Fate/deep diver ~天月の逆杯~ 作:マルペレ
水面の様に映写用のスクリーンが揺れる。トプン、と二人が飛びこんだ先には永遠に続くかとも思われる深い闇。しかしほんの一瞬のそれを抜けた先には、黒い光が待ち受ける。黒色に塗られた、勝者の通り道が目の前には広がっている。
血塗られた道程を示すかの如き、乾いた血液に埃が降り積もった黒。無数に犠牲になって来た、己の欲に溺れた憐れな人間達の末路。アンリはそんな空気を目一杯に吸い込む。人々の道半ばで倒れて来た無念の溢れる空間は、今もなお地球上で命を散らした者達の負の感情を集めている様な気さえする。そのような弱肉強食の路に、四人ものマスターが集っている。これほど異常な事も無いだろう、渦巻く怨念を表す血の持ち主たちが、そう怒りを囁いている様な気分にさせられる道だ。
道の伸びた先には、光り輝く月が浮かんでいる。あれが、月の中の月。
「心地のいい怨念だ。レッド・カーペットは血の匂いってな」
「流石は悪神。それより、遅かったじゃないの」
決して広くは無い道で、列になりながら凛が呆れた顔をして待っていた。暗く俯いている綾乃の手を放し、ちょっくら最後の抱
「巴さん、私達で一度点検を行いましたが余りにもこの空間は整い過ぎている。情報が作られては水泡の様に消えるムーンセルの中…使い捨てが条理の聖杯戦争の歴史を辿っても、この道ほど古いプログラムは無いと思われます。……あなたは、この道をどうやって見つけたのですか?」
「聖杯戦争は何度も行われているんだったか? だったら、チャンピオンロードだけは不変の道だろう。そう思って既存の花道の入口にあのスクリーンを繋げるような道を探し出しただけだ」
「ふぅーん? プログラム系統に関しては慎二にも劣ると思ってたけど、意外とやるもんね。一つ私からも聞かせて貰いたいのは、あの此処に来る前にあった漆黒の空間。あれってムーンセルの道じゃないわよね。あれ、巴君の?」
「流石は名高いレジスタンスのリーダー。オレの体の中はどうだった?」
「……え?」
素っ頓狂な反応をした一部の者たちに、アンリは嘲笑うような笑い声を上げた。
「カッ…カカカカカッ!! 思いもよらなかっただろ? なあ、これが体の無い化け物の本領発揮ってやつだ。オレの器の中は魂が幾ら入ってもいいように距離と言う概念が働いてねぇんだ。だから、一歩で世界の端に到達するし、その間の距離は無限を保ち続けてる。数分間落ち続けてもそこに到達する事はねぇし、逆に落ちた瞬間一番下に辿り着く所がある。壁っつぅ結果しかない空間なんだよ。伸び続けるゴム風船の中って言えば分かり易いか?」
「……ともかく、疑問は解消できたわ。あなたに関しては考えないようにする」
「魂と言う非物体を収めるがための部屋……是非ともアトラス院で保護したいところですが、貴女が現実に行ける事は無いのでしょうね。惜しい人材です」
「……ともかく、行こうよ」
「ま、綾乃嬢の言うとおりだ。さっさと―――」
この閉鎖された一本道に留まっていては、セラフからの妨害がいつ飛んでくるか知れたものではない。と、アンリがこのような事を言おうとした瞬間、彼らのいる空間は赤い光に包まれた。この赤い光に、全てのマスターは見覚えがある。
敗者に下される、審判の―――
「走るわよ!!」
凛が叫び、彼女のランサーが凛を抱える。ラニのバーサーカーと綾乃のアーチャーも己のマスターを抱え上げ、アンリはキャスターの強化魔術を施されることで他の英霊たちに追いつく速度を手に入れ、彼らと並走した。
「チッ、この空間自体壊しに来やがったか。懐古の感情とかがありゃ話は楽だってのによ……」
「ただのプログラム相手には通用しない理論です。巴さん」
「分かってるっつうの!」
アンリが首の後ろに作った新たな眼球から見た光景は、天に吸い込まれるようにしながら道を形作っていたデータが0に還元されていく光景。ムーンセルの中でこそ英霊の足で追い切れる速度に見えるが、これがこの月の外側からの介入であったなら数億分の一秒で処理は完了している事だろう。数多のデータと同じ電子霊体として魂と精神が招かれているからこそ、こうしたゆっくりとデータが消える様子を見れているに過ぎないのだ。
「ランサー、先に行くわよ」
「あいよマスター。この先に障害あったらトロい連中にゃちときつそうだからな」
「そう言う事。それじゃ、お先に!」
この中で最も俊敏性が高いランサーが力を込めると、一歩で5馬身は距離がつけられていく。バーサーカーとアーチャー、それらに強化を施すことでようやく追いつけるアンリ達はランサーの速度と言う脅威に改めて気付かされるが、味方である今回ばかりは心強いと希望を胸に持った。
後方の崩壊速度も少しずつ距離をつけられている事を考えると、十分に逃げ切れるだろう。そう思った瞬間、彼らの遥か前方に在る空間が歪み始めた。位置はランサーの通った後ろ、アンリ達の前方。
セラフの介入によって間に割り込み、生成された敵性プログラムである。その形状はどのエネミーとも似ても似つかぬ姿をしており、形は人型。背中には青白い木の枝の様な一対の翼が見える。その数―――三体!
