Fate/deep diver ~天月の逆杯~ 作:マルペレ
ならば激突させよ 互いの信念を
此処のところ、空気が随分とそれらしくなってきたと感じる。と言っても、その「らしい」雰囲気を漂わせ始めたのはほんの数人程度。顔色が悪い者や、狂ったように笑っている者。反応は様々だが、確実にすれ違う数人には「死の雰囲気」を感とることができる。
大方、アリーナで遊び感覚で相手のサーヴァント、もしくは相手マスターを葬ったのだろう。実際に4,5人分の参加者カウントが減っており、わざわざ校内放送で言峰の声が響き渡ったほどである。
だが、それでも遊びの様なヘラヘラとした空気を放っている人物も多く存在する。我らがアンリ・M・巴もあえて、という言葉がつくとは言えその中の一員であるが、殺しに関しては覚悟を持った他マスター同様だと自負している……と言えば自惚れが過ぎるか。
対戦相手の表が貼り出されている掲示板を見て、既に真っ黒に染められたトーナメントの最下層を見て溜息が出る。来るべき決戦までたった三日、されど三日。その
「おや、あなたは……」
さて、部屋にでも戻るか。そう思った矢先に、声をかけられた。
会えないときは会えないもので、ここ数日姿を見ることも出来なかった王者の風格がある人間。この非現実で己と言う存在を確立させている「個人」。そんな彼の名は、確か―――
「こうして対面するのは初めて…になりますね。僕は“レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ”。以降、お見知りおきを」
「おう、こりゃ御丁寧にどうも、っと。こっちは“アンリ・マユ・巴”だ。よろしく」
「よろしくお願いします」
すっと右手を差し出すと、意味を分かっているのかいないのか、しっかりと握り返してくる少年、レオナルド。その背後には、白銀に身を包んだ騎士が控えていた。
「……へぇ」
「ああ、ガウェインですか? 僕とした事が失念していました。ガウェイン、挨拶を」
白銀のサーヴァントが一歩前に進み出、一礼。
「従者のガウェインと申します。貴方は随分……いえ、差し出がましい真似でした。申し訳ありません」
「いんや、別に」
真名を隠すことなく、レオナルドのサーヴァントたる彼も挨拶を返してきた。だが、やはりサーヴァント。こちらの「存在」に含む事があったのだろうが、余計な詮索はレオナルドの意志に反すると考えたのか、詮索を控えたようである。
それにしても、ガウェインと言えば有名なのが「ガウェイン卿」の名前。アーサー王の円卓の騎士のひとりとしても、アーサー王の片腕としても名を馳せ、彼にまつわる逸話も他の騎士に比べて多く存在している。この聖杯戦争で相手にするとなると、朝から正午までその力が三倍になるという効果と、エクスカリバーの姉妹剣でもある伝説の「ガラティーン」という剣が厄介になるだろう。特性がそのまま反映されていたとしたら、正に無敵の存在だ。
「それでは貴方も準備に忙しいようですし、この辺りでお暇させていただきますね」
「戦場であった時が楽しみだ。あーっと……まぁ、まだまだ
「……レオ坊……いい、かもしれませんね。中々に新鮮な響きがあります」
少し面食らったようではあるが、すぐさま態度を改める。その様子にアンリも笑みを浮かべた。
「そりゃ良かった。んじゃ、また」
「はい。またお会いしましょう」
礼儀正しく一礼。周囲のどんよりとした空気を切り裂くかのように、彼があるいて行った先は高潔で正常な空気が流れているような錯覚がある。実際、そう言う訳でもないのだが、ガウェインという最大級の英霊がいることもこの空間に影響を与えているのだろうか。
そんな事を考えていると、背後から覚えの在る気配が一つ。
「……あなたねぇ、確かに年齢は子供とはいえ、あのハーウェイを坊や扱い? 呆れた。ある意味大物よ、貴方も」
「おや、遠坂嬢。見ていらしたか」
額に手を当てて登場したのは凛だった。アンリの正面に歩いて回りこむと、挑発的な彼の声を聞いて喘息。腰に手を当てると、いつもの調子に戻って口を開く。
「何よその喋り方。それにしても、あなたアレと知り合い?」
「いや? 予選の扉くぐる前に隠密を気づかれた程度の仲だ。会話したのは初めてだな」
