隻腕の狼、テラに忍ぶ。   作:子犬

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 評価、感想ありがとうございます!



さよならはきっと遠くに

 

「ここも、違う…」

 

 狼が一人残り、レユニオンの部隊と交戦を開始してからしばらくして。離脱したジェシカは息を少し切らせながら廃墟の街の探索を行っていた。あれからどれほどの距離を移動したのかはジェシカ本人にさえ分からず、足を止めずに走り続けているうちに気付けば空間を満たしていた冷気が無くなり、背後で遠く響いていた戦闘の音も消えている。

 ジェシカは、最後に通信を行った際に取得していた位置情報の記憶を頼りにフロストリーフとの合流を試みていたのだが、もうすでに移動してしまっていたのかその姿はどこにもない。

 

 本来は端末を使ってフロストリーフとの通信を試みたかったが、肝心の端末はレユニオンのアーツの影響下を脱してからも使用することができず、今なお反応が一つも無かった。

 

「うぅ、確かにこの辺りなのに……」

 

 既に何棟もの建物の探索を終えているにもかかわらず何一つ成果のない現状に、ジェシカの内に焦りと不安が募っていく。しかし、辿ることのできる手掛かりが現状これしかないため、ジェシカは足取りを変えず次の建物へ向かった。

 

 続いて足を運んだのは、もとは服飾雑貨などを扱う店であったのだろう三階建ての建物。店頭の大きな窓ガラスは破壊され、店内も略奪にあったか、嵐が過ぎ去った後かのように荒れている。人の気配など感じないがもしかしたらと、ジェシカは外れかかっている扉を開けて店内へと進入した。

 

 それから一階部分を丁寧に探索したがやはり仲間の姿は無く、ジェシカは残りの上階部分に向かうため階段をゆっくりと、床板を軋ませないように上っていく。二階は居住スペースだったようで、少し狭い廊下に何枚かの扉があった。

 ジェシカは少しの緊張状態を保ちながら、端の部屋のノブに触れた。金具の感触、僅かに開いた隙間の様子、ブーツから伝わる床板の感覚などから罠の有無を探り、扉を開けた後はその開口部に銃口を向けながら弧を描くようにゆっくりと内側を覗き込む。そうして一部屋ずつ確認していくが仲間はおろか敵の姿すら見えず、気付けば二階で最後の一部屋となっていた。

 

 ここまでと同じように罠を確認し、開口部から内側を覗き込む。ジェシカは廊下から何も見えないことを確認すると一弾倉分も残っていない銃を構えながら、慎重に足を踏み入れた。

 

「―――ッ!?」

 

 その瞬間、ジェシカは頭上から迫る影を捉えた。どうやら廊下からは見えない場所に、隠れていた存在がいたようだ。咄嗟に両腕を交差させ防御を試みると、骨まで響く様な衝撃と鈍痛が腕を襲った。

 だが不意の攻撃を防ぎ反撃に転じようとしたのも束の間、今度は膝の裏に衝撃が走ったかと思うと視界が大きくぶれる。

 

「うっ…!」

 

 ―――まずい、倒された。

 ゆっくりと視界が流れる中で、ジェシカはこの後自身に向けられるであろう攻撃に対応するため思考を高速で巡らせる。

 しかし倒れた拍子に背中を打ち付け、押し出されたような呻き声を上げたジェシカの視界に入ったのは、レユニオンの白装束ではなく、濃淡のある白髪。

 

「なっ、ジェシカ!?」

 

 髪を揺らし、目を驚きで見開きながら斧槍の柄を向けジェシカを見下ろしていたのは、彼女が今まで探し回っていたフロストリーフその人であった。

 

「ジェシカさん!」

 

 その時、フロストリーフの驚愕の声に続いてもう一つの声が響き、ジェシカはその方向へ顔を向ける。

 視線の先、倒された木製のテーブルの陰から姿を現したのは、安堵を顔に滲ませたコータスの少女と全身黒装束の人物。ロドス・アイランドCEO―――アーミヤと、ロドスの戦場指揮官兼顧問―――ドクター。ロドスの中枢を担う二人であった。

 

