Fate/deep diver ~天月の逆杯~   作:マルペレ

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流されるままに生きてきた。
不確かな生は、ここにきてその意味を掴もうとしている。


Marionette LIFE

 今日も今日とてヒント探し。別に情報を集めなくても戦えるような気がしないでもないが、せっかく変幻自在な体を持っているのだから死因になった武器や何かでもっと有利に戦ったらどうでしょう、などというキャスターの提案を受け、今日は図書室に籠る様な午前中を過ごしていた。

 ふと端末の右上を見ると、ゴシックフォントで10:23が表示されていた。パタン、と本を閉じると溜息一つ。

 

「どうにもなぁ」

 

 近くの椅子に腰かけると、息抜きに週刊誌に目を通し始めた。

 どうしてもあと一歩の核心に迫れない。もう一度、端末にまとめた手記の内容を見てみると、その内容は世界一周の航海記録であった。ここまでくれば、相手の正体はマゼラン一行の中にいた誰か、ということになるが、その中から英霊になれる人物と言えば船長マゼランと、彼がラプ=ラプ王に殺されたせいで途中から代理船長となった親族や、ちらほらと名前の出てくる「ピガフェッタ」位しか思いつかない。

 だが、この航海日誌は世界一周ではある者の、ほとんど最初から「強奪」の歴史が描かれていたのだ。掠れ切った日付が「いつ」を表してはいるものの、何年に行われたかなどは当然ながら書かれていない。しかし「マゼランの強奪行為」、と言えばフィリピン辺りで武力をちらつかせ始めたのがきっかけであり、最初はキリスト教の布教や祖国ポルトガルとの国交を主にしていたのだ。最初から強奪行為が書かれている航海日誌など、正に「海賊(パイレーツ)」の足跡ではないか。

 

「……無敵艦隊は敵側、となるとやっぱこの時代のポルトガル側。銃を愛用は、それなりに掛ける金を持っていたって事か。……はぁ、カバディの国際ルールでも見るか」

 

 考えすぎてもに詰まるだけで泥沼状態にはまるだけだった。口直しにスポーツ雑誌を手に取ろうと立ち上がると、自分同様にこの場にはおおよそ似つかわしく無い姿がちらりと見える。上の方にある本棚に手を伸ばそうとしているが、身長がギリギリ届いていない。そんな懸命な姿に微笑ましく思いながら、彼は手をヒュッ、と振った。

 手の先から生まれ墜ちた黒い鳥を羽ばたかせ、その「少女」が取ろうとしていただろう本を彼女の目線まで持っていかせる。無事に本を受け取った事を確認すると、黒い鳥は再びアンリに向かって飛翔し、体内に帰還する。

 

「ありがとうお兄ちゃん。さっきの、どうやったの?」

「どーいたしまして。ま、さっきのはオレが飼ってる(・・・・)魔法の御供さね」

「お兄ちゃん、魔法使いなの!?」

「くはははっ、この変な模様がその証さ」

 

 先ほどの少女は彼の鳥の後を追い、アンリの元までかけよって来ていた。

 そして、彼がちょっとした冗談を交えて笑えば、少女は凄い凄いと笑顔を見せる。きっと、彼女もマスターの一人なのだろうということは彼にも分かっている。だが、敵対しているわけでもないし、彼自身にとって、子供の笑顔は動力源の一つだ。周囲の負の感情を集めるよりもよっぽどいい、とは彼の談であるが。

 

「じゃあ魔法使いのお兄ちゃん、ご本よんで!」

「はいはい、仰せのままに御姫様(プリンセス)

 

 互いに名前も知らない赤の他人。だけど、こんな日があっても良いじゃないか。くっ、と笑った彼は、彼女から手渡された本をゆっくりと朗読し始める。その題名(タイトル)は「不思議の国のアリス」。

 これも導きなのだろう。考えすぎてダイヤのクイーンの様に判断を誤るな。いやはや…実にロマンチック! それでいて、何ともおとぎ話らしいではないか。

 

「ではでは、読み語りを始めましょう。

 ―――第1章/ウサギの穴へ落ちて(Down the Rabbit-Hole)……」

 

 感情を込めて、この時だけは俗世を忘れよう。

 語り終えれば現実が待っている。それまでの猶予期間(モラトリアム)にも丁度いい。忘れがちだが、自分の身はサーヴァント。人に仕え、尽くし、願いを叶えることこそ我が悲願なり、なんて。

