呪術廻戦+聖杯戦争(笑   作:あかいかん

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供養小説です。


呪術廻戦+聖杯戦争(笑

 

 時刻はお昼時、午後一時を回ったころ。

 

 人がごった返すスクランブル交差点の横断歩道で、虎杖悠二は信号が青に変わるのを待っていた。

「──なあ釘崎まだ行くのか? 重いんだけど」

 

「ちょっとは我慢しなさいよ。男でしょ」

 

「まあ、それはそうなんだけどさあ……いくら何でも買いすぎじゃない?」

 隣に立つ同級生――紅一点、釘先野薔薇に愚痴をこぼしながら、悠二は両手いっぱいの買い物袋を持っていた。

 

 二人は大型ショッピングモールで買い物した帰り。

 この週末、悠二と野薔薇は休日を利用して、新宿駅南口から徒歩で行ける距離にあるそこに遊びに来ていたのだ。

 

 ちなみに、悠二たちの寮である高専からここまでは電車で一時間ほどかかる。なぜわざわざそんなところまで出かけたかというと、理由は単純明快、東京観光の続きである。

 

「ていうか、アンタちゃんと荷物持ちしなさいよね! せっかく買った服とか靴とか入ってるんだから盗まれたら承知しないわよ」

 

「いや、俺だってちゃんと持ってるって。でもこんなに買うなら前もって言ってくれりゃあいいのに」

 

「うるさい。騙した罰よ、罰」

 悠二の反論はしかし、ピシャリとした一言によって封殺された。

 

「ええ!? それは五条先生が……もしかして今日ずっとこんな感じなのか……?」

 

「なによ、文句でもあるわけ」

「いえ、ナイデス……はぁ」

 げんなりした表情で、悠二は両手いっぱいに抱えた荷物を見下ろし、大きなため息をつく。

 

 今日は休日ということもあり人出が多い。午前中のうちにショッピングモールに到着してから怒涛のショッピングタイムが始まり、それから昼食も挟まず何店舗も梯子して今に至る。悠二が持つ買い物袋は、その戦利品たちなのである。

 

 信号待ちだけが悠二の休憩時間だ。両手を開けようと、その場で軽く伸びをする。すると、ちょうど目の前の歩行者用信号機が青に変わったところだった。

「なあ釘崎、今って帰り足だよな?」

 

「んな訳ないでしょ。あと三件は回る予定なんだから」

 

「うそん!?」

 思わず目を剝く悠二をよそに、野薔薇はさっさと歩き出そうとして。

「……待て、釘崎」

 悠二はあることに気づいて声を上げた。

「え、なに?」

 突然のことに、野薔薇の足が止まる。悠二の視線の先を辿ってみれば、それは遥か空の彼方へと向けられていた。

「……」

 つられて上を見上げた野薔薇の目に飛び込んできたのは、落下してくる物体。

「は?」

 

 瞬間、轟音と共に衝撃が走った。

 

 アスファルトを砕き割り、大量の粉塵を巻き上げて地面に衝突した物体。

 

 周囲にいた通行人たちが阿鼻叫喚の悲鳴を上げる中、悠二と野薔薇だけはそれを呆然と見つめていた。

 

「人間だ……」

 

「……噓でしょ?」

 悠二の類稀な動体視力は確かに捉えていた。空から降ってきた赤い外套の人間が、地面に激突する寸前で受け身を取ったところを。そしてそのまま、何事もなかったかのように着地したことを。

 

「呪力反応はない……一般人か?」

 

「じゃあなんで上から降ってくるのよ!」

 

「俺が知るわけないだろ! とにかく行くぞ!」

 

「いくぞって。あっ、ちょっと待ちなさい!」

 駆け出す悠二を追って、慌てて走り出す野薔薇。二人が目指す先には、今まさに立ち上がろうとしている人間の姿があった。

 

 赤い外套に加え、白髪と浅黒い肌を持つ日本人離れした容貌の男はゆっくりと立ち上がると周囲を見渡した。

 

 彼の視線は、すぐそばにいた悠二たちに注がれる。

 男の鋭い眼光に晒されて、悠二は思わず足を止めた。

 

(なんだこいつ……妙な気配だ)

 その男から放たれる気配には、どこか異質なものを感じる。

 それが何なのかまでは分からないが、それでも警戒を解くわけにはいかない。

そんな悠二たちの反応を意に介さず、男は口を開く。

 

