Fate/deep diver ~天月の逆杯~ 作:マルペレ
少し急展開かもしれませんが、別に話が飛んでいるわけではありません。
火の手が上がっている。
ここ最近は何事も無かった筈であるが、どうやら唐突にも他人の夢を見せられているらしい。月は何を考えているのか、まったく理解できそうもない。もっとも理解する気も無ければ、この光景で自らを変えようとも思ってはいないのだが。
だが、まあ。これを見て、心を痛めないと言う訳でもない。
自分では無い。有り得ないかもしれないが、他人の視点。右手は点へ伸ばされていて、自分はその大火災に包まれた都市の中、死に行く人々の中で、唯一この右手の先に希望を見出しているらしい。
だが、この視点から見ていると言うだけであって、何を考えているかを読み取る術は無い。自分はこの夢の傍観者であり、魅せられているに過ぎない虚像の中に、どうして生きた感情を感じ取ることが出来ようか。しかしその人間も、焼け千切れた白衣を着た右手を力なく下ろし掴んだ希望そのままに、その他大勢と共に命を終える。
戦火は限りなく、無情に、意味さえもなく命を浪費して――――戦火?
―――おお、我らが主よ! 私は既に真意を見つけた。この手の先には人類の未来が宿り、その未来とやらは破滅のみ。我ら人間は、この星に留まった時点で未来はなく、この星に生まれた時点で先は限られていた。嗚呼、見苦しい。見るに堪えない我ら人間は、醜い戦の歴史を紡いできたのだから!
串刺し公が神への捧げものと言う名の殺人を好むように、神もまた、愛や命の神秘を慈しむ傍らで暴虐な破壊と赤き命の終わりを好んでいる。なんと言う事だろうか、狂信者が捧げし贄の者たちは、意味無き狂気にて終わり告げたのではなく、正しく神の御許に捧げられたのだ。
だが、やはり我々は間違いながらも進めていた。
勝利したと、笑って褒めてほしいんだ。ようやく、ようやくなのだよ。我々は人間同士の争いから解放された! ――――訳がないだろう? もし救われたと虚言を紡ぐのならば、何故!? 我らの足下には夥しい死者の群れが這い寄って来ている? 目には見えなくとも、確実に死者の手は我々を同じ墓穴へ引きずり込むために掴んでしまっているのだ。
既に我らが生まれし、我らが祖先の生まれた母なる海は消え去った。果てしなき時と人類と言うたった一つの欲に溢れた種族によって、青の中に潜んでいた命は蒸発してしまっているのだ。
残った水は、我々が醜くも数を減らしながら奪い合い、我らの体から流れた、同じく水である筈の赤き液体は見向きもされない。ちっぽけな、同族意識と言うものが我々と同じ形をした者を喰らう事を拒否するのだ。
この世界には終焉の身が訪れる。
だが、もしも。もし、「彼」がこの戦争を望まなければ――――未来は無い。
幾数千年にも繁栄を続けた人類に、ただかの「男」は決断を下した。
―――――せ
「……――――ァァァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
かき乱される。
己が。
自己をまとめる総体が。
登頂に坐す「アンリ・マユ・巴」という男性の意識が浸食される。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
言葉さえその感覚を表すには足りぬ。
決してこの戦争を乱すことは許されないと、怒りを訴えるかのようにアンリが謳われる。疎まれる。疑われる。その存在を留めるために。そのために、私がこの戦争へ招き入れたのだと。
かねてよりアンリの行動は、「彼」が思い描いた正しき戦争の姿を乱し続けた。
命の終わりを見届けた、第二回戦までならまだまだ思い通りだった。だが、三回戦。あの場で消えるべきだった少女の魂を回収し、「彼」の完成予想図に余計な色を加えた事を罰するかのように、罰が与えられた。
もっとも願望機に近しき男は、ただ非常にシナリオを描いたというのに。
傑作を崩されたからと、癇癪を起したかのように。アンリはアンリマユ足り得ない、意識と鏡の「お前は誰だ」を繰り返す。繰り返す。繰り返して、自我を壊滅させていく。
「ご主人様!?」
起きぬけ、いのいちに叫びをパスから聞きとったキャスターは、しかしようやく気付く事になってしまっていた。既にアンリの目や口と表現すべき場所は黒窪となり、一気に昇ったのではなく、積み重ねた事で得ることが出来た無限の魔力を放出して行く。