 

 それから、読み進める事数時間。おしまい、という声を最後に彼は本を閉じた。

 

「ばいばい、またね!」

「気ぃつけろよ“ありす”、怖~いおおかみさんが周りにいるかもしれねぇからな」

「嘘つきの男の子がかわってくれるもん、いいの!!」

 

 手を振りながら元気よく走って行った彼女は、途中で完全に姿を消した。昼食時で皆が購買部か自室に居るため、その様子を目撃したのはNPCと自分だけだったが、不思議な奴もいるもんだと、その異様さを彼はそれで納得してしまった。

 探る必要などない。ただ笑顔を振りまく 不思議(ミステリアス)な子供。それでいいではないか。彼もつられて笑みを浮かべると、上機嫌に自室へ戻って行く。

 ―――今日は良い事あるかもな。

 

 デスゲームに参加しているというのに、そんな見当違いなことを携えて。

 

 

 

 そして昼食後、アンリは正座でキャスターの前に座っていた。彼女の普段が正座なだけはあって、同じ体勢だというのに伝わってくる気迫と言うか、後ろの方にスタンドしているオーラと言うか、大体そんな感じの者が彼女から発せられていた。

 まぁ、言わずもがなその理由は先ほどの少女との戯れ。しかもマスター相手に何をしているのだということで、彼がこうして怒られているのはサーヴァントにとって当たり前の事であった。

 

「いいですか、ラインを通してあの子が無害だったのは分かりましたが、こう言った軽率な行動が後に響く事もあるのですよっ。それをあんな七色の声で本を読んで、その内容を一々宝具まで使って再現して楽しませるなんて――羨まっ……こほん、なんて軽率な!!」

 

 存外に早く剥がれ始めた面の皮に、流石のアンリといえど苦笑いしかできないのだろう。頬をひきつらせた視線を彼女に送っていた。説教し始めたのはキャスターからであるが、早々に欠点を発見されたことで会話の主導権が移ると危惧したのだろう。早々に、彼女は話題の転換を図った。

 どうやら、少々間抜けな(ダイヤ)のクイーンは彼女の方であったらしい。

 

「そ、それはともかくご主人様? 情報の方はどうなりました?」

「声引き攣ったままだぞ……ま、今はじっくり考えてるさ。これからどうするかは、とりあえずアリーナの方にでも行って考えるとするさ」

「悠長というか、気楽というか……らしいと言えば、そうなんですけども」

「反対意見がなけりゃ、さっさと出発!」

 

 ほらほら行くぞ、と背中を押して外に出るとキャスターは即座に霊体化した。突然押すという感触が消えたことで前のめりになったが、足を出して倒れないようにバランスを取る。

 

「オイコラ」

≪ふふ~ん≫

 

 ったく、などと溜息付きで行動を開始したアンリがつかつかと階段を下りていくと、その横を慎二が通りすがって走りぬける。息を切らしてまで校内を走り抜ける様子は鬼気迫るものがあり、アンリは声をかける間もなく彼の走って行った方向を見つめることしかできなかった。

 追従して巻き起こった風に髪を煽られる彼の傍で、キャスターは疑問の声を上げる。

 

≪あれ、魔術使ってたみたいですね。しかもあんな大胆ってことは、ムーンセルに感づかれても気にしないレベルでしたよ。何を考えているのでしょうかあの海藻類は≫

「さて? 預かりしらねぇところで何かやってんじゃねぇのか。万能のSE.RA.PHだって全能じゃない。その辺を逆手に取るのが魔術師(ウィザード)のやり方だろう?」

≪昨日の戦闘中のタイミングは見事と言わざるを得ませんが、あれだけのハッキングが出来るハッカーにしては、今回は胡散臭いところがありますねぇ……ご主人様、学園側でも注意を怠らぬよう≫

「あいよ」

 

 軽く答えるが、これこそ彼の通常運転。どこまでも気楽で、楽観的で…それでいて、客観的に物事を観察する。

 とりあえず、扉までは何事も無くたどり着く事が出来た。さて、アリーナにでも仕掛けを張ったのかと思いつつ、手をかけた瞬間に激しい火花と共に彼の手は弾かれた。同時に出現する、先ほどまでは見えなかった薄桃色の厚い壁。来るもの全てを拒むようなそれは、確かにアンリをはじき出してしまった。

 

「なんじゃ、こりゃ」

「おや、今日もアリーナ探索かい? 流石、精が出るね」

 