「君たち、怪我はないか?」

 低い声音だった。声量は抑えられているにもかかわらず、よく通る声音をしている。見た目通り、かなり若いようだ。

 

「ああ、大丈夫だけど……アンタの方こそ大丈夫か?」

 悠二は返事をしながら、男を注意深く観察していた。見たところ、目立った外傷はない。せいぜい擦り傷や打撲痕がある程度だ。

 

 しかし、当の本人はそれを気にする様子もなく、平然と言った。

「問題ない。この程度のこと慣れているからな」

 

「慣れてるって……アンタ何者よ? それに、落ちてきた原因ってなんなの?」

 横から口を挟んだ野薔薇に、男は視線を寄越す。

 

「……」

「なんとか言いなさいよ」

「……悪いが、名乗ることは出来ない」

 男は、わずかに逡巡するような間を空けてから答える。だが、その視線は依然として悠二を捉えたまま──いや悠二の背後に向けられていた。

 

「──挨拶がわりとしちゃあ豪快だったろうアーチャー」

「っ!?」

 後ろから聞こえた声に、虎杖と釘崎の肩が跳ね上がる。

 

 勢いよく振り返ると、そこには一人の男が立っていた。長身痩躯、全身蒼ずくめの装いに獣のように鋭い目つきをしたその男は、明らかにただ者ではない雰囲気を漂わせている。

 

 何より目を引くのは真紅の朱槍を携えた姿。

「ランサー……!」

 

「はん。相変わらず辛気臭ぇツラしてやがる」

 吐き捨てるように言う男に対し、ランサーと呼ばれた蒼い男は悪びれもせずに返す。

「そういう君は相変わらずだな。相も変わらず喧嘩腰で安心したぞ」

 

「抜かせ。テメェ相手にそんな礼儀正しくする必要なんざねぇだろうが」

 一触即発といった空気が辺りに漂う中、悠二は困惑しながらも声を上げる。

 

「……なあ、これってどういう状況なんだ?」

 

「……さあね! 私に聞かないでくれる!?」

 野薔薇の怒鳴り声が響き渡ったところで、ようやく男が口を開いた。

 

「……やるかね? ここで」

 

「そのつもりだ。うちのマスターは大馬鹿者でな。サーヴァントは見つけ次第鏖殺すべしという方針らしいんでね」

 

「ほう、それはそれは」

 男の口元が歪む。それは明らかな嘲笑だった。

「……何がおかしい?」

 不快そうに眉をひそめるランサーに対して、男はなおも続ける。

 

「なに、君はつくづくマスター運がないと思ってな。さぞかし苦労しただろう」

 

「なんだと?」

 

「なに、ただの独り言だよ」

 男は不敵な笑みを浮かべつつ、おもむろに右手を真横へ突き出すと、そこに光の粒子が集まり始めた。

 

 瞬く間に形を成していくそれは一振りの剣へと変貌する。それを手にした男は、今度は反対側の手を頭上に掲げた。その手にもまた、光が収束していく。

 白と黒、二対一刀の双剣である。

 

「ランサー提案がある。ここは人目につきすぎる。場所を変えようじゃないか。なに、そこでならお互いに本気で戦えるはずだ」

 

「はん、その手には乗ってやりたいが厄介な令呪が働いているもんでね、ここで戦うざる得ないんだよ。……まったくもって気に食わん話ではあるけどな!」

 次の瞬間、ランサーの雰囲気が変わった。獰猛な獣のような闘気が迸り、周囲の空気を一変させる。同時に、彼の手にある槍が呪力に包まれた。熱量を持った呪力の奔流が渦を巻き、辺り一帯の気温を上昇させていく。

 

 とてつもない呪力の高まりを前にして、しかし男はあくまで冷静だった。

「……正気かねランサー、あくまで宝具を開放するつもりか?」

 

「はっ、戦わざるを得ないと言ったろ!」

 

「そうか……ならば仕方がない」

 両者の間に緊張が走る。どちらかが動けば、その瞬間戦闘が始まる。そう思われた矢先、

「ちょ、ちょっと待った!」

 悠二が声を張り上げた。

 

「何かね?」

 

