Fate/deep diver ~天月の逆杯~   作:マルペレ

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the Armada

 昨夜からの自分語りは一晩を越えていた。

 朝日が顔をのぞかせる中、キャスターは眠りこけることも無く物語風に語られる生き様と昔語りを真剣に聞き入っている。そうして、呼ばれた(わたくし)めはこの世界に来たのでした。と語り終えた彼は、元は泥だった台所で朝食作りを遠隔操作しながら締めに入った。

 

「ほぅほぅ……」

「大体はこんなもんだ。得体の知れなさは他のどのマスターより上の自身がある」

「得体が知れないというよりも、ご主人様の場合は英雄譚になってますよね。しかも必ず絡まれる前提で」

「分かってくれたか。平穏の少なさに」

「はい。一体どこぞにいる一騎当千の戦国武将かと思うほどに」

 

 まぁ殺しまくった事に否定しないけどな、などと己の過去がどれだけ面倒ばかりの日々だったかを思い起こす彼は、自分の中にいる数億の魂を思い描きながら座布団に座った。(和風感がごちゃごちゃになっているイメージで作ったので、多少の部屋の雑さには目を瞑ってほしい)

 キャスターも態々隣に座布団を置いて座ると、机の上にはふよふよと漂ってきた朝食が置かれていく。こう言った電脳空間での食事は普通必要ないので、嗜好品程度に収められていそうなものだが、セラフはそう言った事も端末に入力すれば食材が出てくる様に完備。そしてアンリのそこそこの腕前で作られた料理が目の前に存在している、ということだ。

 

「「いただきます」」

 

 両手を合わせて食べにかかる二人。一口食べるたびに震えながら涙を流すキャスターがなんとも気になるところだが、腹が減っては戦も出来ぬと空く筈の無い腹に次々に食材を放り込んでいく。彼の持論でもある、「こう言うのは気分」という理由からこのような食事を模した行為を行っているのだった。

 

「しかし」

「ん?」

「ご主人様も難儀なことですね。神サマの勝手で生まれる前から道半ばで死ぬようにされて、ある程度の能力は与えられたとしても今度は輪廻に戻ることも出来なくなっただなんて」

「まぁ、旅仲間はいたし、殺した人間も一人残らず幸せに“中”で過ごしてるから、そうひどい話ってワケでもねぇんだよな。あ、今は別行動中だけど」

 

 話半分にそのたくあん取ってくれと言えば、はいあーんと自然流れでキャスターがアンリの口に運び、キャスターが焼き魚に視線を移せば醤油を手にしたアンリがほらよと近くに置く。この短期間で、いつ以心伝心レベルに到達したのであろうか。

 

「しかしまあ、転生してからこの方30年。キャスターみてぇな反応初めてだわ。普通はもっと……んぐんぐ……驚くもんだが」

「いえいえ、ご主人様はどんな方でもバッチリ受け入れちゃいますから。ただしイケメン魂に限る」

「ちなみに、オレのはどんな色だったんだ?」

「それもう、ヘマタイトのように雄々しく黒くて御立派な……」

「嬉しいんだか、サーヴァントがこんなんで悲しいんだか……」

 

 顔を赤く染めて身をよじらせるキャスターを見て、ため息交じりに彼はさんまを口に含んだ。新鮮な魚がデータとして再現されているようで、皮が少し焦げる位に焼かれた魚は芯まで火が通って実に美味。乗せられた大根おろしと一緒に口に含めば消化も促進し、炊き上げた麦ごはんを噛みしめると、甘味が広がる素敵仕様。伊達に月は記憶バンクの名で語られてはいないようだ。

 

「飯が冷めちまうぞ。早く食っとけ」

「あ、はい。すみません」

 

 隣のこれからの相棒を正気に戻して朝食を再開。

 次にアサリの味噌汁に手を伸ばし、その汁をずずっ、とすするのであった。

 

 

 

 先ほどの息の合いようはなんだったのかと、キャスターと飯を共にしたことで更なる「遠慮」が無くなったアンリが昨日の銃が何年ごろに使用されていたかを調べるために図書館へ向かおうとすると、通路の間で言い合いをする赤と青を見つけた。