「げ、
「ここは私たちに任せて!」
キャスターの呟きを拾った綾乃が声を張り上げる。先ほどまでの沈んだ様子は感じさせない力強い響きの後、彼女はアーチャーの背から飛びおり、バーサーカーの大きな手の中に収まった。
いきなり危ない事をした彼女への驚愕がある中、綾乃は弓を取りだした己のサーヴァントに語りかける。魔力を以って、パートナーとして。
「アーチャー、行けるよね」
「承った。しからば我が極意、その目に焼き付けよ」
後方から崩壊が迫る中、アーチャーは立ち止って矢を背中の包みから引き抜いた。
ありすが何時か見せた、あの弓術モドキとはレベルが違う。弓の英霊として認められるほどに高められ、その名に違わぬ恐るべき快中を伝記に残した日本で、最高の弓の名手の本領発揮である。
「南無八幡」
弓が番えられるまでの時間は僅かにコンマ一秒。時間を越えて整えられた呼吸のまま、ほんの一矢が和弓から放たれる。高められた魔力は一瞬で霧散―――いや、矢へと集中し、閃光をも貫く速度で前方へ放たれた。
―――
極めし一矢、不可能を越える。
彼自身はなんの魔力も持たず、神話の英傑には遠く及ばない実在を証明された人物。されど遺した功績は、とても人の身で起こされたとも知れぬ奇跡。いや、実力。それらは同族の日本人に末代に至るまで称えられ、今もなお日本の歴史に根強く名を残している。
それら伝説の御業と現実の伝承は、英霊の座に導かれることで昇華した。彼の矢は、道中の障害の全てに干渉されず、ただ目標に突き刺さるまではまったく別の次元を通る様になっていたのだ。
セラフの妨害攻撃は、全て矢を擦りぬける。幻影でも攻撃しているかと思われるほどの不可思議な現象に、脅威を排除せよとプログラミングされた人形共は思考する事も出来ない。挙句、その胸を貫かれ、三体は別々の場所に佇んでいたというのに一本の矢に串刺しにされることとなった。
そのセラフの分体達と接触可能な領域に近づいたアンリとキャスターは、マスター二人を抱えて武器を触れないバーサーカーに代わって動けぬ的を粉々に砕く。無数の刃によって細切れになったそれらをキャスターの呪術が焼き散らし、通過して行った彼らの後方でセラフの人形は崩壊に巻き込まれていった。
「やるな」
「風も波も無い。それどころか崩壊と言う逆境が控えておる限り、我が弓は決して外れぬ。貴殿もすれ違いざまの異形の万刃、見事であった」
「流石に見えてたか。変形の速度なら誰にも負けねぇよ」
「ふっ、出来る者など限られておるだろうに」
アーチャーの言動にそれもそうだとおどけたアンリは、速度を上げてバーサーカー達に追いついた。バーサーカーに乗っていた綾乃はアーチャーに慰労の言葉を掛けると、このままの方が柔軟な対応が可能だと言ったラニに従ってアーチャーをフリーで走らせる。
幻想的な黒い道も段々と色濃い厳重さを物語る隔壁に囲まれてきた中、ついに前方に見えていた青い月が巨大になる程迫っていた。先を進むと、斜めの道を上り切った先に在った広い部屋が広がり始める。そこで待っていた凛の方にも一体の人形がいたのか、槍を出して待ち受けているランサーの姿があった。
「ここの
「無視しちゃって先に行っても良いのにね。遠坂さんったらツンデレだ~」
「綾乃うっさい。…もう、ふざけてる暇は無いからさっさと入るわよ」
「異論はありません。崩壊もすぐそこまで来ています。急ぎましょう」
ラニの言葉に全員が頷き、全てのサーヴァントを霊体化させてマスターたちがポータルに足を踏み入れる。赤い地面が発光し、白い光が四人の姿を包み込んで行った。誰が誰かも分からない程の激しい発光は収まりを見せ始め、直後にその小部屋へと崩壊は訪れた。
シャン、と鈴の鳴る様な聞きなれたテレポート音。