「フロストリーフさん…! アーミヤさんにドクターまで…!」

 

「……ごめん、怪我はない?」

 

「だ、大丈夫です!」

 

 フロストリーフから差し出された手を掴んで立ち上がったジェシカは返事をしつつ、突然の再会と思いがけない人物たちの登場という情報をなんとか飲み込んだ。

 

「ご無事で、よかったです…!」

 

「待て、オオカミはどうしたんだ?」

 

「ぁ…… えっと」

 

 "オオカミ"の名を聞いて一瞬言葉を詰まらせたジェシカの様子から大まかな状況を察したフロストリーフは、腕を組んで考え込むように息を吐く。一方、アーミヤはその名に対し小首を傾げていた。

 

「たしか… 最近ロドスに加入された方、ですよね?」

 

「この任務が初投入だと聞いている」

 

 この廃都市での作戦に参加していたオペレーター達のコードネームを脳裡でなぞっていき、その名を見つけたアーミヤが紐づけられていた情報を口から零し、ドクターが補足を加える。

 その後、言葉をまとめたジェシカが口を開き、自身と狼の身に何があったのかを話し始めた。

 

「―――そして、戦闘から私を離脱させるために、お一人で……」

 

「っそんな……」

 

「そうだったのか……」

 

 ジェシカから伝えられた状況に対し、アーミヤが悲痛な声を漏らし、フロストリーフはその表情をより悩まし気に歪める。ドクターは何も言わず、バイザーの下部に手を添えながら何やら思案しているようだった。

 少しの間沈黙が場を支配したが、フロストリーフが表情をそのままにそれを破る。

 

「……ジェシカ達が戦ったっていうそのレユニオン、どんな奴らだった?」

 

「えっと…… 術師が多くとても連携も取れていて、通常の部隊ではなかったように見えました。 使用していたアーツも強力で、報告した気温の低下もアーツによるものだと思います……」

 

「………」

 

 その話を聞いたフロストリーフは静かに息を吐き近くの壁に背を預けると、「まさか、本当に……」と絞り出すように小さく、呟いた。

 

「た、確かに強かったですけど、でも、きっとすぐにオオカミさんもこちらに合流してくれます…!」

 

 そんな不穏なフロストリーフの様子に、ジェシカは思わず言葉を紡ぐ。その時響いた声色は、どこか言い聞かせるような調子であった。

 

「あいつが強いってことは私もなんとなくわかってる。 ……でも、今回は少し相手が悪いかもしれない」

 

「え……」

 

「多分、ジェシカ達が遭遇したのはスノーデビルだと思う」

 

「スノー、デビル」

 

「うん… 傭兵達の間じゃ、かなり恐れられてる。 あいつらが通った後には、氷しか残らないって言われてるくらいだ」

「レユニオンに合流したって噂は聞いてたけど、まさかこの廃都市にいるなんて……」

 

 場に、冷たい沈黙が満ちる。ドクターの表情はうかがい知れないが、ジェシカは俯いて顔に影を落とし、アーミヤも悲痛な面持ちで立ち尽くしていた。

 

「……まあ、あいつの身のこなしなら、逃げ切れる可能性はある。 今はひとまず、メテオリーテとの合流を急ごう。 その後あいつも助けに行く。 ついて来て」

 

 フロストリーフは背を預けていた壁から離れ、部屋の出入り口へ足を向けながらそう言うと部屋を出ていく。残された三人はこの現状について各々飲み込みながら、彼女の後を追った。

 

「メテオリーテ、こちらフロストリーフ。 ジェシカが合流した。 これからそっちに向かう」

 

『こちらメテオリーテ。 ……了解よ。 でも移動は慎重に、さっきからこっちにレユニオンが集まってきてるように感じるの』

 

「…わかった。 そっちも気を付けて」

 

 建物を出た一行が通信を終えたフロストリーフの案内のもと、身をかがめながら移動すること十数分。市街の中でも一際大きい建物、その正面広場の外縁に並ぶ柱の陰に、メテオリーテの姿はあった。

 四人の姿を認めたメテオリーテは口元に小さく笑みを浮かべて一行を迎えたが、その表情には僅かに疲労が滲んでいるように見えた。

 