「…そう。まぁ、
「ふむ、そうさね―――」
視線を斜め上にずらし、天井の角を見る。
腕を組んで絞り出したように、彼は言葉を紡ぎだした。
「……未熟な、王子サマ?」
「み、未熟!? アレを見て未熟っていうの!?」
「いや、未熟だろ。少なくとも、オマエさんより幼いっつぅ時点でまだまだ“完璧”の先は長い筈だ。アイツ自身、完成されていないように感じているようだしな」
「……はぁ、古臭い考え方。いつか足元すくわれるわよ?」
「そりゃ面白い。残り十本くらい残ってる足は大事に取っておかねえとなぁ」
あっそう。とアンリから視線を外した凛。そして確信する。こいつは天性の馬鹿だと。
その瞬間、彼女の中のアンリに対する危険度は最高値を示した。馬鹿であると同時、こいつはそれだけの事を言える実力か、はたまた戦法だか、「
こちらに来たときのように、自然な動作でくるりと身を翻し、彼に背を向けながら彼女も遠ざかって行った。
「ま、あなたなら一回戦は余裕そうね。こんなのと当たった間桐くんが可哀そうで仕方がないわ。……油断さえ、しなければの話だけど」
そう言った途端、自然と口から出る言葉が相手への助言じみている事に気づいて失態を犯したと自己嫌悪に陥る。敵に何を言っているんだと
「お人よし。心の贅肉にご用心っ! てぇハナシさね」
凛に聞こえるか聞こえないか。そう言って喉の奥を鳴らした彼は、するりとその場から消え失せる。……そうして消えた彼のいた場所を、見つめる瞳は二つほど揺れていた。そえは、幼く儚い妖しげな瞳。
「みーつけた。あたしと一緒だね、お兄ちゃん」
マイルームに戻って数時間。ふんふんふーん♪ と、キャスターのいる方向から楽しそうな声が聞こえてきた。どうしたのかと図書館から
「あ、ご主人様」
「……なんだ、そりゃ」
「手編み、というものに挑戦しているのですっ。生前も前に現界した時も、こう言った余裕のある時間といった娯楽がなかったものですから、この機会に“ご主人様へのプレゼント”という意味も兼ねておりまして」
「ありがたいが……また急な」
「思い立ったが吉日ですよ~♪」
会話をしながらも作業を続ける彼女は、やはり他のサーヴァントと比べるとサーヴァントらしくない。いずれにせよ戦う意義を持っているのだろうが、その時と日常のギャップがほとんどないのだ。切り替えのスイッチというものがイマイチ探しづらい、という表現が適切だろうか。
サーヴァントと言えば。そこでアンリが思い出したのは夕暮れ時の現在時刻。アリーナが解放される時間帯になっているという事が脳裏をよぎる。つまりは、(探索の)御誘いをキャスターに掛ける事にした。
「あ、もう少しで難しいところがひと段落つきそうなので、図書室で時間を潰してきてもらえますか? ほんと、後ちょっとなので……」
「あーい、まむ」
主人に対して随分ずぼらな反応だなあ、という親しみやすい感情を抱きながらも、了解の声と共に玄関の扉へ向かう。余談だが、この部屋の扉は外側から見れば一般的な教室のそれだが、内側は竹製の風流溢れる逸品である。玄関周りが石造りなのもそれなりに雰囲気があるだろう。
「んじゃ、終わったら念話な」
「了解しました。行ってらっしゃいませ、ご主人様」
言葉は丁寧なんだがなぁ。などと、キャスターがこちらに一度たりとも視線を寄こさないことに若干の寂しさ感じたアンリは、少し歩幅広めで図書室に向かう。コツコツと道行くマスターたちの顔色をうかがい、一部が発しているマイナスの感情を吸いこみ、彼らを気分爽快にさせながら図書室に悠々と向かう。突然もやが晴れたような感覚に陥った事で混乱している他マスターに対し、心の中でごちそーさまと呟けば、目の前には図書室の扉。
開けようと取っ手に手を伸ばした時、内側から出てきた人物とぶつかってしまった。
「くそっ、なんなんだよ……って、お前!?」
「あーらら、またタイミングの悪いこって……」
ぶつかった人物はアンリが誰なのかを理解した途端、憎々しげな表情を浮かべて睨みを利かせる。殺気の無い、怒気しか孕んでいない視線を軽く受け流したアンリは、その彼に向かって口を開く。
「で、そんなに急いでどうなさいました? 対戦相手の慎二殿」