 驚きの声に反応したのは、後ろから聞こえてきた声。

 振り向くと、先ほどまで走りまわっていたことで大粒の汗をかき、息を切らした慎二がいかにも余裕そうに立っていた。ならば、まずは息遣いを整えるべきだという言葉を根性でアンリは呑み込んだのではあるが。

 

「まぁ、昨日アリーナで出会った時の戦闘を覚えているだろう? ……これはハンデさ。君みたいな奴が僕と出会ったら、探索どころじゃなくなって離脱するしかないだろ。だから、君が僕と戦闘可能な場所で会えないようにしてやったんだよ」

「くははっ、よく言う。オレがトリガー持ってないって、分かっててやってんだろうに」

 

 そう言えば、慎二の顔が見下すような物に変化する。まだ、戦場への切符を手に入れていない対戦相手。その事実がどこか彼の笑いのツボにでも入ったのだろう。

 

「おやおやぁ、あんたはまだだったのか。これは悪い事をしたみたいだ……まぁ、本気の僕と正面から戦わないだけマシだと思っておくれよ」

 

 込み上げてくる笑いの感情を隠そうともしないで、彼は一人壁をすり抜けてアリーナの扉に入って行った。それからすぐ、他のマスターが扉に消えていくのを確認して、この結界は自分たちにだけ効果があるらしい、という相手の無駄に洗練された技術に勝てず、結界を通り抜けられない己のふがいなさから舌打ちが出た。

 とりあえず、アンリは慎二の仕掛けた結界に手を押しつけて腕力で破壊できないかを試してみたが、彼の手が指ごと焼け爛れただけで効果は無い。すぐさま新しい皮膚を造形すると、実体化して後ろから声をかけてきたキャスターから、一つの提案を示された。

 

ご主人様(マスター)、こう言う結界は、魔力溜りや中継を繋ぐタイプが多い筈です。この校舎のどこかに、結界を維持する魔法陣があるのではないでしょうか? あくまで、私の経験や意見に過ぎませんが」

 

 示された提案に、彼は頷きを持って返す。

 

「今はオマエの策ぐらいしか頼れるもんはないし、とりあえずそれで行くぞ。近くの奴らに慎二がどこに行っていたか、を聞けばもしかするかもな。その策、使わせて貰うさ」

「お役に立てたようで、光栄です。それでは早速、探索と参りましょう!」

 

 おー、と手を上に突きだした動作につられ、彼もまた便乗する。彼女もまた、真剣なのだか、陽気なのか、分かりづらいところはあるがアンリにとっては良いパートナーだ。これがもし、我儘ほうだいだったり皮肉屋だったりすると、こんなノリにはなれなかっただろう。別に、ディスっているわけではない。例えの話をしただけだ。

 

 

 

 一階にはあまり人は居なかったので、二階のマスターにアンリは話しかけていた。最初は渋りはしたものの、どうせ対戦相手じゃないなら、と彼は口を開いてくれた。

 

「慎二? それなら、朝方に自分の机で何かしていたのを見たけどさ……どうしたんだ?」

「まぁ、ちょっとな」

 

 不思議そうに首をかしげる男子生徒に一言感謝を述べると、教室の慎二の机に近づいてみる。一見何もないように見えたが、机の板に触れた瞬間、結界に触れた時と同じように薄桃色の呪符の様なものが浮かび上がってくる。根を張る様に魔力を吸い上げていることから見るに、これが結界の起点になるらしい。

 

「…お、魔力の連動はしてるのか。一階に通じてるな」

≪ちょっと意外ですね。あれほどの結界を維持するにしては、余りにも起点が弱弱しいかと思われます。私たちには関係ないんですけどねー≫

 

 では、と彼が再度起点の呪符が張られた魔法陣に手を伸ばすと、弾けた魔力が流れ込んできて脳に当たる部分に鈍痛が走った。御丁寧に、自爆トラップがついている仕組みらしい。

 

≪ご、ご主人様大丈夫!?≫

「ちょいと痛え。普通の奴なら脳みそ一時ショートだなこりゃ。……ま、泣き言いっても始まらん。次行くぞ、次」

≪はわ~、流石にお強いですねぇ≫

 