「ジェシカ!無事でよかったわ! アーミヤにドクターも、来てくれてありがとう」

 

「メテオリーテさん、お待たせしました…!」

 

 ふと、メテオリーテは周囲を見てこの場に存在しない"一人"についての疑問を投げかける。

 

「それで、オオカミはどうしたの? まだ別行動中?」

 

「……そのことなんだが、少し状況がよくないかもしれない」

 

「そう……ジェシカの様子を見るに、なにかあったのね」

 

「っ…」

 

 未だどこか表情に影があるジェシカを見て、メテオリーテは呟く。実のところ、先の通信で聞いた合流したメンバーに"オオカミ"の名が無かったことから何かがあったのだろうと察しはついていたが、この瞬間を以てそれは確信に変わっていた。

 

「……とりあえず、こんなところ早く離れちゃいましょ。 いつ奴らが来るかわからな―――」

 

 その時、一行の耳に遠くから低く響く音が聞こえてきた。

 最初は風が瓦礫を転がした音の様に聞こえた。崩れた建物の隙間を抜ける風が無人となった空間で風鳴りとなり、割れた窓枠をかすかに鳴らしている。その中に混じる、硬い響き。一つ、二つ、乾いた地面を踏む音が低く、重なっていく。

 誰も、すぐには口を開かなかった。

 耳を澄ませば、それはもう風の悪戯という様相ではない。石畳を打つ靴底、装備の金具が擦れる音。いくつもの呼吸が、廃墟の奥から押し寄せてくる。音は反響しながら膨らみ、広場の周囲、建物の陰から、確かにこちらへ近づいていた。

 

 一行が息を押し殺すようにして身を潜めていると、やがて姿を現したのは十数名の配下を引き連れた少年。レユニオン幹部―――メフィストだった。

 

「メフィスト……!?」

 

 カツカツと、黒い杖状のアーツユニットで石畳を叩きながら広場の中央まで歩くと、大きな建物の方へと向き直った。

 

「さあ、準備を始めようか」

 

 メフィストが周囲の配下に指示を出すと、隊列の中から何らかの容器を抱えた人間が数名、前に出てくる。

 その時、メフィストは徐に広場の外縁の方へ顔を向け、にやりと笑った。

 

「―――ロドスのお友達も、ちゃんと来てくれているみたいだしね?」

 

「気付かれてたか…!」

 

 レユニオンの兵士数人が容器を傾けた瞬間、流れてくる空気の色が変わった気がした。

 鼻を刺す、甘いようで鋭い臭い。喉の奥にざらついた熱を残す臭気が、冷えた空気の中を這うように広がっていく。

 それが何らかの燃料であると最初に気付いたのはメテオリーテだった。

 

「……燃料? まさか、あいつ…」

 

「君たちと遊ぶ前に、ちょっと見せたいものがあるんだ」

 

 メフィストの声を合図に、撒かれた燃料に向かって松明が投げ入れられる。

 直後に立ち昇った巨大な炎は中央の建物を包み込み、広場の夜闇を橙色に照らし出した。

 

「なんてことを……」

 

「うっ… この、臭いは…!」

 

「っ……」

 

 広場に響くメフィストの狂気をはらんだ笑い声。そして、漂ってくる焼ける瓦礫と、―――肉の臭い。

 その臭いから推察されるメフィストの所業にアーミヤやフロストリーフ、メテオリーテは奥歯を噛み締めて顔を歪ませ、ジェシカも呆然とその光景を見上げていた。

 

「アーミヤ、見るな」

 

 ドクターはその光景をアーミヤの眼にできるだけ映すまいと、言い聞かせるように言う。

 

「…いえ、大丈夫です。 もう、あの時の弱い私じゃありません」

 

 だが、アーミヤはその言葉に毅然とした態度で答える。

 その時ドクターに向けられた視線は、少しの揺れもない真っ直ぐなものだった。

 

「…行くのか? アーミヤ」

 

「はい。 私自身の目で、向き合わせてください」

 

「……わかった」

 