 パット身でも分かったのは、青…間桐慎二が何かをがなりたて、赤…遠坂凛はその言葉を受け流し、時にはカウンターを決める勢いでいなしているという構図。だが、その会話の内容はアンリの興味を引くに足る、情報の飛び合い。他のマスターと同様、彼も二人を傍観する態勢に入ると、丁度凛が慎二の自慢げな話をへし折ったところのようだった。

 

「そうやっていい気になるのも今のうちだぜ? 遠坂、そりゃあ君には何度か煮え湯を飲まされたさ。でも、僕の無敵艦隊があれば君のサーヴァントも成すすべなくペチャンコさ。どうだい? 今回ばかりは僕が勝ちだ!」

「あら、その様子だとよほど良いサーヴァントを引き当てたみたいね? それにしても、艦隊を操るクラスに無敵艦隊……そうね、物理障壁を用意すれば、貴方の言うぺしゃんこは回避できるかしらね。もしそれが宝具だとしても、完全に出てくる前にさっさと潰してしまえば終わっちゃうもの。…あ、ごめんなさい。その位の対策は当然やってるわよね」

 

 自然と、それでいて見下すような彼女の言葉に、意を突かれた慎二は体を震わせる。その全てを見透かすような眼に怯えたのである。

 これ以上見られていると、他のマスターにまで無駄な事を喋ってしまうかもしれない。そんな疑心暗鬼に駆られた彼は、不安を打ち消すように笑い始めた。

 

「ふ、ふはははっ、そ、そうさ! 君に心配されるまでも無い! ……精々、二回戦で当たらないように祈っておくと良いさ!!」

 

 額に脂汗を垂らしながら去っていく後ろ姿は、遠坂側から見れば痛々しいの一言であった。そんな慎二は図書館側に行かなかった。つまり、他のマスターと同様にかけ合いを見ていたアンリと鉢会うことになる。この時、慎二にしてみれば、遠坂の言葉で頭がいっぱいいっぱいのところに突然、対戦相手が上から見下ろしている形で立っているのだ。上ずらない方が無理であろう。

 

「な、何だよお前。……ふ、ふぅん? つまり正攻法じゃ勝てないから、少しでも情報を引き出そうと張り付いてたってワケ? まあ、いくら知ったところで僕のサーヴァントを倒すなんて、ぽっと出のお前には無理さ。これで満足か? ……どけよ」

「……ふぅ」

 

 ところで、アンリは現在、キャスターに打ち明けた事と人生相談に乗ってもらった事で、かなり上機嫌である。だから、下から睨みつける慎二に一息吐くと、通り抜けざまにちょっとした労わりをかけてやった。

 

「お疲れさん」

「~~~っ!」

 

 敵に塩を送り、同時に傷口に塗り込む二つの意味を凝縮した一言。当然ながら慎二は激昂し、つけたアクセサリーの音を紛らわすように鳴らして去って行った。一応、馬鹿にした相手が別の相手に絡まれていた事が気になったのか、凛は冷めた瞳で慎二の去った方向へ目を向けていた。

 

「……やれやれ、緊張感のない奴が多いわね」

 

 彼女にしてみれば、マスター同士のかけ合いなど互いの腹を探るための真っ黒な行為でしかない。如何に情報を引き出すかの心理戦。だから、まだまだ生き残りの多い陽気な第一回戦目、慎二や気楽な他のマスター達のいる現状に飽き飽きしていた。

 求めていたのは赤い制服の王者、レオナルドや先ほど見かけた老齢の騎士、ブラックモア卿。そして―――

 

(アンリ・M・巴…か……)

 

 のらりくらりと全てを受け流すような、打てば返ってくるゴムの様な、「人間には」到底捕まえどころのない男。ミドルネームのMを聞けば、アンリマユというとある古代宗教の悪神の名前が成立する、和名を名字とする不思議な男。それが一日に一度は接触するのだから、警戒するなと言うほうが無理であろう。

 

「あ」

 