「なにかねって、そりゃこっちのセリフだろ! 急に現れて戦いだのなんだの。一般人がいんだぞ! 巻き込まれでもしたらどうするんだ!」

 悠二の言葉に、ランサーの怒気が膨れ上がった。

 

「うるせえ! 生憎だがこっちには事情ってもんがあんだよ!」

 そう言って、ランサーは悠二に向かって怒鳴る。悠二は気圧されつつも反論した。

 

「じ、事情ってなんだよ!」

 

「うるせぇ!」

 

「それを説明してくれないと納得できないでしょ!」

 

「うるせえ!」

 

「アンタねえ、さっきからうるさいしか言えないわけ!? 語彙力なさすぎじゃない!?」

 野薔薇も加勢するが、ランサーは取り合わない。

 

「ちっ、おいアーチャー、お前からもなんか言え!」

 

「ふむ、確かにこの状況ではいささか都合が悪いか。ならこうしよう。私は今から逃げる。ランサー、君は追ってくるといい。そうすれば人気のない場所に行けるし、私も全力で応戦できる。損はないはずだろう?」

 

「アーチャー、そうはしたいが、言ったろう、厄介な令呪が働いていると。どのみちオレは宝具を使わなければならない」

 

「なるほど、随分と悪辣なマスターもいたものだ」

 

「全くだ。まあとにかく、加減はする。防げよアーチャー……」

 

「ああ、承知した」

 

「ちょ、待てって!まだ話終わってないだろ!」

 悠二が止めるのも聞かず二人の会話は終わった。

 

「あーもう、何なのよアイツら! 虎杖、こうなれば 私たちで止めるわよ!」

怒り心頭といった様子で野薔薇が言う。対して悠二は不安げだった。

 

「え……マジで言ってんの?」

 

「当たり前でしょ! こうなっちゃったらしょうがないでしょ! ほら早く!」

 

「お、おう分かった!」

 二人は覚悟を決めて武器を構える。

 

「我が一撃、受けるがいい!!」

 ランサーのその言葉を合図に、両者は一斉に駆け出した。

 

  ──瞬間、轟音と共に地面が割れた。

 

「「なっ!?」」

 悠二と野薔薇は驚愕のあまり言葉を失う。アスファルトが砕け、舞い上がる粉塵の中、ランサーの纏う呪力が爆発的に増したのだ。彼は地面を蹴った。跳躍は一瞬にして悠二たちとの距離を離した。

 

(速い……!)

 

 悠二は自分の目が信じられなかった。一瞬のうちに十数メートルも跳躍するなど人間の身体能力で出せるはずがない。そもそもあんな速度で動く人間を悠二は知らなかった。それこそ五条悟のような超一流の呪術師でないと不可能だろう。

 

「ちょっ、待ちなさいよ! こらー!!」

 我に帰った野薔薇が叫ぶが、もはや遅い。

 

「防げよアーチャー」

 槍を握るランサーの腕に力が籠るのが見えた。それと同時に呪力が高まり、空気を揺らすほどの呪力が槍に収束していく。そしてついに、それは放たれた。

 

「突き穿つ死翔の槍!!」

 赤き閃光となって迫る呪いの塊に、男は動じることなく応じる。迫り来る敵を前に悠然と佇むその姿はまるで泰然自若という言葉を体現しているかのようだった。

 

 男は赤き閃光を前に向けて手をかざす。

「――――I am the bone of my sword.」

 直後、その手の前に七枚の花弁が宙を舞う。

「熾天覆う七つの円環……!」

 眩い光を放つそれらは高速で飛来する槍と衝突し火花を散らす。爆ぜる魔力の余波を受け、土煙が吹き荒れる。

 

 一枚、また一枚と花弁を擦り減らし、衝撃波を撒き散らしながらやがて花弁は砕け散った。ガラス片のように輝く花弁の破片が宙に散り、煌めきを残して消えていく。男の周囲に残された七枚の盾はその全てが粉々になっていた。

 

 勢いを殺された呪いの槍は、激しく振動しながらそのまま持ち主の元へと戻っていく。

「くっ……!」

 ランサーは、自らの放った必殺の一撃を凌ぎきった男に歯噛みしながら着地した。

 

「ちっ……またも仕留めきれなかったか。運の良いヤツめ」

 槍を構えたままランサーは舌打ちする。

 

「だが、今度こそ終わりだアーチャー。お前はこの槍で必ず殺す」

 