視界が開けた先には、おどろおどろしい道中とは一転、寂しい瓦礫をエメラルドグリーンの海が覆い尽す部屋へ招かれている。だが、正しくは部屋というよりは一つの世界。あの月海ヶ原学園と同じ、ムーンセルが作り出し、己の核を置いた広大な白の世界。
壊れた柱の名残とは裏腹に、屋根や地面と言った人工物の無い孤独な世界。その中央に、巨大な立方体に穴を開けた光が建てられていた。
「……ここが、聖杯の間?」
「間違いねぇ。んで、ここに来れたってことはだ」
もったいぶる様なアンリの言葉に、一つの異様な気配が己を主張する。
中央の聖杯を司る機能、それの周りに点在する不定間隔で置かれた柱。その柱の一本の上に、一人の白衣を着た男性が座っていたのだ。
「……選定を待たずして辿り着いたか。これは予想外だったよ」
彼は此方に振り向いた。
顔立ちは印象に残りづらく、吹けば飛ぶような儚さがある。ありすにも似た浮世離れした雰囲気は近寄りがたく、それでいて虚ろな抑揚のない声は耳を打つたびにマスター達の背筋を凍えさせる。全てのマスターがサーヴァントを現界させて警戒を取る中、その男はどこまでも穏やかに会話の続きを紡いでいた。
「だが、想定の内だ。巴アンリ―――いや、世界の旅人と言った方が正しいのかな?」
「さて、な。旅をすると言えば聞こえはいいが、その実オレは流されるままに世界を渡らされている。それを受け入れたかと思えば、気に喰わないと決定権をも主張する。さぁさぁ、木偶なテメェは何を思う?」
「考えていた通り、随分とピエロが好きなようだ。目の下に滴のペイントをおすすめするよ。杯だけは、与えられないがね」
どこまでも見下すように、座った体勢で此方を屈みながらに見てくる男。
眼鏡の奥から刺す視線は、彼らを見ながらにして後ろを突き抜け、自分を見ているかのようにも思えてくる。それほどまでに儚く、どうでもよく、特別な重圧を放っている。この世を達観したような、圧倒的な壁を感じられた。
「…あなたが、巴さんの言った“管理者”ですか?」
「ふむ、その質問にはこう答えるとしよう。私が聖杯戦争をこのトーナメント式にまで昇華し、確定的な王者を作り上げるシステムを組んだ張本人である、と」
「早い話、アンタの権利を奪えば聖杯は起動できるってワケね? なら、さっさとよこしなさい」
「気が強いね、遠坂凛。そこの三鼓綾乃のように大人しさを覚えてみたらどうかな」
「薄ら寒い異常者の癖して性格矯正を説くって? アンタ、自分がどれだけ意味不明な存在か理解しているんでしょうね」
「意味不明…まぁ、そうかもしれないね。私が理解されることは、一度たりともなかったのだから」
表情だけの笑みを見せた彼は、初めて気がついたかのようにアンリの隣に控える人物を見た。おや、と小さな声は彼女にだけ向けられた特別な意識。だが、空虚な感情には抑揚は見当たらない。
「キャスター、君は彼についていたのか。監督役からのデータでも閲覧できないと思ったら、自分にジャミングを掛けて情報を秘匿していたとはね。あの校舎の中でしか、情報のやり取りは不可能だったわけだ」
「……あなたなんかに見せる姿は無かっただけです」
タマモは知古の仲であったかのように、毒づいた表情でその男を見る。
それに驚いた様な顔をしたのは、アンリを除く全ての人間。
「うん。
「っ! そう言う事……」
挑戦的に笑った凛は、長年の疑問がようやく解消されたと冷や汗をかいた。
歴代に至り、聖杯戦争の話は世界に名だたる
「それにしても、三人……いや、四人。この場所には相応しくないマスターがこんなに訪れるとは、第一回目の無法地帯と化した聖杯戦争以来の出来事だ。本来なら私が権限を使って揺らぎを糾す必要があるが…まぁ、放置しても問題はなさそうだね。ここはあくまでルールが物を言う空間。出られるマスターはただ一人……ここまで来た奮闘劇には脱帽だけど、こればっかりは揺るがない。定められた概念そのものだ」
「…ちょっと、アンリ? アイツの言う事が嘘とは思えないんだけど」
