというのに、これは何だ!? 相手は武器を持っていない筈なのに、何故この様な威圧感を出す事が出来るのか――――

 

「……あの~、そろそろ普通に話し合いしませんか?」

「…………お姉ちゃん、アウト」

「へ…」

 

 虚空から、キャスターの頭に向かって金盥が迫り―――

 

 

 

 

 

「改めてはじめまして。アンリ・M・巴だ」

「こっちこそ。三鼓綾乃です」

 

 数分後、ピヨピヨと頭上にヒヨコを浮かばせるキャスターの隣でがっしりと握手を酌み交わす二人の姿があった。先ほどの戯れはアドリブとドッキリ企画として行っていたのだが、想像以上に綾乃のノリが良くて調子に乗っていたところを楽しんでいたのだが、そこで真面目に軌道修正したキャスターが制裁を受けてしまったと言う事である。

 いつもボケ要因がツッコミに回った途端にこの仕打ち。いとあわれなり。ええぃ、用法が違うと言うのに。(古語のあわれは趣深いとかそんな意味)

 

「お兄ちゃん、綾乃お姉ちゃんなら大丈夫だよね?」

「お手柄だぞーありす。こんな方法で逸材見つかるとは思わなかったしなぁ。しかも弓道部用のカスタムアバター使ってるみてぇだ」

「……え、と? 何の話かな~…なんて」

「おっと、悪い悪い」

 

 ありすを抱き上げてぐるぐると回っていたアンリは元の位置に座り直すと、弓道場に置いてある弓の様に指をぴんと立てた。

 

「ちょっとばかし、この聖杯戦争を抜けださないか? って提案だ」

「…この戦争から抜け出すには優勝しかないのに? これ以上殺したくない私や他のマスターにとっては魅力的な提案だと思うけど、一体どうやって…」

「お、喰いついたな? それがまぁ、頑張れば出来るんだよな。上手くいけば五回戦始まる前までには何とか終わるって寸法さね」

「そ、そうなの!? というか話してみると全然怖くなかった……」

 

 その辺りはアンリの宝具の力が働いているのだが、単に悪意を吸い取られているだけの彼女はそれに気付く事はない。すぐそばで実体化して正座しているアーチャーもその事に気付かず、アンリの言葉に聞き入っていた。

 どちらにせよ双方にとって悪い話ではないので、気にせず彼は話を続けて行く。

 

「ここの中枢へのアクセス権をこの校舎のデータから引き出そうと思ってな。セラフの権限が常に繋がっているならやりようはあるだろうし、実行できなくもないんだが…オレら、魔術師とキャスターなのに魔術師(ハッカー)としてのプログラム行使が出来ないんだよ」

「へ? じゃぁ今までどうやって勝ち残ってきたの?」

「オレが前衛キャスターがラッシュ」

「…アーチャー、私達は可笑しくないよね」

「うむ。むしろ英霊に近しい存在がマスターというのが信じられん」

「また衝撃の事実っ」

 

 人を殺した事もギリギリで割り切れる程度の一般人に限りなく近いマスターでは、その衝撃はそう簡単に拭う事が出来なかったようだ。今までの私の苦労は一体…などと、しばらく彼女は行動不能状態になってしまう。アーチャーがそっとキャスターの場所に体育座りになったマスターを並べると、儂が代わりに話を聞こうとアンリに向き直った。

 

「して、我がマスターの力を如何に扱うつもりだ?」

「単に防護壁とかはこっちが勝手に食いつぶすから、タイミング測ってアクセスしてもらいたいだけだ。それ以外にオレが望むことはねぇよ」

「…その際、我らサーヴァントはどうなる? 仮にこの虚構世界からマスターが抜け出したとして、セラフの防護がそれを許す筈もあるまい」

「なら戦って喰い潰せばいいじゃねえか。そのくらい出来なきゃ英霊に何ざならねえだろ?」

「それは無論。…と言いたいところだが、所詮は管理される身の上であるからなぁ。儂も知名度はあるが霊格が低い。アラヤの元で契約した守護者の様に操作される可能性が高いぞ」