 アーミヤの強い意志を受け取ったドクターは首肯の後、柱に背中を預けながら自身の端末を開く。そして、この後起こるであろうすべての事に対応できるようプランを組み立て始めた。

 

「私も行く」

 

 そんなアーミヤの背中に、フロストリーフは短く、だがはっきりとそう言った。

 

「…私も、行きます」

 

 続くジェシカの声にもアーミヤは少し目を見開いたが、すぐに真っ直ぐな眼差しに戻り、小さく頷く。

 

 援護のため後方に残ったメテオリーテとドクターに見送られ、三人は柱の陰からメフィストのいる広場の中央へと歩き出した。

 

「それじゃあ、早速始めようか。 ロドスのみんな」

 

 その言葉に広場に出た三人は各々身構える。

 しかし、配下の兵を差し向けようと上がったメフィストの腕がぴたりと止まったかと思えば、口元がより深く歪んだ。

 

「……ふふっ、アハハっ! 本当に君たちは運がいいなぁ! ―――丁度この舞台の主役たちが、到着したみたいだ」

 

 ロドス一行の背後から、凍てつく冷気が肌を撫でた。

 

 周囲の建物が、次々に凍てついていく。

 壁面を氷が走り、割れた窓枠を覆い、石畳の上に霜が広がった。

 そして広場中央で激しく燃え上がっていた炎さえ、建物ごと巨大な氷塊の中に閉じ込められている。

 

 フロストリーフやメテオリーテ、アーミヤは思わず視線を背後に向け、ある者は覚えのある感覚に身を硬直させた。

 

「な、なんで……」

 

 間違いであってほしい。

 

 ジェシカは自身の呼吸が浅くなるのを感じながらゆっくりと振り返り、その先に立つ白い影を捉えたとき、抑え込んでいた恐れや不安がじわりと内側から滲みだした。

 

「オオカミ、さんは……」

 

「オオカミ…? あぁ、それがあいつの名か」

 

 ジェシカが喉を引き攣らせながら零した言葉をその耳で拾った白い影―――フロストノヴァは、思い返すように目を瞑る。

 

 

「―――同胞のため、己の命をも賭す、とても良い戦士だった。 最期の時までな」

 

「―――ぇ……ぁ」

 

 

 瞼を開けたフロストノヴァは表情を変えず、しかし称えるような声色で言葉を紡ぐ。その言葉はロドス一行に衝撃を与えると同時に一人の少女の淡い希望をも打ち砕いた。

 

「……っくそ」

 

「そんな……」

 

 フロストリーフは斧槍の柄を握る手に力を籠め、アーミヤは拳を握り締める。

 混乱を狙った虚偽の可能性も考えられたがフロストノヴァの声には嘲りも、こちらを欺こうとする悪意も感じられず、ただ事実を述べるような静けさと、戦士の持つ敬意のようなものがあった。だからこそ、彼女の紡いだ言葉は真実として一行の胸へと染み込んでいく。

 

 その時ジェシカの胸の奥では、何かが軋んでいた。息を吸おうとしても、冷たい空気が喉の手前で詰まる。握り締めた銃がひどく重い。

 あの時、もっと精確に撃てていれば。もっと早く動けていれば。せめて、振り返っていれば。そんな言葉が頭の中で反響している。

 

 だが不思議なことに、ショックというものはあまりなかった。

 

 数時間行動を共にし、時に守られ、不器用ながらに励ましてくれた人物の死という衝撃を前にして、後悔や罪悪、不安、恐怖といった感情が渦巻いていることは確かなはずなのだが、それらが表面に浮かび上がってくることは無い。―――まるで、なにかに押さえつけられているかのように。

 

 ジェシカはそれがたまらなく、恐ろしかった。

 

「……それに比べ、お前はこのような行いに走るか。 ついに獣以下に成り下がったようだな、メフィスト」

 

 前後を挟まれ絶体絶命かと思われたその直後、フロストノヴァは視線をロドス一行からメフィストへと移し、先程よりも幾らか温度の下がった声で語りかけた。

 

「別に君に理解してもらおうとは思ってないよ、ウサギさん」

 

「生憎、理解してやる気もないがな」

 