 呪符がはがれると同時に魔法陣も弾け飛び、おそらくこれでキーの一つは消え去ったのだろう。もう一つは、よくお世話になっていたあの場所の辺りに通じていたようだが、つながりがあったのはここと、その二か所のみ。動力潰したからもう行けるだろ、という気がしないでもないが、キャスター曰く片方は予備タンクの役割を持っているとか。つまるところ、二つともを破壊しなければならないのだ。

 続いて再び1階に下りたアンリは、真っ直ぐ保健室の方に向かった。偽りの十日間が流されていた当初、よく今の慎二の妹の役割(ロール)を果たしていた、間桐桜のいる場所である。彼がキャスターと出会ってからただの一度も保健室に行っていなかったのだが、元気にしているのだろうか。などと俗っぽい感情が表に出てくる。

 

「っと、あったあった」

 

 彼が近付くと、再び姿を現す呪符と魔法陣。根のように起点のプログラムから伸びる光の管は、その間も常に更新を続けていた。さて、早めに取ってしまおうと考えて手を伸ばすと、それは唐突に遮られた。

 勢いはあまりないが、途中までではなく限界までしっかりドアが開けられ、保健室にいた人物が出てきたからである。

 

「あ」

≪あ≫

「おや、丁度良かったようです。初戦の配給は此方になりますので、お納めください。本当は部屋まで訪ねて行こうと思っていましたが、手間は省けたようでなによりです……どうかしましたか?」

「あ、ああ……悪いな……」

 

 その人物、間桐桜は口を開けたまま固まっているアンリに何が起こったのかと不安になる。だが、その原因はしっかりと彼女が作り出していた。

 ドアをスライドさせた瞬間、よっぽど不安定な位置にあったのか魔法陣は呪符ごと消滅。ドアという間接的なものに破壊されたので、(NPCにあるかは知らないが)桜の脳から湯気が出るという事態は避けられたのだから。

 それにしても以外過ぎるであろう、というのが彼らの感想。何せ、役割上はといえど妹が兄の必死になって作ったものを無意識のうちに破壊してしまったのだから。ちなみに、最後までその事実に気付く事のなかった彼女は、一礼して保健室の中へ戻って行った。

 

「……まぁ、行くか」

≪なんでしょうか、このやるせなさ≫

「餌を目の前で取り上げられたライオン」

≪あー、何か宝探し見たいだって言って張り切ってましたしね≫

 

 少しバイオ癶ザードの謎解きに通じるものがあった、と言ってはしゃいでいたが、そんなアンリは意気消沈してアリーナの扉へ向かった。見た目以上に、その足取りは重かったという。

 

 

 

 アリーナ第二層。

 第二層は比較的広さがあり、そしてそれはダンジョンそのものの大きさにも関係している。それゆえに、普通なら迷宮の至る場所にいる筈のエネミーが、いつの間にか後ろで溜っていたり、そのまま襲われて脱落した者もいるという噂だ。

 中々に危険だが、先ほどの話はまだこの戦いを嘗めている者たちの話。その程度でダル楽してしまうというのなら、そのマスターの技量も運命もそこまでだったということに他ならない。現に、アンリ・キャスターの二人はなんなくそれらのエネミーを駆逐していた。

 ステップで彼が近付けば、細長い鞭の様な刃がエネミーを切り裂いて消滅させる。取り残した邪魔な障害物はキャスターの爆発する炎の札で全てを掃討。振り向き、すれ違いざまにハイタッチで健闘を称え合う始末。そして、このような隙を晒したのは、全ての敵性プログラムが消え去ったからに他ならない。

 

「流石に二回目だと、道も覚えてるもんだな。こっちの船の方にあの手記が在ったっけか」

「そして追いかけてきたワカメと磯女を返り討ちにしてやったと。ふふん、依然として私たちの方が有利のようですね。まぁ、不意を突かれないように情報を集めるのも大事なのですが」

「それはそうとして……」

「はい……」

 

 ぐるりと辺りを見回して、二人は口を揃えて行った。

 ―――いない。

 

 彼らがアリーナに入る前、慎二は確かに中に入って行ったはず。起点探しに時間もほとんどかかっていない。だが、アリーナで何をやっていた、という訳でもないのか。ライダー組の影も形も見えないのである。

 考えられるのは、先にサーヴァントだけをアリーナに放って散策させ、こちらの妨害をマスターが一人で行っていたという考え。学校であろうが、アリーナであろうが危険なこのムーンセルの中で、その行動がどのような意味を持っていたかはアンリの知るところではないが、いないということは何かしらの目的は果たしていたのだろう。加えて、サーヴァントには昨日の疲弊も残っている筈なのだから。