 

 知名度の低さから守護者として人類救済の意志(アラヤ)の勤務を請け負う地球救済の意志(ガイア)側の英霊は意外と多い。それでなくても世界と言う無限に近しい魔力のバックアップを受けたサーヴァントは恐ろしいまでのポテンシャルを発揮するのが常の話ではあるが、アンリもその辺りは考えていなかった訳ではない。

 

「あー……その辺りの心配も、まぁ令呪を使えばいいだろ。いざとなったら英霊側は切り捨てる心算だがな」

「成程、所詮稀人に過ぎぬ儂などには手厳しいな」

「現界が聖杯に託す望みじゃねーなら、寧ろ地上にサーヴァントがいる方が混乱を招きやすい。んでもって強大な神秘の元には奇怪な物が集まり易くなるからな」

「くくっ、違いない。安心せい、儂はマスターが無事であるなら消える事も厭わんよ」

「心強い返事をどーも。じゃ、後は協力要請が出来るかどうかだな」

 

 そう言ってくるりと後ろを振り向くと、未だ呆然としているバカ二人。再び泥を集結させた小さなタライを頭に出現させ、正気を取り戻させる為に迷いなく落とした。

 

「いったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「みぎゃ!」

 

 そして復帰する二人。どちらも痛そうに頭をさすっていたが、話しの本筋を思い出したのか綾乃は元の位置に戻り、キャスターはアンリの後ろに着いた。ありすは作戦の要にするわけにもいかないので、昨日教わった通りに弓を張って練習中である。

 

「えっと、とりあえずこんなバトロワだけど同盟組みに来たってことだよね?」

「こっちも持てる限りの知識は提供するが? まぁ、技術はそっちにまねできない様なモンしかねぇだろうけど」

「それって…ありすちゃんは助かるの?」

「むしろコレしないと異物として排除される。だからさっさと聖杯の間にいかねぇと」

「じゃあ同盟組みまーす!」

 

 聞いた瞬間に手を上げて立候補する綾乃。そんな主人の甘さとちょろさにアーチャーは額を抑えてのけぞっている。

 

「ッシャ!」

 

 対するアンリは立ち上がり、綾乃と同じ目線に立って心を通わせた。

 何も言わずに両手を出し、上下ハイタッチからの固い握手だ。

 

「え、この子軽くないですか? ご主人様この選択間違ってませんよね、どっかでルート踏み外したりしてないんですよね!?」

「聖杯戦争のルール上、この事態がルート破壊だと思うが」

「……前代未聞の試みですからねぇ」

 

 もはやこのノリが通常運行なので、呆れたように息は吐きながらも苦笑のキャスター。とにかく同盟が決まったとしても、聖杯側から対戦相手で敵として組む可能性も捨てきれないのでその辺りも考慮してほしいと言う旨を伝えると、彼は立ちあがってキャスターを霊体化させた。ずっと矢を射っていたありすを回収すると、弓道場の出口へ向かう。別れ際、綾乃が少し待ってと呼びかけた。

 今までになく真剣な表情は、これまでのコントで押し殺してきた不安なのだろう。

 

「……ホントに上手くいくんだよね?」

「出来なきゃオレの聖杯で世界に穴をあける。そっちの方が静観確率は賭になるが…バックアップ手段はあると思ってていい」

 

 意味ありげに手をひらひらと振りながら言うアンリ。自信に満ち溢れた、その負の感情でさえ吸い取りそうな余裕の表情に、綾乃の恐怖は少しずつ取り除かれていった。

 

 ―――何て便利な外道宝具。

 ―――言うな馬鹿。

 くっくっく、とパスを通じたフィーリングを広げるキャスター主従がいたが、キャスターは稀代の化かし上手、そしてアンリは表情など仮初に過ぎない泥の塊。決して表にそんな感情を出す事はなく、己達だけが外道を貫けばいいのだとほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

「それにしてもご主人様?」

「どしたー?」

 