 ちょうど、彼は凛を知らぬように通り過ぎて行ったところ。図書館に向かっているということは、一般のマスターと同じく情報を探るために向かったという事だろう。そして、そんな後姿は完全に無防備であったというのも、彼女の警戒心を惹きたてる一因だろう。

 ルールでは禁止されているが、そんな彼を今からでも襲ってしまえば目前の脅威が減る。そんな誘惑が生まれ、手が指鉄砲の形をとるが、湧きたった考えそのものが霧散するように暗殺する(やる)気がうせる。握りこんだ中指から下を、人差し指同様にだらりと下に向けた。

 

「…………」

 

 どこか、卑怯なチートコード(ハッキング)でも使ってんのかしら。自分でも理解しきれない目まぐるしい心情の変化に、そんな有り得ない事を思考に留め置いてしまう。振り払うように短めのスカートを翻すと、彼女もまた屋上へ向かうのだった。

 

 

 

「……アイツも、毒されてんなぁ」

 

 階段を上っていく凛の姿を壁で見えなくなるまで見つめていた彼は、図書室で大航海時代の書類を探っていた。このころに海賊という目立つ形で教科書などで習うのは、航路を切り開いた先人たちの名前だろう。そして、我先にと競い合っていた西南ヨーロッパ人も一つのキーワードに入ってくるだろう。

 

≪ご主人様、支度が整いました≫

≪ああ、こっちも収穫は無しだ。すぐ行く≫

 

 結局、ほとんど分からず終いか。と本を閉じれば、そのまま一階へと足を向けた。今はとりあえず、行動しよう。そんな気持ちで、彼はアリーナを目指すのだった。

 

 

 

 昨日と同じ第一階層目で、浅黒い肌の人物がくるくると回っている。

 

「いーち」

 

 気の抜けた声と共に、立ちはだかったエネミーが武器の針鼠になって霧散。的を失った武器は物悲しく地面に落ちると、一瞬だけおぞましい気配のする泥に姿を変えて跡形もなく消え去った。そんな一連の出来事を無視しながら、声の主はカウントを続ける。

 

「にー、さーん、よん……」

 

 手に纏わりついた泥を飛ばせば、空中で平行に多数の刃となって出現し、エネミーに風穴を開ける攻撃の雨。ソレを放っているのはアンリだったが、声はどうしてか気力がない。一応アリーナに入ってから遭遇した敵のカウントを行っているのだが、一体どうしたというのだろうか。

 そんな隙だらけのアンリの背後に、空を飛ぶエネミーが急降下して襲いかかって来た。鋭い針は彼の心臓のあたりを狙っており、速度は振り返ったところで間に合うものではない。攻撃を当てるために、と低空飛行になった瞬間、そのエネミーの羽は己の影から突き出る槍で串刺しにされていた。

 

GO(ごっ)!」

 

 号令と共に炎がエネミーに直撃し、プログラムの屑すら残さず消滅する。炎の余波がアンリに当たっていたのだが、その箇所が焼き切られた後、すぐさま新たな泥が粘土をこねるように埋め修復してしまった。

 入口から少し直進した位置にある泉の淵へ腰かけると、彼は大きな溜息を吐く。

 

「はぁ………」

 

 陰鬱、憂鬱、悲観、疲労。その他のものがたっぷり詰まった特注の溜息は、たった一回でその場をどんよりとさせる。

 

「どうなされました? ご主人様。先ほどから随分と元気がないようですが」

「いや、なんとも情報が少なすぎてな」

「つまり、思い当たる英霊がおらず、先の決戦が心配であると」

「……御明察」

 

 っかー、やってらんね。などと敵の渦巻くアリーナで堂々と寝ころぼうとしたマスターは、彼以外にいないだろう。

 ごろりとその場で仰向けになると、手を枕にして四角いアリーナの天井を見る。回路の様な壁を通る光が、流星の様だと彼は思った。

 

「ところで、その敵サーヴァントについての情報は?」

「まあ、無敵艦隊と戦艦を扱うクラスの英霊、ってのを出発前に。今はそれだけだ」

「そうですか…うむむ……」

 