「やれやれ……。私の呪力の大部分を失った以上、次はないと思うのだがね……」

 土煙の中から声が響く。声の主──アーチャーと呼ばれた男の姿はいまだ見えないままだ。だがランサーには確信があった。この程度のことであの男が終わる筈がないということを。

 

 ランサーは再びアーチャーの姿を探すべく目を凝らす。すると徐々に視界が晴れていき、その姿が現れた。

 

 男は両手を上げたまま動かない。戦意は無いと示している。

 その身体には致命傷となる傷はなかったが、それでも無傷というわけではなかったようだ。

 

 彼の背後の地面には大きな穴が空いていた。恐らくあの槍の威力によるものだろう。その証拠に、穴の底は見えないほどに深い。

 

 男はゆっくりと腕を下ろし、再び口を開く。

「さて、これで君のマスターには満足していただけたかな? ランサー」

 

「ハッ、相変わらず減らず口をよく叩く野郎だ」

 

「なに。これでも多少は応えたさ。なにしろ、最強の名をほしいままにした君の一撃だ。紙一重とはいえ因果逆転の呪いは防ぐだけで呪力の大部分を失うことになる。これ以上となると、私でも厳しいものがあるからな」

 

「ぬかせよ」

 

「事実なのだがね」

 肩をすくめるアーチャーに、ランサーは苛立ちを募らせる。

 

「二度だ。二度もオレの一撃を受けておいて、まともに立っていられる野郎なんざテメェくらいなもんだ」

 

「ほう、光栄だな」

 

「チッ、余裕ぶりやがって……

 ランサーは鼻を鳴らすと、持っていた槍を一振りして虚空へと消し去った。戦意がないことを証明するかのように両手を広げると、つまらなさそうに吐き捨てる。

 

「……まあいい。今回は引き下がってやる。次は殺すぞ、アーチャー」

 

「ふむ、出来れば遠慮願いたいものだがね」

 

「抜かせ」

 最後にそう言い残して、ランサーは去っていった。後に残ったのはアーチャーと呼ばれる男と、呆然と成り行きを見守っていた悠二と野薔薇だけだった。

 

「えっと……大丈夫?」

 我に帰った悠二が恐る恐る声をかける。

 

「……ああ、問題ないとも。君たちこそ怪我はなかったかね?」

 

「うん、まあ……ていうか、アンタ何者?」

 野薔薇が訝しげに尋ねる。

 

「なに、ただのしがない弓兵だよ」

 

「いや弓使ってないし……」

 

「では、ただの呪術師とでも思ってくれたまえ」

 その言葉に、悠二が反応する。

 

「呪術師って……やっぱりアンタも呪術師なのか?」

 

「ああ、そうだとも」

 

「なら聞きたいことがあるんだけど──」

 悠二の言葉を遮るように、突如として辺りにサイレンの音が響き渡った。それを耳にした悠二と野薔薇は慌てて周囲を見回す。

 

 気づけば日は完全に落ちていた。周囲は暗闇に覆われている。そんな中で光る赤い光は遠くからでも良く見えた。それも一台や二台ではない。数十台の車両がこちらに向かってくるのが分かる。それを確認した二人は男の方を見た。

そこに男はいなかった。先程まで男がいたはずの場所には何も無い。ただアスファルトが広がっているだけだ。

 

「あれっ!?」

「消えた……?」

 驚く二人をよそに、パトカーの群れはすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

『昨日16:30分ごろ、二人の男がスクランブル交差点で戦闘行為を行っていたところを通行人によって目撃されています。警察は両者の関係について調べを進めています。関係者によりますと──』

 一般人による投稿動画としてアップされた映像には、二人の男──つまり赤い外套の男アーチャーの姿と蒼い痩躯の男ランサーが映っていた。おおよそ人間の域を越えた戦闘を繰り広げる二人の姿に周囲の人々は恐れおののいているようだったが、同時にある種の美しさを感じているようにも見える。ある意味男性諸君からしてみれば厨二病心をくすぐられるシーンなのかもしれない。

 

 画面の中で繰り広げられる戦いは見る者を魅了するが、しかし実際に目にした者からすれば恐怖でしかないらしい。SNS上にアップロードされた動画に対して次々とコメントが付く。それは概ね肯定的否定的なもから千差万別だった。

【何これ?】

 

【やっばwww】

 