キャスターは彼を抱きとめることで四散するアンリを止めようとしたが、既に
何よりも不可解なのは、目覚めた物がキャスター以外には存在しなかったという事。この声無き叫びを聞けば、誰であろうとも跳ね起きる程のとてつもない騒音で、なお不可思議にも静寂を保っていると言うのに、彼らを温める寝具が消え去り、地面に投げ出されていると言うのに。
「何で、誰も目が覚めないんですかっ」
魔術の一つでも起こせばありすやバーサーカーは反応するかと思われたのだが、彼女の放った炎天の呪符が轟音と爆炎を巻き起こしても、その音にさえ誰も反応する事は無い。少しばかり意趣返しも兼ねてラニには弾けた火の粉が当たっていたと言うのに、それでも目は開かれる事は無かった。
泥よりも深く、海よりも深く眠り続けている。ただ意識を以って行動する事が出来るのは、キャスターただ一人。
「ご主人様、どうなされたのです!? 私は此処に居ます。だれも目覚めていなくても、私は―――」
「■■■■■■■■■■■■■■」
「あ……」
彼が、消えて行く。
アンリの体は、ペナルティを喰らったと言う訳でもない。負けたと言う事でもない。ただ、この大会を主催する物でもなく、来賓の機嫌が損なわれた事によって退場を余儀なくされている。極上の神秘の近くで行われた行為は、正しく力となって来賓者の願いを反映してしまっていたのだ。
消える。嗚呼、消えてしまう。
私に手を差し伸べ、常に捕まえていて下さったお方が。
――――消える?
何故。
何故に。
汝が消えるは、何が故ぞ。
ダメ。駄目。あまりに唐突じゃないですか。昨日はありすちゃんたちと食卓を囲んでいてその間は貴方も楽しそうに笑って寝る前には戦いには恐れなど無いのに気を使って撫でてくださってそれがどうしてこんなことになったと言うのですか一体誰がこんな事をしたのですか私は後にも先にも貴方の様な私の全てを最後には受け止めて下さる方を見たことが無かった。だからこそお仕えさせて頂いて、この戦いを勝ち抜いて、先に存在する未来へと共に進む覚悟も出来ていました。ですのに、なのに、こんな所で消え、消え――――消えて。
「―――――」
ゆるさない。
「消えるおつもりですか? この、共に進むと違った、この、私を、置いてッ!」
呪符を握り、冷気を纏わせる。一つ、一つ、二つ、三つ、五つ、八つ、十三、二十一、三十四、五十五、八十九、百四十四、二百三十三、三百七十七、六百十。これまでの積み重ねが、その分と等しく得て来たものが、自分に宿っているのだと暗示を掛けながら、その想いを呪術に乗せる。
凍れ。氷れ。凍えて固まれ。
貴方は霧では無い。貴方は靄では無い。
万象を煙に巻く様な性格をしていても、現実を有耶無耶にしてしまう宝具を持っていても、貴方と言う一人の人間は、心の中心に強固な核が存在しているではないか。
「行かせはしません。私が捕まえて、私が愛しましょう。貴方が反対しても、貴方が消え去るよりはずっとマシ。勝手に私を翻弄した挙句、消え去ろうなんて暴挙は、例え我らが主神が赦しても―――私は絶対許せない」
だから捕まえろ。
前口上なんてどうでも良い。
ただ必要なのは、己が彼を欲する心。
「届かせる。まだ貴方と私のパスは」
―繋がった。お前と俺の繋がる糸は
――切れていない
凍る。
立ち上る靄は漆黒の氷柱に。根元から捕まえて放さない、亡者の如き怨念が、彼女の真に得意とする執着の呪いが、サーヴァントの限界を越えて此処に顕現した。彼女の手に在る、一つの鏡が奇跡を可能とする。聖杯と同じく、無限の魔力を蓄えた神具は聖なる光をもののけの邪なる黒へ変貌しながらも、彼を消させないとする意志に、彼を消す物の破滅を以って成就させる。
命の終わりに等しき凍気がアンリを蝕み、表面に冷たさによる痛みを生じさせる。痛みは魂への傷を負わせ、肉体を留めるために固まらせながらも、キャスターの怨念を伝えていった。
曰く、私を離れないでくれ。
言葉とは裏腹の懇願。だが、純粋な願いを呼ぶ行動こそが何よりも力を出し惜しみさせない。雑念など一切交じり得ない彼女の魔術は正しく魔力を伝達し、正しく願った効力を現実へと回帰させ、組み変える。