 しゃがみ込んで、彼を覗き込むように顔を出したキャスターは、アンリの口から伝えられた情報に主と同様頭を抱えていた。英霊が聖杯から与えられる知識の中に、古今東西の英雄のデータが送られる、というものがある。ソレを使って脳内データベースでも検索をかけてみたのだが……

 

「大航海時代にはヒットしましたが、マゼランやバスコ・ダ・ガマと言った似たような方が多いので判別はしにくいですね。それに、敵は確かに女性でしたし、ほとんど無名の乗組員という点もあります」

「やっぱ、まだそのくらいしか分からんよな。海賊にしても女だったし、少なくともコロンブス辺りは完全に消える」

「無敵艦隊はスペインのフェリペ2世が出てくるが、それは完全に男だしなあ」

「艦長、という線で調べましたか?」

「メディナってのがあったが、それも立派なひげをこしらえた男だった。……まぁ、正体云々以前にその攻撃の対策さえできればいいだけなんだが」

 

 アンリの言うことはごもっとも。正体看破が必要なのは、相手が神話系列のだった時などにその人物が殺された手段を用意すれば「概念」が有用に働いてくれるだろう。だが、大航海時代ともなれば相手は船を持った現実的な攻撃手段を用いる。先日の攻撃で船の側面が現出したという点から考えても、船そのものを相手取る事になるかもしれない。

 

「あっ、そうですよご主人様! 昨日は銃の腕でアーチャーと仮定しましたが、船“乗り”なら相手のクラスはライダーの可能性が高いかもしれません」

「あん時はしっかり船の一部が出て、アイツが打ったんじゃなく“船に撃たせてた”からそれなりに見当はついてたが……やっぱライダーかねえ」

「…まぁ、クラス名が分かったところで使ってくる宝具は変わらないでしょうけど」

「ああっと……なら、キャスター」

「はい」

「結構固めの物理障壁を張れるか?」

 

 彼が言いだしたのは、あの時の遠坂凛が言った言葉と同じ。真剣に聞き入る直前で少し聞き取りづらかったが、その後は船で押し潰すやら全砲門解放とかなんとか言っていた覚えがある。なら、それを耐えきる障壁をキャスターの魔術でどうにか展開できないか、という意見だ。

 少し悩むような仕草をした彼女は、まぁ、出来る……かも? という見事に不安な言葉を返してくれた。

 

「“かも”って……」

「私の呪術(スキル)にも多層を重ねた結界を作りだす物があるんですが、ほとんど使った事がないので効果のほどは……。でも、昨日の砲撃だったら爆風以外は防げますね」

 

 前面のみの盾になるんで、拡散する攻撃とかは難しいですが。と笑顔で締めくくった彼女に、難しいところだなと考え込むアンリ。彼にとって爆風などの目隠し(チャフ)効果がある物は、相手の気配を読めばどこにいるかが手にとる様にわかるので通じないが、キャスターは別だろう。とくに、今回の敵は火薬を使っているので、いざという時は私の鼻にも頼ってくださいと言った嗅覚は硝煙の臭いで打ち消されて使えなくなる。

 来るべき時には対策を講じなければならないが、今はまだ不可能だと割り切った彼は思考を中断した。

 

「とにかく、今日はこれ以上アリーナに居ても無駄そうだ。戻るぞ」

「はい、今日は此処までと言うことで」

 

 さーて、帰ったら飯食うぞ。などと意気込んでいる様は聖杯戦争の本質を理解しているマスターの中でもかなり呑気な部類に入るだろう。電脳世界に来てまで食に関して考える人物もそう多くは無い。

 だが、彼らばかりは、この戦いの中の日常を忘れずに過ごしていくのであった。

 





う~ん、原作が原作で寿司、書くことがなくなる日ってありますね。
今回は書き上げましたが、次回からは話の都合上飛ばす日も入れることにします。また別の視点で情報を手にいれに行く形にします。(全情報開示がない状態でも別にいいかも)

もしかしたら、次回からは原作のイメージが激しく変わるかもしれません。

とりあえず、ここまでお読み頂きありがとうございました。
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