「穴開けりゃ良いだけの話だろうが。閉じる前に広げるか、また新しい穴作って全力で投げ入れればオマエらは帰れる。壊すのは得意分野でな、こればっかりは揺るがない」
「……ああ、君は聖杯を内包していたんだったね。こっちのボイスログに残っているよ」
今ではもう不要だけど。そう言って、白衣の男はログデータを還元する。
塵となって消えて行くデータは、自分達の未来を表しているのだと比喩させるには十分。つまり、凛たちはこの男にとっては排除すべきデータ。相応しい人間は、別にいる。
「そう言えば、君達は5回戦で聖杯戦争を無理やり終わらせてきたんだったね。措置としてバトルロワイヤルを敷いてみたけど、誰も乗り気じゃ無かったみたいだ。おかげで選定の手間が省けなかった」
「面倒臭い事は終わりにして、
「無理だよ。それは私の持つ権限では実行不可能な事象。聖杯へ直接干渉が出来ないのに、ルールの書き換えは不可能なんだ」
「干渉が出来ない?」
「それは、僕から説明させていただきましょう」
ラニの疑問の声に答えるように、力強い少年の声が響いた。
白衣の男が座る柱の下に、転送陣が展開されて光を放つ。一瞬で送られてきたその人物は、世界の誰もが良く知る人物であった。
「レオ!?」
「ハーウェイの御曹司…なぜ此処に?」
「どうやら僕が一番の模範生だったようでして、トワイスさんに呼ばれたんですよ。まぁ、貴方たちを相手にしてもオマケはしてくれないようですけどね」
あははー、と白々しい台詞が飛び出てくる。
コホンとついた一拍の後に、彼はトワイスと呼んだこの男が、なぜ聖杯に干渉できないのかを語った。
「彼、トワイス・H・ピースマンは過去の死人。ムーンセルが記録したに過ぎないNPCの一人だったようです。それが―――巴アンリさん、あなたのありすさんの様に自我を持ってサイバーゴーストとなり、マスター権を獲得した。それでも、彼はNPC。聖杯に触れればすぐさまデータに還元され、願いを打ち込む前に分解されてしまう、と。彼の生前を少し語るとすると、わざわざ戦場に行って治療行為を施す様な奇行が目立ったとか言われてますけど、戦争を憎んでいたとか言われていた20世紀末に功績を残した人物であるとも言われています」
「トワイス……あの、トワイス・ピースマン」
彼の名はハッカーたちにとって始祖とも言える存在だ。キリスト教で言う聖書の神、仏教でいう釈迦牟尼仏陀。偉大なる先駆者その人を目にすることは、ハッカーたちに少なからず衝撃を与える。
「ああ、戦争を憎む。確かにそのような記憶と一致するのかもしれないし、私はそれに共感している。それは均一な社会を作るために戦争を起こすハーウェイに対しても同じ憎しみを抱いている事から、差異はないと受け取ってくれて構わない」
「……とまあ、このように僕も試練は受けなくてはならないらしいです。僕もそれ以上を話す前に、貴方たちが此処に来た。……この意味、分かりますよね?」
レオの背後が揺らぎ、白銀の騎士が現れた。
直剣を持ったガウェイン卿。太陽の出ている間は聖者の数字に比例した強さを手にし、日没を狙ったランスロット卿に殺されるまでは無敗と無敵を欲しいがままにしたアーサー王の右腕。
「聖杯戦争はまだ終わっていない。ハーウェイか、はたまたレジスタンスがこの場で生き残った時に、私はまた君たちへの選定を始めよう」
トワイスは立ちあがると、柏手をうった。
瞬間、サーヴァントを持つ者たちを覆う普遍の壁が彼らを取り囲む。消滅の波動を隠そうともしない敗者へ与えられる壁は、しかしそこに留まるのみで挑戦者たちを捕えたままであった。
「とりあえずは僕、対あなた方という方式になるそうです。僕が彼の言うがままにルールへ服従する事は少しばかり面倒ですが……」
「御託はどうでもいいんだよ。なぁ、マスター。此処は俺にやらせてくれや」
「ランサー!?」