ここで特筆すべきなのが、彼女特有の魔術の証として、作りだされた「現象」は物理的な実体を持ちながらに魔術として作用し、対魔力で無効化されないと言う稀有な側面を持っている事。すなわち、現在の彼女の魔術はアンリを捕え、彼に僅かながらも存在する対魔力さえ押し流し、正に魂の芯まで凍てつく氷の息吹を与えていた。
それが、何を意味するのか。この後すぐ、それらは確固たる事実を立証した。
「……ご主人様、ようやくお目覚めですか?」
「……………なんだ…? 寒ぃな……流石に、凍死は…経験してねぇや」
意識が戻る。
凍りついたアンリの体はサーヴァントを構成する魔力と共に在った自我の拡散が繋ぎとめられている事を表していたのだ。そう、一度彼自身が確固たる己を確立する事が出来るのであれば、名無しの森を数時間耐えきることが出来たように、ゆるぎない精神が無意識に彼の元に居座ってくれる。
それは幾億の魂の統括を行う主人格が故の利点。今回はまんまと利用されてしまう形になったが、一度峠を乗り越えればアンリ・M・巴という男は瞬く間に己の全てを構成し直すことが出来るのである。
「キャスター…? ああ、そうか…思い出した。クソッ、やられちまったか、あの野郎」
「あの野郎…って、ソイツがご主人様をっ―――あ、も、もう、ご主人様!? だ、大丈夫なんですよね…?」
「ああ。馬鹿みてぇに魔力持ってかれたがな。…ちょっと待ってろ。“無限の残骸”」
彼は宝具を発動させると、巨大なギロチンを自らの胴体に落とし、上半身と下半身を見事なまでに切り落とした。ゴロゴロと転がった上半身の近くに何処までも虚ろな、暗黒を携えた半径1メートルほどの穴が出現すると、そこから黒い靄がアンリの切断面に集まって行き、また新たな下半身を創造して行く。
その僅か十秒にも満たない時間で完全に衣服さえも修復したアンリは、あーあーとやっちまった感を部屋に充満させながら、先の事が原因でメッキが剥がれた部屋の修復に宝具を充て始めた。
「これで後は元どおりだぞ、と。……にしても、本当にやられた。夢を媒介にして攻撃してくるとか、テメェは夢魔かっつうの」
「夢を媒介に…? マスターのパーソナルデータにはムーンセル自らがロックを掛ける筈なのに」
「運営も小難しい事やってんのな。…まぁ、それよか心配掛けた。敵ながら天晴れとでも言っておきたかったが、お前さんのその顔見ちまうとな」
彼の言葉にはっとしたような表情になり、キャスターは自分の顔を拭う。
「悪かった。流石にお前さんの心を踏みにじる様な態度じゃいられねぇよな」
「え、あ…ご主人さ―――」
彼女の言葉は、唐突に途切れることになる。
一体、どれほどの間こうして温かな気持ちに包まれている事が出来るのだろう。少しばかり強く締め付けてくる圧迫感は僅かな痛みを生じさせているが、今はその方がずっと安心できる。
彼は。そう、彼は、目の前からいなくなりそうになった謝罪のつもりか、ずっと無言で抱きしめてくれている。背丈はおよそ三寸ほどの差があって、私の体は彼に全て包み込まれていて、全身で彼が此処に居ると言う事を証明する。下手に言葉で取り繕うより、ずっと大胆で、直球で、だからこそ私の求めていたことをしでかしてしまう。そんな彼の心情が表れているようで、少しどころじゃなく、とても嬉しい。
でもそんな風に思っていられるのも、私にとっては過ぎた幸せであって…。
「…お兄ちゃん、ラブラブなの?」
ほら。大体予想は付いていましたけど、ありすちゃんに見つかってしまったじゃないですか。流石に少し恥ずかしくなった事を伝えようと身じろぎしてみたのだけれど、ご主人様は放してくれません。人をからかう事はあっても、空気を読む術に長ける彼ならばすぐ解放してくれるかと思っていたのに。
ちょっと疑問に思って身を引いてみると、彼は力なくこちらに倒れこんできてしまいました。やはり靄や魔力で形作られていると言っても、ご主人様は見た目相応の体重があって身を引いた方向に一緒に倒れてしまった。
「お姉ちゃんっ」
「いいえ、大丈夫ですよありすちゃん。ちょっとお布団に運ぶのを手伝ってくれませんか?」
「あ、うん! ジャバウォック、お兄ちゃんをお願い」
「―――――!」
ありすちゃんが右手をさっと振ると、空間が歪んでいつかの私達を苦しめた赤き怪物が姿を現した。けれど、その瞳には理性的でありすちゃんを絶対君主とする忠義の心が垣間見える。
怪物は、眠りについた私のご主人様を持ち上げるとすっかり元の様相を取り戻した寝室に運んで行ってくれた。