「馬鹿にして…! ふん、まあいいさ」
「?」
「僕の情報は
慎二が腹を抱えて笑う様は、こちらを小馬鹿にしているとしか思えない態度。残念ながら、そう言った嘲笑や中傷の類に関しては、新たない人生の中で何度も浴びせられているので挑発としての効果は為していないのだが。
そんな思いから憎しみや敵対意志が通り越して一転し、逆に微笑ましいものを見る目になったアンリが気に入らないのか、ぴたりと馬鹿笑いを止めると、不機嫌そうに図書室のドアを閉めて彼は立ち去って行った。そして、慎二の姿が見えなくなったころに、彼はぽつりとつぶやく。
「……探す手間、省けたなあ」
≪ご主人様、こちらの準備整いました。いつでもオッケーです≫
「はいはい。んじゃアリーナ前まで来てくれ。アリーナで情報ゲットの可能性が出てきた」
≪またあのワカメですか。分かりましたっ!≫
ぶつん、という比喩表現を心の中で思い浮かべて念話をカット。
さて、自分もアリーナに赴こうと振り返ると、背後には黒い何かが聳えており、引く事も出来ずに正面衝突。うわばっ、と情けない声で突っ込んだ物に文句の一つでも言おうかと上を見上げれば、そこにはうつろな表情の神父がいた。
「ありゃ、失礼」
「構わんよ。…それより、一回戦目の第二層が解放された事に気づいているか?」
「えーと」
端末を呼びだしてみると、確かに通知が来ていた。着信は今日の朝早くであったことから、見逃していたのだろうと神父は補足する。アンリ自身、あまり端末の画面を見る機会が少ないので、正に図星を突かれて苦い表情になる。
「そう硬くなるな。今回解放された
「バレてたか」
「セラフは認めている。戦うマスターと言うのも良いではないか。少なくとも、私は祝福するがね」
どの顔が祝福か、という言葉には神父たるものうんぬんと「それらしい」言葉で返答する似非神父。それからしばらくの会話を楽しんでいたものの、その去り際に思い出した事を彼に伝える。
「そうだ、言い忘れていたが……システムの管轄外ながら、教会にマスター以外のイレギュラーが二人ほど紛れ込んでいた。勝手が違うとはいえイレギュラー同士、通ずるところもあるのではないかな? 君の興味を引くようであれば、行ってみると良い」
「…そうかい。運営お疲れさん」
「何、
そう言い残し、彼もコツコツと足音を響かせていった。
「……そういや、キャスター待たせてたか」
彼も長話で忘れていた事を思い出し、アリーナ入口に急行する。その日限りである物の、図書室入口の発する異様な雰囲気に近づきがたいマスターが増えていたとかいないとか。
「悪い、待ったか?」
「いえいえ、今到着したところです!」
「嘘乙」
「あうっ」
テンションの上下が激しい奴だと、軽めにポンと叩いてアリーナの扉を開ける。
空間転移の先には、第一層とは一線を凌駕する光景が広がっていた。沈没した船の残骸、そしてもくもくと活動している海底火山の脈動する姿。まるで、誰かが抱いている深海の神秘やロマンが詰まった心情風景を映し出している。
もちろん、その心情は自分たちに当てはまらないのだけれど。
「くん、」
突然、隣のキャスターがすんすん、すんすんと鼻を鳴らす。そして見つけた、と呟いて気を張り詰めた。
「ご主人様、奴らの匂いです。尻尾にピリリと来る殺気を放っていますし……このまま帰還するとしたら、不意を突かれるかもしれませんし、突かれないかもしれません。
――どうなさいますか?」
真剣にこちらの意見をうかがう彼女に、答えは一つと彼は頷いた。
「出会えば迎え撃つ。その前に、さっさとあいつらの隠した
「了解です。では、先にこちらの陰険な匂いの方へ行きましょう」
「…先導任せた」
「はいっ」
此処に来て、初めて彼はサーヴァントを前に、マスターは後ろという構図を採用する。道中にあった仕掛けやエネミーを根こそぎ片付けながら、時には遠隔、時にはキャスター任せで転覆した船の残骸の傍まで移動する。慎重に匂いを辿って来たからか、まだ慎二たちと合流する事もなかったが。
その道中、しかし、とアンリは辺りを見渡した。アリーナとして歩ける場所は限定されているが、その広さはサーヴァントが争うに十分なもの。さらに通路の緩急は要所要所が戦闘の際に有効活用、あるいは邪魔になりそうな配置がされている。こうした地形を把握することも、マスターやサーヴァントに必要なのであろうか。緊張が続くからか、息抜き代わりにそんな事を思ってしまっていた。