【呪霊】

 

【2人ともめっちゃ仲悪そうー笑】

 

【CGじゃないの?】

 

【厨二心くすぐられる。オレもやりたい】

 

【合成だろこんなん】

 

【赤い人なんていってるんだろ】

 

【なんかの撮影だろどうせwww】

 

【青タイツの投擲カッコ良すぎて草】

 

【跳躍して槍投げとかロマンありすぎ】

 

【うちの祖母が呪術とか言ってて何かボケちまったらしいんだが笑笑】

 

【ゲイボルグって言ってる】

 

 などと、賛否両論といった様相を呈していた。ちょっとした騒ぎになっているようだ。中でも、ネット上では蒼い痩躯の男ランサーが残した『ゲイボルグ』

という言葉が話題になっていた。

 

 〈ゲイボルク〉とは、ケルト神話に登場する英雄クー・フーリンが使っていたとされる槍の名前である。その槍は、一度放たれれば標的を貫くまで止まらないと言われる必中の槍であり、また、投げた後は自動的に持ち主の手元に戻るという伝承が残っている。さらに、この槍には“ルーン”という魔術的な刻印が施されており、これによって威力が強化されているという。

 

 そんな伝説の槍の名を冠する人物が現れ、しかもそれが特撮映画などではなく現実の出来事だと言われたら、誰もが興味を抱くことだろう。ましてその人物たちが自分たちと同じ人間であればなおさらだ。そんなわけで、今現在SNS上でランサーに関する議論が盛んに行われていたのである──。

 

「クー・フーリン、ねえ……」

 五条悟はスマホで例のニュースを見ながら呟いた。

 

 場所は高専内の保健室。そこで彼は悠二と野薔薇から受け取った報告書を読んでいたところだった。内容は、悠二と野薔薇の目の前に現れた二人の男の戦いについて、といったところだろうか。

 

「まさか極東の日本でその名前を聞くとは思わなかったな。たしかアイルランドだかスコットランドだかの英雄だったかな」

 

「詳しいんだね」

 

「まあ一応ね。これでも教師だし」

 曖昧な返事を返す悟に対し、同期の家入硝子は訝しげな視線を向ける。

 

「……訂正するとアイルランドの英雄だよ。で、実際見た感想はどうだ?」

 

「……まさか本当にアレが実在してるとは思わなかったよ。こりゃあちょっとばかり面倒なことになるかもしれない」

 悟は続けて言った。

 

「青タイツの身体能力も驚異的だけど一番ヤバいのは呪具の方。見たところアレは間違いなく本物だ」

 

「へえ、分かるんだ」

 

「当然でしょ。僕は最強なんだから」

 

「それは関係ないと思うけど……」

 自信たっぷりに答える悟に呆れつつも、彼女は話を続けるよう促した。それを見て、彼も再び口を開く。

 

「……あの槍、見た事のない術式が付与されていた。おそらく古代ルーン文字によるものだろう」

 

「……だろう? 五条の眼でも見えなかったわけ?」

 

「見えたさ。……だから驚いたんだよ。正直信じられない。今まで色んな呪具や術式を見てきたが、あんなものは見たことがない」

 

「ふーん、そうか。で、肝心の術式は? さすがに分からないわけじゃないんでしょ」

 

「もちろん。あれは小賢しい因果律干渉系の術式さ、しかもとびきり厄介なやつ」

 

「厄介?」

 

「そ」

 

「具体的には?」

 

「原因と結果を入れ替える、とでも言うのかな。簡単に言えば放つ攻撃は全てが必中になるってことだ」

 

「え、それって最強じゃん」

 

「そうだね、たしかに強力だ。並大抵の相手ならまず間違いなく勝てる。ただし──」

 

「ただし?」

 

「──相手が僕みたいなチート野郎じゃなければ、だけどね」

 肩をすくめてみせる悟に対し、硝子は小さくため息をつくと言った。

 

「まったく、相変わらずだなお前は」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ。さて、そろそろかな」

 おもむろに席を立つと、悟はそのまま出口へと向かう。そんな彼の背中に向かって、硝子が言った。

 

「どこ行くんだ?」

 

「授業だよ。あとはよろしく〜」

 ひらひらと手を振りながら去っていく背中を見送りつつ、彼女は五条によって散らかされた机を見て、小さくため息をついたのだった。

 

 

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