「考えたところで、君とその仲間たちにはわからないさ。 でも残念だなぁ、せっかくのシンボルだったのに」

 

「先にお前をその悪趣味なシンボルとやらに変えてやってもいいんだぞ?」

 

「アッハハハ! ―――やってみろよ」

 

「……ほう?」

 

 場の緊張が高まり、今にも両者が衝突するのではないかと感じられたその時、その緊張を砕くように源石火薬が括りつけられたボルトが撃ち込まれた。それに合わせ、アーミヤが忍ばせていた発煙弾を投擲する。

 

「…ッチ」

 

 それを視認したメフィストは舌を鳴らしながら配下の兵を前に出し、フロストノヴァは瞬時に薄い氷の壁を展開することで爆風を防ぐ。両者共に傷を負うことは無く衝撃が身体を揺らすにとどめたが、周囲を見ると爆発時の黒煙と濃い白煙が周囲を包んでいた。

 

『今!』

 

 少し離れた場所でボルトを撃ち込んだメテオリーテがそう叫ぶと、柱の陰で待機していたドクターが動き出す。

 

「行きましょう、皆さん!」

 

「よし、ジェシカも行くぞ!」

 

 続いて移動を開始しようとしたフロストリーフが背後にいるジェシカに声をかけようと振り返る。しかし、その時フロストリーフが見たのは俯いたまま立ち尽くしているジェシカの姿だった。どこかの一点を見つめながら、感情が抜け落ちたような、或いは抑圧されているかのような表情で何かをぽつぽつと呟いている。

 

「だって、あの時……」

 

「ジェシカッ!!」

 

「っ!」

 

 その様子に何やらただならぬものと感じたフロストリーフが咄嗟に大きな声で呼びかけると、びくりと肩をはねさせたジェシカが弾かれたように顔を向ける。

 

「今は、逃げるぞっ!」

 

 フロストリーフの声により気を少し取り戻したジェシカは腕を引かれ、半ば引きずられるようにしてその場を離れていった。

 

 

 

 

 

「あーあ、逃げられちゃった」

 

「……追跡しますか?」

 

「いや、いいよ。 せっかく主役が舞台に上がったんだ。 僕たちは一度降りるとしよう」

 

 メフィストは広場の外へと足を向ける。

 その去り際、ふと足を止めるとフロストノヴァの方へと振り向いた。

 

「それじゃ、狩りを楽しんで」

 

―――――――――――――――

 

「―――っ……」

 

 暗く冷たい中を漂うような感覚が徐々に無くなっていき、身体が覚醒に向かっていく。

 瞼に透ける光に目を開けると、広がっていたのは夜空ではなく青い空だった。

 

「夜が、明けたのか」

 

 ―――どうやら、あれから随分と時が経過したらしい。

 複数箇所にわたって身体を貫かれた上で氷漬けにされるなどという殺され方は経験がなかったが、どうやらあのような最期を迎えた場合回生にも相応の時を食うらしい。

 

 戻ってきたばかりのせいか鈍くなっている五感でずぶ濡れになった衣服の重さと不快感を感じながら上体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。

 装備の状態と周囲の様子を確認し、装備に破損や喪失がないことと付近に敵の気配がないことを知った狼がひとまず合流を目指して歩き出した時、遠くから響く爆発音が耳へ届いた。

 

 素早く屋根の上へ向かい、目を凝らして周囲を見渡すと建物の輪郭が僅かに霞むほどの距離の場所で土煙のようなものが昇っているのが見える。

 

「……あそこか」

 

 狼はすぐさま左腕を振るうと、その場所へ向けて跳び出した。

 





 今回も読んでいただきありがとうございます。
 地の文が長くなりがちな気がするので短くしていきたいですね。

 今後、少なくともメインテーマ8章まで展開は駆け足気味で行きたいと考えてます。如何せんこの絶望的な更新ペースなので……


『コンバットチェーンソー』
軍事的な改造を施したチェーンソー
機械式武器らしい堅牢さと重さを持つ

よく訓練された者が振るえば
その構造の重量は破壊力を生み、
並べられた刃が出血を強いるだろう
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