 

「普通に考えれば、アリーナでサーヴァントのヤル気向上を図ってたのかもしれませんが……」

「憶測にすぎねぇわな、アイツと会っても言葉のドッヂボールで碌に話をした事がない辺りが原因なのかね。アイツ、チョロそうだから情報もポロっと零してたかもしれんな」

 

 希望的観測に過ぎないが、と付け加えた彼は、視界の端に映った特徴的なボックスを見つけた。緑色っぽい半透明のボックスは、第一層でも見かけたトリガーが入っている事を表している。角の一つをポン、と叩けば不可思議な変形で中身を顕わにする。入っていた光球に端末をリンクさせると、第二暗号鍵(セカンダトリガー)入手のメッセージが表記される。

 

「挑戦権は手に入ったが……試練的な物も欲しいねぇ。こうも呆気ないと錆びちまう」

「えぇ~、私は楽できますしこっちの方が良いと思います。ほとんどあり得ませんが、英霊は受肉しない限り技能の劣化なんてことは起こりませんし」

「……なら、受肉するか? ちょっと黒くなるかもな」

「こんな表裏の無いまっさらな美少女に向かってそんな事を……」

「あー、うん。何かオマエの性格の根源掴めてきた」

 

 あきれ顔で頭を掻きながら端末を仕舞うと、キャスターを連れて奥にある転送陣へと向かった。どこか本当にゲームじみているダンジョンの仕様が再現されているこの聖杯戦争だが、こうして目的を果たした際に帰還しやすいという点は中々良い物だと考える。現実では、奥深くまでダンジョンに潜った際は元来た道を探るか、新たな開拓路を見つけるしかないのだから。

 未だにぐちぐちと喋っているキャスターを諌めながら、彼は緑の光の中に消えていったのだった。

 

 

 

「くぅ……」

「寝れるのか、羨ましいなゴルァ」

 

 アリーナから戻っておよそ4時間。

 嗜好品として取っている夕飯を終えてすっかり夜も更けてきた頃、ぐっすりと布団にくるまっているキャスターの横で、教室特有の広い窓から此方を見下ろす模造品の月。付きの中にある月を眺めながら、彼は肴を片手に酒を煽っていた。

 映る満月を水面に映し、丸ごと飲み込むように口の中へ流し込む。どこかであったような飲み方だが、月を呑み込む、などという大層な意味合いを持っていたような気がする。それを思い出そうにも、彼の記憶は時の波に流されてしまっているのだが。

 もうひとつ、口の中に残るアルコールの感覚を忘れぬうちにスルメを噛みちぎる。巴家に在住していた際は、一番オッサン臭いとマミに言われ、それ以来は実行できなかった晩酌だった。

 

「元気かねぇ。アイツも婿を取ったってぇ言ってたが」

 

 傍らに居る動く人形には、さぞ婿さんも驚いたろうに。そんな光景を思い浮かべ、独り笑ってまた一口。彼が最初に訪れたマミ達の世界で戦ってからというもの、この世界は彼の体感時間で十数年ほど経っていた。そして、彼は世界を救ったなどとは豪語しない。ただ、求められるままに戦ってばかりであり、その中に自分が世界を救ってやろうという気など、前口上の虚言の中にしかなかったのだから。

 しかし、今回は今までとは毛色が違う。

 

「自分の意志で勝ち抜いて、屍を踏み越えて聖杯へ到達する…ね。オレ、キャスター以外には邪魔っぽいよなぁ―――」

 

 誰に望まれているわけでもない。ただ、此処で殺されてしまえば御得意の不死身を発揮できずにエネミー達のようにポリゴンの海に流されてしまうかもしれない。だから、生存本能のままに戦っている。まだ誰も殺してはいないのではあるが、将来的に慎二を殺すことは確定している。

 己が勝ち抜く。その際に、多少の難航があるかどうかでしかないのだ。彼にとって。

 

 また一杯、器の月を飲み下す。

 はたして彼は、真にこの月を下すこと出来るのであろうか。

 

 決戦まで――残り二日。

 




みんな大好きあのキャラ登場。
彼女に反応したあなたは、ありすちゃんだ! と言う……

まぁその辺はどうでもいいです。
活動報告のアンケートはありがとうございました。
こちらを最優先で仕上げていきたいと思います。

では、ここまでお疲れさまでした。
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