そんな時、ぴたりと彼女の足が止まる。匂いの追跡をやめ、何やらいつぞやの遠坂嬢の如く壁をぺたぺたと触っていた。ある壁の前でふむ、と考える仕草をすると、アンリへと向き直った。
「…ご主人様、ここ隠し通路になってますね」
「壁みたいだが……おぉ!?」
「ほら、この通り通路ができました。セラフの遊び心という奴でしょうかね」
得意げに言う彼女は、現状かなり頼もしいと思う。そうして評価がうなぎ上りにしながら隠し通路を進んでいくと、これまた「いかにも」な宝箱がデンと置いてあった。真っ先にそれに近づいた彼女が手を当てると、パキンと何かが砕けた音が響きわたる。
同時に宝箱からは何やら赤っぽい煙が立ち上っていたが、構わずにキャスターは箱を開いた。
「オープンセサミ」
「開けゴマで良いだろ」
「おぉ、ありました。ぼろっちぃ手記のようですが」
「どれどれ……」
ざらっと目を通すと、真っ先に「黄金の鹿号」という文字が目に入る。手にした時にデータがぶれた様なノイズが奔っていたが、おそらくは慎二が破壊しようとしたが、出来なかった名残だろうと予想を述べる。話半分に聞きながら内容に目を通したアンリは、手記が航海日誌である事を確認するとパタンとそれを閉じる。
「キャスター、この煙は…」
「合図でしょう。匂いからして、もうすぐ奴らが来ますけど……」
「迎撃準備」
「了解です」
ジャッ、と刃を握りしめたアンリの隣で、キャスターは鏡を呼び寄せ展開する。
その十数秒後、古ぼけ難破した甲板の上には息を切らした慎二と、その後を悠然と歩いてくる敵サーヴァント…アーチャーが姿を現した。互いが互いに殺気をぶつけ散らせながら、息を整えた慎二が口を開いた。
「随分と必死じゃないか、え? そうでもしないと、僕には勝てないっていう事が浮かび上がったんじゃないのかい?」
「そんな事ないですー。ウチのご主人様はワカメごときが敵う相手じゃないですから」
「ハッハッハ、言われちまったなシンジィ? ワカメだとさ!」
「笑うな! 便乗するな!! お前はこっちのサーヴァントだろう!!」
ムキになって己のサーヴァントを叱責する慎二。だが、その言葉にも彼女はケラケラと笑うのみ。銃を構え直すと、その視線をアンリたちへと映す。
「ふんふん、そっちは準備万端ってトコかい。さて、指揮官殿? アタシに合図をおくれよ。報酬分はきっちり働いてやるさ」
「チッ、言われないと何もできないのか……まあいい、
ダダダン! と激しいマズルフラッシュが弾け飛ぶ。返答代わりに笑みを浮かべ、第一射撃を行った彼女は、そのまま中距離を保ちながら円を描く様にアンリたちへ雨を降らせた。一歩を踏みしめるたびに砂利が弾け、それらは舞い上がって彼女が威風に満ちているかのような錯覚を作りだす。だが、そこで呑まれてしまえば勝負は終わり。キャスターはまず、そんな彼女に向かって追跡の符を数枚解き放った。
それこそ、最初はタップダンスのように避けていた彼女だったが、札が離れずと分かるとすぐさま引き打ちを始める。同時に接近を許していたアンリを射線上に置くと、正確に札の中央を打ち抜いた。途端、込められた魔力が暴走して小さな呪術の炎が戦場に走る。火の子の合間を抜け、アンリが札代わりに追い打ち。ようやく振り下ろされた第一打は、ライダーが操る銃の峰に受け止められた。金属部位同士が鍔迫り合いを起こし、人を越えた力同士がぶつかり合って火花を散らしている。
「あんた、技術が無いねえ。やることが力任せだ!!」
「残念だが、無才の身でなぁっ!!」
皮肉と剣舞の応酬。軽めに精神と肉体の叩き合いを続けると、須臾の後にアンリが二本の刃を束ねて横払いをかける。ヒットの瞬間に軽く銃を震わせたライダーが上体を伏せると、刃が弾かれると同時に無防備になったアンリの懐へ伸ばした銃口を押しつける。一点集中して撃ち抜こうと引き金に力を込めると、間一髪、キャスターがアンリを引っ張って地面に叩きつけた。
「ぐっ…」
「申し訳ありません、ご主人様!」
「アハハっ、愉しいねえアンタ達!」