 所変わって屋上の一角。聖杯戦争真っ只の凛の姿が無いその場所で寝そべっていたアンリに声が掛けられた。

 

「ご主人様なら一々こうして探さなくても、人海戦術で探せるんじゃないのですか?」

「所がぎっちょん。そう上手くいかねぇんだよなぁ。キャスターは前に何度か召喚された事はあるか?」

「…えっと、この聖杯戦争は“記録”の聖杯戦争なので前までの記憶はありますが…あ、私は最早ご主人様一択ですからね!」

「いやそういう意味じゃないんだが。それじゃお前は、最高はどこまで勝ち抜いた事がある」

 

 ええっと…と言いつつキャスターが指折り数える。

 

「最高は三回戦ですね」

「んじゃ、そのときアリーナ第二層はどう変化して行った?」

「アリーナですか…? えっと、最初は深海からスタートして……浮上してくるイメージ?」

「そう言う事だ。アクセスするためには、せめて五回戦まで勝ち抜く必要がある。聖杯の魔がある所の距離がギリギリで出現するだろうからな。浮上してきた海の中、そして勝者はおそらく、海の中から抜け出すんだろうよ」

「…あのアリーナを昇った先の海面に、聖杯がある。そう言いたいのですか?」

 

 確証がないのがやはり不安なのだろう。そうして訪ねてきたキャスターに、しかしアンリはさぁなと曖昧な答えを返した。

 

「あくまで予想だ。だが、オレの聖杯(・・・・・)は同族嫌悪か同胞発見で喜んでんだか知らんが、かなりピリピリし始めた。だから、そのぴりっと来るところを虱潰しにオレの聖杯の近しい部分を刺し込んで聖杯へのアクセスルートを割り出してるってのが現状」

「……考え、あったんですね」

「おい待てやゴルァ」

 

 こんなやり取りも最早何度目であろうか。お約束となっているパターンに二人で顔を見合わせると、くすくすと笑っていたのだった。

 

「あ、巴君? ちょっと先生のとこ来てくれるかなー」

 

 

 

 

「それでね、お兄ちゃんがでっかい羽を生やしてびゅーんっ! て飛んでくれたんだ!」

「凄いなぁ。私も空とーびーたーいー!」

「お兄ちゃんに頼んだら、綾乃お姉ちゃんも乗せてくれると思うな。お穴に入れなくなったから、あたしと一緒にお空飛ぼう!」

「さすらば儂が撃ち落とす、と」

「ちょっとそこの外野(アーチャー)、夢の無い事言わないの」

 

 何処の世界でもアーチャーは個性的過ぎる運命を背負っているとでも言うのか、マスターの言葉一つで仕方ない、と言った風に肩をすくめて二人から遠ざかって行った。とくにこの様な正体バレが即死につながるような戦争中で彼がずっと実体化しているのは、この弓道場の利用価値の無さに他ならない。

 綾乃はここを練習場として使って独占状態になっているのは、拠点を置く事も出来ない、見晴らしがよすぎる、そもそもNPCが存在しないと言う活用性の無さが挙げられる。そういった使用した時のメリットの少なさは一日を掛けるにはあまりに勿体ない。静かなところで精神統一を行いたいと言うのなら、マイルームを使用すればいいだけなのだ。

 だが、それゆえに人の足もないので伸び伸びとサーヴァントを外に出す事が出来る。そして、彼女自身が情報に関しては無頓着なのが自由度の高い方法で勝利を収めてきた秘訣だろう。逆に情報を知られる事でピンチになりかけた事もあったが、それらも悉く真正面から粉砕してきた。

 少しばかり話が長くなってしまったが、彼女は強い。それだけは言えるだろう。

 

「……ねぇありすちゃん」

「なに? 綾乃お姉ちゃん」

「私、本当に生きて帰れるのかな?」

 

 やはり心が前向きになったと言っても、何処からどう見ても胡散臭いアンリの事を完全に信用したのではないらしい。だからこそ、前々から目を掛けていたありすにだけこの様な弱音を語ったのだろう。