「お兄ちゃん、あんなところで寝てたの? なんでお姉ちゃんと抱き合ってたの?」
「えーと、ちょっと説明し辛いんですけど…ご主人様も疲れが溜まってたようでして。起きたまま寝ようとしたので私が受け止めていたんですよ」
キャスターがそのまま言った通り、と言う訳ではない。
確かにアンリは眠っていたが、それは日々の疲れから来るものではなく、大量に魔力を消費したフィードバックと、繋がりが断ち切られそうだと恐怖していた所にキャスターが現れてくれた安心から緊張の糸が切れてしまったことから。恐らく今日は夜まで起きる事も無いかもしれない。
「何者だったのでしょう、
「お姉ちゃん?」
「ん、何でもありませんよ。ご主人様はお疲れの様ですから、今日はゆっくり寝かせてあげて下さいね。そうそう、ラニちゃんも起こしてきてくれますか?」
「―――ご心配には及びません、キャスターのサーヴァント。私は既に眠りから起動していますので」
ありすが頷こうとした時、襖を開けた向こう側からラニが歩いてきていた。言うだけ言って踵を返すと、彼女はバーサーカーを実体化させて部屋の奥へと消えて行く。恐らくは彼女用に作られた部屋に籠りに行ったのだろうか。
と言う事は、朝食はいらないと。
―――prrrrrrrrr!
「あ、ご主人様の端末が…。そう言えば四回戦も中盤ですし、
「新しい穴だ。でも、黒ウサギさんは入れないよ?」
「ああ、そう言えばご主人様が説得の時に言ってましたね。でも、それだと敵が大きい顔してアリーナを闊歩しているって言う事に?」
少し想像してみる。あの頭のネジが最初から存在していないランサーと、そのマスターであるピエロモドキが、私とご主人様が二人っきりになれる聖地を荒らしていく……あ、駄目だ。これ耐えらんないですよ。
「やっぱりご主人様はグロッキーですし、私達は朝ごはんまだですし」
とはいえ、そう簡単に単独行動が出来ればサーヴァントなんてやってられません。ていうか、私アーチャーとかじゃないからぼっち余裕の単独行動スキル持ってませんしぃー。……ん? マスターがいないと…? 令呪、あ。
「あ、そうだありすちゃん」
「ふふーん、お姉ちゃんがそう言うと思って作っておいたもんね」
「え、ああ朝ごはんじゃなくて……え? もしかして火使っちゃってる?」
「火傷もしてないよ?
「……あれ、私負けてる?」
この間まで「料理のさしすせそ」さえ分からなかったキャスターとしては、冗談抜きで自立できていたありすの隠れた家事スキルの存在に打ちひしがれるしかない。Butしかし、今のキャスターはただのサーヴァントでは無い。先ほどまで感じていたアンリの温もりを心で覚えた、主従の絆を深めあったサーヴァント。略してシシサバ。
「ラニお姉ちゃん食べないって言ってたから、先に食べちゃおうよ。はい、いただきます」
「…えっと。はい。いただきます」
毎度思うのだが、洋食に日本式はどうかと。キャスターがありすにぶった切られた空気に流されて何だかなーとフォークをフレンチトーストに突き刺して口に運ぶ。甘くてやわらかな触感が口の中をほぐして行き―――
「こうしてのんびりしてる場合じゃなーいっ!」
「あ、駄目だよお姉ちゃん。マナー違反は首をちょん切られちゃうよ。…あれ、でも赤の女王がちょん切らせた首は何処に転がっているんだろう? もしかして、お庭に通じる沼の顔かしら」
「ちょっとちょっと、不思議の国に飛び立たないで戻ってらっしゃいな」
唐突に思いだした事を告げようと、いつの間にか朝食を食べ終わっているありすの肩を揺さぶる。ようやく彼女の目の焦点は正常な位置に戻り、開き切った瞳孔はまた引きしめられて現実の景色を映し出してくれたようだ。
「ありすちゃん、今日は私と新しい穴に行きませんか!?」
「え、またお穴に入れるの! 森もウサギも出放題!?」
「流石にそれは自重してください」
「おや、君のマスターはどうしたのかね? 通知を伝えようと思ったのだがな」
「うげ」
「神父様だ」
ありすの手を引きながらマイルームを出た直後、キャスターは待ち構えていた言峰神父と鉢合わせていた。まったく想定も希望もしていない遭遇にうんざりと言った表情を浮かべている彼女だったが、我関せずと言った具合に彼は続けた。
「ただのアリーナ探索では君達も飽きたころだと思ってな。少しばかり趣向を凝らした“