ライダーは笑いながら、空を切り裂くに終わった銃弾に名残もつけず、すぐさま下に狙いをつける。だが、今度は引き金に力を入れる間もなく、跳ね上がったアンリの蹴りをもろに腹へと叩きこまれ、苦悶の声とともに後退する。その勢いのまま剣を振りおろすと、射程圏内にいたライダーには刃が迫り来る事となった。銃が壊れることを承知でそれを縦に受け止めると刃が木製の部位に食い込み、装填されていた火薬が暴発。爆風を散らして両者を遠ざけることになった。
第三者の位置で見ていたキャスターは、これは好機とノーモーションで鏡を打ち込む。空中で受け身のとれないライダーはサンドバックよろしく腹への二撃目をくらい、アリーナの壁へと背中からぶつけられる。重力に従って壁からはがれると、余りのダメージに膝から崩れ落ちてしまう。
そこへ、アンリの投擲した武器とキャスターの鏡が同時に向かい―――
「くそっ、行け!」
突如、歪んだ空間へ入って勢いそのままに戻される。二人は急ぎ武器を制御化に置くのだが、声の聞こえた方へ視界を移動させると、そこには、正にマスターらしくサーヴァントの
「先に、潰す」
思考を切り替え、先にマスターを仕留めにかかったアンリ。だが、慎二はと言うと、危機が迫るというのに今までの様な怯えた表情が無い。まさかと背後を向くと、巨大な大砲の口が彼の方向を―――
「
「ご主人様―――!!」
ライダーの指示で、続けざまに高速の砲弾がアンリへ襲いかかる。キャスターが此方に投げた符がある程度の障壁を作り、何発かの玉を防ぐもそれだけで崩れ去ってしまう。万事休すは己であったか。失態を悟った彼が衝撃の緩和のためにどろりと体を溶かし始めたところで、……終わりを告げるラッパは鳴らされた。
赤い防壁が薄らと現れ、チャンスも雰囲気も戦闘も勝機も、その全てを
無防備な慎二ならばどうか、そう考えて彼の方を振り返ったが、同様に赤い壁がこの場の全員を守護するように展開されているだけ。助けられたが、新しいおもちゃを取り上げられたようだ。そんな、複雑な心境のみが戦闘の後に残される。
「なんだ、最初はやるかと思ったけど結局はセラフに助けられたな。……戻るぞライダー。お前がそんなんだから仕留めそこなうんだよ」
「ハッ、…こりゃ効いたよ。肩のコリも…アンタ達のおかげで消えたみたいだ……」
「軽口叩けるぐらいなら、早く戻ってこい!」
あれだけの衝突があった後だ。当然息も絶え絶えのライダーに、激しい慎二の叱責が飛ぶ。そんな彼女が腹を押さえ、多少ふらつきながらも慎二の近くに移動すると、慎二はこちらを見下したように言い放った。
「前線に出るばかりで、お前はやっぱりマスターには程遠いよなぁ。だから、僕に簡単に状況を覆されるんだよ。あはははははははっ!!!」
笑い声を反響させながら、慎二はライダーと共に姿を消した。どうにも悔しいものがあるが、慎二の言っている事は概ね正しい。まったくと言っていいほどサーヴァントの魔術的補助が出来ないアンリは、正規のマスターとは程遠い存在だからだ。
とはいえ…
「あんな輩の言うこと何て気にしない方が良いです、ご主人様。へっぴり腰のアレと違って、ご主人様は私と肩を並べて闘ってくださっているのですから」
あの負けワカメめ、と言ってくれる頼もしい仲間がアンリの元に居ることは確かだ。
「……さて、勝つぞ」
「勿論ですとも。次は反撃なんてさせやしません。それに、今回も大怪我を負ったのは無効だけですしね」
「はっ、頼もしいこった」
慎二の言うことも尤もであるが、現実では確かにその通り。ライダーを完全に押せていたことは確かで、慎二が一度しか戦闘に介入していないことにも今回の戦績が色濃く反映されている。不意打ちや手の内はそれなりに整った。後は、校舎に戻って解析を続ければいい。
すでに起きた事は、過去の事としてしっかり反省する。そうして誓いを新たに、勝利と誓うアンリなのであった。
最初のキャッチコピー(?)、どんどん厨二化しています。それが狙いですがね。
これだけがっつり戦闘書いたの、ほんとに久しぶりです。他の作品でも最近日常ばっかりですし。
それでは、長々とお疲れ様です。
適度な休憩とオレオ、それからアンバサで体を癒してください。