 だが、そんな事を聞かされたありすはまだ幼い身の上。それでいて、アンリに救われた事で彼の元に下った唯の少女。だらこそ―――綾乃には見えないよう、黒い微笑を携えていた。

 

「大丈夫よ、綾乃お姉ちゃん。ありすが助けてもらったの、だから貴女もきっと助かるわ」

「……貴女、誰…?」

 

 明らかにありすの雰囲気が変わっていた。豹変と言っても過言ではない彼女の変化に綾乃は戸惑うが、ありすは微笑みと意味ありげな視線を綾乃へと向けるだけ。下ったらずなあどけなさの残る声には悟りを開いたかのような妖艶さが滲み出て、誰かの作った幻想を彷彿とさせた。

 

「お兄ちゃんはあたし(ありす)の赤の王様。そして新たな道へ続く黒いウサギさんでもあるの。大丈夫、手に持つ時計が遅刻を知らせる事はないわ。だって、ハンプティ・ダンプティを治そうとしたお城の家来が作ったんだもの。

 そこではみんなが手を取るの。チェシャ猫だって手を差し伸ばして、清い心で洗い流したの。“我らは誰もが英雄で、名無しの杖を手に取った。対峙するのはジャバウォック? いいえそんなモノはもう居ない。居るのは唯のジャバウォッキー、彼の子供で優しい獣”。

 ……素敵な()でしょう? だって、命の終わりはそこには無いもの。ピーターパンも首をかしげて迷いこんじゃうんだわ」

「待って、ありすちゃん…!」

 

 うふふ、あははとドレスが黒く染まっていた。ゴシック帽子は白いまま。

 そこには少女の形をした何かがいる。実害はない。三鼓綾乃は恐ろしく思った。

 

「綾乃お姉ちゃんもこっちに来てくれるよね? 誰もが行きたく思って、楽しく生き得る。そんな楽しい世界が待っているんだもの。ただの夢でしかなかったアリスはもう居なくて、此処にいるのはホントのありす」

 

 あはは、うふふとドレスが白く染まっていた。ゴシック帽子は白いまま。

 

「赤の女王はいないけれど、あたしは元気だわ。マザーグースも終わりを告げて、コンコンるーるー読んだら守ってくれる。キャスターのお姉ちゃんが来てくれる。そんな皆といられる幸せが、今のあたしなの」

 

 いつもの無垢な瞳を見せつけて、綾乃は知ってしまった。ありすに宿るのは命の光。尊くて暖かい―――ガラスの瞳。人形の様な体と、何処まで行っても人という依り代が必要な存在。そして同時に悲しいと思った。だから、強く彼女を抱きしめる。

 

「うん…うん。ありすちゃん、私も絶対ついて行く。一緒にこのおかしな世界から抜け出そうね」

「ありがとう、綾乃お姉ちゃん!」

 

 温もりを逃さぬように、この様な少女を抱きしめ続ける。

 ありすは喜んだ。ありすは嬉しかった。そして微笑は終わらない―――

 

 

 

 

 

「いや~、呼び出しちゃってごめんねっ」

「いいっすけど……もうオレは清掃員じゃなくてマスターとして働いてるっすよ」

「良いの良いの! セラフだってこの程度なら見逃してくれるわよ」

 

 キャスターを先に部屋に帰して、この目の前の教師――藤村大河を再現したデータについて行ってみると、アンリは未開の地だった職員室に案内されていた。そして彼女が自分の机から取り出したのはどう見ても酒。一升瓶に詰まった年季物のそれである。

 

「ちょっと、いっぱい付き合ってくれるかな? ノリの良さそうなマスターって巴君しかいなかったんだよね」

「どいつもこいつもオレをなんだと思ってんだか……」

 

 別に下に見られるのは当たり前の事なので別にいい。だが、どうにもこの様に暇つぶしと言うか、都合の合間に使われるような事にはあまり乗り気では無くなると言うのが彼の本音。だが、そんな事は知った事かと言わんばかりに酒瓶を空けた大河のNPCは、何かグラスみたいなのは無いかとアンリにねだった。