「何でこんな時に限って……というか、相手マスターはそれに承諾したんですか?」
「あちらは捧げ物が増えたと喜んでいたぞ? 積極的なようでなによりだな。くくく」
―――こいつ、相手が分かっていないと理解した上で笑ってやがる。
キャスターが冷静に言峰の本質に(知りたくも無いが)知識を深めながらも、彼女は此方のマスターがいないのだからその敵情報開示の条件は適用されない筈だと主張した。だが、言峰はその言葉に僅かばかりに表情筋を吊り上げさせると小さな笑みと共に言葉を紡ぎ始めた。
「それは出来ない相談だ。君達だけでは無く、既に他のマスターも条件は違いながらも情報開示を求めてアリーナに殺到している。君達の組みだけを優遇すると言う訳にはいかないのだよ。ふ、これはあくまで公平な戦争なのだからな」
「その気障ったらし…くもない邪悪な笑みを止めてくださいな。ご主人様の足元にも及びやしない。―――とまあそれはともかく、其方運営側が引く気が無いと言う事はよっっっっく理解できました。…仕方ありません、ありすちゃん手伝ってくれます?」
「んー、よくわからないけど、お姉ちゃんと一緒に穴に入ればいいんだよね。一緒にいこ!」
「ごめんなさい、ありがとうございます。――そう言う事ですので、私達はこれで」
「まあ待ちたまえ」
そそくさと立ち去ろうとしたキャスターに、言峰はルールに続きがあると立ち止まらせた。
「なんでしょう? ぶぶ漬けでもご所望ですか?」
「いいや、この対戦期間は6日目まで続くというだけだ。場所は分かっているだろうが第二層。君達のマスターが一刻も早く復帰できる事を願わせて貰おう」
言うだけ言って、彼は姿を消した。
この先の展開が嫌になるほど予想できてしまったキャスターは、なるべくありすには危険が及ばないようにしようと決意すると、彼女の手を引いてアリーナに足を進めるのであった。
「来ちゃいましたよ。来ちゃいましたけど……あ、ヤバ。全ッ然力湧かないじゃないですか……これが単独行動スキル無しのサーヴァントの末路ぉ~」
「お姉ちゃん大丈夫? なんか、ジャバウォックみたいな人がいるみたいだよ」
「あー、多分。きっと、メイビー。…メイビーって意味あってましたっけ」
「あってるよ」
それならいいのですが、と言葉通りにいつもより調子の出ないキャスターは青い顔をしながらありすに告げる。それを心配するありすは、キャスターのサーヴァントとしての役割を思い出した。代理の、しかも魔力供給さえ無いマスターもどきである自分が隣に居るのは、不相応かつ役不足なのだと知った。
「……お姉ちゃん」
「大丈夫ですよ。ありすちゃんは私の傍から離れずにいてくださいね」
「ううん、お兄ちゃんの所に、先に」
流石に怖くなったのだろうかと。キャスターが不思議そうに彼女を見つめていると、少しいつもの様な明るい感じだけではなく、言いようも無い違和感を感じた。その違和感の正体は、彼女の目と手に握っている……?
「戻ってて」
「え―――」
ありすはとある物をキャスターに投げつける。それは緑の閃光を放つと、瞬く前にキャスターの足元から全身を覆い尽し、0と1の軌跡を描きながら現代魔術では決して容易には実現不可能な現象を引き起こす。
即ち―――空間転移である。
「ありすちゃん、なにを――――!?」
手を伸ばすが、距離が開いている上に弱ったキャスターでは腕をまっすぐにすることさえ困難な現状。彼女の体は数秒にも満たない時間で掻き消されてしまった。
その中でただ一人、ありすという幼い少女の身が戦いの間に取り残されることになる。その筈なのだが、生憎と彼女は戦う事の出来る力を継がれている、何も知らない無力な人間ではないのだ。
故にこそ、危険だ。覚悟を決めた彼女は行動力に溢れており、ペナルティの存在を無視する可能性がある。その先に待ち受けるのは―――消滅。
アンリの加護も、何もない。
アリスからもらった力と、彼女自身の意志だけがそこに在る。
「待っててね、お兄ちゃん。お姉ちゃん。あたしも…“家族”なんだからね…!」
一番書きたかったところ…来ました。
現在キテマス、キテマス……
非常に遅くなって申し訳ありません。
CCCもようやく購入したところですので、もし機会があったらCCC続くかもしれません。
これから私達に暇が訪れるならば…の話ですけど。