赤い槍をクルクルと回し、構えを取ったランサーが一歩前に出る。獰猛な獣の様な眼光はガウェインに向けられ、いつ戦闘が始まっても対応できる体勢へと移行していた。
「名高き円卓の騎士。そんでもって終幕と来たもんだ。与一の野郎は分が悪ぃし、バーサーカーはこんな閉所で暴れさせらんねぇ。適任だろ?」
「オレらは無視か、そこの青色」
「テメェらは戦力外通知ってやつだ。大人しくベンチで待ってな」
啖呵を切ったランサーが気にいったのか、ガウェインは正眼に剣を構えて待っていた。
「赤枝の騎士、クー・フーリンとお見受けした。ここはいざ、尋常に勝負を挑みたい」
「テメェをぶっ飛ばす日が来るのを待ってたぜ。聖杯を目前にってのも風情があって悪かねえ。本気で楽しませて貰う」
「ガウェイン、相手の宝具は恐らく加護を打ち破ります。お気をつけて」
「はっ!」」
「ランサー、大口叩いて此処で負けんじゃないわよ。ここまで来た意味が無くなるから!」
「誰に向かって口きいてんだ。マスターの召喚した最強のサーヴァントだぜ?」
佇む二傑を、トワイスと呼ばれた男は冷めた目で見下ろしていた。この戦い、どちらのマスターも既に選定には相応しくない。トワイスの中では聖杯に願いを託すべき力の持ち主は、既に決まっているのだ。
あのラニと呼ばれたマスターは次第点、綾乃は特別を有さない一般人故に、この豪傑が集う地には余りにも不必要。だがアンリは? そう聞かれれば、トワイスは首をかしげる必要性が生じる。
トワイスにとってアンリとは、異邦人である。
英霊としての法則はこの世界の者たちと似通っているが、根本的な発生起源は完全なる別物。それゆえ快楽的に生きているとも思えれば、他人を思いやるような殺し方をして笑みを浮かべる異常者。自分と同じく命の数には価値を見出していないようにも見えるが、誰よりも自分と同じで虚無を抱え込んでいる。
賭けるなら、ラニの方が圧倒的に扱いやすいだろう。だが、あのアンリ・マユという悪神はいったいどうだろうか。全てが測定不能で、最弱をほしいままにする下剋上の存在。
「彼に願えば、いいのだろうか」
だがトワイスの魂は人間とはかけ離れている。精神は人間のものをコピーした紛い物で、肉体はこの世界にしか存在できない0と1の集合体。何時か言っていた「人間の願いを全て聞き入れる」という性質は、きっと己には適用されることは無い。
「…………」
ランサーとセイバーが武器を交えながら、人間にとって圧倒的な力を見せつけている。しかし、トワイスの精神はそれらを見て冷めるのみ。どちらも相応しくない願いを持っているのに、如何にして彼らを勝者と認められようか? 答えは否である。
この退屈な演武に早く終わりが来ない物かと、余分なマスターたちが消え去り、最後の選定を行う時が来ないかと、トワイスは願わずには居られなかった。
そんな彼の願い通り、唐突に終わりは訪れる。
「グッ…!?」
「流石だぜ、セイバー。これまでの相手なんざ霞むほどの戦いだ!」
「余裕だな、ランサー。驕りは死に直結するぞ」
「驕り? 違うぜ、これは高揚だ!」
ランサーの槍が振るわれ、神速の連続突きがガウェインに降りかかる。雨のように避け用の無いそれらに的確に対応し、ガウェインは大きくないできた一撃を受け止め、正面から受け返すことでランサーを大きく仰け反らせた。生じた隙はあまりにも馬鹿馬鹿しい程で、簡潔な事実。
その太陽を冠した剣を振るおうとガウェインが剣を振りかぶった所で、ぼそりと呟く声がランサーから聞こえてきた。
「
無理な体勢のままで、確かに槍の切っ先はガウェインに。
「ッ! 令呪を以って命ず、避け」
「
朱塗りの魔槍は騎士の胸を貫いた。
ちょっと無理があるかと思いましたが、そうでもなかったと思います。
更新遅くて申し訳ありません。ちょっとこのあつさでパソコンに向かう気力が無くて、プロットだけは最終回まで出来上がるという……