 仕方ない、と彼女の目の前で古風な升を二つ作成すると、一つを大河に渡して残った自分のマスの中に酒を注いでもらう。とく、とく、とく。断続的に酒器へと注がれる奔流が止まった時には、彼の持っていた升はアルコールの含んだ液体で埋まっていた。

 

「ほら、藤村先生」

「ありがとー」

 

 彼女の方にも注ぎ返してやると、自分はすわる椅子が無いので再び作成。かなり前衛的なデザインの椅子に腰かけ、乾杯、と言って升を当てた。

 

「んくっ、んくっ、んくっ……ぷはぁ! いや~、効くわね!」

「ったく、んぐっ」

 

 アンリも酒の中身を少しずつ煽ると、その味を噛みしめるように喉へ通した。ふぅ、と一息ついて、大河に問う。

 

「で、お気に召しましたかね?」

「巴君って良い趣味してるねぇ。それに良い飲みっぷりじゃない!」

「そりゃ光栄」

 

 もう一杯煽って升の中身を飲み干すと、負けじと大河も一気に飲み下す。空になった升にとくとく注いでやれば、彼女は少しだけ紅潮した顔でありがとう、と微笑を携えていた。

 

「ホント、なーんでこんな戦争やってるんだろうねぇ」

「それがセラフの意志だろ? NPCのアンタが介入できる問題じゃないと思うが」

「んぐぐ…っふぅ。いやぁ、ね? 私も教師な訳で、例え仮初とはいえ生徒だった子たちがどんどん死んでいく様を見るのは辛いのよぉ。だから酔わなきゃやってらんないってだけ」

「この不良NPCめ。ちゃんとやらねぇとムーンセルから消されるぞ」

「……皆死んでいく様を見るなら、そっちの方が私は幸せかも。もっちろん! 本心はそんな薄情じゃないわよ!?」

「分かった分かったこの酔っ払い。回るのが早いっつの」

 

 アンリも秘蔵の一本を端末から引き出すと、彼女の持っていた升の中に其方を注ぐ。

 

「…これ」

「大予言ってぇ酒だ。これを飲んだ警官は目から血涙流してトンボになって空を飛んだ夢を見たらしいぜ」

「空かぁ。……それで、巴君は皆を空に逃がそうとしてるわけでしょ?」

「―――。……そりゃ、四六時中監視されてんだ。分からない方がおかしいわな」

 

 くかかかかかっ、と小さくふざけたように笑って、大河の目を覗き込む。

 彼女の瞳は縋るような思いで此方を見ていて、NPCにしては有り得ない程の反骨精神が感じられた。

 

「……やっぱ、アンタも藤村大河ってか」

「オリジナルを知ってるの?」

「っぽいのは」

「なんだーそりゃー!」

「お前さんみたいに強情で、心配性で、それでいて生徒を信じる良い先生だったよ。…普段の素行はともかく、だけどな」

「……そか。私だったんだ」

 

 藤村大河はもう一杯、と酒をねだると、注がれた満杯のそれを一気に飲み下した。

 やけ酒にも見えたその行動の後は、やはり彼女らしく全てを悟りきったような表情で笑う。

 

「…ありがと。出来れば早めに皆救ってあげて」

「出来ればな。…もう出てこれねぇかもしれんが、死人は死人らしく思い出の中で生き続けてな」

「これ以上、先生って言う私は必要ないもんね。全てのマスターは既に道を決めている。後は君だけだった……でも、これで役割ももうお終い。ばいばーい」

 

 あっけらかんと言い放って、職員室は静寂に包まれる。

 一人の男が酒を飲み干し、瓶の割れる音が鳴り響いた。

 




今回キャラクターが全員本性あらわしまくりました。
また少なく短い話になりましたが、そろそろ三回戦と四回戦のインターバルもおしまいです。
次回、凛VSラニ篇。
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